小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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モニターの向こうでは予想以上のことが起きている。

カリフという人間が不死鳥のフェニックスを追いこんでいるのだから。

だが、問題はそのやり方である。

悪魔が最も忌み嫌う十字架を大量に所持し、それらを使ってライザーを執拗に追い詰めているのだから。

「おい! なんだあれは! 反則じゃないのか!?」
「十字架だと!? ふざけているのか!?」
「今すぐにあの人間を退場させろ!!」

ライザーと懇意にさせてもらっている貴族陣の怒りは最高潮に達し、シトリー眷族は呆気に取られ、このブーイングの嵐の中に取り残されていた。

「これはこれは……」
「すごいね〜……やることなすこと全部戦術のせの字もないよ」
「いやはや、これはこれで爽快でいいじゃないか」

さっきからの人間とは思えないまさかの破天荒行動と悪魔でさえも考えもしない豪胆さに魔王たちはおろか、いつも寝ているファルビモウスでさえも今回ばかりは最後まで見てしまった。

そして、ゲームを作ったアジュカ自信も意外な盲点を突いてきたカリフに関心していた。

そして、それを躊躇なく行える遠慮の無さもまた人間にしては新鮮だった。

モニターに映されるカリフの笑顔を観戦しながらグレイフィアが淹れてくれたコーヒーを飲むのだった。



運動場のあちこちで爆発が起こる中、ライザーがいるところだけは違った。

辺りには十字架が散らばっており、その中心には腕を交差させて防御の姿勢をとっているライザーがいる。

傷は見られないのに息も上がり、疲労困憊に顔色も悪くなっている。

そんなライザーを鋭い眼光で見つめるカリフ、そしてライザーも『女王』であるユーベルーナと『僧侶』兼、実の妹であるレイヴェル・フェニックスがカリフと睨み合っていた。

「残念ですわ。あの時のあなたの言葉には素直に尊敬できましたのに……まさかこんな卑怯者だったなんて……」

レイヴェルが怒りを満たした声で言うと、カリフは淡々と返した。

「バカか貴様?」
「なっ……なんですって!?」

明らかにバカにしてるような声色で言った一言にレイヴェルも怒りを露わにする。

憤慨しているレイヴェルにカリフがたたみかける。

「戦いでは何が起こるか分からない。自分たちが不利になったからといって駄々をこねる…」
「くっ……!」
「こんなことになるくらい想定してなかったのか? これだから『覚悟した気になっている』輩ってのは泣きじゃくるガキよりもタチが悪くて嫌なんだ」

そう言いながらカリフは隠し持っていた十字架を全て取り出した。

「「!?」」

ユーベルーナもレイヴェルも警戒心を露わにするが、それは意外な形で裏切られた。

それらを全て捨て、踏みつけて粉々に砕いてやった。

「そろそろ、これには飽きてきたからな、オレはもうお前たちには進んで攻撃はしない」
「……それは余裕のつもりでして?」
「核心だ。考えてみればお前たちを倒す手立てなど頭の中で湧いて出てくる……後は好きにやってくれって話だ」
「なら、ここでお仲間を見殺しにすると?」

ユーベルーナが聞くと、カリフは再び不敵に笑う。

「だから貴様等はいつまで経ってもうだつが上がらねえんだよ。バカ」
「なに?」
「本気でこいつ等が有象無象だと……本気で思っているとしたらもう勝負は決している」

カリフは二人によって隔離された膝を付くライザーに近付く影を見逃さなかった。

「竜ってのは最強のシンボルだぜ?」

後の仕事は?

決まっている。

竜の成長を静かに見守ることだった。





「はぁ……はぁ……」

ライザーは既にボロボロだった。

体では無く、精神の方が追いこまれていた。

もう止めたい、戦いたくないという感情が胸の中でざわついている。

そんな彼をかろうじて保っているのは『貴族』としての威厳と尊厳と誇りだった。

ライザーは既にカリフに敗北を認めた……だが、もう認めざる得ない状況にまで追い詰められた。

たとえそれが下級悪魔だとしても……

「分かっているぞ……ブーステッド・ギアの宿主……」
「やっぱり……分かってたか」
「貴様くらいの気配など察知するまでもない……大人げないようだが、もうお前が下級悪魔だとしても関係無い。ここまで恥を晒させてしまったのだ……全力で貴様だけでも叩く!!」

その瞬間、ライザーの背から巨大な炎の翼が現れた。

十メートル以上のサイズ、別次元な熱量からして本当に本気だということが分かる。

状況が悪化したにも関わらず、イッセーは恐怖よりも感謝が最初に浮かんだ。

自分を本当に敵とみなしてくれた……たとえそれがどんな経緯だとしても全力でぶつかってきてくれるのだから……

「あぁ……見せてやるよ……赤龍帝の力を!! ドライグ!! 契約だ!!」

イッセーの言葉の後に神器の宝玉が光り、声が出てきた。

『いいのか? カリフがあそこまで弱らせたから今のお前でも勝てるぞ?』
「駄目だ……確かにそっちの方が楽かもしれねえ……だけど、この役だけは誰にも譲りたくねえ!! 俺は部長の兵士だ!! オレが部長を守りたい!!」
『……それでいいんだな?』
「その言葉は聞き飽きたぜ!! 俺が聞きたいのはお前の『yes』の言葉だけだ!!」

自惚れでも何でも、自分の好きな女は自分で守りたい。

愚直ながら、真っすぐでシンプルな動機にドライグは笑った。

『ククク。お前もカリフのイカれ具合が少し染み込んだか……いいだろう! それでこそ我が宿主だ!!』

その瞬間、神器が赤い輝きを放った。

『Welsh Dragon over booster!!!』

力が体に沁み渡っていくのが分かる。

『今のお前なら十分はいけるはずだ……あの特訓の成果……といっても覚えてはいないか……』

紅いオーラが消えると、そこにはドラゴンを模した全身鎧のイッセーが立っていた。

深紅の鎧姿にライザーも驚愕した。

「鎧……まさか、赤龍帝の力を具現化させたものか!?」
「そうだ! これが龍帝の力! バランスブレイカー、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』だ!!」
「禁じられた忌々しい外法……揃いもそろってこのバケモノどもが!!」
「なんとでも言えよ……だが、俺はバケモノ以上のバケモノに鍛えられたんだ……ここで一分以内にお前を倒さなきゃあいつに怒られちまう」

本当は自分だけ力じゃない……これは契約……力を得る代わりに支払った物もある……

それでも、この力はオレなりに考えた力だ!

今だけでも手に入る力ならこれほど安い物はねえ!!

「火の鳥と鳳凰! そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火! その身で受けて燃え尽きろ!!」

有り得ない質量の火炎を纏ったライザーが迫ってきた。

こいつの力はとんでもねえ!!

幾ら強くなったとはいえ、実力は俺よりも上だ!!

すぐさまにパンチで受け止めるも一瞬、受け流してやった。

「そんなスピードなんて屁でもねえ!! それよりも強くて速くて恐ろしい一撃を俺は知ってんだ!!」

忌々しそうに睨んでくるライザー。もう、こいつ相手に手段を選んではいられねえ!

汚いかもしれねえが、カリフに習ってみるか!!

「見てろ! これがブーステッド・ギアのもう一つの力!! ブーステッド・ギア・ギフト!!」
『Transfer!!』

俺がさっき拾った『物』に力を注ぐ。

これがブーステッド・ギアのもう一つの能力……『ブーステッド・ギア・ギフト』

どこでみにつけたかは覚えてないけど、気付いたら使い方さえも覚えていた。

これはあらゆる物に溜めた力を譲渡する援護に適した能力だ。

そして、それは人物に譲渡することもできれば、物にも譲渡できる!!

「うおおおぉぉぉぉぉ!!」
「バカが! そんな攻撃などさっきの苦しみに比べれば大したことないぞ!!」

ライザーも捨て身覚悟で俺の攻撃を受け、至近距離で焼くつもりだ。

だが、これは違うぞライザー。

さっきまでとは違うんだよ……これはな……

「くらえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

俺のパンチがライザーのボディを捕らえた……

その時……

「ゴホォォォォォォォォォ!! グアアァァァァァァァァァ!!」

ライザーは血ヘドと共に唾液と胃液を吐き出した。

そう、一味、違うんだよ……

これは『痛い』んじゃない……『死ぬほど痛い』一撃だ!!

俺は握った拳を開けると、そこから出てきた物にライザーは苦悶の声ながら驚愕した。

「そ、それは……十字架……」
「あぁ、これに宿る聖なる力を強化させた……効果を見る限り、威力はとんでもないようだな」

イッセーが見せてきたロザリオにライザーは困惑した。

(バカな! 悪魔が十字架を持って無傷なはずが……! それが赤龍帝の力で強化されたなら尚更……)

だが、ここで思い至った。

(赤龍帝の力で……強化……そのことが本当なら……奴は!!)

項垂れていた頭を上げた。

「まさか小僧!! その手は!!」
「どうした! 考え事とは余裕じゃねえか!!」
「!!」

目にしたのは、イッセーがバカでかい魔力弾を練っているとこだった。

そして、浮いている魔力に拳を叩きこんだ。

「ドラゴンショット!!」

その時、とてつもない破壊の波動がライザーに直撃した。

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

咄嗟にライザーは間一髪で体を捻って避けるも、十字架の力も乗っていた一撃に体の一部が焦げた。

そして、痛みに体がよろけているとイッセーが間髪入れずにライザーの眼前に現れた、

その手は固く、堅く握りしめられていた。

「アーシアが言っていた! 十字架のような聖なる力は悪魔が苦手だって!」
『Transfer!!』

再び十字架に力を譲渡する。

「朱乃さんが言っていた! 魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集め、意識を集中させて波動を感じろと!」

態勢を整える。

「木場が言っていた! 視野を広げて相手も周囲も見ろと!」

拳を構え、ライザーに向ける。

「小猫ちゃんが言っていた! 打撃は体の中心線を狙って的確かつ抉るように打つんだと!!」

修業で習ってきたことを全て使い、今ここに、ライザーを追い詰める!!

皆の想いを確かにイッセーは……受け継いでいた。

「待て! 分かっているのか!? この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なことなんだ!! お前たちのような小僧悪魔や何も知らぬ人間がどうこうするもんだいじゃないんだぞ!!」

慌てふためくライザーだが、俺には退けぬ理由があった……それを教えてくれた人もいる!!

「カリフが言っていた……非力な男は『意地』で女を守り、『度胸』で苦難に挑んで『勇気』で恐怖に乗り越えてこそナンボだと!! 我儘を最後まで曲げぬ心が『強さ』に繋がると!! これは俺の我儘だ!! あの人の嫌がる婚約を破棄させることだけで充分すぎるんだぁぁぁぁぁぁ!!」

イッセーの放った拳は


ライザーの中心を



深く抉った。



「ぐはぁ……」

痛みに叫ぶことすらできず、ライザーはその場で倒れ伏した。

そして、この時になって約束の一分が過ぎた。

『ライザー・フェニックスさま戦闘不能。このゲーム……』

グレイフィアさんが告げた言葉は……













『リアス・グレモリーさまの勝利となります』

俺たちが心待ちにしていた言葉だった。

俺はその言葉を聞いた後、禁手のあとの消耗からか、はたまた十日間の合宿疲れからなのかその場に倒れ伏した。

「や、やった……」

ただ、疲労と共に俺の心の中には嬉しさが広がっていた。

拳を天に掲げ、俺は遠くで聞こえる仲間たちの声をBGMにしてこの余韻に浸るのだった。

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