小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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カリフの修業光景が全校生徒に見られてから数日が経った。

あの日からカリフに対する周りの目が明らかに変わった。

「あ、いや、その……すいません!」
「ちょっ……あの子って……」

完璧に畏怖する者もいれば……

「あ、あの子ってすっごい強い……!」
「見た見た! すごかったよね〜!」

周りで興奮する者もいた。

しかも、明らかに教師陣までもが監視の目を光らせてくるようになった。

ただ、廊下を歩いているだけなのにそれだけでイラつきが溜まってくる。

「チラチラチラチラ鬱陶しい!! 言いたいことがあるならオレの前に来やがれ!!」

廊下に響き渡る様に叫ぶと教師陣は慌てて目を逸らし、生徒もそそくさと足早に去ってしまった。

「ちっ! 気分がわりい……」

そう言いながらこの学校で唯一の知り合いであるロスヴァイセの気を探ってそちらへと向かっていった。



当の本人であるロスヴァイセは非常に疲弊していた。

「……はぁ」

その原因はもちろんカリフだった。

あの時の修業以来、カリフとはよそよそしくなってしまった。

というのも、人の身でありながら半神のヴァルキリーをも遥かに凌ぐ戦闘力を垣間見たせいでカリフを普通の人間とは見れなくなっていた。

というのもあの強大な力に少し恐怖してしまったからだ。

(怖い……)

ここ数日暮らして分かったが、カリフは本当に破天荒だった。

尋問してきた教師に対して殺気をとばして気絶させたり、さらには挑発までして一触即発状態になったことさえある。

傍から見たら粗暴なこと限りない。

自分の知っているルームメイトには逆にそういったところがいいという声もあったが、自分は恐怖さえ感じている。

(なんであんなこと言っちゃったんだろう……)

そして、彼女は後悔していた。

カリフと初めて会った時、なんで勇者になれとか言ってしまったのか……

正直言ってここ数日でそんなことも忘れてしまった。

それほどまでに参っていたのだ。

事実、教師からの尋問が自分のところへ及んできたこともあったくらいだ。

そして、そんな彼女の気も知らずに問題の彼が現れる。

「ちっす」
「あ……どうも……」

手を上げはするも、目を合わせることも躊躇われる。

それと同時に自分の気も理解してくれないことからの不安さえ覚えてくる。

この子は本当に勇者となってくれるのか……

「今から修業手伝ってもらうぞ。早く支度しろ」
「……すいません。今からやることが……」
「そうか……その様子からして嘘でもなさそうだがな」
「……まるで探っているような言い方ですね」

相手の嘘を探るのはカリフの一種の癖となりつつある。その癖を隠そうともしない様子にロスヴァイセも怪訝な表情になる。

誰だってそうだ。自分が言っていることにいちいち嘘か本当かと詮索されたら嫌な気分にもなる。

事実、ロスヴァイセには聞きたいことがあった。

「……カリフさんはなんで私の勇者になったんですか?」
「は? 急にどうした?」
「いいから答えてください!」

カリフとしては急にムキになるロスヴァイセに疑問を抱きながらも律儀に答える。

「勇者……要はボディガードだろ?」

それはもう本音をぶちまけて

「この部屋を提供させてもらっているからお前を護衛する。等価交換……といったところか?」

故に、相手の心など構うことも無い。

「……勇者さまがどういう人だか分かってなかったんですか?」
「大体これで合ってるだろ? 他の奴に聞いたから間違いない。なにより……」

カリフは頭を掻く。

「それ以上でも以下でもないんだよ。オレとお前との間には」

その瞬間、ロスヴァイセの心が爆発した。

「ば…か…」
「は?」
「ばかああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

大粒の涙を流しながらカリフの横を通り過ぎて部屋を出る。

「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁん!!」

力強く閉められたドアは今にも壊れそうな勢いで閉められ、カリフもしばらくは部屋の中で立ちすくんでいた。

「……やっぱ女って分からん………」

そう言いながらさほど気にすることも無くカリフは再び部屋の外へと出て行ったのだった。







一方では屋敷の外から地平線にまで続く森林地帯

その中で二人のローブを着た人物が向かい合っている。

「久しぶりじゃねーか。クソじじい」
「久しいの悪ガキ天使」

二人がそう言ってローブの頭巾を取ると、そこには隻眼の長い髭の老人と男前の中年男性の男の顔が露わになった。

「全く……こういった密談は美女とやりたかったのに、なぜお前のようなむさ苦しいのと……」
「そりゃこっちの台詞だ。好き好んでじじいに会う馬鹿がどこにいる」

二人は互いにやれやれといった感じで頭を振るが、すぐに気を取り直す。

「じゃが……そうやってまでわしに会いに来たんじゃろう?……のう? 堕天使の総督のアザゼル坊」

髭をさすりながら聞いてくると、アザゼルと呼ばれた堕天使も返す。

「あんたこそそう言いながらここに来たんだ……何かあるんだろ? 主神オーディン」

二人は互いに不敵に笑い合っていると、先にアザゼルから表情を崩した。

「あんたはやっとおれの応答に応じてくれたんだ。できれば答えを聞かせて欲しい」

アザゼルがそう返すが、オーディンは未だに髭をさすって静かに答える。

「ほっほっほ……若い者は答えを急ぎ過ぎじゃ。今回は答えの先送りを言いに来ただけじゃよ」
「……また先送りかよ……」
「そうじゃ、事を急ぎ過ぎれば上手くいく物も失敗に終わる。言いたいことはそれだけじゃ」
「待てよ、まさかそうとだけ言うためにここに来たのか? こんな危険までおかしてまで」

そう言って早々に踵を返すとアザゼルが呼び止める。

「そんな筈がねえ。あんたは先送りにしてるんじゃなくて答えを決断できない状態になっているんじゃねえのか?」
「……」
「仮にもあんたは主神だからな、こうも易々と外出できるもんでもねえ……そこまでして……」
「アザゼル坊」

アザゼルの言葉を遮ってオーディンは続ける。

「最近ではわしにも分からないことだらけなんじゃよ。年寄りの知恵袋でも解決できないことが増えすぎた」
「……」
「何か……ここに来てなんらかの大きな革命に似た何かが必要なんじゃよ……良きにしろ悪しきことにしろ……な」
「……まるで先の大戦だな……なにかとてつもないことが起きなけりゃあ事態は動かねえってか……」

アザゼルも嘆息していると、オーディンも続ける。

「そう……それにわしは賭けてみたいんじゃよ……」
「?」
「これからの……」

そこまで言った時だった。







―――ウオオオオオォォォォォォン

「「!?」」

遠くから狼の遠吠えが聞こえてきた。

ただそれだけのことなのに二人は驚愕を隠せなかった。

「おいおい……まさかこれがあんたの問題ってやつか……」
「……とりあえずは不味い……といっておこうかの」

この森林地帯にも狼は珍しくは無い。事実、ヴァルキリーの何人かは狼に出会っちゃあいるが、その都度魔法で追い払っている。

だが、今回は事情が違う。

二人はその遠吠えを聞いて戦慄した。

それもそのはず、普通の狼とは違う……それはどんな存在でさえも恐れを抱くには充分の咆哮

「参ったのう……側近に黙って来たのが仇となった……かといってこんな所で放っておくわけにもいかんからのう……」
「……一人で行くつもりか? 相手は最上級の魔物だぞ?」

思わずそう言うと、オーディンはいい笑顔になって答えた。

「おぉ、そう言ってくれると信じておったぞ。老いぼれ一人ではどうしようもないからのう」

そう言いながら腰をさすってやる。

「この狸じじい」
「はて? 聞こえんのう」

最初からそのつもりだったくせに……オーディンの狸っぷりに苦笑しながらもアザゼルは漆黒の羽を広げた。

「あ〜……帰りてえ……」
「ボヤいとる暇はないぞい。さっさと行かんかい」
「るせえ!」

そう言ってアザゼルは上空から、オーディンはそのままノソノソと森へと向かっていった。











一方その頃、森の中では制服姿で木にもたれかかって体育座りの少女が顔を俯かせていた。

彼女、ロスヴァイセはこの時、相当な自己嫌悪に陥っていた。

原因はさっきまでのやりとりのことだった。

(何してるんだろ……私……カリフさんは好意で言ってくれてたのに……)

この数日でカリフの性格は大分分かった。

女性の気持ちには知識ゼロと言っていいが、その分、邪心がない。

故に、落ち着いて考えてみればああ言うのも仕方なかったのだと思った。

(でも……私はあの子に自分の願望を押し付けて……勝手に軽蔑して……)

それなのに自分はなんと酷いことを言ったのだろうか。

そう思うだけでますます自己嫌悪に落ちていく。

(それならなんであの子を勇者さまって呼ぼうと思ったんだっけ……)

あの時、初めて会った時の胸の高鳴りは覚えている。

だが、なぜそうなったのかは覚えていない。

一時のテンションに身を任せた結果がこのザマ

(そうですよね……こんな勝手な女だから未だに相手に恵まれないんですよね……ハハ……)

段々とネガティブになっていく思想のまま自問自答は続く。

(……帰って謝っても、もう勇者さまにはなってくれませんね……それはそうですが……)

そう思い、ロスヴァイセの目からん涙が出てくる。

そう、これもいつものことだ。

また自分は日常に戻るだけ……そう思いながらも日課になっている気が済むまで落ち込もうとしていた時だった。



茂みがザワついた。

「!?」

突然のことにロスヴァイセは制服から鎧に瞬時に変わり、涙を拭く。

またただの狐か野犬、はたまた人かもしれないが、油断は禁物

今までこの近くで授業をおこなってきたからこそ分かるこの地での生き残り方である。

「誰ですか?」

毅然としていつでも魔法を放てるように構えて呼びかける。

茂みのざわつきが大きくなるにつれてロスヴァイセも身を強張らせる。

そして、茂みの中から影が出てきた。




小さなウサギが……

「はぁ〜……」

正体が分かったロスヴァイセは溜息とともに緊張をも吐き出した。

ウサギはしばらくそこらを歩き回っていたが、ロスヴァイセの姿を見つけるとそのまま元の茂みへと帰っていった。

微笑ましくその光景を眺めていた。




その時だった。



―――ウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォン!!

「!!」

突然、近くからの狼の遠吠えにロスヴァイセは再び臨戦態勢に入る。

その瞬間、間髪入れずにウサギが入っていった茂みの中から巨大な狼が現れた。

―――グオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!

普通の狼とは比べ物にならないほどの唸り声を上げながらその狼はさっきのウサギの咥えていた。

「あ……ぁ……」

ロスヴァイセは狼から発せられる圧倒的な威圧の下に硬直してしまった。

並の狼では到底有り得ないほどの獰猛さ、威圧感、そして圧倒的な殺気

全てに呑まれたロスヴァイセの頭には以前に読んだ本の内容が反芻されていた。

目の前の灰色の狼……

その牙と爪は確実に神をも殺せる。

万が一出会ったら逃げろとまで命令された。

名を……フェンリル

今、まさにロスヴァイセの身に危機が迫りつつあった。







その頃、学校のロスヴァイセの部屋のベッドの上で仮眠をとっていたカリフ。

だが、突然現れたとてつもない……巨大で狂暴な気に目を覚ました。

「こいつぁ……」

しかも、その近くに一つだけ小さな気も感じられた。

さっきまで近くにあった気だった。

「!! なにしてんだあのバカは!!」

すぐに事の重大さに気付いたカリフは強敵出現の興奮よりも焦燥感の方が大きくなった。

カリフは窓を開ける動作すらもどかしく感じ、強引に窓ガラスを割りながら外へと出て行った。



それぞれのタイムリミットが刻々と迫ってきている。

追う者、追われる者、追いつこうとする者……今まさに一つの場所に集結しつつあった。

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