小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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先程出会った者同士が出会うというようなことは案外あるかもしれないしないかもしれないかもしれない。

莫大な募金をくれた少年は神へのお召し物をゴミ箱と認識している。

神への奉仕を人生の至上の喜びとして認識する女性は目の前の少年を神の使いとも考える半面、不安も感じる。

相対する考えの双方が今、都内のバイキングレストランの中で向かい合っている。

「奇遇……いや、君と出会ったのは主のお導きなのだろうな」
「救いの道を示してくれたあなたとの出会いは運命ね。あぁ、迷える子羊に手を差し伸べる心優しき日本人に祝福あれ。アーメン」
「食事の邪魔するな」

テーブルの向かい側で勝手に居座って手を十字に切ったりお祈りを捧げる二人の美女にイラっとする。

「なんで勝手にこっち来た? 食事の邪魔なら丁重にお断りしようか。失せてくれません?」
「出会い頭に辛辣だね。私たちが何かしたかい?」
「そんなに怒っては幸運が逃げていくわ。笑顔で生きましょう」
「良いこと思いついたぞ。今すぐお前等が外で腹おどりすればオレも笑っちまうよ」
「私たちは笑えないんですけど。すぐお巡りさん来ちゃうから」

ツインテールの女性がツッコむと、カリフはここで溜息を吐いて思いっきり睨む。

「調子にのってんじゃねえぞテメー等ぁ……オレは嘘をつかれるのがいっちばん嫌いなんだよ……」
「……なんのことか分からないね」
「ここまで来て惚けるのか……いい度胸だなコラ」

カリフの髪がザワザワし始め、周りの空気が重くなる。

血管を浮かばせて睨まれ、二人の女性はたじろぐ。

「こうして向かい側にしたら気付かれないと思ったのか? 腰に携えている業物を構えて飯でも食うのか?」
「業物? なんのことかしら?」
「こっちに近付いてきたときの歩く時の姿勢でピンと来たぜ。大抵は気付かないが、相手が悪かったなぁ?」
「……こうして話して分かるよ。君は普通じゃないってところがね」

二人の女性がローブの中に隠した布を巻いて隠した棒状の物に手をかけようとした時だった。





「止めておけ」
「「!?」」

カリフの目から瞳の黒が消えた白目で睨み、威圧された。

その威圧だけで二人は体が硬直し、同時にカリフの背後にいるはずのない鬼のような幻を見た気がした。

怒りの形相の化物に対し、カリフは薄ら笑いを浮かべて威圧だけで二人を牽制している。

レストランの柱がバキッと立てた音で青髪の女性が恐怖から正気に戻った。

「はっ!! イリナ!」
「!!……ゼノ……ヴィア……」

冷や汗をかき、息が荒くなった二人を見てカリフは余裕を崩さずに言った。

「正気に戻るまで三秒……今ので三十回は死んだな貴様等」
「……」
「日本には『仏の三度目』という言葉はあるが、オレはそんなに甘くは無い。大人しくしていろ」
「……」
「まだやる気なら獲物を手に取れ。痛みも感じさせぬまま送ってやろう」
「ぐっ!」

二対一という不利な状況を楽しんでいるカリフを見て確信した。

(次元が違いすぎる……)

ゼノヴィアと呼ばれた女性はここでカリフの底力に観念したのか、一息吐いた。

「イリナ、ここらへんにしよう」
「え、でも……」
「あまり彼を怒らせない方がいい。あの目は本気の目だ。言ったことを絶対にやるという凄みが伝わってこないか?」
「……分かったわ」

二人は大人しくテーブルに手を置いて敵対の意志がないことを示す。

そのことで少しはカリフの機嫌も治ったが、未だに半目で警戒している。

「貴様等、どこの手のものだ? 堕天使、神、悪魔……または英雄の血筋か……と言っても恰好からして神陣営か」
「そんな所だよ。まあ、内容は教えられないけどね」

ゼノヴィアはドリンクバーから持ってきたコーヒーを飲みながら話す。

その時、イリナは何気なく聞いてみた。

「ねえ、あなたって何者なの? 明らかに一般人じゃないでしょ?」
「それは私も聞きたいな。あれだけの殺気は今まで初めてだ。どんなエクソシストも悪魔や堕天使でもこんなに強い波動を発する者はいない」
「年季が違うんだよ……戦いに戦い抜いてきたオレに勝てるとでも?」
「……多分無理だろうね」

カリフは出された食事を食べて空腹を満たしていると、またゼノヴィアから話しかけてきた。

「ねえ、一つ聞いてもいいかな?」
「なんだ?」

大分機嫌も治って来ていたので比較的素直に返すと、安心して聞いてきた。

「君は悪魔と関わっているのかい?」
「まあな」

一秒も間を置くことなく返すカリフに二人は眉間に皺を寄せる。

「それなら悪いことは言わない。悪魔と縁を切れ」
「はぁ?」

突然の一言にカリフは意味が分からなかった。

「今日会ったばかりの奴に何故指図されねばならんのだ?」
「奴等は欲望に身を任せる獣みたいな存在だ。自分の欲のためなら殺しさえ平気で行う」
「そうよ、主への愛に生きる私たちとは絶対に相容れないの」
「愛……ねぇ」

くくく……と腰かけて笑うカリフに二人は首を傾げていると、カリフは二人を見据えた。

「お前等神陣営の口癖だな……愛だと何かに付けて口にする」
「そうだよ。我等にとっての幸福は主への愛を胸に生きること。決して悪魔のように欲望に溺れたりはしないさ」

そう言われ、すぐに質問を変える。

「そうだな……じゃあ愛のことについて聞くとしよう」
「?」
「例えば……二人の新婚カップルが幸せに一生を暮らすことと、前から好きだった女性を無理矢理拉致して監禁し、欲しい物を何でも買ってやって死ぬまで居続ける男と女……それぞれ『愛』か『欲望』かで答えろ」

明らかに差が開くような内容で、二人は迷いなく答えた。

「簡単だ。二人で幸せに暮らすのが『愛』だ」
「相手の気持ちを無視して一緒に住もうだなんて『欲望』剥き出しの悪魔みたいだわ!」
「ふん、まあそう答えるんだな」

カリフは店員が持ってきていたドリンクを一気飲みした後続ける。

「オレは少し違う。このどっちもが等しく『愛』であり、『欲望』であると思う」
「何故だ? この答えは一目瞭然だろう」
「じゃあ聞くが、後者の男の心情を考えてみろ。その男は何を願ったが故に女を拉致したと思う?」
「ん〜……その人のことが好きだったからとか?」
「だとしたら歪んだ愛だな」

イリナの答えにゼノヴィアがバッサリ切り捨てると、カリフが指をさして笑った。

「そう。その男は女を愛した。愛したが故の奇行……『愛』は『欲望』へと変わる」
「……何が言いたい」
「全ては同じなのだ。個人の考え方で言葉の意味も行動原理も何もかも全て変わる」

カリフは全て平らげた皿を乱暴に横へどけて毅然と言い放った。

「この世に実在する命だけが世界を変える権利を持っている」

すると、ゼノヴィアはカリフをローブ越しに睨めつけた。

「つまり、君は主は不要だと……そう言いたいのか?」

まるで自分の信じる物を否定されたと思ったゼノヴィアは再び懐の獲物に手を出そうとするが、次のカリフの一言で一旦は止まる。

「神を信じるのは大いに結構。元々から否定する気は無い」
「じゃあ、あなたは何が言いたいの?」

イリナが聞くと、カリフは伝票を探す。

「まあ、偏見に囚われずに物事を見ろってことだ。神とやらの教えだけに従っていくのも勿体ないことだ」
「それは……」

どう返したらいいのか、もっともらしいことを言うカリフにイリナとゼノヴィアが返答に困っていた時だった。





「おらぁ! 近付くんじゃねえ!」
「「!?」」
「?」

店の外から野太く、狂暴な怒号が響いた。

二人は勿論、気が抜けていたカリフも窓の外を見てみる。

すると、道の真ん中には女性を人質にしてコンビニから出てくるヘルメットを被った男が出てきた。

典型的なコンビニ強盗である。

なんともありきたりなシチュエーションでこの場から逃走しようとしているのが分かる。

「イリナ!」
「えぇ!」

二人で目配せして店から勢いよく出て行く。

横目で見ていたカリフは溜息を洩らす。

「正義感ってやつか……恋は盲目というけれど、似たり寄ったりだな」

呆れはするものの、女性を見た時からカリフは思っていた。

「……まあ、今回はちと見過ごしはしないがな」

自分にも戦う理由ができた……と





店の外へ出た信者二人組はすぐさま野次馬をかき分けて最前列の方へとやってきた。

視界に捉えたのは男に拘束されて苦しそうにしている女性だった。

「ちっ! どの国にもこういう輩は必ずいるものだ」
「あぁ、主よ。どうかあの憐れな子羊を貴方さまの深き懐へ……」

勝手に物騒なことを言いながらすぐにでも犯人に飛びかかろうとしたときだった。

「チョイ待て馬鹿共」
「「うぐ!」」

いつの間にか後ろにいたカリフにローブを掴まれて後ろに二人揃って転ばされた。

「な、何してんだテメェ等!」
「いえ、別に」

強盗をスラリと言いくるめて今度はローブを引っ張って引き寄せる。

二人も引きずられるように引き寄せられる最中に頭を地面にすっていた。

「お前……何を……」
「いきなり出て行って人質を無闇に危険に晒す気かバカ」
「でも、私たちが速めに勝負を仕掛けた方が……」
「はい残念アホ丸出し。お前等、あの女が普通の女に見えるか? あのでかい腹見て」

人質にされている女性……非常にお腹が出ていたのは野次馬たちも承知だった。

そう、人質は妊婦だった。

「あの妊婦……あの汗の量は多すぎだ」
「犯人に掴まって怖がっているからだ! それよりも速く奴を……!」
「いや違う。事態はさらに深刻なことだ」
「どういうこと!?」

全ての状況を踏まえてカリフは真実に至った。

「もうじき生まれる」
「え!?」
「な、なんで!?」

驚愕する二人を横目に答える。

「尋常じゃない発汗量、目に見える体力の消耗、そして、体内からの微弱な気……相当に不味いな」
「だ、だったら尚のこと……!」
「だから作戦が必要だつってんだろ。闇雲に出て母体か子供かどっちかに傷を付けでもしたらどっちかが死ぬ」
「じゃあどうしろと!」
「救急車呼べ。大袈裟にすればするほど状況は悪化する。実力行使は最後の手段だ」

そう言いながらカリフは犯人の元へ二、三歩寄っていく。

「おい! なにを……!」
「おいお前! なに近付いてきてんだ!」

後ろからはゼノヴィア、前からは強盗犯に呼びかけられたカリフは両手を上に上げて無抵抗の意志を見せる。

「その人、具合悪そうだから離した方がいい。代わりにオレが人質を努めよう」
「はぁ!? 何言ってんだてめぇ! 頭おかしいんじゃねぇぇのかぁ!?」

当然、強盗犯も不審に思って女性の拘束を強めると、カリフの表情は険しくなる。

「それ以上は止めるんだな。出産間近の子供は母体の些細な不良でも影響する……その生まれてくる命を巻きこみたくはないんだが?」
「ガキがどうなろうと知ったことじゃねえぇぇぇぇ! 俺が逃げられればどうでもいいんだよおぉぉぉ!!」

もはや発狂している男にカリフの額に血管が浮かび上がってくる。

「……もう一度言う。その人を離せ。これが最終通告だ」
「るせぇぇぇぇ! そんなに言うならてめぇから殺してやろうかあぁぁぁぁぁ!」

遂に、男は緊迫状態とカリフの言い分に怒り、ナイフを持って向かってきた。

妊婦を突き飛ばして向かってきた男に対してカリフはほくそ笑んだ。

「やっぱバカじゃん」

その瞬間、カリフの姿が一瞬消えた。




「がぼ……ぐふ……」

男のナイフをくぐり抜け、顔面に深々と拳を突き刺したカリフ

野次馬からして次に見たシーンは予想を大幅に裏切った。

男の顔面から血が噴き出て崩れるように倒れる。

そして、突き飛ばされた妊婦はゼノヴィアが救出していた。

「君のも無茶としかいいようがないんだが?」
「ごめ、こういうのやっぱ苦手だった」

軽く言ってくるカリフに溜息を洩らしながら妊婦を優しく介抱してやる。

すると、背後からサイレンの音が聞こえてきた。

「ふむ、やっぱ都心は来るのが速いな。後は専門家にでも任せておけ」
「いいのか? 名乗り出れば功労者として評価されるぞ?」
「知るか。そんな取るに足らないことのためにわざわざこんなことをしたと思っているのか?」

カリフはゼノヴィアと向き合い、指をさして言った。

「これから生まれてくる命は謂わば無限の可能性だ。生まれてこようとする命ならば、オレは祝福し、孵してやりたい」
「へぇ……そんなこと言うとは流石に思っていなかったよ」

そう言うと、カリフは笑いながら言った。

「お前が思っているようなセンチになっているのではない。ただ、この方が面白いと思っただけだ」
「……君がそう言うんならそうなんだろうね」
「そういうことだ。人はだれしも同じ考え方では生きてはいないってことは頭のどっかにでも入れておけ」
「そうか? ならお言葉に甘えるとしよう」

そう言いながらカリフが背を向けて歩くのを気になり、聞いてみる。

「もうお帰りかい?」
「あぁ、もうある程度は時間も経ったし、誰かは帰って来てるだろうってな」
「そうか。私としては君の話をもう少し聞いてみたかったんだけどね」

ゼノヴィアの一言にカリフは立ち止まる。

「君からは悪魔のような混じりっ気のない欲望でも天使さまのような愛とも取れない不思議な感じがした。もう少し話くらい聞けば分かったかもしれないからね」
「このオレがそう簡単に見透かされると? 片腹痛いな」

ゼノヴィアの言葉に不敵な笑みが浮かぶ。

それに対してゼノヴィアも悪戯そうな笑みで返す。

「とことん天の邪鬼だな君も。そうだ、この際だから自己紹介でもしようか」
「ゼノヴィアー! 妊婦さんはもう大丈夫……ってどうしたの二人で笑って?」

手を振って戻って来たイリナは疑問符を浮かべる。

「なに、遅れた自己紹介でもしようと思ってね。この子は悪魔ではないし、結構な手練だけどそう悪い奴ではないと思うんだ。だから今後のためにね」
「え〜。だったら私も混ぜてよ」

そう言うと、二人は咳払いし、畏まった。

「私はゼノヴィア。知ってると思うが、エクソシストだ。よろしく」
「私は紫藤イリナよ。元は日本生まれだけど、今は現役のエクソシストだから。よろしくね」

好意的な二人に対してカリフは鼻を鳴らしながら笑みを崩さない。

「名乗られたからには逃げずに名乗ってやろう。オレは鬼畜カリフ。今はしがない一般人さ」
「エクソシスト二人を怯ませた君がしがないと?」

嫌みか謙遜かの二つに取れる回答にゼノヴィアがツッコむ。

それを無視してカリフは問う。

「そんなエクソシストが態々こんな街に来たのだから……何かやらかしたな?」
「……すまないがそこは今は聞かないでくれ。行き詰ったら君にも応援を頼めたら心強いと思っている」

そう言うと、カリフは少し考えてニンマリと笑う。

「ま、面白そうなら聞いてやらんことも無い。内容によるけどな」
「そうか。そう言ってもらえると助かるよ」

柔らかい笑顔で答えると、カリフは再び踵を返した。

「何か面白いことがあれば近くの駒王学園のオカルト研究部に来い。話はそれからだ」

そう言うと、彼は野次馬の中へと姿を消したのだった。

それを見送った二人は互いに顔を見合わせた。

「なんだか……よく分からない子だったわ」
「うん……ただ一つを除いてはね……」
「え? 何か分かったの?」

イリナの問いにゼノヴィアは何気なく感じたことだけを言った。

「彼は誰よりも純粋ということだよ。私たちのような主に尽くすわけでもなければ悪魔のように立場重視の考え方でもない。ただ、自分に忠実なだけだよ」
「へ〜……て言うかよく分かるわね」
「私の頭は信仰心のように柔軟に対応できるんだよ」
「やっぱりあなたもどこかおかしいわよ」
「失礼な」

二人は空腹時よりは比較的おとなしい口論をしながらカリフとは反対側の道へと歩いて行く。

その時にゼノヴィアはカリフのことが気になっていた。

(あの少年……カリフ……か)

この時、ゼノヴィアはある計画を頭の中で張り巡らせていた。

その思想が後にオカ研を震撼させるのも知らずに……

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