小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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「さて、シエスタっと……」
「部室を何だと思っているのかしら? あなたは」

礼の如く、カリフは退屈な授業を終えてオカルト研究室に来る。

欠伸するカリフにリアスは若干、イラっとして返す。

だが、そんな声は届かずにソファーの上で眠ろうとすると、リアスが改まってカリフに頼みごとをする。

ちなみに、部室にはリアスとカリフしかいない。

とは言っても、あらかじめに部活は休みといってあるのだから。

「ところでカリフ、一つお願いいいかしら?」
「なんだ? また結婚式潰せ? 焼き鳥滅殺? それともイッセーと人生の墓場へゴールイン?」
「なんて黒い思想を……違うわよ。今度、部員全員であなたの家でミーティングしたいから許可が欲しいのよ」

すると、カリフは苦い顔を浮かべる。

「騒がしいのは苦手だ。てか、お前はイッセーの家に引っ越したんだから引っ越し祝いって言ってやればいいだろ」
「これ以上は図々しくてあの家に申し訳ないもの」
「今更ですか?」
「どう言う意味かしら? よく分からなかったわね〜?」
「頭に行く養分まで胸に吸収されているのか? 頭大丈夫か?」
「あはは。今、無性にこの後輩を殴りたい」

必死に怒りを抑えるリアスにカリフはソファーから起き上がる。

「まあ、対価を払えば入れてやらんことも無い」
「5ホールのケーキでどう? 味は各種揃えて」
「明日の昼に来い」

あっさりと懐柔されたカリフにリアスも拍子抜けする。

最近、カリフのツボが分かりかけてきた。

やっぱり学習することも力の一つだ、と実感できてきたリアスだった。

なにはともあれ、カリフの許可もいただいたことだし、リアスは言った。

「それじゃあ週末の昼にあなたの家へお邪魔するわ。部員にも後で私から報告しておくから」

こうして、鬼畜家でミーティングが行われることとなった。




そして、約束の週末が来た。

リアス一向はカリフの家の前にまで来ていた。

どこにでもあるような一軒家

全員の目から見ても感想はこの一言に尽きた。

「い、意外と普通なんですね……」
「イッセーさんはどんな家を想像してたんですか?……」

アーシアがツッコんでくるも、本人も相当意外だったのかマジマジと見ている。

「まあ、流石にそう思うのも無理ないよね。僕も思ってたから」

木場が爽やかに答えると、家の中から小猫が出てきた。

私服姿の可愛らしい小猫がお出迎えしてきた。

「よく来てくださいました。今日はゆっくりしていってください」

イッセーはマジマジとほっこり顔で見つめていた。

「カリフの奴、こんな可愛い子と朱乃さんとも一つ屋根の下で暮らしてやがるんだもんな〜。羨ましいぜ」
「あら、イッセーはアーシアと私じゃ不満なのかしら?」
「イッセーさん……」
「そういうんじゃないよ! アーシアも部長と一緒に住めて幸せっすよ!」

力説するイッセーに二人は満足そうに笑みが浮かんでくる。

そんな中で木場がキョロキョロと見渡しながら小猫に聞く。

「朱乃さんとカリフくんは家にはいないのかな?」
「朱乃さんはおもてなしのお菓子をおばさまと作ってます。カリフくんは修業に行ってますけどすぐに帰ってくるようです」
「それでか……荒々しい雰囲気が感じられないから不思議に思ったけど、納得だね」
「ていうかおばさんって……まさかカリフのお母さんですか? ちょっと怖いような……」
「大丈夫よ。朱乃のこともあって面識はあるけど、良識が合ってとてもいい人よ」

緊張しまくってるイッセーと頷くアーシアに言い聞かせて宥めるリアス

こうして穏やかな生活は続いていた。




「ちなみに、イッセーの昔のアルバムでも見て楽しみましょ?」
「リアス部長! それはいい考えです!」
「何してんすか部長ぅ! アーシアも乗っかっちゃだめぇ!」

そして、イッセーの尻に敷かれる生活の始まりでもあった。










一方でカリフは修業の一段落として朱乃に作ってもらったおにぎりを食っていた。

だが、そこでカリフは困惑していた。

「……何してんのお前?」
「……気が向いた。だから来た」

隣でカリフをジっと見上げるオーフィスがいた。

カリフにとっては最もとっつきにくい相手でありながら気配を微塵も感じさせない厄介な相手。

しかし、嫌いでもなければどうとも言えないカリフにとって複雑な心境にさせる相手だった。

「カリフに会いに来た。それ以外ない」
「なんて暇な奴だ」
「でも、我は会いたかった」

腰かけているカリフの膝の上にポスっと座ってきた。

オーフィスはカリフに向かい合って変わらず顔を眺めてくる。

(こいつ……体重がない? 軽すぎる)
「……我、カリフに聞きたい。そのためにも来た」

違うことを考えていたカリフにオーフィスが問いかけてきた。

「なんだ? あと邪魔だからどけ」
「ここがいい。我……聞きたい……カリフは静寂が嫌い?」
「静寂?」

カリフが初めて見るような真摯なオーフィスに首を傾げる。

そして話を聞く。

「最初見て思った、カリフは静寂をもたらす力を秘めてる……だから近付いた」
「……」
「だけどカリフといると我、ここがあったかくなる。とても気持ち良くなる」

オーフィスは自分の胸を指差す。

「だから、我と一緒に静寂の中に連れて行きたい。だけど、カリフはいつも騒がしい、なんで楽しめる?」
「今日はよく喋るんじゃねえか?」

カリフが率直な意見を述べる中、オーフィスは続けた。

「我、頼まれた。力を分けたら静寂をくれる、だから力与えた」
「は? 誰がんなことを」
「誰かは興味無かった、だから知らない。だけど、約束してくれた。その代わり、我、今までのようにカリフに会えなくなる」

ここでカリフはさらに疑問に思った。

今のオーフィスにはもちろん感情が見られない。

だが、神がかった観察眼を持つカリフにはオーフィスが後悔しているように思えた。

「我、カリフだけは特別。だから一緒に来てほしい。そうしたら我とずっと一緒」

服の裾を掴んでクイクイ引張って駄々をこねる無限の力を持つ幼児にカリフは嘆息する。

「なんでオレにこだわる。他の奴見繕って適当に生贄でもなんでも作れよ」

疲れた様子で言うカリフにオーフィスはジっと見つめてくる。

「カリフは人間、なのに我以上の力を秘める。我、何もすること無い。だから静寂欲しい」
「……」
「カリフは楽しそう。なんで楽しめる? だから興味持った」

つまりは同族愛に似たような物か……

そう思っていながらカリフは話した。

「別に、オレは目標に向かっているだけだ」
「目標?」
「あぁ、追い越したい奴が二人いる。そのためだ」

カリフはどこまでも続く青空を眺めると、オーフィスも一緒に眺める。

「? 我よりも強い?」
「オレの力と同等くらいってんならお前よりも遥かに強い。だけど、オレはそいつ等以上に強くなりたい」

拳を握るカリフをオーフィスはただ見つめるだけ。

そんなオーフィスに気付いてカリフは自分の拳を引っ込めた。

「はぁ……何を話してるんだかな」
「でも、二つだけ分かった」

オーフィスは二本の指を立てる。

「カリフは自由、そして、我はカリフをまだ理解できないこと」
「そう簡単にオレを理解しようなんざ無駄無駄……覇を握る物はいつだって凡人とは違うのさ」

自画自賛のカリフの上から降りてオーフィスは服を払う。

「また来る。我、帰らないと周りうるさい」
「もう勝手にしろ。邪魔さえしなければお前の人生でも全うするんだな」
「そうする、我、カリフと一緒にいたい、知りたい。会いたいからまた来る」
「またそれか、今度は修業……っていねえ……」

空を見上げてから首を下ろしたのにもういなかった。

どこまでも掴みどころのない相手に戦慄ではなく奔放さに対しての尊敬というか同調の念まで湧いてくる。

「……帰るか」

時間からしてリアスたちも来て菓子を振る舞っていることだろう。

さんさんと照り輝く太陽を見つめて呟いた。





それからあっという間に我が家に帰ってきたカリフは少し表情を強張らせた。

帰ってみれば、朱乃と小猫のいつもの面子しかいなかった。

しかし、予定の時間からあまり時間も経っていないはず……

「なんだ? 今日は来てなかったのか?」
「いえ、家に来ておもてなししたまではよかったのですが……」
「?」

朱乃の物言いに要領を得ない。

一度来ていたのなら何故……そう思っていた時だった。

ソファーに座っていた小猫が答えてくれた。

「祐斗先輩が……突然……」

言葉から察するに木場が何かしたようだな……

「珍しいこともあるもんだ」

そう言いながらも、小猫の方を見ると、悲しそうな表情で俯いていた。

カリフは溜息を吐き、朱乃に向かい合う。

「朱乃よう……祐斗に何かあったか?」
「……まだ何とも……」

ただ、苦い顔しながら答えようとしない朱乃に少し疑問を持つ。

「……そうか」

だが、ここは素直に退く。

ここで探ってもどうしようもないことくらいは分かっていたから。










それからの祐斗の様子はおかしかった。

学校ではいつも上の空でボーっとしているらしい。

その姿が女子の間では物思いにふける王子と囁かれ、人気に火を付けているらしい。

そして、ここに来てカリフの学園生活にも変化していた。

「あの……ちょっといいかな?」
「?」

相も変わらず場違いな番長スタイルのカリフに数人の女子が遠慮がちに話しかけてきた。

カリフは帽子の切れ目の間から鋭い眼光を投げて怯ませる。

「え、えっと……カリフくんにお願い……だめかな?」
「なぜオレに?」
「あの、カリフくんって格闘技やってるって小猫さんから……」
「まあ、一応」

面倒くさいので返しだけは適当にしていると、女子たちは頭を下げてきた。

「あの! 次の体育前の着替えの時なんですけど……!」








今、俺たちの目の前には楽園が広がっている。

松田と元浜の誘いで今は女子更衣室のロッカーの中に潜んでいる。

一年、つまりは小猫ちゃんと大勢の後輩の芸術を拝めるということだ。

「想像するだけで待ち遠しいぜ」
「おうとも、神々しいパンツにブラジャーの共演……まるで神と女神のワルツ……」

神は俺たち悪魔の敵だけど、今回はその神様にも感謝だな!

「さあ、そろそろ来るぞ! 公演中は静かにしてろよ!」
「分かってるとも、マナーは最低限のルールであり、礼儀だ」
「パンツを軽んじる物はパンツに泣く……それも真理だ」

なんて熱き仲間たち!

「俺の刻んだ言葉がある。『欲望は未来を創る』と」
「「いい言葉だ」」

とはいってもカリフからの受け売りだけどな。

こういう時に使い勝手がいい言葉だぜ。

「おい、来たぞ」

松田の声と共にロッカーの隙間から俺たちは食い入るように……あれ?

なんだか後輩&#039;sがまるでモーゼの十戒みたいに並んでいる?

あれ? なんで小猫ちゃんまで……

て言うか……合掌?

ますます分からない……小猫ちゃんなら問答無用で殴りかかって来るかと思ったんだけど……

「なんだあれ?」
「まさか……バレたとでも……」
「いや、でもこの反応は……」

俺たちが不審に思っていた時だった。

「ほう……そこにいるのか? 松田と元浜とやらは……」

突如、底冷えするような声に俺は嫌な予感しかしなかった。

「いつぞやか知らんが……随分とやってくれたみたいだねぇ?」

俺たちは冷や汗を流しながら動けなくなっていた。

完全なる死亡フラグが今ここに建築されてしまった。

「おい松田、元浜……あいつ、お前らに用があるようだけど?」
「「……」」
「……なんかしたんだな?」

なんて命知らずなことを……俺は内心でこのアホ二人に呪詛を唱えていると、二人は口を開いた。

「……あまりある体力を全て喧嘩につぎ込んできた番長はこの学園きってのお姉さまである姫島先輩の弱みを握り、強引に共同生活を強いる。同じ手口で学園のアイドルである塔上小猫ちゃんさえも野獣の巣窟へ放り込んだ」
「抵抗しても圧倒的な力にひれ伏され、『もう……許して……』『いや……もう止め……』と懇願する二人に執拗に続く蹂躙。燃え上がる性欲で成熟し切った花弁を散らし、成長しきっていない果実を貪る―――と言うウワサを……」
「……流したんだな?」

成程……こいつ等の運命は決まった。

来世で会う時も友達でいような。

「頼むイッセー……先輩として番長を止めてくれ!」
「ただ魔がさしただけなんだよ! だって木場に並ぶほどのモテっぷりだぞ!?」

くっ! 悔しいが二人の気持ちは分かる。

前までは常軌を逸した格好と雰囲気に女子はおろか男子さえも近付かせなかったカリフは最近になって女子から人気が出始めた。

木場とは違う『男気』の強さとワイルドさが女子からはウケがいいらしい。

あいつ、この前も俺の目の前で三年生からラブレター貰ってたのを見た時は発狂しそうになった。

「無駄だよ。カリフは決心したら最後までやり遂げる男であり、筋も通す奴だ。この前だって告白してきた先輩に『異性としては光栄だが、あんたのその感情は別の誰かに授けるといい。オレはまだ女を作るなど考えられないからこの手紙は読まない。開けない。手紙を開き、あんたの気持ちを見たらオレはあんたを裏切れなくなるから……』ってラブレターを封も開けずに本人に返すくらいだからな」
「なんて贅沢な奴だ! 死ね!」
「死ね!」
「ほ〜う? どうやら本気で死にたいようだな……ちょっと理科室から硫酸を持ってきてくれ」
「あ、はい!」
「ごめんなさい! 嘘です! 今のはただのお茶目なんです!」
「この法治国家でそんなことしてはいけません! 命はもっと大事にしましょう!」

松田と元浜は外での会話に先輩としての見栄を捨てて後輩に泣きついている。

バカだなこいつら……

とりあえず俺はあいつには何もしてないし、今なら小猫ちゃんを含めた女子からの袋叩きで済むと思うから速めに出よう。

カリフからのエンドレスリンチはこいつ等だけで充分!

「松田、元浜……頑張れよ!」
「「おいこら待て!」」

俺は脱兎の如くロッカーを出ようとした時だった。

二人が俺を逃がさんと掴まってきた。

「おいこら離せ! 俺はまだ死にたくは無い! 死ぬなら二人で仲良く逝きやがれ!」
「そう言うな同志よ! 死ぬときは皆一緒だって誓いあったじゃないか!」
「お前にとっての友達ってのはこの程度の物なのか!?」

好き勝手言いやがるアホどもめ……そろそろここらで真実を話そう。

「お前等は俺にとって友と書いて“生贄”と書く。しからばごめん!」
「そうはいかずんば!」
「俺たちと旅立とうじゃないか〜!」

鬱陶しい離れろ! このままだと俺までもが……!

「さっきからコソコソと何を話してるんだぁ?」

手遅れでした〜……既にカリフがロッカーをホールドしたのかメキメキと音を立ててロッカーが潰されていく!

「ちょっと待て! 俺だけの無罪を宣言する! 全ての元凶はこの二人だから俺だけは助けてくれ!」
「ふざけんな! 俺たちを見捨てる気か!? 裏切り者!!」
「考えなしにライオンにちょっかい出したと思って成仏でも勝手にしてくれ!」
「納得できん!」
「このまま逃がす気は無い……全力でやってやろう」

やらなくていい! やらなくていいからまずは落ちついてくれ!

ていうか段々と壁が迫って来てマジでやばいんですけど!?

「今すぐ開けてくれ! これはマジシャレにゲホッ! なんだ……この煙……!」
「慌てるなイッセー! これはただのゴキジェットの煙だ! 現在進行形で番長がかけてるだけだ!」
「嫌だー! こんな所でムサイ奴等と一緒にゴキブリみたいに死にたくない! 優しい先輩からのお願いーー!」

イッセーの訴えも空しくひしゃげてドアの変形した開かずのロッカーを揺らす程度だった。

そんな様子に周りの女子たちも少し気の毒に思う。

「ねえ、流石にやりすぎじゃあ……」
「うん、もう……ねぇ?」

カリフにお願いする女子たちに対し、カリフは空になったゴキジェットを捨てて言い放った。

「法治国家って面倒だな、全く。二、三羽駆除するだけですぐにはやし立てるのだから」
「えっと、冗談……だよね?」
「おい、硫酸はまだかな?」
「冗談だよね!?」

真顔で不吉なことを言ってくるカリフに戦慄する女子たち

「……やり過ぎ」

小猫は溜息を洩らしながら呟くのだった。




「……」
「イ、イッセーさん……」
「イッセー?」
「はっ! あれ? どうかしました?」

明らかに意識が飛んでいた様子のイッセーにリアスたちは心配する。

「あらあら、気分が優れませんの?」

朱乃が紅茶を差し出しながら気遣ってくれる。

「ありがとうございます。ただ、殺虫剤吸われてから時々意識が飛びそうなんですよね……俺、悪魔だったから気絶で済んだけど悪友二人がお亡くなりに……」

言いながら目の前のソファーで眠るカリフを半目で睨んでいると、その瞬間に小猫が注意する。

「……イッセー先輩、危ないです」
「へ?」

その直後だった。

カリフは眠りながらにして机にのせていた足を勢いよくイッセーに振るった。

飲んだ紅茶のティーカップがイッセーの眼前で綺麗に空間ごと削り取られた。

「……」

一発で終わったものの、その凄まじさは充分に伝わってきた。

イッセーは取っ手しかなくなったカップを冷や汗を出しながら見つめた。

切り取られたように抉れたカップは宙に舞って地面に落ちて割れる。

「あらあら……」

朱乃が苦笑しながら呟くと、続いて小猫が羊羹を食べながら補足をした。

「カリフくんは敵意に敏感ですから、寝ている時は体が勝手に動くそうです」
「そういうことは早めに言おうよ小猫ちゃん!」
「私も最近知りました」
「な、なんて難易度の高い後輩なんだ……」

依然として眠りこけるカリフにイッセーは不安を覚えたが、すぐに別のことに頭を切り替える。

最近は悪魔関連で色々とあった。

カリフがバイトの最中に生徒会の面々の悪魔勢と出会い、匙とか言う奴と出会って喧嘩したりもした。

事の発端は俺たちオカルト研究部で学園の球技大会に出た時だった。

皆はノリノリで相手を蹴散らしていたのだが、木場だけが集中できておらずにずっと上の空だった。

その結果、部長にも怒られ、木場はその日以来部活には来ていない。

「復讐……か……」

そして思い出した。

木場は昔、教会で聖剣の実験のために毎日地獄を見たらしい。

消えていく仲間たち、励まし合った友たちも最後には殺処分された。

その中を脱走したのが木場であり、結局死んでしまった。しかし、そこで部長と出会って悪魔に転生してもらったとのことである。

正直、俺じゃああいつの苦しみは理解できそうにねえな……

そんなことを思っていると、アーシアが心配そうに呟いた。

「でも……復讐なんてしても死んでいった人たちは喜ぶんでしょうか……たとえ聖剣を破壊しても死んでしまった人たちは……」
「でも、それが祐斗と交わした契約でもあるの。聖剣への復讐心があったからこそあの子は私に付いてきただけなのよ……思い返すと、あの子の苦しみに付け込んで従わせている私もロクな物じゃないわね……」

部長……そんなに自分を卑下しないでくださいよ……

だけど、部長は眷族を大事にするからこそ木場を見守ることしかできない自分に苛立ってるのは俺でも分かる。

アーシアも俯いて木場を心配していた。

「主は仰ってました……たとえどんなことがあっても人を愛せと。だから私、復讐なんて……」
「そんなことが簡単にできるのか?」

そこで寝ていたカリフが目を擦って目覚めた。

どうやら俺たちの会話で起きたっぽいな。

「復讐……世間ではなぜマイナスに取られるのかがオレにはイマイチ良く分からん。何故だ?」
「それは、えと……そんなことをしても恨みを買うだけですし、なにより死んだ人はもう戻ってこないから意味が無いと……」
「なんだそれは?」

アーシアの持論を一蹴したよこの子! ああもう、アーシアも困ってるじゃないか!

そんなことはお構いなしにカリフは事も無く続けた。

「一見温厚そうに見えた奴にもそれほどの気概があったことは喜ばしい。復讐は無意味? そんなことを復讐を誓ったあいつに言えるか?」
「うぅ……できそうにありません」
「だろ? たしかに復讐は新たな恨みも買えば死んだ奴も生き返ることは無い。だが、オレにとっては決して無意味じゃない。決して無意味じゃない」

アーシアが首を傾げると依然としてソファーに座ったまま続ける。

「オレなら想っていた奴を忘れて生きていくことは絶対にできないし有り得ない。オレから言わしてもらえば、復讐とは過去との決着だ」

決着……か。まあ確かに俺も部長やアーシア、他の皆が殺されたらそうするかもしれないしな。

大事なことほど忘れられないもんな。

「それじゃあ祐斗くんのことは放っておくんですの? それはあまりに……」
「それこそ奴自身が決めることだ。独りでケリつけるか、お前たちとケリを付けるかは奴自身が決めることだ」

心配そうに尋ねる朱乃さんにカリフは意外にも木場を尊重した提案を掲げた。

「今はそれしか無い……か」

俺は小さく呟いていると、部長は深刻な面持ちで告げた。

「実はね……貴方たちに話しておくことがあるの。イッセー、昨日貴方の家に聖剣使いが来てたって言ってたわよね?」
「あ……はい」
「?」

何やら自分の知らない所で話が進んでいるって顔だな。

ていうかカリフ、お前は球技大会もバイトで休んでてて最近オカ研にあまり顔出してないからだろ。

そんな感じでいると、部長から重い口を開けた。

「実は今朝方、二人の聖剣使いが私たちと交渉がしたいそうよ?」
「は!? 聖剣使いって……教会の!?」

え!? なんでそんな奴らが悪魔の俺たちに!?

「しかも、どこかで聞いたのかは分からないけど祐斗ももうじき来るわ」
「ちょっと待って下さい! 木場が来るんですか!? つかもうじきって……!」
「えぇ、もうすぐここに来るのよ」

あまりに進み過ぎた展開に俺たちはただ驚愕し、不安を感じるのだった。





それから数分もしない内に木場がやってきたが、俺たちには目もくれずに鋭い眼光のまま座りこんだままだった。

部長を含めた皆もそんな木場には何も言えなかった。

だが、そんな暇も無く、すぐに例の二人組がやってきた。

一人は目つきの悪い青い髪に緑のメッシュを施した女性と俺の昔の幼馴染、紫藤イリナがやってきた。

そして、あからさまに腰に携えている剣から嫌な感じがする。

以前に部長から教えられた悪魔を滅する剣、そして木場の人生を狂わせた元凶……か

「お初にかかるね。私はゼノヴィア。こっちは紫藤イリナだ」
「初めまして。悪魔の皆さん」

淡々と進めるゼノヴィアと名乗る女性に対してイリナは笑顔で頭を下げる。

それに対し、木場は敵意を丸出しにして睨みつける。

そりゃあ信徒が嫌いって言ってたっけな。現役の信徒に対する感情は俺には分からないんだろうなぁ……

そんなことを思っていると、ゼノヴィアは今度はカリフの方へ向いてフっと優しく微笑んだ。

「やあ、来たよ」
「ふん」

素っ気ないカリフの態度も気にしていない様子の二人だった。

と言うかこの二人と知り合いだったのか!?

「あらあら、これはどういうことかしら?」
「……説明求む」
「やだよメンドイ」

朱乃さんと小猫ちゃんの追及も一蹴する相変わらずの後輩

そんな中でゼノヴィアは再び無表情に戻った。

「それじゃあ本題に入ろうか」

また何か起こらなきゃいいけど……多分無理なんだろうなぁ……

何故かそれだけは確信してしまったのだった。

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