小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「……いきなり酷いことするな。彼も……」

未だに痛む腹部を押さえて立ち上がるヴァーリはどこか楽しそうだった。

直前に感じたあの濃厚な殺気、威圧、凄みを垣間見たとき、確かに自分は“恐怖”した。

あんな強者と手合わせできるなんて自分はとても幸運なのかもしれない。

「こんな時代に生まれたのは失敗だと思っていたけど、とんでもない。彼に出会えたんだ。俺は運がいい」

どこまでも戦いを求める戦闘狂だった。

こんどこそ手合わせしたいと思いながら再び砕かれた白い鎧を魔力で修復したときだった。

「……君か」
「よぉ、相手しに来たぜ」

そこには早速アザゼルから送られたアイテムを発動してバランス・ブレイカーを発動させたイッセーが悠然と歩み寄っていく。

だが、ヴァーリは溜息を吐いてテンションを下げる。

「正直、普通の人間である君にはあまり興味がない。今回の紅白対決は無い物として考えていたし」
「……」
「俺はカリフに用がある。そこをどいてくれたら君には出さないんだが……」
「俺には用がある……」

ここでイッセーが口を開いた。それを訝しげにヴァーリは聞き入れる。

「お前には半減の力がある。どんなことでも本来の半分にしてしまう厄介な能力が……」
「そうだ。そして全てを無に帰すこともできる。これがディバイン・ディバイングの能力」
「だからこそ……てめぇを止める!」

その瞬間、イッセーの底知れぬ気合がヴァーリを撃ち抜いた。

それに対してヴァーリも面を喰らって構えた。

「へぇ、まさか君がこんな闘志を出せるなんて思っていなかった。だけどまだ俺には遠い」
「そんなに寝言が言いてえなら寝かしつけてやろうか!」

あらかじめ『女王』にプロモーションをしていたゆえに魔力を放出した。

しかもその闘志と相まって途轍もない力の波動を感じることができた。

ヴァーリも口を緩ませる。

「これは嬉しい誤算だ……これは思ったより楽しめそうだ」

そう言いながら輝く翼を展開させる。

「いいだろう。カリフの前の前哨戦としてお相手しよう」
「ナメんな! 今の俺は神でも止められねえよ!」

二人の龍がぶつかり合った瞬間だった。




二天龍がぶつかり合ったのが遠くで確認できた。

だが、こっちでも戦いは始まっていた。

カテレアの魔法がグランドを破壊していく中、カリフは軽やかな動きで避けていく。

以前にフリードの猛攻を軽くあしらっていたカリフとしては魔法弾の回避などお手の物だった。

それでもその攻防はハイレベルなものである。

「凄い……あんな魔力の弾丸を全て受け流してる……」
「……当然です。カリフくんのスピードはこんなものではありませんから」

マナの驚愕によく知る小猫が答える。

それについてマナもギャスパーも驚愕する。

「あれで本気じゃないなんて……強いって本当だったんだ……」
「ぼ、僕と同じ歳なのに凄いです……あんな堂々と怖い人に立ち向かえるなんて……」

思うことがあったのか二人が息を呑む。

皆に見守られている中、カリフは折を見て地面を『ナイフ』で切り取って『フォーク』で取りだした。

切り出した地面を盾代わりにして攻撃を防ぐ。

そしてその地面を押し出してカテレアに突貫していく。

「そんなのが通用すると思っているんですか!?」
「その通りだ」

盾代わりにしていたカテレアの直前で砕き、目を眩ませる。

「つまらない陽動ですね。こんな小細工で私に渡り合えると……」
「だから三流なんだよ貴様は」
「!?」

その瞬間、真横から声が聞こえた。釣られるように向くと、拳をふりかぶるカリフがいた。

岩を砕いた後の一秒未満の時間で回りこみ、拳に闘気を纏わせていた。

「は、はやっ!」
「三連……釘パンチ!」

咄嗟に障壁を展開させるもカリフの拳が結界を叩く。

高度な障壁も予想以上の衝撃にあえなく大破させられていた。その衝撃は障壁だけでなくカテレア自身にも降りかかる。

「ぐっ!」
「おっと」

上空に衝撃波を利用しながら逃げるカテレア。だが、逃がさんとばかりにポケットから小さな金属の球を取り出した。

親指で軽く弾いて宙に舞わせ、球をまた指で弾く。

「ベアリング弾!」
「こんなもの!」

今度は受けることなく避けようとするが、それが誤りだった。

ベアリング弾に込められた気は膨張し、球もその力に耐えられずに罅が入る。

そして破裂した。

気の爆発によって破裂したベアリングは破片を撒き散らせて破裂した。

「うぐっ! このっ! 小賢しい……!」

高熱に達したベアリングの破片がカテレアの顔に触れ、痛みに目を瞑った。

「ちょろいな。あんた」

その瞬間だった。ベアリングの破片とは比べ物にならないほどの痛みがカテレアの顔面を覆った。

「オブォ!」

顔面に拳をぶち込まれ、鼻がつぶれて鮮血が散る。

容赦無い鉄拳に見舞われたカテレアは地面に倒れ、カリフに目を向ける。

「これはよぉ〜、マジに『王手』か『チェックメイト』って場面でいいんだよなぁ〜?」

見下ろしながら向かってくるカリフにカテレアは未だ諦めの色を見せることは無かった。

「ま、まだよ……まだオーフィスの『蛇』がある!」
「? オーフィスがなんだって?」

カリフが聞くも、カテレアには話を聞く余裕も無かったのか勝手に話を進める。

「たかが人間相手だと思って『蛇』は使いませんでしたが、もう認めましょう。あなたのような人間に『退魔』の術を覚えられでもしたらもう手の打ちようが無くなる……故に、全力を出しましょう」

カテレアの周囲からどこからともなく『蛇』が現れた。

だが、見た目からしても普通の蛇では無く、そこの感じられない力の片鱗を木場たちは味わった。

「す、凄い魔力だ……こんなのは初めてだ」
「あぁ、途方も無いくらいの魔力……それも余計な感情の籠っていない純度の高い魔力だ」

リアスたちが戦慄する中、アザゼルも少し面を喰らった様子で舌打ちをした。

「ありゃ、オーフィスの力が蛇として具現化されたもんだ。あれ一つで下級悪魔も上級悪魔クラスの強さを宿せるドーピング剤ってとこだ」
「そんな! あれをカリフに使うの!?」

近くにいたマナが驚愕し、杖を構えて加勢しようとするが、アザゼルに手で制される。

「止めとけ。お前が行った所であいつの邪魔にしかならねえ」
「でも……このままじゃあ……!」

同じ頃、ギャスパーもリアスの近くで震えていた。

「もう無理ですよぉ……このままじゃあカリフくんが死んじゃいます……早く助けないと……」

だが、カテレアと蛇の膨大な魔力を感じて恐怖が呼び起こされる。

今まで会ったことのない強大な相手にも関わらず、リアスたちは冷静だった。

「大丈夫よ。あの子はこの場にいる誰よりも強いの。負けるなんて考えられないわ」
「で、でも相手は旧魔王なんですよ!? 魔力もないのに無謀過ぎます! ぼ、僕だけでも……!」

ギャスパーがリアスに加勢するように打診するが、それを朱乃が制す。

「心配なさらなくても大丈夫ですわ。あの子は負けませんもの」
「そ、そんな……」
「カリフくんは約束を重んじる、だからこの戦いも勝って私の元に帰って来てくれますわ」
「心配するだけ余計なお世話って言われるかもね」
「だね。今の僕の戦いの先生でもあるんだよ」
「私が惚れた男だ。これくらいは当然」
「……むしろカリフくんを敵に回した相手のほうが不憫です」
「こ、小猫ちゃん……でも確かに……」

朱乃の他にもリアス、木場、ゼノヴィア、小猫、アーシアもどこか安心しているように相対するカリフを見守る。

それにはギャスパーも、偶然聞いていたマナもその信頼の厚さに唖然となる。

それを耳にしたアザゼルは意外そうに聞き耳を立てていた。

(あんな態度で力を有しているからどうかと思えば……あいつを受け入れる奴はいるもんだな)

そう言いながら不敵に、だが楽しそうに笑うカリフに目を配る。

(不思議な奴だ。敵を作りやすい性格のくせに、周りの奴を自分のペースに引き込んじまう……つくづく不思議な奴だよ。お前は)

どことなく呆れたような心の愚痴だが、表情は笑っていた。

彼もその巻き込まれた側なのだからそれも致し方ないのだ。

そんな時、カテレアの声が響いた。

「ふふ……もう少しで約束の五分ですね。どっちが地を這いつくばるか楽しみです」
「ほざけ、時間まで後一分だ。その思い上がった性根、ふざけた幻想をブチ殺す」
「減らず口もこれまでです。さあ蛇よ! 私に力を与えなさい!」

大手を振ってカテレアは蛇を受け入れるように懐を露わにした。

蛇はカテレアの元に向き直った。

そして、ゆっくりと近付いて――――――首筋に噛みついた。

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「シュロロロロロロロロロロロロ!」

噛まれたカテレアは耐え難い痛みにのたうち回り、蛇は噛みつく力を一向に弱めようとしない。

カテレアの首から夥しい血が舞う。

「そんな……なぜ……! きゃああああぁぁぁぁぁ!」

蛇を払おうにも力が足りずに振り払うこともできない。

一方的に襲われているカテレアに敵サイドはもちろん、リアスたちもアザゼルも混乱している。

「何が起こっているの?」
「分からん。だが、あの蛇、特殊な環境下でしか正常に働かないようだ」
「? どういうこと?」
「俺にも分からん。だが、あの様子だと敵には知られていないオーフィスの意図があるかもな」

詳しいことは定かではないが、この状況はまさに好都合だった。

それどころか蛇はカテレアを投げ飛ばし、カリフの元へとやってくる。

周りも警戒するが、蛇はカリフの体の周りを周った後、カリフを守るように前に出る。

カテレアに牙を向ける蛇にカテレアは憤慨する。

「ば、馬鹿な! これはどういうことだ! なぜ持ち主の私に背く! オーフィス! これは一体……!」
「んなもんはどうでもいい……」

カテレアの前には膨大な気と蛇の魔力を孕んだ力の塊。

四つの輝く眼に睨まれたカテレアはまさに『蛇に睨まれた蛙』の気持ちを味わっていた。

カテレアは体を震わせる。

「わ、分かっているのですか!? ここで私を滅するということはつまり、カオス・ブリゲートを敵に回すということですよ!?」
「へ〜」
「い、今なら私の計らいであなたにそれ相応の地位を与えましょう!」
「ふ〜ん」
「欲しい物は思いのまま! なんなら慰み物の女も用意させましょう! あなたの望む物は全て手に入る!」

カテレアの必死の命乞いにカリフは嘆息した。呆れて物も言えないとはこのことだった。

「欲しい物はこの腕力で幾らでも手に入る。女に関しては……あいつ等で充分だ」
「そ、それなら……!」
「いい加減にしろよ?」
「!?」

カリフの濃密な怒りと殺気にカテレアは口を止め、呼吸さえも止める。

「黙って聞いていればずいぶんと都合がいいのう……金や名誉で命を保証されると本気で思い上がりも甚だしい……」
「あ、あぁ……」

リアスからはカリフの表情は窺いしれない。だが、カリフの表情を目にしているカテレアだけが蛇の痛みさえも忘れてこの世の恐ろしい物と向き合っている。

歯をカチカチと鳴らし、恐怖で体が動けないだけでなく、ショックで顔が『老けている』

「白髪が増えている……いや、脱毛までしている……」
「中性的な顔立ちだったのが、今じゃあ皺も増えて80代のお婆さんのようだ……」

一体、どんな顔をすればそんな老化現象が起こるのだろうか……いつも一緒にいるリアスたちの気持ちは一つだった。

「「「「「「「味方でよかった……」」」」」」」

自分たちといるときは相当に容赦してくれているのだろう。アザゼルもその点に関しては同感だった。

やがて、全ての髪が抜けきったカテレアは既に老人の風貌となっていた。

「お願い! 命だけは!」

ここでタイムリミットの五分が経過した。

カリフは自分の予言に満足したのか口を三日月のように緩ませ、牙を見せる。

それに応じるように蛇もカテレアの肉を抉った牙を剥き出しにする。

「じゃあな。全くもってつまらん幕引きだった」

その瞬間、カリフは地面に這いつくばっているカテレアに拳を構えて腕に力を込める。

異様に膨れ上がる筋肉はもはや丸太のようだった。

「いくぜ、オイ……」

掛け声と共に気が周りに溢れて嵐を起こす。

「……」

もう声さえ出せずにいるカテレアの意識は朦朧としていた。

だが、それでも別のことを考えていた。

(……ニンゲン、コワイ……)

この瞬間、カテレアは意識を手放したのだった。







「とりあえず言うが、酷い戦いだったな」
「ほっとけ」

カテレアが気絶した後、カリフは拍子抜けして攻撃を止めた。

今はアザゼルと談笑しているが、その場にいる者は観念した魔法使い捕縛と老いたカテレアを捕縛、搬送していた。

リアスたちは見る影もなくなったカテレアを見てぞっとした。

「どれだけのストレスを与えればあんなにできるのよ……」
「す、少し見てみたいな……その時のカリフの顔……」
「……怖いもの見たさは分かるけど止めた方がいいんじゃないかな? 何事にもタブーはあるし……」
「え? 見たいの?」
『『『あ、いや……なんでもないです』』』

話を聞きつけたカリフが聞くも、全員は真面目に、丁寧に断る。

その様子に面白くないと思いつつもカリフは別の場所に目をやる。

「さて、次は龍の戦いでも見に行くか」
「そうね、イッセーのことも気がかりね」
「その割には随分と余裕じゃないか?」
「誰かさんの地獄のリンチを毎日こなしているもの。そう簡単に可愛いイッセーはやられないわ」

どこか自信満々に自負するリアスに感動するアーシアたちだが、事実、カリフも同じだった。

「その通り、奴にはウナギ登りのテンションがある。それさえ発揮できればセイクリッド・ギアも応えるだろうよ」
「その通りよ。それじゃあイッセーの雄姿を見に行きましょう」
『『『はい!』』』

リアスの号令で皆はイッセーの戦いの元へと足を運ぶのだった。




一方のイッセーとヴァーリの攻防は続いていた。

ヴァーリの魔力弾は舞い、イッセーの拳が空を切る。

アウトレンジ、ミドルレンジの間合いを互いに奪い合う形で拮抗している。

(やべえ、鎧を維持する分体力がごっそりと持って行かれちまう! しかもあいつの魔力弾威力つええ!)
(不味いな……兵藤一誠が俺の動きに付いてこられるなんて予想外だった。しかも肉弾戦になれば勢いで押されかねない!)

イッセーが近付くのに必死ならヴァーリは距離を取るのに必死になっている。

イッセーがしかけるもヴァーリは受け流して離れるの繰り返しである。

(だけどこの魔力弾のスピードはカリフに比べれば遅いし弱い!)
(経験が浅いな。いくら腕力が強かろうと洗練されていなければただのこけおどし!)
((お前の動きは見えている!))

イッセーはカリフからの地獄の特訓を一身に受けているために回避術や攻撃の受け流しに特化され、さらには小猫やカリフにボッコボコにされながらも格闘術も齧っている。

対するヴァーリは元々受け継いでいた魔王の力に加え、幼少から鍛えていた経験を有している。

スペック、実力ともまさに拮抗状態なのだ。

だが、両者には決定的な違いがある。

「そら!」
「!? あぶねっ!」

ヴァーリの拳がアザゼルから送られたリングに掠った。イッセーはリングを庇うようにその場を離れる。

「アザゼルの差し金だな。そのリングさえなければきみは俺と渡り合うどころか同じ土俵にも上がれない」
「うるせえなイチイチ!」
「俺がそのリングを破壊すれば君のバランス・ブレイカーは消えて勝負は決する」
「ならその前にお前を倒す!」
「やってみろ!」

再び力と力がぶつかり合い、その余波がグランドを削る。

その際に打ち合いながらヴァーリが言う。

「だが、君は悪魔になって間もないというのに大したものだ。素人とはいえ体術もそれなりに使えている! なにより俺と渡り合っている!」
「俺の後輩がお前より強いんでね! ご教授してもらってんだよ!」
「彼には教導の心得もあるのかい!? 俺も賜りたいものだ!」
「だが、断る!」
『Divide!!』

その瞬間、イッセーの力が半減させられてしまった。

動きが鈍った所へヴァーリの一撃が腹部を襲った。

「うげ……」
「だが、やっぱり勝つのは俺だよ」
「がっ!」

下がった頭にさらにひざ蹴りを喰らってしまったイッセーにヴァーリが言った。

「かと言って君にも興味が湧いてきた。恐らく彼との訓練が教導であり、死闘となっているんだろうね。このまま続ければさらなる進化も見られる」
「がはっ!」

追い討ちを喰らい、イッセーはあえなく墜落していく。

(やべえ……やっぱ付焼き刃じゃあ敵わねえ……)

ヴァーリは一度言葉を区切った。








「このディバイン・ディバイディングの真の力を見せよう。あらゆる物を半分にする力を!」


この瞬間、項垂れていたイッセーの心が動いた。

(半分……あれ? そういえばカリフもそんなこと……)

―――あいつは豊満な胸を消す

(胸……一体誰の……)
「イッセー!」

墜落する最中、聞こえてきたのは自分が惚れた女の声だった。

その先にはリアスや、朱乃たちが心配そうに見守っていた。

目に映ったのは皆の顔―――否、胸だった。

(あの胸が消える……消える?)

―――胸を消す

(あのたわわに実った果実が……人類の神秘が消える……だと?)

―――胸は……消える

(あの……手触り抜群のお姉さまおっぱいが……この世から……)

―――消える









「ふ……」
「!?」
「ふざけんなあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

突如、息を吹き返したイッセーは崩れかかっていた鎧を魔力で回復させ、再び空へ舞い戻る。

その後、イッセーからは死に体とは思えないほどの魔力とドラゴンの力が噴き出た。流石のヴァーリも心底驚愕する。

「驚いた……タフネスも俺の予想を上回るか」

だが、イッセーにはそんな呟きは耳に入らず、ブーステッド・ギアを発動させた。

『Boost!!』

ここでおかしいことに気付いた。それは倍増の力を自分には使っていない。

ましてや魔法アイテムも持ち合わせていない。それならどこの力を倍増させたのか。

それは……

「……俺の力を倍増とは、何を考える?」
『おい相棒! 敵を強くさせてどうする!』
「そうだな……まだまだ足りねえぜ!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

イッセーはヴァーリに力を与え、与え、与えまくった。その光景にリアスたちは驚愕する。

「あいつ……何考えてんだ?」

その真意はカリフにさえ分かっていなかった。

一方、力を与えられたヴァーリはというと……

「この力……体からはち切れんばかりだ!!」

半ば興奮気味にイッセーに突出すると、カウンターのようにイッセーも迎え撃つ。

だが、強くなったヴァーリはそれを全て避けた。

「止まって見えるぞ!! 相手に力を与えるなどマヌケもいいとこだ! 気でも触れたのか!!」

ヴァーリの動きはもはや高次元の物と化す。

比較すれば、乳母車とF1カーくらいの違いだと一目瞭然である。

「自分の馬鹿さを恨むんだな! 死ね兵藤一誠!」

そう言いながらイッセーのがら空きの頭部に強く握りしめた拳を叩きこみ……






兜と脳漿を






鮮血を撒き散らせた






筈だった。

「なっ!?」

異変に気付いたのはヴァーリだった。

命を絶つはずの拳がすり抜けた。もちろんイッセーにダメージなどあるはずが無い。

それどころかイッセーも自分には気付いていない様子だった。

そして、そのイッセーの向かう先にも驚かされる。

「あれは……俺がもう一人!?」

そこには空中に動いて微動だにしない自分の姿があった。

『ヴァーリ!! 何故動かん! このままでは袋の鼠だ!』
「アルビオンも気付いていない!? 俺がここにいるのが! まるで魂だけが抜けたみたいに……はっ!?」

だが、ここで一つの過程に至る。ただの推測ではあるが。

「まさか……俺の『感覚』だけが暴走して俺の体から意識が抜けちまったということか!?」

あまりに恐ろしい結果、だが、それしか考えられない!

「兵藤一誠が強化させたのは俺の『感覚』だというのか!? 感覚が暴走して一人歩きするほどに!」

イッセーは未だ動けないヴァーリに拳を振るった。

「ゆっくりな動きだが体が動かせない!! 動きがノロマなのに俺の体は動けないでいる!」

イッセーの拳がヴァーリの顔面にめり込んだ。非常にゆっくりであるが、徐々にスローで血が鎧の隙間から出てくる。

(い、いてえ! 突き刺さるような痛みがスローで襲いかかってきやがる! しかもまだ拳を振りきっていないというのに痛みが続く! 『痛覚』さえも強化されている!!)

スローな動きに加え、倍増された痛みがヴァーリの体力と神経をすり減らしていく。

「オーバーワークの度に『何事も度が過ぎれば毒』だってカリフに散々教えられて来たんだ! このまま止まってやがれ!!」

再びカリフの拳がヴァーリを捉えた。

「これが部長のおっぱいの分!」

イッセーの中ではリアスのおっぱいが喜んだ。

「これは朱乃さんのおっぱいの分!」

朱乃のおっぱいが弾んだ

「これは成長中のアーシアのおっぱいの分!」

アーシアのおっぱいが育つ。

ここら辺からヴァーリの兜は完全に破壊され、力を吸っていた光の翼も消えていた。

「これがゼノヴィアおっぱいの分!!」

ゼノヴィアのおっぱいが揺れる。

「そしてこれが、半分にされたら丸っきり無くなっちまう小猫ちゃんのロリおっぱいの分だぁ!」

小猫のおっぱいが……泣いた。

『ま、不味い! これ以上のダメージは!!』

だが、それでもイッセーは止まらなかった。無我夢中でパンチのラッシュを見舞う。

「これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも!」

成すがままに殴られるヴァーリ。怒涛に殴るイッセー

形勢は逆転した戦いだが、本人は気付いてなかった。

下からの殺気には……

「ロリ……おっぱい……無くなる……っ!」
「どうどう……後で殴らせてやるから今は辛抱しろ」

拳をゴキゴキと尋常じゃない音を出して鳴らす小猫をカリフは頭を撫でて宥めている。流石に個人のコンプレックスは止めろ。好きでそんな風に生まれたわけじゃないんだから。

それにも気付かずにイッセーは全ての力を振り絞る。

「これで最後だぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うぐぅぅぅぅ!」

感覚を取り戻したヴァーリを殴り飛ばし、地面に叩きつけた。

「小猫ちゃんはなー! 小さいおっぱいをきにしてんだぞ!? それを半分!? 許さん! あの子からこれ以上おっぱいを奪うんじゃねえ!!」

高らかに言い放ったことだが、これによって酷く傷ついた者もいた。

「……」
「気にすんな。女の価値は胸じゃない。見てくれだけが魅力じゃねえ」
「分かってる……分かってるけど……」
「後日、オレが手ぇ回してやる。存分にやっちまえ」
「……ありがとう」

さすがに今回のことは看破できない物としてイッセーを小猫に売った。

個人的にも言いたいことがあるので好都合だった。

そんな時、倒されたヴァーリは血まみれのまま立ち上がって来た。

「面白い! 基礎体力もそうだが能力の応用も見事だ! どうやら君を見くびっていたようだ」

まだ動けるのかと舌打ちしていると、ヴァーリは愉快そうに笑っていた。

「アルビオン、この赤龍帝になら『覇龍(ジャガーノート・ドライブ』を見せる価値があると思わないか?」
『ヴァーリ、その場では得策ではない。それによってドライグが覚醒するのかも知れんのだぞ?」
「願ったりだアルビオン―――我、目覚めるは、覇の理に―――」
『自重しろヴァーリっ! 我が力に翻弄されるのがお前の本懐か!?』

なにやら詠唱を始めたヴァーリにイッセーとカリフ、他の部員も緊迫した表情へ変える。

詠唱を続ける中、ヴァーリに一つの影が近付いてきた。

それは三国武将の将軍が着るような衣服をまとった男だった。

「ヴァーリ、迎えに来たぜぃ」

爽やかにヴァーリに近付くが、本人は詠唱を止めて血を拭った。

「何しに来た? 美侯」
「それは酷いんじゃねえかぃ? 相方のピンチに駆けつけてきたんだしよぉ。それともうお開きだってよ。アザゼル、ミカエル、サーゼクスの暗殺も失敗してカテレアも捕縛されたんだから監視役の俺っちたちの役目も終わりだぜぃ。北のアース神族と一戦交えるらしいからな」

それに対し、ヴァーリも落ち着いたのか口元の血を拭う。

「そうか、そんな時間か」
「おう、にしても結構突かれてねえかい? ダメージか?」
「いや、体ならまだいけるが精神的に疲れた。普通ならショックで死ぬ痛みを赤龍帝から味わった」
「へぇ、あの俺っちたちに殺気送ってる反則級の化物じゃなくてあっちの赤龍帝にねぇ……」

どうやら退却していきそうな二人にイッセーが噛みつく。

「お前誰だよ! そいつの仲間か!?」
「俺っちか? よくぞ聞いてくれたぜぃ。俺っちは闘仙勝仏の末裔、美侯っつうんだ。よろしくな赤龍帝」
「闘仙勝仏?」
「分かりやすく言えば孫悟空だぜぃ」

その言葉にイッセーは驚愕して目が飛び出るが、カリフに至ってはその名前におもむろな反応を示す。

「そ、孫悟空ってあの西遊記のあれか!?」
「おう、まあ俺っちは仏になった先代とはちげえんだけどよ」

二人はイッセーたちに背を向けて亜空間を開ける。

「本当はそっちの人間と戦ってみたかったんだけどよ。直に気を感じてみたけどあんた、異常すぎるほど強くねえか?」
「……試してみるか? お前が『孫悟空』の名を冠すに相応しいかどうか見定めてやるか?」
「じょ、冗談キツいぜ。あんたに万全のヴァーリと組み合っても間違いなく勝負にすらならねえって。あんた、気配も気も消した俺っちにずっと気付いてたろ?」
「……」

焦りながらカリフを制すと、カリフもこの場を治める。

美侯を潔い男だと判断したからであろう。

「少なくともあんたとは300年はまともにやり合いたくねえぜ。死なないようにするってんならそりゃいくらでもやるけどよ」
「おい、時間じゃなかったのか?」
「あ、そうだった。じゃあなー」

そう言ってそそくさと亜空間に入ると入口は閉じてしまった。

イッセーは既にバランス・ブレイカーを解いていた。

「おい! 待て!」
「無駄だ赤龍帝。奴らは亜空間に逃げた。こうなってしまっては追跡は不可能だ」
「でも……!」
「お前の体力はもう限界のはずだ。ここで追って見つけたとしても返り討ちだ。だから今回はこれでいいのさ。赤龍帝」

アザゼルにそこまで諭されると、改めて自分の非力さを実感してしまう。俯いてなんとか納得した。

「……分かった」
「それでいい。お前は白龍皇相手に善戦したんだ。大金星だ」

堕天使総督に褒められるのも複雑な気分なのだろうが、とにかく皆が無事だということにイッセーはとりあえず安心して一息吐いたのだった。






戦闘が終わってからしばらくして三勢力総出で戦闘の後処理を行っていた。

魔法使いの死体を片付けたり生きた敵を捕虜として捕縛して連行したりと対応に追われていた。

そんな中で天使たちを指揮しているミカエルさんを見つけた。

体の節々が痛いけどミカエルさんと出会える機会なんてこれからそうあるとは思えないから急ぎ足で向かう。

そして、ミカエルさんの近くまで来て声をかけた。

「「ミカエル(さん)……ん?」」
「?」

俺と同じタイミングでミカエルさんに声をかけた奴がいたそいつは意外にもカリフだった。

俺とカリフ、ミカエルさんは疑問符を浮かべ、周りにいた部長たちやサーゼクスさまたちも何事かと注目している。

「あれ? カリフもミカエルさんに?」
「お前もか……どっちを先にする?」

まさかダブるとはね……でもミカエルさんにも都合があるから手短に済ませたいんだけど……

悩んでいるとミカエルさんが俺たちに微笑んで聞いてきた。

「なんでしょうか?」
「ちょっとお前に直談判だ。こうしてオレが直接出向いたのだから要件くらいは聞いてもらうぞ」
「おい! 失礼すぎだろ!」

カリフの態度に先輩として注意すると、気にしない風に続けてくれた。

「二人同時に話してくれても結構です。聞き入れられるよう尽力しましょう」

おぉ、意外な特技だ! でも聖徳太子でも十人の話を聞いたって話もあるからそれくらいは可能なのかな?

そしてなんとも心が広い! さすがは大天使さまだ!

じゃあ遠慮なく……

「あの……件というのはですね……」
「オレの要望は……」
「「二人の祈りのことなんだが(ですが)」」
「……」
「「……」」

ハモった!? カリフとなんだか同じワードが綺麗にハモった!

ミカエルさんもポカンと目を丸くしているようだけど。

でも、まさかと思って一気に話すことにした。

「「ゼノヴィア(アーシア)たちのお祈りのダメージを無くしてもらえないか(ませんか)?」」

やっぱり同じだった! 俺はアーシアでカリフはゼノヴィアの名前を上げてはいたが俺たち二人は二人のお祈りをなんとかしようとしたらしい。

毎日お祈りでダメージを受ける二人に思う所もあったし、お祈りだけでも普通にさせてあげたいとは思っていた。

だけど、カリフまで同じことを考えてたなんてな

「毎日祈りを失敗しては凹む、そんなもの見せられて気が滅入って仕方ねえからに過ぎん。あんなもの見せられるならこれくらいはする」

俺の考えを悟ったようにそう言うが、少し顔が紅いぞ。

こいつからしたら本心かもしれないけど、少しらしくないという自覚はあったんだな。

現に聞いていた元・教会組の二人も驚いていた。

そんな要望にミカエルさんは微笑んで返す。

「二人分ならなんとかできるかもしれません。二人は既に悪魔ですから教会に近付くのも苦労するでしょうが。二人に問います。今の神は不在ですがそれでも祈りを捧げますか?」

その問いにアーシアたちはかしこまって姿勢を正す。

「はい。主がいなくてもお祈りは捧げたいです」
「同じく、主への感謝とミカエルさまへの感謝を込めて」

その問いにミカエルさんも頷いて答えてくれた。

「分かりました。天界に帰ったらすぐに調整しましょう。悪魔なのにお祈りでダメージを受けないというのも面白い話ですね」

おお! やっぱり言ってみるもんだな!

「良かったなアーシア! これでもうお祈りで痛むことなんてないぞ!」

神様いないけどね。でもアーシアが幸せになるんならこれくらいはしてやりたいしな。

アーシアが薄く涙を浮かべて俺の胸に抱きついてきた。

「イッセーさん……ありがとうございます……」
「いいって、それに俺一人のことじゃないんだしさ」
「いや、礼を言うよイッセー。ありがとう」
「カリフにも言ってやれよ二人共」
「ああ、もちろんだ」
「はい!」

二人は頷く中、カリフの方から俺たちに寄ってきた。

何かと思っていたら急に立ち止まって指をさしてきた。

「言っておくが、これはオレのためにやったに過ぎん! 決して『可哀そうだった』だとかセンチに流されたわけじゃない! ただお前らの沈んだ表情を見るとこっちまで調子が狂うから手を打っただけだ! それを忘れるな!」

強くは言うが、やっぱり恥ずかしいのか顔を紅くさせても説得力ねえぞ。

そう言うと、ゼノヴィアは頬を紅く染めてカリフの前に来た。

「ふふ……君のそう言う所も好きだよ」
「はい! ありがとうございます!」
「ふん!」

やっぱりらしくないことしたからなのか恥ずかしそうにその場をズカズカと去って行った。

あ〜あ、結構可愛い所もあるじゃん。

カリフの意外な一面に苦笑していると、ミカエルさんは安心しきった表情で洩らした。

「ふふ……戦いのとき、彼については不安もありましたが、どうやら杞憂だったようですね」

そう思うのも納得だよな。会合中にカリフの経歴を赤裸々に暴露してたからな。

中身はとんでもないし、エグかったけど事の顛末を聞いてみればちゃんと理由はあったしなにも私欲だけで動いていたという訳では無かった。あいつは何の罪のない人には決して手を上げないし、巻き込むこともしない。

ただ少し遠慮と容赦がないけどあいつのことはそんな心配は無いと思ってる。













今回、凄く不安だった三勢力会合も無事に終えることができた。

その後、木場がミカエルさんに自分のような不幸な子供を作らないことを頼んでそれを了承してくれたり、カリフの家とかでは三勢力や様々な勢力に対して『不可侵条約』を結んだり、カリフの行動も少し目を瞑る代わりに緊急時には手を貸すという条約を結んでいた。

それでも全ては無事に終わり、また何も変わらぬ日常に戻っていったのだけど……






現在、そのイッセーは部室の中で宙づりに縛られて顔をボコボコ二殴られていた。

その横ではすっきりしたようにご機嫌な小猫がフィンガーグローブを手入れしていた。

学校内でイッセーを拉致したカリフは縛り上げ、小猫に差し出した結果がこれである。相当、白龍皇の戦闘時に貧乳と連呼されたことに頭にきていたのかが分かる。

そして、今日になって分かったこともある。

それは……

「アザゼル……なんであなたがこの学園で教鞭とっているの?」
「いやあ、セラフォルーの妹に役職聞いたらこれになった! まあ俺にとっては天職かもな! 女生徒もオとせるし」
「止めなさい!」

まず一つ、アザゼルがイッセーたちの指導係としてしばらくはイッセーたちを鍛えることにしたらしい。相当ガチなのかオカ研の顧問にまでなっていた。

そしてもう一つはというと……

「あの……本当にここに入ってもいいのでしょうか?」
「何言ってやがる。お前のおかげでカオス・ブリゲートの襲撃も予想して最小限の被害で抑えられたんだ。もう三勢力からは罪に問われないってことになったんだろ?」
「う、うん……」
「自分からここに志望して今更泣き言いってんじゃねえ。諦めんなら当たってからにしろ。マナ」

それはブラック・マジシャンの弟子であるマナの駒王学園への入学、及びオカ研への入部が速攻で決まった。

役職は魔法使い、多重人格であり、それぞれの人格にセイクリッド・ギアを有している。

しかもそれらは強力なものであるため、アザゼルの元で保護観察を受けていることとなった。

「まあ、俺が保護者代わりってだけで実質はフリーだ。だからお前も学生生活をエンジョイしとけ」
「はい! あの……日本の文化に疎くてご迷惑をおかけするでしょうがよろしくお願いします! 悪魔じゃありませんけど」
「えぇ、ギャスパーの恩人であるあなたなら大歓迎よ。こちらこそよろしくね」

部員(−1人)の拍手に迎えられて照れるマナは顔を紅くしながらもはにかんでいた。

そんな中、カリフと目が合うとさらに頬を紅くさせて目を逸らしてしまうが、すぐに気を取り直して手を振る。

他人格もマナの中でニヤニヤしている。

「あの、ホームステイということなんだけど、迷惑じゃなかったかな?」
「もう何人来ようが同じだ。明日からゼノヴィアも来るっていうから面倒みてやるよまったく……親も人数考えて考えろよ……」
「すまないな。君のご両親から誘われてしまってね。魅力的だったからその日に了承してしまった」

ゼノヴィアも淡々と謝罪する中、カリフは指折りで今の入居者を思い返していた。

「朱乃、小猫、ゼノヴィア、マナか……流石にあの家も限界だな……」
「そこはまた後々考えましょう。ところで……」

朱乃はニコニコしながらどこか威圧のあるオーラを発し、ゼノヴィア、小猫も複雑そうな表情を浮かべて迫って来た。

「マナちゃんとはどういった関係なのかしら?」
「そこは私も聞いておきたい。出る杭は早めに打つのがいいからな」
「……説明求む」
「だから、知り合いって言ってんだろ。それ以上でもそれ以下でもねえ」

三人の美少女に囲まれるカリフはいつもとは変わらないけど、マナとしては複雑な心境だった。

「はぅぅ〜……なんでこんなにいるの〜?」

あまりのライバルの多さに気が滅入ってしまいそうになるが、気を持ち直していくしかないと決意を固めていた。

「イッセー、そろそろ目を覚ましなさい!」
「うえ〜ん! 死んぢゃ嫌です〜!」
「アーシアも泣かないで回復してあげなさい! そうすれば帰って来てくれるわ!」
「はいっ!」

より一層に賑やかになって来た部室の中で若干取り残された木場、ギャスパー、アザゼルは女の子に詰め寄られるホープ二人に苦笑していた。

「あはは……イッセーくんも僕のこと言えなくなってきたよね」
「二人共すごくモテモテです! 引き篭もりの僕は憧れるばかりですぅー!」
「はっはっは……! 魔王の妹、聖魔剣使い、デュランダル、ブラックマジシャンに加えて赤龍帝と人間最強のイレギュラーが集まる場所じゃあカオスに溢れてんな! これは俺も楽しめそうだな!」

こうして新たな部員と顧問が加わり、駒王学園オカルト研究部はより一層に賑やかになっていくのだった。







西暦20XX年 七月

天使代表天使長ミカエル、堕天使中枢組織『神の子を見張るもの(グリゴリ)』総督アザゼル、冥界代表魔王サーゼクス・ルシファーの三大勢力格代表のもと和平協定が調印された。

以降、三大勢力間での争いは禁止事項とされ、協調体制へ移る―――。

その和平協定は舞台となった駒王学園の名から『駒王協定』と称されることとなり、今までの世界のあり方を変えた瞬間だった。










だが、彼らも、テロ集団も、ドラゴンたちも、この世の生きとし生ける者でさえも気付いていない。








それはまたさらなる戦いへのカウントダウンに過ぎないということ―――







―――神々でさえも……銀河の力でさえも足元に及ばぬ、最悪の敵が現れつつあることを……






―――この世界の真実というものを……







―――誰一人として知る由も無い……

-67-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D 13 イッセーSOS (富士見ファンタジア文庫)
新品 \630
中古 \339
(参考価格:\630)