小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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フェンリル襲来から数時間が経った。

あれからアザゼルとオーディンと同伴の元、カリフはヴァルハラへと迎え入れられた。

尤も、オーディン自身がお忍びで抜けだしていたため、魔法によって気付かれないように転移してもらった。

気絶したロスヴァイセも理事長に無事に引き渡した。

その際、理事長にはオーディンが外出していたことを黙ってもらうよう釘も刺しておいた。

そして現在、オーディンの書斎にはオーディン、アザゼル、カリフが互いに向き合ってソファーに座っていた。

「それで聞く……お前は本当に何者なんだ?」

アザゼルが改めて聞くと、カリフは耳をほじりながら鬱陶しそうに返す。

「だーかーらー、オレはカリフ。一般人から生まれただけのガキだよ」
「カリフ……バラキエルは知っているか?」
「バラ……どっかで聞いたような聞いてないような……」

こんな風にアザゼルもカリフに対して相当参っている様子だった。

質問をしても大抵が覚えてないか、納得できない答えしか返ってこない。

カリフとしては正直に答えているだけであり、相手が深く聞いてこないのだからそこまで喋る義理などない。

聞かれたら躊躇うこともなく喋る。

アザゼルもそんなカリフの様子に困惑していた。

だが、そんな二人を見てオーディンは笑う。

「ほっほっほ……まあ、こちらへの損害も無く、ヴァルキリーも無事じゃったからこちらとしては儲けもんじゃよ」
「楽観的すぎんだろ……こいつの素性を明らかにしなきゃなんねえだろ……」
「ふむ……じゃあ聞こう。カリフといったな?」
「なんだオーディン」

テーブルに足を乗せてふてぶてしい態度を取るカリフにオーディンは気にすることなく続ける。

仮にも神の前での傍若無人な行動にアザゼルは顔を引き攣らせていた。

「お主はこの世をどうする? 何が望みじゃ?」
「戦うため」
「それは何故じゃ?」

その問いにカリフは首を捻って数秒くらい経って……

「考えたこともねえや」

笑いながら言った。

「飯を喰らうが如くだ……そんなもんなんだよ」
「まんまうちの戦闘馬鹿……いや、あれよりも重傷じゃねえか……」

アザゼルが頭を押さえて呟いた後、真面目な顔になって問う。

「それならお前は……自分のためなら周りを巻き込むのか?」
「……あ?」

その問いにさっきまでの笑みがカリフから消え、逆に憤慨したように不快な表情に変わる。

その変化にアザゼルもオーディンも意外そうに顔を見ると、カリフが低い声で言い放った。

「……別にオレの戦いで世界を変えようとか、平和にしようとかなんて興味もねえしどうだっていい……だがな!」

足を置いたテーブルから罅が入る。

「オレの戦いに無関係な者を巻き込むのは許さねえし、オレの流儀に反する!! その至福はオレだけの物だ!! 同時に約束でもある!!」
「約束? 誰とのだ?」

アザゼルの問いにカリフは親指で自分の胸を指し示す。

「オレ自身のだ」

その言葉に幾百、幾万の言葉を重ねても足りない“何か”が詰まっていた。

カリフの嘘偽りのない答えと真摯な態度にアザゼルは息を飲んだ。

ただの人間の子供がここまで澄んだ瞳で重みのある答えを出せるものか……これはただの人間という線は限りなくゼロになった。

それでも、それ以上追及する気は失せた。

アザゼルは一応はカリフに今の平和を乱す気は無いと判断した。

「そうか……悪い、変なこと聞いた」
「ふん」

鼻を鳴らすカリフにオーディンはアザゼルに続けて聞く。

「それで、じゃ。お主はワシに会いに来たそうじゃったな? なんのために」
「戦いたかった……だけど、あのフェンリルの後だとなぁ……」
「そりゃ良かった。この老体にはお主のような若者の相手は堪えるんでな」

カラカラ笑ってオーディンは一つの青い宝石のペンダントをカリフの前に浮かばせる。

カリフが手を添えるとペンダントは手の上に落ちた。

「これがそうか?」
「お主のペットはそのペンダントに入れられるようにしておいたわい。それで主の気を込めれば発動して外に出すことも出来れば再び戻すことも可能じゃ」
「ふ〜ん」
「ちなみに考案者はアザゼルじゃ」
「だが気を付けろよ? それの強度は普通のペンダントと変わりねえ。もし、誤って割るようなことがあれば……」

アザゼルが説明していると、手で弄んでいたペンダントが……

パキッ

綺麗に割れた。

「「「あ」」」

思わず三人がそう洩らした瞬間だった。

「「ガアアアアアアアァァァァァァ!」」

オーディンの部屋の中で二匹の狼の遠吠えが木霊した。








「ごめ」
「説明してる最中に何してんだ!? もし爺さんが防音の術式をかけてなかったら俺もお前も包囲されてたんだぞ!?」
「面白いかもな」
「うおおい!!」

現在、フェンリル二体は普通の犬サイズにまでなってもらっている。

サイズは自由自在だが、フェンリル自身は大きい方が好みらしいから戦いの時だけ巨大化するように言い付けた。

なにぶんカリフの言うことしか聞いてくれないというのも不安である。

この少年が何を教えるのか気が気ではないからだ……

「やっぱり若いもんは刺激を生むのう。普通はやらんよ」
「笑ってる場合かよ……なんか一人で騒いで俺が馬鹿みてえじゃねえか……」

心底疲弊した様子でアザゼルが頭を抱える。

「ほれ、新しいペンダントじゃ」
「おっす」

再び同じデザインのペンダントを受け取ってカリフは気を込めると、二体のフェンリルが光と化してペンダントの中へと入っていく。

「おぉ」
「原理はフェンリルの体にも術式を刻んだんじゃよ。これならある程度離れていても出したり引っ込めたりするのも自由じゃ」
「サンクス」

そう言ってオーディンに手を上げて礼を述べると、今度はアザゼルに聞く。

「さて、今度はこっちだが……」
「分かったよ……そいつ等もオレたちの中では『はぐれ』扱いだったからな……妖怪や魔物の非合法密売の奴等が迷惑かけたな……」
「それでうちのネコ共が襲われたんだ。…と言う訳で何か神器をくれ。気で動く奴」
「あざとい野郎だ……お前ホンット遠慮を知らねえのな」
「オレに慎みがあるとでも?」
「意外と自分のこと分かってんだな……」
「自分さえも見切れない奴に真の強さは有り得ない……鍛錬とは常に自分との戦いだ」

戦闘論を聞き流しながらアザゼルはとりあえず服のポケットから何か白い球を取り出す。

「俺の作った物質転移装置で送ってもらった完成前の神器の原型だ。後はここにお前の望む能力と制約をインプットしてお前の中に埋め込めば完成だ……だが、本気か?」
「何が?」
「試作品故に人体に埋め込むと拒絶反応を起こす……できるだけ制約はデメリットの方が埋め込んだ後での発動成功率が上がる……強力な物ほど副作用も強いからな」
「いや、もう決まってる」
「ほう……どんな?」
「えーっと……修業のための疑似空間が作れる奴で……制約とやらは『戦闘中は絶対に使えない』……これだ」

自信満々に言うと、アザゼルは再度頭を抱える。

「……神器は戦うための武器だぞ? 戦いに使えないという制約なら発動は間違いねえが、役に立つのか?」
「見損なうな。オレは今まで願いを腕力で叶えてきたんだ。これからもこの力以外で戦おうなどと思わん」
「分かった分かった……今からインプットしてやるから待ってろ」

そう言いながらアザゼルが神器を持って念じると、神器が光る。

多分、あれで作っているのだろう……そう思って事の顛末を見届けているとオーディンが話しかけてきた。

「それでは主はこれからどうするのじゃ?」
「うむ……これから日本に一時帰国しようと思ってる」
「なんじゃ? 帰るのか?」
「いや、そこの東京ドームと言う所の地下で世界各地の猛者が戦い合う何でもありのコロシアムがあるらしいからそこで何年かは過ごそうかと思ってる」

その答えにオーディンも髭をさするだけだった。

「お主にしては謙虚じゃのう……」
「技というのは案外大変だしよぉ……何も人間は弱いだけじゃねえからな」
「どういう意味じゃ?」
「人間は悪魔とかと違って弱い生き物だ……だからこそ人間は“技”を生みだし、生きてこれた。これこそが“最弱”が持ち得る強さだと思う」

カリフは中国拳法の一部を披露しながら続ける。

「最強と最弱を合わせた戦闘スタイルがオレの理想形だ。そして、人間は時に面白い発想をくれる……それらを物にできればオレは強くなれるからな」
「そうか……それならワシからは何も言わん」

その答えにオーディンも何も言わなくなった。

「ほらよ。できたぞ」
「ん」

そうしている間にアザゼルは既に儀式を終えて完成した神器を投げて渡してきた。

勢い良く片手で掴んでいろんな角度から見てもただの光の球にしか見えない。

「それはお前の中で取り込めば動くはずだ。戦闘では使えないから禁手(バランス・ブレイカー)も存在しない」
「バランス・ブレイカー?」
「要は進化ってとこだ。そう言った物を省いた分、かなり高性能に仕上げたぜ」
「どんな感じ?」
「修業のための疑似空間って言ってたように重力変化、毒の霧、生物を圧し潰すほどの大雨と言った他にもお前のリクエスト通りの天候、その他にも火山、サイクロン、ブリザードなどの自然災害を強力にしたような死の世界をイメージしたんだが……マジでそんな所で修業する気か?」

頬を引き攣らせながら聞くと、カリフは不敵に笑った。

「あんた天才だな。有り難く頂戴するぜ」
「まあ、何か異常があったら連絡よこせや。その神器は完全に動いてくれねえと俺の気が済まねえからな」
「OK」

笑いながら躊躇いなく神器を飲み込むと、カリフの体が淡い光に数秒だけ包まれてまた消える。

それを見てアザゼルも納得した。

「うし、やっぱ成功だな。まあ、俺に不可能なんざねえけどな」

笑いながら自画自賛しているアザゼルを無視してカリフは背伸びして言った。

「よし、これからちょっくら日本に帰りがてら中国にでも行ってみるか」
「ほう、もう行くのか? せっかちな奴じゃのう」
「ここでいい物を手に入れたんだ。目的も果たした。それならもう行くしかあるめえ」

そう言うと、オーディンは髭を弄びながら言う。

「じゃが、お主が助けたあのヴァルキリーに会わなくてもよいのか? 黙って言ったら寂しがるし、顔は将来有望じゃぞ?」
「あいつがそんなタマかよ。あれはあれで気丈な女だ。オレはああ言うのは嫌いじゃねえ」

カラカラ笑いながら言う。

そこには本当にそう信じているという自信が見て取れた。

「ふむ……お主に会いたがると思うのじゃがな……何か伝えたいことはあるかのう?」

そう言うと、カリフは少し考えて思いついた。

「じゃあ一言」








ヴァルキリー育成の学び舎

そこの医務室に一人の少女がベッドに眠っていたが、その後目を覚ます。

「ん……ふあ……」

眠気はあるものの、艶めかしい声を出しながら寝がえりをうった時だった。

「いたっ!」

急に体を奔る足からの痛みに眠気さえもが全て吹っ飛んだ。

しばらく痛みに耐えていると、医務室に理事長の姿が見えた。

「ロスヴァイセ、目が覚めましたか?」
「あ……理事長……あの、これは一体……」

突然の客に起き上がろうとするロスヴァイセだが、理事長が手だけで制した。

「大丈夫です。そのままで結構です」
「は、はい……あの、私は……」

そこまで聞くと、理事長が答える。

「あなたが“はぐれ”のフェンリルに襲われたところをあなたの勇者が助けてくれたんですよ?」
「……あ、カリフさんは!? カリフさんはどうなりましたか!?」

ロスヴァイセがそこまで聞くと、理事長はにっこりと安心させるように言った。

「大丈夫ですよ。すぐにオーディンさま直属のヴァルキリーが来て追い払いました。あなたの勇者さまも無事です」
「そうですか……よかったぁ……」

ロスヴァイセは胸に手を当てて撫で下ろし、涙を溜めて安心する。

理事長はなんとか色んな真実を誤魔化せたことに溜息を洩らす。

そこで理事長は言った。

「大した子です。あの子はあなたを庇いながらフェンリル相手に大立ち回りを演じて耐えたようですから……」
「そう……ですか……」

ロスヴァイセの顔が真っ赤になっていくのが理事長にも分かった。

この時、理事長はカリフがオーディンの登場まで耐えきったとしか聞かされてなかった。

要は真実を知らないのは理事長も同様であった。

「あの……それでカリフさんは……」
「大丈夫、あの子に怪我はありません。ただ……」
「何かあったんですか?」

理事長の困惑にロスヴァイセがうれし涙を拭いながら聞くと、理事長は意を決して答えた。

「彼……さきほどここから荷物をまとめて出て行きました」
「……え?」

突然のことにロスヴァイセは訳が分からなくなってしまう。

それは、全く予期してなかった早すぎる別れだった。

「そんな……」
「彼は既にこの地でやるべきことをやったから帰るそうです」
「私……あんなこと言って……まだ謝ってもないのに……」

再び目元に涙を浮かべて顔を俯かせてしまう。

だが、理事長は無理に慰めることはせずに代わりに伝えることがあった。

「それでですね、あなたに伝言があるようです」
「伝言……?」
「えぇ……『また、会う時まで勇者のままでいよう、だからお前も自分を磨け……日本で待つ』だそうです」
「!!」

その言葉にロスヴァイセは衝撃を受けた。

まだ、こんな自分を認めてくれていた、まだ勇者でいてくれた!

今度は決して忘れない。

誰よりも自信に満ち、誰よりも強い勇者だった彼を……!

ロスヴァイセは顔を紅潮させ、胸に手を当てて想う。

「はい……また会いましょう……私の勇者さま……」

彼女の再び流れる涙

それを目にしていたのは生徒を優しく見守って微笑む理事長だけだった。

この日、彼女は一つの別れを体験し……

彼女はまた一つ強くなることができた……





「ほっほっほ……今回は我等神も堕天使もすっかり人間に驚かされたのう」
「まったくだ……世界ってなあ神がいなくても神秘に満ちてるっていうかなあ……」
「まあよい。あ奴ほど真っすぐで純朴な奴はオーフィスを置いて誰も知らん。ひとまずは大丈夫じゃろうて」
「だといいがな……」
「未来へ突き進む者の心配をしても仕方あるまい……アザゼル坊」

オーディンがそう言うと、アザゼルは肩をすくめて笑った。

「そうだな……俺らも踏ん張らねえとな」

主神と堕天使、双方共にこれからの世界に思いを馳せた。






ヴァルハラとスクールをよく見渡せる丘の上

黒髪をたなびかせ、バッグを背負って風に包まれる。

彼の見据える先はヴァルハラの向こう側

されど、目指す先は遥か彼方

「まだまだ遠い……だが、進んでいる」

そうとだけ言うと、カリフは舞空術で一瞬にして雲よりも最果ての空へと飛んで

夕暮れの空へと


溶けていった。




ここでの過去がまた未来へと繋がる。

それがどんな結果になろうと、彼はつき進む。

愚直とも言える素直さと清廉とも言える純粋さを抱いて……

彼の物語はすぐそこまで迫ってきている。

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