小説『不思議な話』
作者:あさひ()

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第一話 道理


ある小さな美しい国の一画に、彫刻家が暮らしていました。その彫刻家は大きな丸太を材料に美しい女性の彫刻を何年もかけて完成させました。仕上がりは、それはそれは本物の美しい人間の女性のようでした。

そこにある日、不思議な魔術師が訪ねてきました。彼は、彫刻家に好きな女性がいることを知っており、彼が作った彫刻の美女はその女性にそっくりでした。しかし、その女性はまったく彼に振り向いてくれる気配がなく、彼は彫刻に時間を費やすことでそのことについての憂さを晴らしていました。


魔術師は、彫刻家にこう告げました。

「あなたはその木彫りの美女を本物の人間にして妻にすることができます。」

彫刻家はそれを聞いた時目をキラキラと輝かせました。しかし、そんなことが簡単にうまくいくはずがありません。それにはある条件が必要でした。

「そのためには、好きな女の魂の死とその双子の妹の大量の生き血が必要です。」

「・・・、人を殺せということか?」
「そういうことです。その人間が死ねば好きな女の魂は死ぬ。さぁ、どうする?」
「そんなこと、できるわけないだろ!」
「じゃあこの取引はなかったということで。」

魔術師が彫刻家のそばから去ろうとすると、
「待ってくれ。」
と彫刻家はそれを引き留めました。
「どうしてあの女が俺に振り向いてくれないのか、教えてくれないか?」
「それを言ってあなたにとって何になるというのです?」
「いいから、お前は何でもわかってるんだろ?魔術師なんだから。」
「ええ、もちろんですとも。」

魔術師は少し間を置き、
「それがあなたの意志に関わりなく与えられた宿命だからです。あなたがこの取引に乗ったら、彫刻を粉々にしてしまうつもりでした。」
と言って去って行ったのでした。

彫刻家のそばで木彫りの美女はほほ笑んでいました。

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