小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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人間は自分とは違う者を差別して進歩してきた。

『やーい! お前んとこおっ化け屋敷〜』
『違うもん! お化けなんていないもん!』
『なんまいだ〜なんまいだ〜』

姿形、生まれた場所、住んでいる場所など一つでも違えば誰よりも際立ってしまう。

『くんなよ呪われるからー!』
『やべぇ! 触っちまった!』
『違うもん……』

身に覚えのない言葉による暴力で少女は目に涙を溜めて服のすそを握りしめる。

何もできない、言い返そうにも圧倒的な数がそれを許してはくれない。

そんな時だった。

『よぉ……クソガキ諸君……』

私と同じで皆と違うのに毎日を笑って生きているあの子が……

『な…なんだよ……』
『よっちゃん……こいつ……まさか……』

皆と違うところがあってもそれを隠そうともせずに堂々としているあの子のことが……

『オレと遊んじゃくれねえか……なぁ?』











わたし、姫島朱乃の朝はちょっとだけ早い。

今日は土曜日だから父さまと母さまとお買いものに行くの!!

それを思うと眠気なんてどこかに飛んじゃった!!

「母さま! 父さまもおはよう!」
「おはよう」
「ああ、おはよう」

もう母さまも父さまも朝ご飯を食べてた。

私もそこに混ざって朝ご飯を食べる。

「いただきます」
「はい、召し上がれ」

大事な挨拶の後にご飯を食べる。

「父さま!! 明日も大丈夫!?」
「あぁ、最近は珍しく休みが多く取れたから心配ないよ」
「じゃあ……!」
「あぁ、皆でお祭り……花見に行こう」

笑って頭を撫でてくる父さまに嬉しくなって大きく頷いた。

父さまは忙しいお仕事に朱乃も嬉しくなった。

あ、そうだ!!

「ねえ母さま!! 一人連れて行きたい子がいるの!」
「なに? この間のお友達?」
「うん!」

こう言う時は皆で楽しんだ方がいいって言ってたから!

「なんだ? 朱乃に友達ができたのか?」
「えぇ、その子朱乃とは一歳違いなんだけど、お姉さんになるって」
「そうかそうか……構わないよ。朱乃もその子と遊びたいならね」
「やったー♪」

父さまも母さまもいいって言ってくれたから後で誘っちゃおう!!

あ、でもその前に父さまたちと買い物しなきゃ

できるおんなは朝から忙しいのです!








朝ご飯を食べ終わって、母さまに髪をといてもらってからすぐにバスに乗って町まで買い物にきた。

ショッピングモールでこれから服を買ったりご飯を食べたり明日の準備をするんだけど……カリフくんには会えるかよく分からないなぁ……

帰ったらすぐに探さないと

父さまはおトイレに行ってるから母さまと買い物中なの。

「え〜っと……明日のお弁当は……」

母さまと一緒に買い物をしていた時だった。

「あ」

ちょっとだけしか見えなかったけど、なんでだか分かった。

思わず走ってしまった。

「あ、朱乃?」

母さまが呼び止めるけど、そんな声も聞かずに走った。

そして、フードコーナーの試食コーナーに来た時だった。

「いた〜♪」

偶然だけどその子がここにいて、見つけられたことがとても嬉しかった。

そして、あの時教えてもらった名前を呼んだ。

「カリフくーん!」

そう言うとその子は呼ばれた方向へと顔を向けた。

「……もぐ」

口に試食用のお肉を詰めて……






「あらあら、あなたがカリフくんで、カリフくんのお母さんでいらっしゃいますか?」
「ええ、そちらが……」
「こんにちは! 姫島朱乃です!」
「もう可愛い〜! それにお母さんもお美しいですし」
「いえいえ、そちらのカリフくんも聡明でいらっしゃいますし、お母さんも魅力的ですわ」

完全に仲良くなったお母さんズとは別に朱乃はカリフと話していた。

「ねえねえ! 明日お祭りに行こうよ!」
「祭り?」
「うん! 明日から一週間ずっと桜見たりお弁当食べるの!」
「む、弁当と桜……か」

花より団子…本来のサイヤ人はそう思うかもしれないが、カリフは違う。

あちこちと別の惑星へと旅を重ねるごとにブルマから写真を撮れとか五月蠅かった。

最初は渋々やってたのだが、いつの間にかそれが週間となり、趣味の一つとなった。

桜の季節には桜餅とか期間限定の食べ物が出るように季節によって世界の風景も変化する。

カリフもそういう行事には興味があった。

とは言っても、やっぱり食べ物も魅力的だ。

「うん……でもそれってオレとお前……」
「朱乃!」
「……朱乃とオレが別々に行っても……」
「だめ」
「いやいいよ。こういうのは一人で……」
「だめ」
「いや、だから……」
「……だめ」
「……」
「……ふえ……」

やべぇ……こりゃ泣くな……

だからこういう奴は苦手だ。

己を全面的に出して主張し、何より相手に非などないから泣かれるとタチが悪くなる。

別にどうでもいいはずなのに、泣きわめくガキがどうしても苦手だ。

思わず甘くなってしまった自分に溜息が出る。

「分かったよ……明日だな?」
「ぐす……来る?」
「見損なうな。行くと言ったんだ。約束は破らねえよ」
「……うん!」

目元に涙を残して本当に嬉しそうに笑って返す。

「ちゃっかりしやがって……」
「えへへ〜……じゃあ明日はね……」
「?」

なにかモジモジして恥ずかしがる朱乃にまだ何かあるのかと辟易していると……

「明日……お弁当作ってきてあ・げ・る。キャ! 言っちゃった!」
「弁当か……」

この歳で随分マセている朱乃の申し出にカリフは意外だったらしいが、これは得なことだと思って二つ返事で返した。

「いいぞ。弁当には興味がある」
「ただのお弁当じゃなくて、“あいさいべんとう”を作ってあげる!」
「“あいさい”ってなんだ?」
「わかんない」

何だか二人で盛り上がっている子供二人組を見て母親ズは微笑ましく見つめる。

「ふふ……よければカリフさんも来ませんか?」
「え? でも迷惑ではありません?」
「いえ、そうしたら朱乃も喜んでくれますし、私もここで会ったのも何かの縁ですから……」
「そうですか? それならお邪魔させても構いませんか?」
「はい。楽しみに待っています」

こうして姫島家と鬼畜家との花見が決定した。

その話を朱乃の父が聞いた時も快く了承して朱乃も喜んでいた。

だが、この二つの家族間で起こっていたことに冷や汗をかいていた者もいた。

「あの子……堕天使の血が混ざってる……?」

母親とカリフの買い物に付いて来ていた黒歌がカリフと話す朱乃を見て冷や汗をかいた。

朱乃の親らしき人は人間だということが分かる。

それなら父親が堕天使か……と。

「……」

つい最近まで堕天使に追われていた黒歌にとって、無視できない現実がすぐそこにあった。







私、朱乃の父親をしているバラキエルは堕天使の幹部を務めている。


そのため、数々の歴戦を駆け廻り、様々な戦いを勝ち抜いてきた。

だからこそ、予測不能な状況でも冷静に時と機を見て判断し、冷静に任務を遂行していく自負はあった。

あったのだが……

「カリフくん! 今度はあっちのお店に行こう!」
「リンゴ飴か……乗った」

男を連れて来るとはああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

聞いていないぞ朱乃!! まさか友達が来るとは聞いていたけど男だなんてえええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!

おい! 気安く朱乃と手を繋ぐな!! それにお前は朱乃と二歳違いの年下だろう!?

なにカップルみてえに振る舞ってんだごらああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!

「カリフくん。あ〜ん」
「……あぐ」

ブツン

っべぇ、マジやっべぇてこれ、なに? “あ〜ん”だと?

百年早いわ!!

朱乃もそそのかされるんじゃない!!

こうなったらここで『雷光』の力で以て……

「あなた?」

丁度魔力を練ろうとした時、妻がニコニコ笑いながら私を見つめてきた。

なぜだか冷や汗が止まらないのだが……

「あ・な・た?」

これからやろうとしたことがバレてるというのか……

「みっともないことはしないように……ね?」
「……はい」

こうして私は少しの心配を抱いて桜の席に座ることとなった。






「あの〜、あなたが姫島さんで?」
「はい、そちらは鬼畜さんと窺ってるのですが……」

現在、私は目の前の人の良さそうな鬼畜家の主人と挨拶を交わす。

この一家全員は堕天使でもなければ悪魔でも天使でもなく、普通の人間だということでホっとした。

私の職業上、こういった感じで接近することは有り得ないとは言い切れない。

だからこうして娘や朱璃を守る気でいたのだが、どうやら杞憂で終わったようだ。

私の考えすぎだと分かったら緊張も抜けた気がした。

それならこの花見も楽しむとしよう。

「あら、それじゃあ……」
「えぇ、うちのカリフはお恥ずかしながら幼稚園には行っておりませんの……」
「そうですかぁ……それでも良くできたお子さんですわ」

朱璃たち婦人も仲良くなっているようでなによりだ。

後は朱乃の方は……まあ楽しんでいるから良しとしよう。

最近構ってやれず、寂しい思いをさせてきてしまったのだ。

少し複雑だが、あのカリフって子の存在は有り難いことなのかもしれん。

……なにやらしょっぱい水が目から……

そんな時だった。

「それでは第一曲歌いまーす!!」
「いいぞやれやれー!」

遠くの一行はガラの悪い連中が酒を喰らったのか騒ぎ立てている。

……これでは奥ゆかしさなどあったものではない。

できれば小さい子には見せたくない光景なのだが……

「カリフくん……」
「構うな。その場の雰囲気に酔って気分が高潮しているだけだ。その場の雰囲気というのはそこにいる人間を時には癒し、時には惑わせる……基本的にああいうのはこっちから仕掛けなければどうということはない」
「……うん」

カリフという子が朱乃を落ち着かせていた。

うん、お前は何歳だ。

「ね、朱乃。そろそろ……」
「うん!」

そう言って朱璃のバッグから小さな包みを取り出した。

そして……

「うふふ…朱乃が今日朝早く起きて張りきって作ったんですのよ?」
「はい! カリフくんと父さまに!」

パン

思わず手を口に当ててしまった。

な、なんということだ……!! まさか……こんな早くに朱乃の手作り弁当を食べられるなんて……

その子にも作ったなどと気にはなるが、もうそんなことはどうでもいいさヒャッホーーーイ!!

「羨ましいですね〜…お宅のお子さんは料理を作ってくれるんですから」
「は、はぁ……そちらのお子さんは?」
「それがですね……なんというか反抗期でして……」

泣きだした。そうですか……私のように幸せな父親というわけではないようだ……

「飲みましょう」
「はい」

私ができることは少しでもストレスを緩和させてあげることだな……

そうやって私が酒を注ごうとした時だった。

「うお!」

彼の父親の背中に人の足が当たった。

その当たった人はさっきの酔っ払いの団体の一人だとなんとなく分かった。

「おい! そんなとこにいるんじゃねえよ邪魔だよオッサン!!」
「え、いや……」

しかも自分の非を相手に押し付けてきたな……なんとも礼儀のなってない奴だ。

「こら、止めたまえ。他のお客さんにも迷惑だ」
「なんすか? この人を庇おうっていうんですかぁ?」

参ったな……元々から素行が悪いのに酒が入ってるから悪質なものになってる。

朱乃も朱璃も鬼畜さんの奥さんも不安そうにしているのにカリフくんだけは目を鋭くさせて絡んできた男を睨んでいる。

早めになんとかせねば……そう思っていた時、鬼畜さんの父親が立ち上がって面と向かって言った。

「私がここにいてあなたに迷惑をかけたのなら詫びましょう。なので、ここはどうかお引き取りねがいませんか?」

なぜここでこの人が謝らなければならないのか……疑問に思うも、彼の行動は父親としては立派な判断だった。

家族を巻き込まないように男としての意地を捨てて頭を下げる。

だが、そんな彼の心遣いも無碍にして男は吐き捨てた。

「いやいやいや……そこまで言うなら行動で見せてもらわないと分かんないっすよ。例えば土下座とか……」

くっ! この餓鬼が!

最近の餓鬼はここまで礼儀を知らぬものなのか!?

そこでさらなる暴挙が繰り出された。

「あ!」

酔っ払いのふらついた足が朱乃に当たって体がふらついた。

そして……

ベシャ

弁当箱が音を立てて地面に落ちた。

中身も飛び出して砂まみれになってしまった。

「貴様っ!」

私は思わず我を忘れて立ち上がった。

その行動に男も訝しそうに睨んできた。

「なんだよ。関係ねえだろ?」

こいつ、自分のしたことにも気付いてないのか!?

もう我慢の限界だ……多少はこの人間に痛い目を見させてやる。

魔力など使わずともたかだか十数年生きてきた人間なぞ恐れるに足りん!

「おい、おっさん」

この時、私の耳に入ってきたのは子供の声だった。

それも、相当な怒気を含んでいる。

だが、男はその声に気付かない。

そこで私の目に入ってきたのはなぜか冷や汗を流す鬼畜さん夫婦

「う……ひっく……」
「おばさん……朱乃の目と耳を塞いでもらってもいいか?」
「え、えぇ……どうして?」

泣きじゃくる朱乃とカリフくんに頼まれごとをされる朱璃

「ここからは、少し刺激が強すぎる」

そう言った後、カリフくんの表情が劇的に変わった。

額に青筋を浮かべて目は猛獣どころか魔物でさえも逃げ出すように鋭く、男を射抜く。

……この歳でなんて眼をするんだこの子は……

そう思っていると、カリフくんは未だに文句を垂れる男に近付いて

「おい無視するんじゃぐあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

太ももを力強くつねった。

だが、ここからがさらに苛烈を極めた。

つねっている手に力を入れたのか入れたのか相手のズボンに指を食いこませ……

「そら!!」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!」

ついにはつねった太ももを中心に大の男一人を投げ飛ばした。

投げ飛ばしたというより男が痛みから逃れるようにのけ反った結果だと言える。

地面に落とされた男は背中を打って悶絶する中、カリフくんはさらにその男に近付いていく。

「このガキ! なにしやがふっ!!」
「黙れ、この場において貴様に喋る権利があると思ってるのか? このナメクジが」
「がふ……ぐふ……!」

男の喉を踏みつけて見下ろして言う子供に周りの人が驚愕していた。

鬼畜夫婦と目と耳を閉ざされた朱乃以外の私のグループも例外ではなく……

男は唾液を零してカリフくんの足を掴むが、全くビクともしない。

一体どれだけの力が……

「詫びろ」
「!?」
「詫びろと言ったんだ! 嫌とは言わせんぞ、できなければ貴様を再起不能にしてやる!!」

そう言ってカリフくんが足を離すと、男はその場から素早く立ち上がって涎を腕で拭き取る。その姿に冷笑を浮かべて言う。

「はぁ……この…クソガキ……」
「まだ理解できないのか? お前がすべきことを。こりゃ参った。土下座も分からんとは頭はチンパンジー、いや、カニミソよりもスペックが低いのか? オレが土下座って奴を教えないとだめか?」
「この……!」

男が拳を握った瞬間、カリフくんは到底一般人では出し得ないほどのダッシュによって男の懐へ入り、睾丸にアッパーを当てる。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

訳の分からない状況と耐え難い痛みに男は前のめりになって頭を下げる。

そして下げた頭を掴んでカリフくんは言った。

「これが“土下座”だ!」

そう言って男の頭を地面に叩きつける勢いで振り下ろす。

いかん! それはやりすぎだ!! 下は固い地面、当たれば即死もあり得る!!

私は咄嗟に身を乗り出して横から入ろうとした時だった。






「こら」

カリフくんのお父さんがそうとだけ言うと、カリフくんの動きが止まる。

「ぁ……ぁ……」

男の顔が地面に後数ミリにまで迫っている所でブレなく停止している。男の涙が地面を濡らしている。

そんな中で、カリフくんが父親に問う。

「いいのか? こいつ……このまま……」
「いや、いいんだ。私たちのために怒ってくれるのは嬉しいけど、もう気にしてないから」
「……」

やや不服そうにしながらカリフくんは手を離すと男が地面に倒れる。

そして、男は涙を流して土下座した。

「すいませんすいません!! すいませんでしたあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

そう言って男は走って花見会場を後にしていた。

周りの人も皆カリフに凝視していたのだが、カリフが睨みを利かせると野次馬は目を逸らす。

私たちも呆然とする中、カリフくんは未だに泣きじゃくっている朱乃の元へと腰かけて頭を下げる。

「ひっく……ぐす……」
「悪かった。お前との約束を無碍にしてしまったよ」

カリフくんはさっきまでの狂暴な面を消して、ここでバツが悪そうに頭を下げていた。

そのことに意外さを感じ、朱璃も朱乃も目を丸くする。

「なんで……? 朱乃……お弁当……」
「あぁ、お前は作ってきたのにオレが食べてやれなかった……お前との約束を破ったのはオレだ。すまんかった」

意外な一言に私たちは呆気に取られた。

いくらなんでもそれは違うと思った。君はなにもしてないだろうに……

それでも彼は悔しそうに朱乃と真っ直ぐ向き合って言った。

「だからここで誓う。また何かオレに求めるのならその場限りで甘んじて受ける」
「……何でも?」
「オレが納得する範囲でのことだ」
「……うん」

……これが本当に五歳の子の気迫か?

さっきの慣れた体術と闘気、そしてこの芯のある言葉

声からは本当に真心しか感じられない。なにより一切の迷いも無ければ嘘があるとは到底思えないほど力強い誓いだった。

鬼畜夫婦はこのことに関して慣れているのか平然としていた。

まさか……英雄の血が流れているのか? それとも英雄の魂を受け継いだのか?

となれば、心苦しいが、この一家の血筋を調査せねばなるまい。

今度アザゼルに頼んで協力してもらおう。

「カリフ、今までは大目に見てたけどあれはやりすぎだよ?」
「ふん、オヤジの好意を無碍にしたのだ。あれくらいじゃ足りないくらいだ」
「いや、でもね……」

母も一緒に諭そうかとしていると、カリフくんは当たり前のように言った。

「オレはあんたら親から生まれて生を受け、これまでの一生を築いてもらったんだ。それなら子であるオレがあんたらを守らずしてどうやって礼を返すというんだ?」
「「……」」
「例えこの先あんたらがどう思おうがオレは止める気はねえ。あんたらに何か危害を加えようとする輩がいたらオレが徹底的に潰す! 誰にもあんたらに手は出させねえ! オレができるのはそれくらいなんだよ」

そう言ってカリフくんが食事を続けると、鬼畜夫婦が目元に涙を浮かべる。

当然だろう……守るべき子がそこまで自分たちを想っていたのだからな。

「バラキエルさん……飲みましょう!」
「……付き合いましょう」

この人も思わず男泣きして酒をすごい勢いで飲んでる。

「息子があんなことを言ったのは初めてでして……」
「……素敵な息子さんですわね」
「はい……自慢の息子です」

どうやら私は想い違いをしていたようだ。

周りとは少し違うかもしれないし、変な目で見られているのかもしれない。

だけど、この夫婦は息子を愛し、息子に愛されているのだから……

この子が変わることはないのだろう。

ずっと愛し愛される家族でいられるこの家族に私は羨ましいとさえ思ってしまった。

こうして、途中で朱乃も機嫌が直り、二つの家族間での交流は続いた。

だからこそ思った。

どうか、この方々が我等堕天使の戦いに巻き込まれないようにと……

「カリフくん。将来は朱乃がお嫁さんになってもいいよ?」
「肉団子ウマー」

……朱乃よ、そんな悲しいこと言わないでおくれ。あと、そこ! 朱乃を無視するな!!












花見も終わり、自宅へと帰ってきたカリフは黒歌たちに今日の出来事を伝えた。

なんでも、黒歌たちはこの近くの親戚の元へ行きたいと花見には行かなかった。

もちろん、親戚も嘘なのだが……

「にゃるほど、じゃあその堕天使はバラキエルって言ったのにゃん?」
「あぁ、でもまさかあれが幹部だったとは……世の中は文字通り狭いな」
「まあ、刺激さえしなければ大丈夫だにゃん」
「ふむ……あのまま一戦交えたかったんだがな……」

そんな感じで話を進めていると、カリフの膝の上に乗っかっていた白音は頬を膨らませてこっちを睨んでいた。

「ぷくー……」
「…さっきからなんだ? 言いたいことがあるならさっさと言え。あと膝から降りろ」
「今度、私と姉さまもカリフくんと花見行きたい……」
「……はぁ?」

最近では黒歌とは別にカリフに懐いてきた白音の言葉にカリフは素っ頓狂な声を上げると、黒歌も乗ってくる。

「それは私も行きたいにゃーん! カリフちんってば最近全然構ってくれないし……ヨヨヨ……」
「知るか。今日の貴様等は堕天使を避けたんだから不可抗力だ。諦めろ」
「……行きたい」
「嫌にゃ嫌にゃ! 一緒にはーなーみー!」
「……もうやだこれ」

カリフは耳を塞いでゲンナリしていると、キッチンから戻ってきた母が言ってきた。

「いいじゃない。明日にでも行って来なさい。母さんたちは用事でいないからお弁当は作っておくわね?」

その言葉に黒歌と白音は目に見えて大袈裟に喜ぶ。

「やったにゃー! おばさん大好きにゃ!」
「……ありがとうございます。おばさま」
「代わりに、これからもカリフと仲良くしてあげてね?」
「もちのろん!」
「はい……」

天真爛漫な黒歌と顔を赤くさせる白音とほのぼのする母との会話を背にしてカリフは溜息を吐いた。

「なぜこんなことに……」

そして翌日、彼等は本当に連続で花見に行った。

この時だけは何も問題は無かったことが最大の幸運だといえた。









姫島家、花見の後、すぐに朱乃は花見の最中に撮った家族写真を部屋に持ってきた。

今さっき、寝る前になってやっとプリントしてもらった。

朱乃は二つの家族全員が写っている写真を写真立てに入れて嬉しそうに眺める。

そして、本格的に眠くなると写真立てを机に置いて布団の中に入る。

「おやすみ……」

そう言って、今日の疲れと楽しかった思い出を胸に、すぐに眠りについた。

少女は恐らく、今日のことを忘れはしないだろう。

なぜなら家族写真の中心には喜びの形が映されていたのだから。

いつものように仏頂面で腕を組むカリフとそんなカリフに笑って抱きつく朱乃の姿があった。





またこんな日があればなぁ……

そう思いながら眠りについたのだった。

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