小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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校庭の上空に浮かぶ光の球体

そこからはとてつもないほどの光のエネルギーが感じられ、イッセーたちは近付けないでいた。

今、この場には学園を覆う結界が安定したために駆けつけてきたソーナもいる。

「なんすか、これ?」

イッセーが眩しさに耐えながら光の球体を指差すと、それにはソーナが答える。

「……不確定ですが、昔の文献で似たような技を出した堕天使がいました」
「それはどういった技なの?」

部長が聞くと、ソーナも思い出しながら説明する。

「上級堕天使が時間をかけて入念に練った光のエネルギーを瞬間的に膨張させてできる光のエネルギーに満ちた結界……カリフくんはそこに閉じこめられたと考えるべきね」
「閉じこめられたらどうなるんですか?」

イッセーが息を飲んで聞くと、ソーナは眉間に皺を寄せて重い口を開く。

「悪魔なら中の光のエネルギーですぐにやられるほど……並の人間なら時間をかけてゆっくりと焼かれるわ」
「そんな……っ!」

朱乃さんが口を抑えて信じられないと言った表情を浮かべる。

「しかも、その光は堕天使に無類の力を与えます……言いにくいですが、もはや……」
「そんな……」

木場が苦しげな表情を浮かべて上空の球体を見上げる。

こんな時に何もできない自分たちの非力を恨みながら一同は時を待つしかない。




そんな中、光の球体の向こう側……イッセーたちと対極側に浮遊している白の鎧が見下ろしていた。

「アザゼルの命令でつまらない任務を請け負ってしまったかと思ったら……随分と面白いことになっているじゃないか」

白い鎧の中から聞こえる声は一種の喜びを含んでいた。




光の球体の中

コカビエルは恐怖していた。

目の前の金色の支配者に自分の末路を見ていた。

「金髪に碧眼の姿……貴様、『神殺しの一族』か!?」
「……なんだそれ?」

カリフはスーパーサイヤ人の状態を維持するのに苦悶の表情を浮かべる。

「『奴』の血族だというのか!? いや、有り得ん! 『奴』は今でも『無間地獄』の中で永久冷凍されているはず! 当時の『奴』と繋がっている疑いがあった者はことごとく調査されていたはずだ!」
「ゴチャゴチャと騒がしい奴だ。この姿は三十秒が限界だからな。一撃で終わらせてやる」

そう言って両手をクロスさせてニヤリと笑う。

その瞬間だった、

―――!?

コカビエルはうすら寒い雰囲気と同時に錯覚した。


自分が巨大なまな板の上に立ち、自分よりも遥かにでかい鬼が包丁やら様々な調理機器を持って見下ろしている錯覚を……

コカビエルの万策は尽きた。

もはやこれは戦いでもなければ抵抗にさえもならない。

自分は既に



『食材』にされていたということに……




光の結界が出現してから五分くらいが経っただろうか。

リアスは待つことに耐えられなくなっていた。

「もう限界だわ! 滅びの魔力であの結界を消し去ってやるわ」
「落ち着いてくださいリアス。あの結界は生半可な魔力じゃビクともしないわ」

ソーナになだめられるが、リアスは唇を噛んで悔しさに耐える。

「だけど、このまま仲間を信じることしかできない『王』なんて……」
「それが王たるあなたの最も重要な役目です」
「……」

ソーナに諭され、リアスは言葉を失う。

「冷静になってくださいリアス。彼なら魔王さまの援軍まで耐えられる可能性がこの面子の中でダントツに高いはず。彼の戦闘センスを信じましょう」
「……そうね。分かったわ……」

口では言うが、やはりどこかやりきれない心情があるのか声にいつもの威厳が感じられない。

そんなリアスを見ていられなくなったのかイッセーがなるたけ明るく励ます。

「大丈夫っすよ! あいつは俺たち全員よりもぶっちぎりで強いんですよ?」
「イッセー……」
「それに、あいつならこの後コカビエルをボッコボコにして俺たちの前に現れたり……」
「……」
「なんて……ハハ……」

なんだか空ぶってしまった空気にイッセーは委縮し、代わりにソーナが窘める。

「リアスを励ますにしてもそれは楽観しすぎです。あの結界を張られたら神、魔王クラスに及ばずともそれに近い力を得ます。その中で生き残り、ましてや勝つなどとは相当の手練にしかできません」
「あの……もう少し希望を持ってもいいと思うんですが……」

辛辣のようだがソーナの見解の方がよっぽど現実味が含んでいる。

どっちにしろ中の様子が分からない今、部員たちは焦燥に似たやるせなさを発散できずにいた。

誰にも軽々しい励ましが通用しないこの状況。その元凶である光の球体を誰もが睨んでいた。

そんな時だった。

「ぐあああぁぁぁぁぁ!!」
『『『!?』』』

光の中から苦悶の声と共に何かが光の結界の中から飛び出し、地面に叩きつけられていた。

『それ』は地面を転げながら血を辺りにバラ撒く。不規則にバウンドする体が止まった時、全員がその光景に目を見開いた。

「あれは……コカビエル!?」

木場の言うコカビエルがさっきよりもさらに出血に身体を濡らして戻ってきた。それはつまり、一つの答えを示していた。

それは……


「まだ生きていたな……危なかった」
「!?」

上空から聞こえる声に皆の視線が集まると、そこには光の結界があった。もちろんそれだけではなかった。

「少し大人げなかった。許せ」

光の結界を両手でこじ開けながらまるで余裕そうにコカビエルに会釈するカリフが再び姿を現した。

「ッ! うわぁ! うわああぁぁぁぁぁぁ!」

カリフの姿を捉えただけでコカビエルは尻もちを付いて後ずさる。あまりに変わり果ててしまったコカビエルにリアスたちは驚愕を隠せない。

「まさか……本当に……」
「な、なんとなく予想はしてましたけど、これは……」

イッセーと木場が皆の気持ちを代弁するように冷や汗を流す横でソーナは普段のポーカーフェイスを粉微塵に砕けて目を見開いていた。

「あの堕天使の絶対領域の中で……コカビエルを打ち負かしたというのですか……こんなことが……」

しかも、あれだけの怯えようからするに相当の力の差を示されたのだろう。そうでなければあの戦争狂があそこまで取り乱すはずが無い。

それに結論づけるかのように、カリフが空から着地するとコカビエルの顔が一気に青くなった。

「そんなことがあるはずが無い……! お前が『奴』なのか!? お前は一体……!」
「そうだ、知っていることは話せ。果実の果汁を一滴残らず絞り出すように記憶を思い出して言え。その“一族”とやらの話を……」
「ヒィッ!」

ゆっくりと迫るカリフにコカビエルは光の剣を創造しようと光を結集させるが、その間にカリフが何事も無く言った。

「次にお前は『あっち行け、このバケモノ!』と言う」
「あっち行け、このバケモノ!」

余裕すら残されていないのか心を読まれていることもお構い無く光の剣を振るうが、カリフはそれをしゃがんで回避した。

「そう来るなら仕方ない。無理矢理にでも思い出してもらうとしよう」

そうとだけ言うと、カリフは上半身を∞の軌跡に動かす。

その速さだけでも相当なスピードで行っているからか上半身が全く見えなくなっている。

「ボクシング……?」

多彩な武術を噛んだ小猫にはその動きに見覚えがあった。あれはボクシングの回避テクニックの一つであると……

カリフは体を振るいながらコカビエルの眼前にまで近付き、その反動に身を任せて顔面にパンチを入れる。

「ぶはっ!」

固い拳がコカビエルの顔を跳ね上げるように弾くが、∞の軌跡にそってカリフの上半身が戻ってくる。もちろん、固い拳も一緒に……

「がはっ!」

そんな動きを高速で喰らっているため、コカビエルの顔に左右から息を吐く暇がないほどのパンチの嵐が襲ってくる。

殴られているコカビエルの頭にはもはや闘争心など微塵も無く、後悔しか無かった。

(手を出すべきでは無かった……)

右頬が殴られる。

(こいつ等に……こいつに関わるべきではなかった……)

左頬が砕ける。

もはや抵抗の動きも見せることなくカリフの猛攻を受けて弾けるだけとなってしまった。その勢いや首が千切れるかもしれないと錯覚するほどに……

「存外、しぶといものだ……なら、これで終わりだ」

動きを止めると崩れ落ちるコカビエル、それを目にしても何も感じていないように淡々と実行に移す。

利き手に力を込め、腕が有り得ないほどに膨張する。

その部分だけ異様なサイズとなり、イッセーたちは息を飲んで動けなくなった。

カリフももはや生気のない相手に痛恨の一撃を叩きこもうと拳を振り降ろした。



「……」

カリフは拳をコカビエルの顔面直前で止まる。

その直後、コカビエルの姿が消えた。

「へ?」

誰かが洩らした疑問の声が焦土と化した校庭に響く。誰も状況を把握しきれなかった。

「コカビエルは!?」
「あんな手負いで動けないはず……!」

皆が辺りを見回していた時だった。

「悪いけど、ここまでにしてくれないか?」

声のした方に視線を向けると、そこにいた。

白い全身鎧。体の各所に宝玉みたいな物を埋め込み、背中からは八枚の翼を輝かせて……

そして、全員がその姿に見覚えがあった。まさに、ブーステッド・ギアのバランスブレイカー、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)にそっくりの物だと……

「お前……『白い龍』(バニシング・ドラゴン)だな?」
「いかにも、さっきまで君の戦いぶりを見せてもらったよ」

バニシング・ドラゴン

その昔、イッセーのブーステッド・ギアに潜む赤龍帝ドライグと派手に戦った白龍皇のセイクリッド・ギア

顔まで鎧に包んだその所有者は死にかけのコカビエルを担いで地面スレスレの所まで降りてきた。

「確か……白い龍の……名前……あの……時間ごとに相手の力減らすって奴……」
「『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)のことかい?」
「そうそう、それそれ! へぇ〜……白いとも戦ってみたいと思ってたけど、これは僥倖だな」
「君から誘いを受けるなんて光栄なことだ。是非とも俺もそうしたい」

両者の間の空気が歪む。ただ、その様子を見ていただけのイッセーたちでさえそんな一触即発の空気に身体が震える。

カリフと白龍皇はしばらく無言で睨み合っていたのだが、先に威圧を解いたのは白龍皇だった。

「実に魅力的な誘いだが……今回は止めておく。俺は今回コカビエルとフリードの回収に来ただけ。それに……」

白龍皇は言葉を一旦切ってから続けた。

「……向かい合ったけど、君に勝てる想像が全くできない。見えたのは一方的な試合展開だけだ」
「相手の力を一定時間ごとに減らす野郎が一方的にやられるってか? やってみねえと分かんねえだろうが」

指でチョイチョイと挑発するカリフに白龍皇はヤレヤレと肩を竦む。

「コカビエルごときとはいえ、光の結界を発動させた堕天使幹部を余力を残して完勝した君を相手にかい? いくらなんでも“今の”俺を買いかぶり過ぎだ」
「そうでもねえさ。中でちょいとはしゃいで今は体力を結構使ったからな」

カリフは自分に呆れた感じで言うが、カリフは嘘は吐いていない。

事実、誰も気付いてないがカリフの息が荒く、汗もかいているのが確認できる。

(今の状態でスーパーサイヤ人は三十秒が限界か……悟空のクソ野郎! ここまでオレを弱体化させやがって!)

今でも自分の最期を勝手にいじくられたことを思い出してむかっ腹が立ってくる。傍から見れば何故か勝手にイライラして足をカツカツとステップさせているように見えた。

「何だかイライラしてないかい?」
「別に」

白龍皇の問いに舌打ちしながらとりあえず返事すると白龍皇は手で宥める。そんなことも露知らずにカリフはイライラの捌け口に向いた。

「とりあえずそいつをよこしてもらおう。そいつには色々と聞かなければならないことがあるからな」
「コカビエルか? 残念だけど、もうこの有様だ」

担いでいたコカビエルを首ぐらを掴んで見せると、目には光が無かった。まるでうわ言のようにブツブツと何か呟いて話を聞けるような状態じゃない。

カリフはバツが悪そうになった。

「しまった……やりすぎたか」
「そういうことだ。もうこいつは再起不能だ」

そこまで言われると、流石のカリフも今回ばかりは諦めた。

「そうか、それならそいつなど勝手にどこへなりとも持って処分しとけ」
「ああ、そうするよ」

そう言ってフリードも回収し、光の翼を展開した時だった。

『無視か白いの』

突然響いた声に皆が反応する。

だが、他の皆とは違ってイッセーとカリフはブーステッド・ギアに目を向ける。

チカチカ光りながら会話は進む。

『起きていたか赤いの』
『折角出会ったのに殺り合わんというのは珍しい。まあ、そんな状況ではないがな』
『時間は充分ある。いずれ戦うだろうがな』
『随分と敵意が薄くなったのではないか?』
『それを言うならそっちもではないか。互いに興味対象を見つけたということか』
『そういうことだ。こっちはこっちで楽しませてもらうぞ。また会おうドライグ』
『それも一興か。じゃあなアルビオン』

赤龍帝と白龍皇の会話が終わると、コカビエルたちを担いだまま白い閃光と化してその場を飛び去った。

急に現れた未来のイッセーのライバルはイッセーに目もくれることなくこの事態を収束していった。

まさに嵐の後の静けさということだった。

そんな中でカリフはスーパーサイヤ人になった疲労で校庭の真ん中で仰向けになってその場に倒れた。

「っ! カリフ!」

急に倒れたカリフにイッセーは驚愕し、カリフの元へと走る。

他の部員も走ってカリフの周りに囲むように集まる。

「カリフさん! すぐに回復……して……」

アーシアがトワイライト・ヒーリングを出して叫ぶが、カリフの顔を見て言葉を失った。

なぜなら、そこには足を組み、腕を後頭部に組んで目を瞑っているカリフだった。明らかに寝るような態勢だった。

「なんか疲れた……もう帰りたいんだけど……」

いつもより気だるそうに言うが、周りの皆はなんだか気まずそうだった。

コカビエルとの戦いで垣間見た残虐性溢れた彼の姿を思い出してしまったからだ。

そんな感じで緊迫した空気が流れ始めた時だった。

「……なんちゃって」

その瞬間、カリフは嫌な笑みを浮かべて身体を水面に一回転して全員に足払いをかける。

「へ!?」
「きゃ!」
「やっ!」
「わ!」
「ひゃうん!」
「あう!」

その瞬間にイッセー、リアス、朱乃、木場、アーシア、小猫がそれぞれらしくない声を出してその場にこけた。

一人残らず尻もちを付いて地面に横たわると、カリフは交点から逆立ちし、そのまま跳ねて足から着地する。機敏な動きで着地した後、彼は鼻を鳴らして言った。

「ふん! なんだそのマヌケな姿は! 今のお前たちが堕天使に挑んでいった奴とは思えんほどアホっぽいぞ!」
「いてて……お前何を急に……」

イッセーが頭を抑えて起き上がると、カリフは不敵な笑みを浮かべる。

「いつまでもさっきみたいにされるとオレとしても調子が狂うからな。貴様等がシリアスになっても無駄だってことを教えたくてな」
「は、はぁ!? それどういう意味よ!」

その言葉にリアスは抗議の声を上げるが、カリフは何食わぬ顔でそれを無視する。

「まあ、何はともあれ全て終わったことだ。オレはもう帰って寝る」
「なによそれ……まだ納得できないところがあるのだけど?」
「自分で考えろ」

リアスの言葉にめんどくさそうに返していることから、もう詳しい話を聞くことは無理だろう。

なんだかさっきまでこんな気まぐれな後輩に恐れていたことが馬鹿馬鹿しくなるくらい今のカリフは適当だった。

だが、そんな何気ない会話だけでさっきまでの不穏な空気がどこかに消えたのもまた事実。

まあ、カリフに強引に話をすりかえられた部分が大きいのだが……

ともあれ、皆もこれで一件落着なのだと一息つけるようになった。

「オレは今日は別の所で寝るわ。少し気になることもあるし……」

そう言いながら横目で虚ろの表情のまま立ちつくすゼノヴィアを見る。

それに気付かないで朱乃と小猫はカリフに近付く。

「それなら私たちは家の前の人たちをなんとかしますわ」
「あのままだと大変……」
「それなら速く行った方がいい。夜明けまでもう時間ないからな」

後始末なんてカリフには到底無理なんてことは自覚もしてるし周知の事実でもある。

「それでは、私たちはこれから取りかかりますわ」
「そか、ならオレは邪魔んなんないようにどっか行くか」

そう言い残し、カリフはゼノヴィアの元へ向かう。

「じゃあ行くぞ。ここにいても邪魔なだけだ」
「……」
「ここで悪魔と朝を迎えるか、オレんとこで寝泊まるかどっちか決めろ」

ゼノヴィアは依然として無言だが、聞こえているのかフラフラとおぼつかない足取りで校庭を離れていく。

「あ〜あ、ありゃ重症ってか」

カリフとしてはなぜ神の死だけであれほどにまで心の均衡を失うのかが疑問である。

カリフにとっての神なんていないと同じであると同時に、前世の上空の神殿にいる小さなナメック星人のことを思い出していた。

(神=デンデだからそんなに威厳が感じられもしないな……どっちかと言うとピッコロの方がまだ愛着はあるな。なんだかんだで一番教え方上手かったし、オレを良く見てたし……あれ?)

ここでカリフは思い出した。それまた重要なことに……

(良く考えたらピッコロの方が父として良い部類だったんじゃないのか……?)

なぜだかそう言った記憶では悟空やベジータよりもピッコロの方が先に思い出される。しかも心当たりはいくらでもある。

ピッコロは戦いにおいての技術や立ち回り、トレーニング方を教えてくれていたのに、サイヤ人二人に関しては殺されかけた思い出しかない。

今となっては貴重な体験でありながら強くなるきっかけだからいいのだが、なんだかこの違いに苛立ちを覚えてきた。

(あ〜駄目だっ、なんで今日に限ってこんなこと思い出してんだ!)

過去をついつい遡っては苛立ってしまう自分にまたさらに苛立って頭を振ってその場を離れる。その姿を見て木場は疑問に思う。

「何してんだろ? 彼」
「さぁな、それよりも話逸らすな木場。部長! 捕まえてるんで思いっきりやってください!」
「そうね、そのまま離さないでね」
「あはは……こんなことしなくても甘んじて受けるけどさ……」

笑いながらイッセーに羽交い締めにされる木場はリアスの手に宿る紅いオーラに顔が引きつる。

だが、そこには笑顔もあった。


帰るべき場所に帰れたという安心感がそこにあった。




校庭で大円満に満ちているころカリフは公園にいた。

うす暗く電灯に照らされたベンチに座り込むゼノヴィアの横に……

まだ寒さが続くにも関わらず、ゼノヴィアはボンテージ姿のまま微動だにしない。カリフから溜息が漏れる。

「いつまでウジウジと腐ってる気だ? いい加減ハラがたってくるぞ」
「……」
「そんなに神が良かったか? 今まで姿も見なければ会話もしたこともない相手だったのだろう?」

普段のゼノヴィアならここで怒声の一つも上げそうなものだが、その代わりに身体が小刻みに震えていた。

「君には分からないだろうね。生まれてきた時から信じていた存在を失った絶望なんて……」
「……」
「姿や声を聞いたことがなくても……主は我等信徒の生きる希望だったんだ……愛を授けてくれると信じてきた……」

段々と弱くなっていく声色にカリフは参ったように頭を掻いた。

(そういえば、オレも人のこと言えなかったな……)

思い出されるのは、全てを失ったあの日のこと。カリフの人生にして約束を違えた最大の汚点であり、運命の分岐点の日

あの時の記憶は……正直言ってあまり覚えていない。

ただ無意識に動いていたら、あの毒の星に辿りついていたことしか記憶にない。

あの日、自分はトコトン腐っていたのか無意識に死に場所を探していたのかもしれない。

そんな自分の姿が今、目の前にいた。

「それでもお前は生きている。これからのことはお前が決めろ」

率直に言うが、この後のゼノヴィアの言葉で事態は急変した。




「そんなこと……簡単に決められるものか。もう何をしても無駄だよ……いっそここで死んで主の懐へ召されるのも悪くは……」
「っ!!」

その瞬間、カリフは瞳孔を開いてゼノヴィアの首を掴んで持ち上げる。

突然のことにゼノヴィアも混乱する。

「な、何を……」
「『死』さえも知らねえ小娘……糞餓鬼がいっぱしな口叩くんじゃねえ……そんなに言うならオレが殺してやる」

カリフの血管浮き出る静かな怒りにゼノヴィアは何も言えなくなった。

「死んであの世に行って何があると思う? 神? 閻魔? 救い?……勘違いも甚だしい限りだ。死んだら何も残らない!」
「……」
「死んだらこれまでのことが全て無に還るということだ……貴様の一つしかない命もまた……消えて終わりだ」

カリフはゼノヴィアの目と逸らさないように真摯に向き合う。

「夢を追って死ぬ、最後まで寿命全うして死ぬならまだいい。だが、自分で命を絶つということは今まで信じてきた物全てを裏切ることにしかならん。どれだけてめえが真面目に生きようが、最期に自害したらそれだけで人生が全て黒く、薄汚い色に成り果てる……それこそが命に対する最大限の侮辱だっ!」

命は一つしかなく、ゲームのように代えなんてきかない。だからこそ人は精一杯生きて天寿を全うする。

生きようと必死に困難に立ち向かう姿こそが至高の姿であり、カリフの求める究極の強さが隠されている。

だが、その可能性を捨てるなど凡愚にも劣る負け犬が選ぶ“逃げ”

カリフは“自殺”も酷く嫌悪している。

そして、それくらいゼノヴィアにも分かるはずだった。

だが、首ぐらを掴まれているゼノヴィアは嗚咽を漏らし、溢れ出る涙で顔を濡らす。

「だけど、今まで主に縋って生きてきたんだ! それ以外に生き方なんて……私は知らない!」
「……」
「教えてくれ! これからは何に縋って生きていけばいいんだ!? なぁ!」

涙や鼻水をかけられようとカリフは動じることもなく、静かにゼノヴィアを降ろした。

「んなもんオレが知るか」

手を離し、ゼノヴィアをベンチに置いた。

「そろそろ誰かに縋らずに自分の足で歩く時が来たんだ。どんなに小さくてもいい。まずは歩いてみろ」

カリフはゼノヴィアの隣に座って腰を深く降ろす。

「お前にとっては地図も持たず荒野を旅するようなものかもしれねえがよぉ……立ち止まらなければオアシスっつうもんは必ずある」
「……見つけられるだろうか? こんな私に……」
「まずは神の前に自分を信じてみろ。自分も信じられない奴は何しても上手くいくわけねえだろ」
「自分……」

カリフは立ち上がって首だけ振り返って不敵に笑う。

「お前には普通の女には無い豪胆さと常識に囚われず、独自のルールに従って生きるジャジャ馬だがなぁ、そこがまた良い女だとも思うが?」
「え?」

一瞬、カリフが何を言ったのか分からなかったが、落ち着いて考えてみると自分が告白まがいなことを言われたことに気付いて顔を紅くしてアタフタする。

「な、な、何をいきなり……! こんな所で……!」
「ふん、生憎とオレはお前等のように禁欲なんてしなければ嘘も言わんからな。思いついたことは全て言わせてもらう」
「だ、だから私が言いたいのは話を逸らすなと……っておい!」

少し元気になったゼノヴィアを見ると、また首を戻してその場から離れようとする。それを察知したゼノヴィアは慌ててカリフを引き止めた。

「あの! 一つだけいいか!?」
「?」
「なんで私なんかにこんなことを? そんなことしてもお前には何の得もないだろうに……」

それだけ聞くと、振り返りはしないが返事はする。

「損や得だけで動くのは味気ないからと、強いて言うならウジウジしてんのを見るとムカつくからだ」

そうとだけ言うと、その場から瞬間移動で消えてその場から消えた。

公園にはゼノヴィア一人が残される形となったが、彼女の眼にはすでに光が宿っていた。

「自分で歩く……か……」

感慨深そうに呟いた後、彼女は少し柔らかい表情で涙を拭いたのだった。





事件が収束した数日後、イッセーが部室の中に入るとソファーの上で腰を降ろしていた。

「やあ、赤龍帝」

そこにはゼノヴィアが堂々と居座っていた。しかも駒王学園の制服まで身に付けて……

「お、お前! 何でこんな所に!?」

イッセーが聞くと、ゼノヴィアの背中から悪魔の羽が生えた。

その様子にイッセーもアーシアも驚愕した。

「え!? どういうこと!?」
「あっちに神の不在を伝えたら異端視されてね、行き場所がなくなったから悪魔になったんだよ。堕天使の所は先の件があるから快く歓迎されるとは思えなかったし」

呆然としているイッセーたちだが、後にカリフが遅れてやって来た。

「ほう、感じたことのある気が変質したと思ったら……これは意外だな」
「カリフか?」

カリフに気付いたゼノヴィアの表情は柔らかくなり、自分の隣に手招きする。

それに乗りながらカリフは近付いて行く。

「それがお前の答えか?」
「まあね、たまに悔やむこともあるけど。結局はこっちの方がよかったかもしれない」

その答えにカリフは一息吐いて「そうか」と返す。

「で、エクスカリバーとかはどうした?」
「エクスカリバーは砕けた欠片をイリナが持って帰ったよ。バルパーの遺体は綺麗に消えてしまったからその証明としてね」
「……イリナには何も言わなかったのか?」

イッセーが言うと、ゼノヴィアは神妙に答える。

「彼女は重症で前線離脱していたから神の不在は知らないよ。私以上に神を信仰していたのだから、その方が幸せなのだろうな……」
「良かったのか? こんなんで」
「その時の私にとって最善手を尽くしたつもりだったんだけどね。それでも忘れられないよ。私が神の不在を問いただしたらあっちも何も言わなくなって有無を言わさず異端の烙印を押してきたこととか信者の私の見る目や態度が変わったこととか……」

若干の悲しみを含ませていると、横からカリフがデコピンを額にかます。

「んな金魚のフンみてえな奴等なんてもう忘れてしまえ。土壇場になって強者に頼り、都合がよくなれば態度変えるような調子に乗った奴等のことなんて放っても構わんだろう? 中にはそうでもない奴もいるが、大半はクソみたいなバカばっかだったな」
「会ったことあるのか?」
「急に人外なんて襲ってきやがったことあるから顎砕いてそいつの頭……ヘッド……まあリーダーあぶり出して口をホッチキスで止めたかな? 覚えてる限りだけど……」
「何してんのお前!?」

全くブレないカリフクオリティーに全員は苦笑する中、ゼノヴィアは口を引くつかせていた。

「君の話はさておき……これから悪魔になったわけだからここの部員にもなった。今後ともよろしくしてほしい」
「はいはい」
「ふふ……君らしいね」

仕方なさげに握手を返すカリフは目を合わせようともせず適当に済ませてるつもりだが、ゼノヴィアは少し艶っぽい頬笑みを頬を紅くしてカリフに向けていた。

その様子に朱乃と小猫がいち早く察知する。

「あらあら……モテモテですわねぇ……本当に……」
「……(なんかイライラしてくる……)」

なんだかいつも通り装っている姿が余計に雰囲気を重くしていることを本人たちは気付かず、イッセーとアーシアは威圧にあてられて怯えていた。

本人たちにも自覚が無い厄介な苛立ちが部室を覆う中、リアスが気を紛らわせるように手を叩いた。

「と、とにかく話を続けるわね。今回のことで近い内に天使代表、悪魔代表、堕天使代表のアザゼルが会談を開いて話したいことがあるらしいからそれだけは胸に秘めておいてちょうだい」
「それってとんでもないことなんじゃないですか……?」

なんだか信じられない感じで聞くイッセーに頷く。

「イッセーの言う通り、この三大勢力での会談はとてつもない事件と言っても過言じゃないわ。その会談に事件に関わった私たちも呼ばれたわ」
「マジっすか!?」

全員が驚愕する中、リアスはカリフへ向いて念を押す。

「あなたの参加が絶対条件だと三大勢力から共通で指名されたわ。絶対に来て!」
「えぇ〜……」
「お願いだから来て! あなたが来なかったら会談も中止! 三すくみの関係をさらに悪化させるかもしれないのよ!? 自分の立場自覚してる!?」
「あぁしてるとも……今、このオレが世界の命運を握っているということを!」
「なにそれ怖い!」

よりにもよって一番の危険人物にこの世界の未来が託されていた。

部員たちはアイコンタクトでの意思疎通と、部活動初めてのチームワークが成功した。

―――どんな手使っても会談に顔を出させる!

でないと色々とリアスの立場も危うくなりそうだということも事実。

その証拠に最近のリアスは胃をよく傷める。

その気配を察知してかイッセーは部長の手を握ってやる。

「イ、イッセー?」

突然の行動に狼狽していると、イッセーは目を見て力説する。

「部長、一人で抱え込まずにオレやアーシアを頼ってください。そうしていただければオレも幸せですよ」
「イッセー……」
「まあ、オレじゃあ足手纏いかもしれませんけど……そうしてくれたら嬉しいなぁ……なんて」
「いいえ、あなたのその気持ち……それだけで私も幸せ……」
「部長……」

二人で見つめ、手を握り合うようなピンクの空間が部室に充満するのを木場が苦笑する。

「むぅ〜……」

そんな二人をアーシアは涙目で頬をプクっと膨らませて嫉妬を含ませて見ているとそこへゼノヴィアが近付いてきた。

「え、えっと……」
「……」

表情を変えずに見つめてくる姿に委縮する。

だが、すぐにゼノヴィアの方が頭を下げた。

その様子にアーシアも驚く。

「ゼノヴィアさん!?」
「君には一言謝ろうと思っていた。主がいないなら救いも愛もなかったわけだからね。だから謝ろうアーシア・アルジェント」

垂直に身体を倒して謝る姿にアーシアはゼノヴィアの目線に合わせる。

「そんなこと気にしてません。私は今の生活に満足していますし、大切な人―――大切な方々に出会えたのですから。これが運命だとしたら私はすごく幸せなんだって思ってます」

偽りのない明るい笑顔にゼノヴィアは一瞬驚きはしたが、すぐに笑みへと変わる。

「そうか……ありがとう」
「いいですって。それよりも今度、皆で遊びに行くのですが、ゼノヴィアさんもどうですか?」
「いや、残念ながらしばらくは勉強しなければならないことがたくさんあるから厳しい」
「そうですか。残念です……」

少し残念そうに俯くアーシアだったが、そんな彼女を見てゼノヴィアは笑みを浮かべる。

「だけど、今度学校を案内してくれないか?」
「はい!」

かつてはクリスチャンであった二人は悪魔になったけれど、まるでそんなことを気にさせないくらいに清々しく、互いに挨拶を交わしていた。

「これからよろしく。アーシア・アルジェント」
「アーシアでいいですよ」
「そうか。なら今後もよろしく“アーシア”」
「はい!」

二人で笑いあっていると、なんだか隣が騒がしくなっていることに気付き、向いてみるとそこにはカリフにサソリ固めを喰らって悶絶しているイッセーがいた。

「ぎゃああぁぁぁぁ! 折れる! これ確実に折れるって!」
「頑張れイッセー、負けるなイッセー、お前ならできるはずだイッセー」
「そう思うならせめて感情を込めてくれ!」

何故そんな流れになったのか……そう思わせるくらいの珍妙な光景に部員全員が笑顔になっていた。

アーシアはオロオロしていたが、そんな光景にゼノヴィアは思わず笑ってしまう。

「はは、ここも賑やかだね」

そう言いながら彼女はその輪に“自分の足で”進んで入った。


こうして一つの事件は幕を閉じ、代わりに新たな時代への幕開けがすぐ目の前にまで迫っていた。

天使、悪魔、堕天使

そして、神を越えし戦闘民族


この先、何が起こってもおかしくはない状況にまでなっていたことは言うまでも無い。







〜おまけ〜

久しぶりに部員全員が揃ったということで本日は談笑しているのだが……

「いいか、アーシア。イッセーはエロくて女好きだが、君とて魅力的には変わりない。だから諦めるな」
「はい! ゼノヴィアさんも頑張ってください! カリフくんの方が手強いでしょうが、私は応援します!」
「ああ、ここは元・クリスチャン同士で情報を共有し、頑張ろう!」
「はい!」

ゼノヴィアとアーシアは互いに励まし合いながら友情を深め……

「……カリフくん? あの後ゼノヴィア先輩と何してたの?」
「あらあら、私も混ぜてくれません小猫ちゃん?」
「もう忘れた」

迫りくる小猫と朱乃の追究をのらりくらりとかわして徹底無視するカリフ。

「部長! あの、乳首吸わせてくれる約束は……」
「残念だけど、カリフが片付けちゃったからお・あ・ず・け♪」
「そんなー!」

嘆くイッセーをからかって楽しむリアス

そんな光景を見て木場はやっぱり苦笑していた。

「なんだかより一層騒がしくなったような……」

今更なことを改めて認識し、この先のことを若干不安に思う木場がそこにいたのだった。

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