小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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「こ…これは一体……」

時を遡り数分前、一人の悪魔が驚愕していた。

事の発端は主の魔王がいつものように仕事を放棄して出かけた所から始まる。

冥界から主を探し、辿り着いたのは人間界の中国という国だった。

そこへ先遣隊を送ってから間もない時だった。

『た、助けて! 子供が! 子供がぁぁぁきらめいてくるよぉぉぉぉぉ!!』

正気とは思えないほどの大音量で部下の悲鳴が聞こえた時は本当にビビった。

急いで現場に駆けつける今に至ったのだが……

「これはひどい……」

全員はギ○グ補正のようにまっ黒に焦げて倒れていた。

「ミラクル☆レヴィアたん」のステッカーを額に丁寧に張られていることから容易に想像できた。

「頼むから仕事してええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

部下の悲鳴が空しく響いた。








当の本人はと言うと……

「あー☆ 万里の長城だー!」
「一度でいいから全力で駆け抜けてみたかった……この迸る衝動を抑えられぬぅぅぅぅぅ!!」

すっかり中国を満喫していた。

カリフと共に空を飛び、お得意の氷魔法で……もう何も言うまい。

カリフが空を飛んだ時も普通なら驚くところだが……

「わー! すっごい飛んでるー! なんでー?」
「気合と根性」
「これはもう助手になるしかないよ☆ 百年に一人いるかいないかの逸材なの!!」

こんな感じで恐ろしく軽い。

彼女の軽さは常識を遥かに逸脱している。

そんなこんなで各地の名所を周った後、彼女たちは昼飯に入った。










「あー楽しかったー☆ やっぱり他の人が一緒だと楽しいなー☆」
「時にお前、中々の食いっぷりだな。こちらとしても久しぶりに惚れ惚れするような猛者だな?」
「だって魔法少女だから!」

二人で腕一杯の紙袋をこさえてベンチに座っている。

カリフはモグモグとひたすらに食べ物を口に放り込んでいく。

ここまで買えているのも全てセラフォルー持ちだからである。

ひたすらに食べ続けるカリフにセラフォルーはクスっと笑う。

「今日は本当にありがとう☆ 人間界でここまで楽しめたのは久しぶり!」
「ふーん、冥界ってのは楽しそうではない口ぶりだな」
「そんなことはないけど……やっぱり私は魔王だからしっかりしろってソーたんもうるさくって……」

そう続けていると、セラフォルーは今までのテンションが嘘のように落ちこんでいった。

「皆は魔王ってだけで私に対する態度も変わっちゃって……お仕事も大変なのにね、魔法少女に憧れてもいるんだ……なんかおかしいでしょ?」
「……」

それどころか少し寂しげにセラフォルーは続ける。

「本当はアニメだって作りたいし、映画も作りたいの……だけど私、そこまで器用じゃないからどっちもこなせる自信なんて無くて……」
「……」
「だから今回で最後にしようって思ってたの……魔法少女もここで終わりにして魔王として働こうって……」
「……」
「だからね? 今回はカーくんと出会えて運が良かったと思ったの。最後にいい思い出のままで終えることができて……」

だが、そろそろカリフ自身にも限界は来ていた。

カリフはさっきから溜めていた疑問を出したくてしょうがなかった。

「それで、お前は満足なのか?」
「え?」
「やりたいこともせず、ただひたすらに自分を殺して満足かと聞いているんだ」

最後の肉まんを口に頬張り、一気に飲み込む。

「でも、周りの人が期待してくれてるから……」
「周りの目を気にして欲を抑えるのはどう考えても正気の沙汰じゃないな」
「でも、これから忙しくなるから……」
「ふん、結局はいい訳だな。それは」
「え?」

カリフはおもむろに立ち上がった。

「人は言う。自分に打ち勝てと……それ自体は大いに賛成だが、それが欲を抑えることであればそんな戯言は聞く必要も無し」
「え? 我慢しないの?」
「禁欲の果てに待ちうける未来などたかが知れてる……本当に強くなりたいのならそれらの戯言はかえって邪魔だ。やりたいことをやりたい時にする、それが欲ってもんだ」

カリフは再びセラフォルーの隣に座りこむ。

「強きとは、ただ単に敵を倒すことではないとオレは思っている」
「え? それも違うの?」
「そうだな……オレにとっての強さとは……我儘を貫き通すことだ」
「それって子供みたいだね……」
「あぁ、子供がおもちゃ屋の前で欲しいおもちゃをねだる時、子は地面に寝そべって“買うまで動かない”といった不動の構えを見せ、それでもだめなら駄々をこねる」

いつの間にかセラフォルーも話に聞き入っている。

「大抵の子は親という恐怖の下に暴れるのを止めて軍門に下るだろう……だが、オレは違う! 恐怖が迫ってくるのなら更なる抵抗を見せればいい! より一層手足を大きく振り回し、大声を張り上げ、続く限りの時間を抵抗に費やす!! そして、親がおもちゃを買う時まで抵抗すればいいのだ!!」

最後には力説してしまったが、もうそんなことは何とも思っていない。

「自らの意志を望む通りに実現させる力……それが強さの最小単位! お前にも欲があるのなら貫き通してみろ!! お前だけの我儘と言う奴を!!」

その最後の一言にセラフォルーは口を開いた。

「……できるかな〜……私にそんなこと」
「そこまでは知らん。できなければそれくらい強くなればいいだけだ」
「あはは……結構大変だからそう言えるんだよ〜? 時間も無いし、仕事にはまだ慣れてないし……」

だが、セラフォルーはカリフを包みこむように抱きしめていた。

「でもありがとう……少しやる気が出たよ……最初から諦めちゃってたね……」
「そんなキャラかよ。お前は」
「もー、お姉さんに向かって口悪いぞー。少しは愛想よくしないと周りから嫌われちゃうぞ☆」

そう互いに返していると、セラフォルーの胸に何かが戻ったような気がした。

これからの不安はまだ残っている。

だけど、自分のしたいことを一人だけでも後押ししてくれる人がいるだけで胸が軽くなる。頑張れる。

セラフォルーはそんなきっかけを作ってくれたカリフを優しく、昔、妹にやったような抱擁をする。

そして、普段ならそれを振りほどくカリフも……

「眠い……」

食後の眠りでそれどころではなくなっていた。

セラフォルーの柔らかい体が抱き枕のような効果を発揮し、より一層眠気が襲ってくる。

カリフは本能の欲には驚くほど忠実である。

その気になれば猛獣はびこるアマゾンのど真ん中でも眠りに入るくらいだから……

なぜなら、我慢する必要がないからだ。

「ふっふっふー☆ これがレヴィアたんの必殺、“魅惑の肉枕”なのだよ。ほらほらー眠れ眠れー☆」
「なん……だと……これも魔法か……これの修業も必要だというのか……」

やっといつもの調子に戻れたセラフォルーはまるで動物のブラッシングのように優しく膝に寝転がるカリフを撫でる。

そうしている内に、カリフの意識は闇の中へと……






「誰だ?」

闇の中から戻ってきていた。

突如として覆ったどす黒い殺気に眠気も消えた。

カリフはセラフォルーの膝から跳び起きて辺りの気を探っていると……

「おすわり!」
「え? きゃ!」

セラフォルーを足払いして転ばせると、セラフォルーの首があった場所を銀色の一閃が通った。

「気配さえも察知されない認識阻害の魔法術式を避けたか……運がよかったな」
「うそ!? 全然気付かなかった!!」
「いや、それどころか閉じこめられたっぽいな……見ろ」

カリフ周りを見渡すと、風景画マーブル状の背景しかなくなっていた。

典型的な結界の一つである。

「うっそー、閉じこめられちゃったー!?」
「ふっ、コソコソと悪知恵は働くネズミだ……」
「ふん、たかだかマグレでさっきのを避けたにすぎん人間風情がいい気になるなよ?」

カリフを見下しながらも結界内に次々と仲間を呼び寄せる。

そんな光景に暗殺者の男もほくそ笑む。

「ふっふっふ……年貢の納め時だな……セラフォルー」
「あ、あなたたちはカテレアちゃんの……」

セラフォルーの様子もおかしい。

怪訝に思うカリフを無視して事態は動く。

「そうです。我等はカテレアさまの忠実な下僕……貴様のような偽りの魔王になど屈さぬ」
「そんな! 私は……!」
「ここで無駄口を叩くことはしない……見た所あなたは人間の子供を連れていますな」
「!! ち、違うの! この子は!!」
「幾ら偽りの魔王といえどもあなたは驚異的だ……そんなあなたは一人を守りながら戦えますかな?」

そう言って子供に向けて手をかざし、魔力を練る。

(どうしよう…さっきのは不意打ちだったからよかったけど、カリフくんが複数相手にできるか分からないし……)

未だにカリフの強さの底を計りかねていたセラフォルーは止む負えずに氷の魔法を展開させる。

その時だった。

「破っ!」

急にカリフが正拳突きを放ったと思いきや、その拳圧が魔力を自分に向けて放とうとしていた悪魔の顔面へと突き刺さり……沈んだ。

「ぐぱぁ……」

顔の中心が深く陥没して鼻から鮮血を舞わせた。

『『『!!』』』

突然の仲間への攻撃に敵はおろかセラフォルーでさえも驚いた。

そして、悪魔が倒れる中、カリフはセラフォルーをまるでかばうかのように前へと躍り出る。

「いい、ここでこそボディガードの腕の見せ所だ」
「え……でも、カリフくん……」
「しっかり保て。オレを指名したのはあんただ……金の借りは果たさせてもらうぜ?」
「!!」

ここで見せた初めての男の顔

セラフォルーはその先から何も言えなくなった。

それに対して。カリフは悠々自適と言った感じで前へと躍り出る。

それに対して、敵軍勢も怒りを露わにする。

「貴様っ一体何をした!!」
「……」

だが、カリフは耳をほじって無視する。

それに対して一人の悪魔が額に青筋を浮かべる。

「このクソチビ……!」

ここまでだった。

カリフが瞬時に手から極太の赤い閃光を放って悪魔の一体を一瞬で消し去った。

断末魔を上げることすら叶わなかった悪魔の姿形が消えたことに周りの悪魔たちの反応も変わった。

全員が状況判断に難色を示していた時だった。

カリフは眉間に皺を寄せ、地面が陥没するくらいに強く片足を踏み込んだ。

「この蝙蝠野郎! 来るなら来い! ブッ殺してやる!」

カリフは徐々に現実と離れた場所へと介入していく。

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