小説『不思議な話』
作者:あさひ()

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第二話 衆知への道


ある荒れた村にとても真面目な裁判官がいました。とても気難しいのですが、皆のためを思って一生懸命働いていて人望が厚いのです。しかし皆のことを考えるあまり自分のことがおろそかになるばかりでなく、時々孤独を感じざるをえませんでした。

休日に、その裁判官の自宅にある魔術師が訪れました。

「あなたは他人のために真面目に、しかも正しいことのために働いていますね。そのご褒美として何か願い事を一つ叶えて差し上げよう。」

「願い事?・・・本当にいいのか?」
「えぇ、一つならなんでも。」
「それじゃあせっかくだから。・・・、私の孤独感をなくしてくれないか?」
「別の人の感情や行動を操作することはできても、願い事をする人の感情を操作することはできません。」
「なんだ、条件つきか。」
「そんなものです、あなたが孤独感から解放する術が分かればいいのですがねぇ。」

裁判官はしばらく考え込んでいました。そしてしばらくしてはっと何かひらめいたような顔をして言いました。
「私と同じような考え方をする人間と一緒に仕事をさせてもらえないだろうか。そうすれば、私の意見を通す時に少しは気が楽になるのだ。」
「分かりました。今度から私も立ち合わせてもらいます。」

すると、裁判官が吹き出したように笑いました。
「まぁ・・・、勝手にしてくれ。」

その様子を真顔でしばらく眺めていた魔術師は
「ただ、条件があります。」
と再び話始めました。
「なんだ?」
「いくら自信があっても、意見が食い違ったからといって私を処刑台に上がらせないでください。」

すると、裁判官は再び吹き出すように笑いました。

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