小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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朝の日差し

一日の始まり

そして、生命の始まりという様に全ての事象には“始まり”が存在する。

「時が来たか……」

ここにもう一つの“始まり”が幕を開けようとしていた。

「出る」




「にゃ……?」
「……え?」

この日の昼、黒歌と白音はカリフの日課の山籠りに付いて来ていた。

だが、そこでカリフから衝撃的な事実が伝えられた。

「できれば明日、もしくは明後日くらいにこの国を出る」

その事実を言うと、しばらく二人は固まり……

「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「……なんで?」
「うっせえ」

ショックを受ける二人を無視して演舞を続ける。

「いやいや、歳を考えてもそれは無謀だって! 海を出るってどんだけ!?」
「そうだな、最初はブラジルのアマゾンかどこかの密林か孤島で修業を積んでから北欧のオーディーンという奴を見てみたい」
「そういうことじゃないんだけど……」

幾らなんでもここまでぶっ飛んでるとは思っていなかった黒歌はいつものようにおちゃらけるような雰囲気にはなれなかった。

そんな中でも白音の落ちこみようは激しかった。

「……行っちゃうの?」
「あぁ、当初の予定通りだ」
「……もう会えないの?」

その一言に黒歌もカリフも少し虚を突かれた。

白音は涙を溜めてカリフに詰め寄っていた。

そんな彼女にカリフは溜息を吐いて答えた。

「何も一生じゃねえ。またいつか帰るつもりだ。ここにいる限りは今生の別れにはなりゃしねえよ」

ぶっきらぼうに返すカリフに白音は恐る恐る聞いた。

「…怖くないの?」

白音は不思議でならなかった。

今まで逃げるように各地を転々としてきた。それに似た生活をカリフはもっと広く、言葉の通じないような場所へ自分の意志で行こうとしているのだから。

自分は姉と一緒にいたのだけど、もし自分一人だけだったら……と思うと怖くなった。

自分だったら耐えられない……

だけど、目の前の人は違う。

「怖い? 不思議なことを聞くなお前」
「え?」

そんな不安を笑い飛ばすかのように清々しく答える。

「この日本だけじゃねえ。海の先にはさらなる強者と未知なる物があるってんだぜ? 神話、神、魔王、堕天使、オレは今、楽しみでしょうがねえんだよ。それに……」
「?」
「これがオレの人生賛歌だ! こうやってオレは正直に生きていく!」

本当に楽しそうに宣言するカリフは日の光を浴びる。

大手を一杯に広げて決して偽らないその姿を白音に見せつけた。

「……」

白音は晴れ晴れとしたカリフの姿を見て顔を赤くさせた。

そんな中、黒歌は溜息を吐いて言った。

「だけど、ママさんやパパさんはどうするにゃ? それに言葉は?」
「自宅は平凡だから問題はねえ。それに言葉なぞ一から十さえ覚えていれば生きていける」

あぁ、やっぱりそこらは考えてなかったのか……

案外無鉄砲な年下の子に苦笑を浮かべながら黒歌は二つ指を立てて提案をする。

「じゃあカリフちんの両親は私たちに任せて、もう一つの言葉についてなんだけど、なんとかなるにゃ」
「?」
「私、これでも京都に知り合いがいるからそこに頼んでカリフちんが世界のどこへ行っても言葉が互いに通じる様な術式のグッズを頼んでおくにゃ」

黒歌からの魅力的な提案にカリフも頬が緩みそうになるが、すぐに眉を顰める。

この黒猫がタダで親切をする訳が無い。

カリフは先手をとって言った。

「何が望みだ?」
「あら、そんなつもりで言ったんじゃないんだけどにゃ〜?」
「黙れドラ猫、どっちにしてもオレはそのつもりだった」
「ありゃりゃ、拗ねちった。でもそこも可愛い〜!」

笑いかけながらカリフに抱きつこうとするも、直前でピシュンと消えて瞬間移動されてしまう。

黒歌は急にいなくなった対象によろけてしまう。

「にゃにゃ?」
「じゃあその二つはお前たちに任せた。借りは必ず返す」
「にゃはは……相変わらずすごいスペックにゃ」

そう言ってカリフは腰を深く落として……

「しっ!」

一気に正拳突きを繰り出した瞬間、周りに突風を巻き起こした。

「ちょ!?」

黒歌は咄嗟に白音も入る様に術でバリアーを展開した。

「にゃ、にゃあ……」

それでもバリアーに負荷される力が凄まじいものらしく、黒歌は耐える。

周りの木々はまるで木の枝ように易々とへし折られていく。

そして、しばらく続いた突風は止み、その中心にいたカリフは息を吐いた。

「今日は……少し不調かな?」
「ど、どこが……?」

黒歌は顔を引き攣らせてカリフを人外を見る様な目で見ていた。

「……」

一方の白音は顔を赤くさせながらカリフをぼ〜っと見ていた。







しばらくして、出国準備のためオレは街へ行こうとしていた時、公園からなにやら声が聞こえてきた。

「昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおったそうなぁ。おじいさんは芝刈りに、おばあさんは川で洗濯しに行きましたぁ。おばあさんが川で洗濯をしていると川の上流から……」

なるほど、昔話の桃太郎とかいう仲間を募って鬼を○○する話だったな。

そのまま聞き流して行こうとすると……

「おっぱいが流れてきたのです」

……ほう

「どんぶらこ、ばいんばいん。どんぶらこ、ばいんばいん。どう見てもGカップの以上の爆乳が……」

たしかお袋が言ってたな。ここいらで子供に変な話をする変質者のこと……なるほど

オレはそこらで公衆電話を見つけてダイヤルを押す。

「110,110……国家権力への不思議な呪文〜♪」

あのまま放置しておくのも面白いかもしれんが、立つ鳥跡を濁さず。

最初で最後の社会貢献とでもするか。

「もしもし警察ですか? 実は最近よく子供に変な話をする大人ですが……はい、ええ……多分また○○公園に来ると思うので……」

これで奴も終わったか……電話ボックスから出ると……

「「おっぱいおっぱい!!」」

もう一匹バカなガキと一緒に乳房を吸う仕草をしてやがった。

ま、どうせ明日の命なんだから精々妄想で性欲を満たしてな! 変質者ざまぁwww

内心でほくそ笑みながら旅に必要な物資を探しに行こうとすると……

「カリフくーん!」

……またか

最近になってよく会う様になってきた朱乃がオレを見つけてこっちに走ってきた。

このまま無視してもよかったんだが、無視するとまたうるさいからもう諦めた。

街中でも気の探知をしなければならんのか……?

「こんにちはー! あそぼー!」
「ちっす、折角だが今日は遊びじゃねえんだ。そこいらのガキ捕まえて遊びな」
「ぶー! お姉さんにその口の聞き方はどうかと思うなー!」

お姉さん……?

まあ今はどうでもいい、こいつともしばらくは別れることになるからな。

「これから旅の支度すんだ。これだけは外さねえから今日は遊べねえし、そもそも今まで遊んでねえ」
「え? 旅? どこどこ? 奈良とか京都?」

もう引っ付いてくるのも定番化してきたな……振り落としたらまた泣くからやらねえけど……

「いや、この国を出て色んな所を歩いていく。見ておきたいことがあるからな」
「え? じゃあいつ帰ってくるの?」
「さあな、何年、いや十数年はかかると思う」

そうとだけ言うと、さっきまで騒がしかった朱乃は急に静かになってオレを見てきた。

「……え?」

目を見開いて驚愕、もしくは何を言ったのか分かってないような感じだった。

「何年って……いつ?」
「さあな、いつ帰るのか想像もできねえ。それでこの街を改めて見て周る意味合いでこうして……」

そうとだけ言うと、カリフを掴んでいた朱乃の手が震え、ぎゅっと強く握られた。

「……やだ」
「はぁ?」
「やーだー!!」

さっきまで天真爛漫に笑っていた朱乃が急に泣いてカリフの体に一層しがみついてきた。

「おい何しやが……」

その行動にカリフは舌打ちをして朱乃に文句を言おうとしたが……すぐに止めた。

あのいつも笑っていた朱乃が目元に大粒の涙を零して鼻水も流して嗚咽を漏らしていた。

「なんで?……なんで行っちゃうの?」
「……」
「ヒック……朱乃のこと……が嫌いに……なったの?……グス……もうカリフくんと……もう会えないの?……グシュ……」

いつも泣くように泣き叫ぶのではなく、受け入れがたい事実に声も出せないような声だった。

「やだよぅ……もっと遊びたいよぉ……ヒック……もう抱きついたりしないから……グズ……もう迷惑かけたりしないから……ヒック……行かないでよぉ……」

ポロポロと零れる涙を幾ら拭っても止まることはない。

ずっと佇んで泣き続ける朱乃にカリフは溜息を吐いて、母に持たされていたハンカチを朱乃の顔に押し付ける。

「ムギュ!」
「顔拭け……」

押し付けられたハンカチをどかすと、カリフは朱乃の目を見据えて真摯に答えた。

「確かにここへはしばらく、長い間は帰るつもりはねえ……だが、オレは再びここに戻って来る。それだけは覚えてろ」
「……本当?」
「必ずだ。嘘はつくのもつかれるのも嫌いなんだよ。それに……」

カリフは朱乃に背を向けて言った。

「お前のその臆さない性格は嫌いじゃねえし……まだ約束を果たしてねえからな」
「……あ」

朱乃は思い出した、前の花見の日を……

「だから、オレは再びここへ帰る。これはオレの意志だ」
「……本当に…」
「帰る。絶対だ」

カリフの言葉の節々からは決してその場しのぎの出まかせとは思えない凄みを含んでいた。

それに対して朱乃もついに分かってくれたのか、涙を拭いた。

「……まだ約束決まってない……」
「そうか、じゃあ帰ってから決めろ」
「うん……ねぇ……」
「……なんだ?」

少し安心したカリフが返すと、突然、朱乃が自分に近付き……

頬に口づけした。

「……なにこれ?」
「……こうしたかったの」

若干、潤んだ赤い目でカリフを見ながら一歩下がる。

カリフにとってはよく分からない行動だったけれど、朱乃が落ち着き、自分に害が無いと分かったから良しとした。

カリフは朱乃に背を向けて手を上げる。

「じゃあな」

それに対して朱乃は遠ざかっていくカリフを追いかける訳ではなく、手を小さく振って返す。

「……またね」

少女の呟きはとても小さく……儚かった。

だが、それでもカリフはそのメッセージを受け取って



片手を高々に挙げて応えた。




自分と同じように小さい背中も……今日だけはいつもより大きく見えた。



遠ざかる男の子を見えなくなるまで見続ける少女は……



この日、また一つ大人になった。
















ある程度の準備が整って三日が経った。

あれからは家族と過ごす時はあまり変わらず、両親もこの五歳の船出に気付いている様子は無かった。

黒歌のツテがあって全世界、冥界、天界、地上の国全般の言葉に対応できる術が込められた食べ物が届いた。

黒歌に礼を述べ、家族のことを黒歌と白音に頼んで準備は万端。



出発は明日の日の出と共に……


「じゃあカリフ。おやすみ」
「おやすみ」
「すみー」

両親からの挨拶を受けてカリフはそのまま自室へと向かう。

そして、暗い部屋に入るとそこには白音の姿があった。

「……なんだ?」
「……」
「……はぁ」

トコトコとカリフの後を追うように白音はカリフと同じベッドに潜りこむ。

あの日、カリフの旅立ちの話を聞いてから白音は本格的にカリフに甘えるようになった。

特に、こうして寝るときは布団の中に潜って猫耳を出す程となった。

そして、明日に出発と聞かされた白音はカリフの服をキュっと握る。

「……本当に行っちゃうの?」
「……思い立ったが吉日、それ以外は全て凶日ってな」
「……おじさまとおばさまも悲しむよ?」
「かもな」
「……私も行って欲しくないよ……お姉さまもああやってるけど本当は……」
「だが、必ず帰ってやるよ」

カリフは布団の中で白音の顔をしっかり見据えると、白音は泣いていた。

「お前と黒歌との約束がまだだ。それらを果たすまではオレは死ぬわけにはいかねーんだ」
「……約束まだ決まってないし……忘れちゃったら……」
「嘗めんじゃねえ。オレはそんな軽い気持ちで約束を取り付けたことは一度も無い」

カリフは白音に言い聞かせるように言った。

「約束破るくらいなら死んだ方がマシだ」
「……カリフくん」

白音が感極まってより一層甘えようとした時だった。

「もちろん、私との約束もわすれないでねー?」
「……黒歌か」

カリフの隣には白音と挟みこむように黒歌が布団に入っていた。

「わーってるよ……今回は助かった。礼を言う」
「礼は帰ってからでいいにゃ。だから必ず帰ってくるにゃ」
「ふん。このオレに不可能などありはしないんだよ」
「……こんな時まで男の子の顔するんだから……ずるいにゃ……」

川の字になるようにカリフたちはこの日、最後の我が家のベッドを堪能した。










そして……朝が来た。






カリフは隣り合っている二人を起こさないようにベッドから降りて引き出しから巨大なバッグを持ちこむ。

そして、日の出で淡く光る外に出ようと玄関で靴を履いていた時、二つの気配に気付いた。

「カリフ……」
「どこに行くんだい?」

背後から知った声が響いた。

五年間育ててくれた両親が立っている。

「最近様子がおかしかったから気になってね……」
「本当はあなたから聞いて止めたかったけど……それをするとカリフがもう帰ってこないんじゃないかって怖かったから……」

カリフは振り向いて両親を真っ向から見据える。

いつだって誤魔化すこともしなければ現実から逃げることがない息子の姿がそこにあった。

「少し旅に出る……何年、いや、十数年経つかもしれんがな……」
「……本気かい?」
「これが夢でもある」
「そう……」
「……忘れたのか? オレはあんた等のガキだぜ?」
「「!!」」

カリフの一言に二人の体が震える。

「オレは決して悔いのない人生を送る。そこに後悔もなければ恥だと思うことは絶対にない……だからあんた等も胸を張れ。あんた等の息子は世界最強だからよぉ」

カリフは二人に不敵な笑みを送る。

「この先、どんな人生だろうとオレは胸を張って自慢してやる。あんた等の腹から生まれ、あんた等の飯を食い、あんた等と過ごしてきた過去も全て誰にも笑わせやしねえ」

玄関を明け、朝の光が玄関を照らす。

「……またいつか帰るぜ」

そう言ってカリフが玄関から荷物をまとめて出た。

「……カリフ!」

母親が我慢できずに寝巻のまま外へ出ると、既にカリフの姿はどこにも無かった。

「母さん……」
「……行っちゃったわ」
「……そうか」

一緒に寝巻姿の父親が母親を胸に抱きしめる。

「……僕たちの息子は立派に育ってくれたよ……とても勇気があってだれよりも強い子に……」
「……えぇ……」

父親の寝巻に顔をうずめて濡らす母はしばらくの間、二人は互いに抱きしめ合った。





「……みゃあ……」
「大丈夫……いつかは分からないけど必ず帰ってくるから……」
「……はい」

カリフの自室のベッドで黒歌は涙を流す白音を優しく抱いて包みこむ。

自分の目から流れるほんの一滴の雫を拭くことなく、二人はベッドの中で抱き合った。

その光景を眺めるのは、机の上の写真立てに入っている最近になって撮った鬼畜夫婦と黒歌、白音、そしてカリフをセンターとした写真だけだった。






「ふあぁ……」
「おはよう。朱璃」

姫島家ではバラキエルと妻の朱璃が起きる。

夫婦は朝の眠気を吹き飛ばすために毎朝恒例の愛娘の寝顔を覗きこんだ。

だが……

「あら?」
「ん?」

この日だけはいつもと違った。

いつも幸せそうにしている寝顔が……

「朱乃……?」
「……泣いているのか?」

今日だけは目から一筋の雫が流れ落ちた朱乃の寝顔だった。






この日、街から一人の少年が消えた。

だが、これは終わりではなく始まり。

いや、もしかしたら始まりでは無く序章なのかもしれない。






彼の人生の歯車は止まることを知らない。

故に


この物語は



終わらない




To be continued

-15-
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