小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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イッセーがカリフの部屋を尋ねる前、別荘の外では二人の人影が月光に照らされていた。

「あら、イッセーじゃない」
「あ、部長……」

イッセーはカリフの言う通り外へ出ていたら、そこにリアスに出会ったというわけだった。

ネグリジェ姿で眼鏡をかけてレーティングゲームのルールブックと独自の戦法を思案してできた戦術ノートを広げていた。

「昼間にあれだけ訓練したのに戦術も考えてるんですか?
「まあ、気休めだけど、こうして探っていれば何かの糸口が見つかるかもしれないから……しないよりはマシよ」
「……やっぱり凄いっすよ……部長は」
「……イッセー?」

儚げにリアスを見つめるイッセーにリアスはなんだと思って見つめるが、イッセーは笑って誤魔化した。

「……イッセー……少し話しましょう?」
「……はい」

そこから二人は語り合った。

リアスの『グレモリー』の呪縛のこと……

リアスは『リアス』として愛した人と共に歩んで行きたいと思っていること……

そして、イッセーは『グレモリー』に関係なくリアスのことが好きだということを……

「……」
「ど、どうしました部長? 顔が赤いですが……」
「え!? いや、なんでもないわ!! うん……そうなんでも……」

すごくうろたえて返す姿に少し笑いがこみ上げるも、イッセーはその後に改まって言った。

「部長……俺が部長を勝たせるんじゃ駄目……ですか?」
「え?」

意外な一言にリアスも目が点になる。

「今はこんな神器も碌に扱えない素人です。弱いです。部長たちの足手まといです……ですが、この合宿で強くなります……強くなって部長を勝たせるのは俺じゃ駄目ですか?」

弱々しく、自信なさげなその一言にリアスは不思議そうに聞いた。

「なんで?……あなたはそこまで……」

そう言うと、イッセーは少し恥ずかしそうに頭をかきながら言った。

「それは……部長のことが好きだからです……」
「ふえっ!?」

リアスは顔をこれまでにないくらいに赤くさせた。

それでもイッセーの独白は続いた。

「何て言うか……部長が悲しんでる所なんて見たくないんです……部長はいつでも堂々としてて、笑ってると俺も、皆も嬉しくなるから……では駄目ですか?」
「あ、えと……その……」

真剣にそう言われると恥ずかしい……そう思っているリアスがイッセーになんて言えばいいか迷っていた時、イッセーは満足したように頭を下げた。

「いきなりのことに混乱させてしまったようですみません!……でも、これだけ言えただけでよかったです!」
「い、イッセー?」

突然、しかしどこかすっきりとした様子のイッセーは下げていた顔を上げて堂々として、引き締まった表情をリアスに向けた。

そして、また頭を下げて続けた。

「ありがとうございます! 俺、今ここで部長に会って話してよかったです!……これで勇気が湧きました!」
「う、ううん……それほどでも……」
「それでは、おやすみなさい! 部長も早めに休んでください!」
「あ、ちょっ、イッセー!!」

そのまま走り去っていくイッセーを呼び止めようとするも、そのまま別荘の中へと消えてしまう。

「どうしたのかしら……」

自信を失くしていたと思っていたら、意外とそうでもなかった。

それは喜ばしいことなのだが、今、リアスが気にしている所はそこではなかった。

―――好きです
「〜っ!!」

その一言がフラッシュバックして顔を赤くさせ、胸が高まる。

「……イッセー…」

切なくなる胸に手を当てて、乙女は走り去る男の背中を見つめるのだった。


こうして、イッセーはカリフの部屋へと向かって行った。









時は既に夜中……カリフの部屋が淡く光り、その場でイッセーが倒れていた。

「うん……行ったか……」

目を閉じて倒れているイッセーを丁寧に彼の部屋にまで運んでいた。

暗くなった部屋の中のベッドを見据えてカリフはイッセーを

「ふん」

わざわざベッドでなく、壁に叩きつけた。

メキャ

なにやら聞こえたが、そんなことには構っていられない。

壁に赤い線を残して崩れ落ちるイッセーにも目も向けずに部屋を出て行った。

「さて、オレも行くかな」






俺が目を開けると、そこは限りなく白い世界だった。

雲も、空も、地面もただ白いだけだった。

なんでここにいるのか分からない……確かオレはカリフの部屋に行って……

「よぉ、来てやったぜ」
「カ、カリフ……」

突然、白い所から現れたカリフに驚くも、カリフは顎に手を当てて感心したように言った。

「オレの神器に入ってこられたとなると、動作は問題なかったようだな」
「え? これってお前の神器……ていうかお前も神器持ってたのか?」

おっかなびっくりのイッセーの質問に丁寧に答える。

「そう、これこそオレの“もらい物の”神器、永遠の素晴らしき世界(ワンダフル・パラダイス)だ。もっとも、お前のように戦いの最中では使えないし、今回はお前の修行用に重力とかそういった負荷はないから安心しな」
「は〜……」

大して話を聞いていない様子のイッセーを放ってそのまま話を続ける。

「この神器は戦いでは使えんが、中の環境は調節していじくり放題! 今は何も変化しないように設定している。そして、起きている時はもちろん、寝ている最中なら“精神だけを”ここへ移して修業できる! いわばここは夢の世界だ」
「え? でも、夢の中で鍛えても意味ないんじゃないか?」
「心配せずとも体はここで訓練した分だけちゃんと鍛えられるし、なにより肉体の方も休んでいるから朝まで修業しても万全な体調で朝を迎えられる」
「へぇ……すごいな」

感心しながら辺りを見回すイッセーだが、そこで奇妙な声が聞こえてきた。

『その神器……まさか俺の意識までも引きずり込むとはな……恐れ入る』
「!?」
「む?」

白い空間に響き渡る声にカリフもイッセーも驚愕していると、声は笑いながら響いた。

『ここだここ! 貴様等の上だ!』

その声に二人が頭上を見上げると、そこには巨大なドラゴンが悠々と見下ろしていた。

「なっ!?」
「ほう……イッセーの神器……赤い龍……まさか、イッセーの神器の……」

カリフは推測を立てると、意外にもその赤く、強大な龍が肯定した。

『そうだとも! 我こそが赤龍帝! 赤龍帝のドライグだ!』
「赤龍帝……ってこいつ……なんで……」

自分の籠手を展開させてイッセーは思案すると、カリフは可笑しそうに疑問に答えた。

「多分、オレの神器の副作用みてえなもんだろ……イッセーと神器……ドライグとやらの意識は一心同体。イッセーの魂に金魚のフンみてえにへばりついてたんだろうよ」
『金魚……まあそんな所だ。もっとも、この宿主があまりに弱かったからこうして話すこと認知もできなかったがな』

不満そうに、そしてバカにしたような口調のドラゴンにイッセーはムっとなるが、自分が弱いことは承知の上だから何も言えずに聞き入れた。

『まあ、ここで強くなってくれるならこれからも話くらいはできるだろうよ。でなければ白い奴に笑われてしまう』
「ま、それはともかく……予想以上だが、これは嬉しいサプライズだ。伝説の強い龍である赤龍帝に会えたのだ……挨拶くらいはしておくか」
『ふん、宿主を通してお前を見ていたぞ。人を越えし人間よ』
「伝説のドラゴンに知ってもらえたなら光栄と言っておくか……とりあえず……」

カリフの姿が一瞬にして消えて……

「え!?」
『ぬ!? どこに……!』
「人と話す時は……」
『上!?』

気付けば、ドライグの頭上にカリフは瞬間移動しており……

「同じ目線で話せやぁ!」
『グボォ!!』
「え!? なんで!?」

ドライグの脳天に踵落としを喰らわせて地面へと落とした。

見下ろされることが気に食わなかったが故の行動にイッセーも唖然とした。

苦悶の声を上げて地面に落下してきたドライグは背中から地面に叩きつけられてしまい、その際に生じた爆風によってイッセーは転がされていきそうになったが、なんとか耐えていた。

「……あれ?」

当の蹴った本人はあまりにあっけない伝説の龍に逆に呆気に取られた。

『む、むおおぉぉぉぉぉ……』

苦悶の声を上げて起き上がろうともがく龍に着地と同時に近付いて行って無言で拳をふりかぶる。

『おい待て! そこで拳を握って構えるな! 何の恨みがあって俺にこんなことを……!』
「え? お前弱くね? それで伝説を名乗ってんの? ふざけんなよコラ」
『なんでお前が怒る!? 待て! 少し話そう! 話せば分かる!』
「早くしろ。せめて納得できる理由くらいはその足りない頭から振り絞れよ?」

まさかの弱さに内心でいい戦いを期待していたカリフは悪い意味で裏切られていた。

その苛立ちを懇願するドライグにぶつけようとするが、ドライグも必死に抗う。

『今の俺は肉体を持たない思念体だ! 故に全盛期の力は十分の一にも満たせないんだ!』
「……」
『仕方ないだろ!! 俺だって不本意に思ってる!! だけどこればかりはどうしようもないくらい分かってくれ!! それとなんで俺が謝らなくちゃいけないんだ!? 俺の方が泣きたいんだよ!!』

たしかに、それなら仕方ないかと思って拳を治める。

ドライグも内心でホっと一息吐いているが、横からのイッセーからの質問で気持ちを切り替える。

「えっと……ドライグ……でいいんだな?」
『あ、あぁ……何用だ?』

また厳かな雰囲気を醸し出してイッセーと対面するが、今度はイッセーがドライグに呑まれてしまう。

(で、でけぇ……なんだよこれ……迫力が半端じゃねえ……)

目を見つめ合って分かる目の前の存在の圧倒的な圧力にイッセーは何も言えなくなってしまう。

あまりに強大、圧倒的な存在を前に、イッセーはヘビに睨まれたカエルの気分を味わっていた。

『ふん』

そんなイッセーをドライグは鼻で笑った。

『そんな調子でお前の訓練に耐えられるのか?』
「まあ、そうだな……この際だ、一つ言っておく」

イッセーに言い聞かせると、そこから信じ難い答えを発する。

「これから五日間、オレはお前を生死の境目の所まで追い込む……ただし、生きるか死ぬかはお前次第だ」
「な!?」

あまりの爆弾発言にイッセーは言葉を失ってしまった。

「この神器は体も精神も鍛え、本来の体を癒す優れ物……それでも精神が死ねば現実のお前も死ぬ。要は『鍛えた結果』を残すと同時に『苦痛』も現実のお前に返ってくるぞ!」

さらなる死刑判決に似た回答にイッセーはもう頭の中が真っ白となっていた。

「五日で戦闘経験のないお前に濃密な経験を与えてやる! ついでだ、ドライグ。お前はイッセーに攻撃できるか?」
『あぁ、可能だ』
「なら、お前もイッセーを攻撃しろ。殺さず、だけど生かさずだ」
『なんだそれは……』
「要は攻撃しろということだ……当てられる時は遠慮なく当てろ……とは言っても奴はお前の宿主だ。無理にとは言わんがな……」

あまりにスパルタな要求にドライグは大口を開けて笑いだした。

『はっはっは!! ここでこいつを育てるのもいい暇つぶしかもな!……いいだろう、こいつを四六時中追い回せばいいんだな!?』
「それでいい」
「え、ちょ、おい……待っ……」

ようやく、状況を理解しかけてきたイッセーは嬉々として話し合う二人に待ったをかけようとした時、腹部に衝撃が奔った。

「がはぁ!」

肺の空気と胃液がイッセーの口から吐き出される中、イッセーの腹にはカリフの蹴りが深々と入りこんでいた。

体を『く』の字に曲げてイッセーは遠くへ弾き飛ばされた。

『こぉぉぉぉぉ……』
「!?」

そこへ、ドライグが口の中で炎を滾らせているのを見た。

体が地面に叩きつけられて転げ回る動作さえも回避に利用するように、鮮やかな動きで立ち上がって飛び退いた瞬間、イッセーのいた場所が炎に包まれた。

「はぁ! はぁ!」

開始から僅かな時間で死の局面を体験したイッセーはただ息を整えるだけが関の山。

そんな時、爆煙の中から人影がゆったりと現れて……

「本能を全開にして朝まで『逃げ惑え』……死を回避しようとする本能がお前をより一層進化させる」
「うわ!」

喋り終わると同時にまたも瞬間移動でイッセーの前に立って顔面に蹴りを放つ。

咄嗟に避け、髪の毛を鋭く絶ち切る見事な蹴りに戦慄していると、カリフがその場から退いた。

そして、その瞬間に巨大な赤いドラゴンが頭上から降りてきて……

『ずぁ!!』

掛け声と共に鋭い爪の生えた手でイッセーを薙ぐ。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

激痛が走り、無情に吹き飛ばされるイッセー

しかし、そんな彼に容赦なくカリフは手に気弾を

ドライグは口から炎のブレスを

「そら! 行ったぞ!」
『グオオオォォ!!』

放ったのだった。

飛ばされていったイッセーの着地先に放たれた二つのエネルギーは互いに地面にぶつかり……




白い空間を爆風と共に




赤く照らしたのだった……










地獄の鬼ごっこ……終了まであと六時間











朝の日差しが部屋を部屋を照らす。

カーテンの隙間から洩れる日差しの線がカリフの目に重なった時、彼の眼は覚めた。

「ふあ……」

カリフは欠伸しながら目を擦り、ベッドから起きようとモゾモゾ動き、昨日のことを思い返していた。

(……イッセーは昨日のトレーニングを慣れない内は思い出すことはできまい……だが、確実に体には生死体験を刻み込んだ!)

これが、カリフの神器、永遠の素晴らしき世界(ワンダフル・パラダイス)の効果の一つ。

寝ても覚めても修業できる設計を施し、寝てる時の修業の記憶は曖昧である。

慣れない内はその本人は眠るときに起きた苦痛を思い出すことなく再び眠りに付く。

そして、体を休めながら強くなっていくと同時に『眠りながら味わう恐怖』をも忘れてしまう。

故に、本人は自分が恐怖に晒されていたことを忘れて再び地獄の修業に戻されるために眠りに付く。

『恐怖』も『苦しみ』も度を過ぎれば毒にしかならない。

度を過ぎた『恐怖』も『苦しみ』も忘れさせる神器

故に、永遠の素晴らしき世界(ワンダフル・パラダイス)!!

もっとも、カリフとしては寝てる時も強くなれるということから名付けられたのが根源の名であるのだが……

(こりゃ面白くなってきたな……)

これからのイッセーと赤龍帝の成長に少し興味が湧き、機嫌がよくなったカリフはしばらくの間はまた眠りに付いたのだった。

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