小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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グレモリー御用達の別荘前で凄まじい特訓が開始された。

基本的には木場からは剣術を習うために木刀で木場に対抗するが、全然当たらない!

「いいかい、何も剣だけを見るんじゃなくて視野を広げて相手と相手の周囲を見るんだ」

そう言いながら俺に最速の剣を振ってきやがった……サドめ……



そして、朱乃さんからは魔力の修業を行った。

ここはアーシアの方が才能があったらしく、俺よりも先に魔力使用のステップを踏んだ。

「魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。意識を集中させて魔力の波動を感じるのです」

そう言われてもどうやれば分かりません……だけど大きな収穫はあった。

何か、好きなことを想像すれば具現化できるとは言ったけど……多分、俺が思っていることを実戦で使えれば……そう思えた。




そして、次は小猫ちゃんとは組手をした。

だけど全く容赦がない!!

何故なら立ち技、寝技などが明らかに素人の技ではなく、生半可な力や技術じゃ全然太刀打ちできない上に小柄ですばしっこいからマジで強い!!

「……打撃は体の中心線に的確かつ抉りこむように打つんです」

そんな簡単に言われても……

拳を俺のほうへと向けてきた

……加減頼みます……







そして一番辛いのがここからだった。

ここで部長の筋トレが入るのだが、ここで更なる地獄メニューが追加された。

それは全員が一丸となってやるトレーニングであり……

「イッセー! 速くしないと追いつかれるわよ!」
「ちょっ! 体に鉄アレイとかくくり付けられてるのでそう言った無茶ぶりは無理そうです!!」
「部長、結界張ります?」
「僕はもう少し動いた方がいいと思いますが」
「……音が猛スピードで近付いて……え?」
「どうしたの? 小猫」
「すいません……カリフくんが音を消したので……どこにいるか分からなくなりました」
「えぇ!?」

ただ今、部長やアーシアを含めた全員で森の中で疾走している。

ちなみに、俺だけが全身に重りを付けているのだ。

駒の中で一番動き回るのが兵士なので、俺は人一倍体力が無ければならないらしい。

そのためとはいえ、よりにもよってこんなトレーニングを……

「って……部長後ろ!!」
「え!?」

俺は木の向こう側から部長に迫る手を察知して声を出すと、部長はその場を去って手から退いた。

すると、その手は木をまるで綿か何かを掴むみたいに“握りつぶした”

「はわわわ……」

涙目になっているアーシアはメキメキと倒れる木を前に言葉を失う。

「ははは……この中で勘がいいのはイッセーのようだ……そら、お前等が戦う意志を見せなければここいら一体を破壊し尽くすだけだ」

倒れた木の影からは全身を迷彩柄に色を付けたカリフが笑って見てきた。

既に夕闇だからカリフの両目が猫のような妖しい眼光を放っていた。

……あいつは本当にヒト科の生物か?

だが、そうも言ってられない。

「どうだ? 辺りを警戒しながら歩み、油断さえできずに疲れと緊張が体を蝕み、強烈な疲労が伝わるだろう?……それが“戦”だ」

この修業は……“実戦訓練”

練習とは違う雰囲気で俺たちの体力が予想以上に消耗し、思考力も鈍る。

いつも“死”に晒される感覚の中で俺でも自分の感覚が研ぎ澄まされていくのがよく分かる。

「さて、ノルマは後二十分逃げ切るか、オレに一発ぶち込むか……忘れちゃいないな?」

そう、この訓練から逃れる方法は二つ。

三十分逃げ切るか、カリフに一発でも攻撃を当てるかによる。

しかし、途中でカリフも攻撃してくる。

もちろん殺されはしないけど捕まった時、そいつだけ地獄のようなメニューをカリフ自身が提案して無理矢理やらされる。

もう逃げるしかねえ。

部長はカリフに一発当てるのを諦めて、全員の力を合わせて逃げようとしている。

かれこれもう十分は経ったのだが……

「URYYY……」

この迫ってくる魔物から逃げ切る自身がねえ……もうムリポ……














結局、俺だけが捕まってカリフ直伝のトレーニングを受けることとなった。

「ひー……ひー……ごほ……」
「はい、十分な」
「お、おー……」

現在、俺とカリフはマンツーマンでグランドのような庭を走らされている。

その途中で嫌ってほど思い知らされる。

俺がこの面子の中で弱い……分かってたことだけど……

アーシアはチーム内で回復を担うから絶対に守られなきゃいけない……今回のトレーニングで生き残ったのも部長たちが守ってくれたからである。

それは分かってたことだし、俺だってそうした。

アーシアは守らなきゃいけねえ。

だけど、俺が一番に脱落して……守れなかった。

それに、俺に力があれば部長が望まないような結婚を強いらせずに済んだかもしれないのに……

俺がこの中で一番……

「はい止めー、これから飯だ」
「あ、あぁ……」

考えてたらいつの間にか終わってた……だけど、気分が晴れない。

俺は皆と同じようなペースでいいのか……?

「……おい、イッセー」
「な、どうした?」

そこへカリフが急に話しかけてきたから普通どおりに返すが、カリフの表情は真剣そのものだった。

「お前……男のプライドって何だと思う?」
「お、男のプライド……急になんだよ?」
「いいから答えな。お前にとって男とはなんだ?」

突然の質問に不思議に思ったけどすぐに考えてみる。

「……女を守る……ってことかな?」
「……お前がそう思うならそれもそうなんだろう……だけどオレはのとは違うな」
「カリフの……プライド……」

俺はなんとなく興味を持った。

もしかしたらそれがカリフの強さの源なんじゃないかと思って。

「聞いた話だがな、女ってのは男よりも優れてるらしい……頭脳、認識能力など……男が勝っているとしたらせいぜい腕力とか力だけだ」
「……」
「だが、男はそれで満足か? 相手が勝ってると分かっても自分を大きく見せたい……守りたいなどと不相応なことを考える」
「じゃあ、カリフは男は女に勝てないと……?」

それに対してカリフは首を横に振る。

「そこが男のプライドって奴さ……自分じゃできないって分かってもそれを乗り越えようとする『挑戦心』と弱さを乗り越えようとする『意地』の強さが男の価値を決める……障害を乗り越える強さだ」
「挑戦と……意地」
「そうだ、そしてこんな諺もあった。『小市民はいつも挑戦者を笑う』……今の状況に最も合っているのではないか?」

そう言われればそうだ……今は俺が挑戦者だ……

「生物はどんな些細なことでも簡単に化ける。たった一勝するだけで蚊がライオンになるのと同じようになぁ……」
「……」
「今のお前は今まさにその節目にある……そこで提案だ。俺の独自メニューを受けるか?」
「ど、独自……?」

カリフの設定するメニューはちょっと不安だけど……

「これさえやってのければもしかしたら禁手寸前にまで行けるか、最低でも中級悪魔くらいにはなるかもな」
「!!」

そう言えば、あの後に部長から聞いた。

禁手(バランスブレイカー)……神器所有者が強くなり、ある領域に達した者がなる究極系。

とんでもないほどの力を得るのだが、その分至ることがとても難しい。

多分、下級悪魔では至ることさえ難しいという。

「でも、俺がそんなに強くなるなんて……」
「できないと? 自分で壁を作ってどうする。限界があるならそれをはねのけろ。お前にはそれを成せると期待はしている」
「でも……俺はこいつの性能を碌に引き出しきれない半端者だ……ライザーの奴と向かい合った時、怖かった……そして今でもあんな奴と戦うと思うと怖くて……情けなくて……」

気付いたら涙が出ていた。

自分がこの面子の中で一番弱い、足手まとい。

そう認識させられる度に悔しさがにじみ出た。

「俺……部長が好きなのに……その部長のために何かしてえのに……俺は……よええ……」

後輩であるはずのカリフに情けない姿を見せて俺は泣いた。

自分の不甲斐無さを激白する俺にカリフは意外にも笑った。

「そうだ、お前は弱く、臆病だ……だからこそお前はあのトリ頭には持ちえない『最大の武器』を手に入れているんだ」
「最大の……武器……」
「……奴は方法は知らんが、攻撃に対して受け流せることは奴の立ち会い方で分かった……だが、それでは決して得ることのできない物がある……“恐怖”だ」
「で、でも……怖がってたら弱くなるだけだろ?」
「そうだ、恐怖は足元をすくませ、感覚を鈍らせる……だからこそ“恐怖”を理解し、支配してこそ真の実力を発揮できる……だが、奴はその『恐怖』も知らず、それを乗り越える『勇気』を知らん」

カリフは一息入れて続ける。

「人間賛歌は『勇気』の賛歌、人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ……恐怖を理解する勇気をあのトリは知らず、お前は知る直前にまで来ている!」
「勇気……」
「いつだって時代を切り開いてきたのは伝統に縛られるような輩でもなければ今の立場に満足して下の奴らを見下してきた奴じゃない……恐怖を乗り越えて『勇気』を振り絞った奴だけだ!!」

俺に向き直って言う。

「お前は恐怖しながらもそれを乗り越えようとする『兆候』を見せ始めている……今は弱いだろう、怖いだろう……だが、それは恥ではない!! 『成功』の歴史を作り出すのは『失敗』だ!!」
「……俺、そこまで強くなれんのかな……?」
「卑下するなよ? まずは自分を認めなければ全て始まらん……そして、お前がお前を卑下することは貴様を評価しているオレに対する侮辱に値する……それを忘れるな!」

それに対して俺は疑問に思った。

「……なんで俺を評価してんだよ」
「お前は愚直なほど素直で、正直で、臆病なくせに壁にぶつかっていきやがる……安全な道ばかり辿るおりこうさんよりも、そんな救いようのないバカの方が個人的に好感が持てる……」
「……」
「今のお前の涙は俺たちを照らす夕陽よりも輝いて見えるぜ……」

カリフはその場から別荘へと向かって行った。

「俺の提案を受けるも受けないのも手だ!……だが、お前が望むなら今日の夜、オレの部屋に来い!」

そう言ってカリフははっきりとそう言って別荘へと帰って行った。

その後ろ姿からは自信しか見えない……まるで全てを予想出来ているかのように……

「……俺は……」

この時から答えは決まっていたのかもしれない……

俺は……部長に……








カリフは廊下で腕を組んで壁にもたれかかっていた。

そこへ一人の影が通り過ぎた時、カリフは動いた。

「よ」
「あ、カリフ」

リアスに軽い会釈を交わし、壁から身を離すと悪戯そうに笑った。

「今日の修業は中々楽しかったぞ。偶には一方的というのも悪くない」
「偶に? どの口が言うんだか……」

頭を押さえて呟くリアスにカリフは一通り笑った後、すぐに表情を引き締めてリアスに問う。

「リアスよぉ……イッセーのことなんだけど……」
「?……イッセーがどうしたの?」
「もう気付いてるんじゃないのか?……奴に足りない物が……」
「……」

リアスは何も言わずにただ頷くだけだった。

「奴には自信が無い……自分の力を信じることができなければできることもできなくなる……劣等感は自分の動きを抑制させるからな」
「そうね……ここに来てから周りとの差を見せびらかせたかもしれないわね……私のミスだわ」
「いや、周りの実力を見せるのは少なかれ必要なことだ……問題はその差がでかすぎたということだ」

そう言って二人は思案すると、カリフが言った。

「ま、そこんところは関係ないからお前たちが勝手にやってくれや」
「え? そこまで言っておいて何もしてくれないの?」

そう言うと、カリフは心外そうに言った。

「勘違いするなよ? オレはお前の下僕などではない。オレはオレのために動いてるにすぎないのだ……悪魔同士の都合は知ったことじゃねえ」
「……まあ、そうよね。今回は関係の無いあなたの力を全面的に頼っているのは事実……これ以上は流石に欲が大きすぎたわ」
「ま、悪魔だしな」
「そうよね」

会話の内容はなんであれ、二人は互いにニヒルに笑い合うとカリフは何気なく言った。

「そう言えば今日は月がまぁるくていい夜じゃねえか……そう思わんか?」
「えぇ……それもそうね……」

急な話の展開にリアスも首を傾げると、カリフはそのまま夕食のために食堂へと向かった。

「こういう夜は外に出て風に当たってみな……案外すっきりするぜ」
「え、えぇ……」

そうとだけ残すカリフにリアスはただ曖昧に返すしかできなかった。







食事中が終わり、風呂に入っている時もイッセーはどこか上の空だった。

そんなイッセーを見て木場は不安そうに表情を歪める。

「イッセーくん大丈夫かな……女性の裸が壁越しに広がっているから反応すると思ってたけど」
「お前もそう見えるか、やっぱあいつはエロの権化だな。エロがなければ只の抜け殻ってわけだな」
「君も相当口が悪いよ?」

そんな話をする中、カリフはイッセーの後方へと忍び寄り、イッセーの頭を無理矢理お湯の中へ突っ込む。

「ごぶっ!……ブクブク……ぶはぁ!」
「よし、意識が戻ったから言う。今日この後に外へ出てうろついてろ。誰かに会うまで帰ってくるんじゃねえぞ」
「はぁ、はぁ、いきなり何すんだよ! それに意味分かんねえよそれ!」
「返事は『はい』『yes』『サーイエッサー』しかねえんだよ! とにかく言う通りにしねえと訓練中に事故に見せかけて殺すぞ!!」
「ちょっ! そんな無茶苦茶もががががががが……!!」
「あはは……程々にね……」

カリフがイッセーの頭を足で踏んでお湯の中へ突っ込み、イッセーも溺れてもがき苦しむ傍から見れば拷問のような光景を前に木場は苦笑してできるだけ関わらないように距離を開けたのだった。






風呂場での交流が一段落し、カリフは暗い部屋の中でベッドに寝転がっていた。

月明かりが部屋を照らす中、静かにベッドの上で胡坐をかいていた。

(リアスとイッセーの気が接近した……あとはこれでイッセーの心になんらかの動きがあれば充分だ……動機さえ見つけてもらえばオレが楽になる)

呑気にそう考えながら全てを悟っていた。

今、自分の部屋に近付いてきている気を感知してそのままにしておく。

そして、自分の部屋に入ってくる人影を見て小さく呟いた。

「ふん……それなりに覚悟は決めてきたってわけか」

面白そうに言うカリフに対して返した。

「……俺を鍛えて欲しい……それで強くなるなら何でもする」
「ヒュ〜〜♪」

その答えにカリフは口笛を吹いた。

「下手すると死ぬかもよ?」
「ああ」
「後悔はしないな?」
「ああ」

これ以上聞くのはもう相手への侮辱としかなり得ない。

カリフはベッドから降りて一言呟いた。

「神器(セイクリッド・ギア)……永遠の素晴らしき世界(ワンダフル・パラダイス)

その瞬間、部屋を淡い光が部屋を包んだ。

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