小説『dog days not勇者』
作者:maguro328()

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「ん〜!風が気持ちいいね」

「ですね」

笹が直射日光を遮り、竹の隙間から吹く風が心地よい。これが自然の力か。あれだね、自然を増やすのって大事なんだね、実感したよ。

ということで今私は竹林の道中にいます。リコちゃんがよく居る書斎、エクレちゃんがよく居る訓練所、と回って次はユッキーちゃんの家に行くことになった。

慣れない場所を歩いて少し疲れてきた。普段から鍛えているシンク君や七海ちゃん、フロニャルド出身のリコちゃんは分かるのだけど、何故レベッカちゃんは大丈夫なのだろうか?私と同類で普通に生きてきた筈なのに…………。これはもう私が歳だってことか?やかましい!まだぴちぴちの17歳だって………………やめよう、気を紛らわせるにしても心の中で1人、悲しくなるから。

「あの、大丈夫ですか?」

「うん。なんとか」

さすがに年下の前で弱音を吐くことはしたくない。若干建物は見えてきているし、もう少し頑張ろう。そうして歩くこと1分弱、辿り着いたのは立派な和風建築だった。

「いらっしゃいでござる」

出迎えてくれたのはユッキー、朝顔柄の綺麗な浴衣を着ている……のだが、如何せん丈が短い、短すぎる!ノースリーブに加えて太ももが半分以上見えている。そしてとどめと言わんばかりの大きな胸!敗北の2文字しか思い浮かばない。いや、年下だから完全敗北の4文字か…………。

ユッキーに迎えられて中に入ると女性が一人縁側に座っていた。確か……ダルキアンさん、だっけ?ユッキーがお館様って呼んでた人だ。

「「「おじゃましまーす」」」

「うむ、ゆっくりしていくでござる」

そう言って微笑むダルキアンさんはとても綺麗だった。落ち着いていて可愛いというより魅力的な女性だ。ただ、駿君の情報によれば年齢は3桁らしい。正確に聞きたいけど、何故か口が動かないので諦めよう。

「?どうしたでござるか、美保殿?」

「あ、いえ、良い家だなぁと思いまして」

うん、嘘は言ってない、嘘は。良い家だと思ったのは本当だし。ほら、こう、趣きがある!他には…………うん、趣きがある、その一言に尽きるね。

「そうでござろう」

「うん。それにユッキーもそれ可愛いね〜」

「美保殿も着るでござるか?」

「あ〜……それはいいや。虚しくなるだろうし……」

背の高さも胸の大きさも何もかもが足りない。

「そうでござるか」

しょぼんとしちゃうユッキー、何か罪悪感のようなものが……。その顔によってやっぱり着るという言葉が喉元まで出かかったところで足元に何かがすり寄って来ているのに気が付いた。そこにいたのは私がフロニャルドに来るときにいた犬、タツマキだった。

「わぁ、タツマキ、おひさ〜」

私は屈んでタツマキの首に抱きつく。そういえばこの子はどうやって世界を行き来しれるんだろ?お城に戻ったら駿君に訊いてみようかな。

「あ、ユッキー、こっちの子は?」

「コノハとホムラでござる」

タツマキに抱きついていた私に近づいてきたのは真っ白な犬と狐、狐がコノハで犬がホムラ、二匹ともこれまた可愛い。

「あぁ、私も〜」

「私も、私も!」

こうしてダルキアンさんと話すために居間に行ったシンク君以外はタツマキ、コノハ、ホムラを愛でる時間となった。彼らを撫でている間、ユッキーが物欲しそうな目で見ていたのは気のせいではないだろう。というか気のせいではなかったので撫でてあげた。すごく喜ばれた。

「あはは、楽しそうだね〜」

「あ、シンク〜」

ダルキアンさんとの話が終わったようでシンク君が居間から出てきた。ユッキーはそれを見つけるとともにシンク君の元へ走って行った。どうやらシンク君にもなでなでして貰うらしい。

「いやぁ、あのボディであのスキンシップは反則だよ。ね、レベッカちゃん」

「そうですね、シンクも真っ赤です」

おぉ、怖い怖い。微量とはいえ、黒いオーラが出ているよ。怖いね、嫉妬って。

「あの様子だとユッキーはシンク君派かな?」

「また、美保さんはそんなこと…………」

あのべたべた度を見る限りではユッキーはシンク君が好きなのだろう。

「シンク、駿は来てないでござるか?」

「駿はレオ様に呼ばれて来れなくなったよ」

「そうでござるか…………」

少し離れて2人の様子を見ていた私はそれを聞いて固まった。完全に残念がっているよ、耳ペタンとなっているような気もする。

「み、美保さん?」

「なに?レベッカちゃん。私少し竹を見てくるよ」

そう言って私は竹林に足を踏み入れた。地面には少しだけだが、笹が落ちている。(結構伸びているのでたけのこと言えるのかは分からないが)たけのこもある。風月庵からちょっと離れていて尚且つ迷子にならない程度に歩いた私は1本の竹に向かい

「もて過ぎだろ!!ばかぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」

力の限り叫んだのであった。




駿side

『もて過ぎだろ!!ばかぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!』

謎の幻聴が聞えたのはちょうど話し合いが終わったとき、クー様とお喋りしていたときだった。

「どうしたのじゃ、駿?」

「何でもない。ただ不満を詰め込んでいた奥さんの本音みたいなものを聞いただけだ」

「?」

まぁ、今の電波は気にしなくていいものだろう。俺関係ないし。そんなことより今はさっき言った通りクー様とお喋りしている。ベッドの上で、クー様は俺の足に座っている。魔神騒動以来クー様と2人になったときの恒例だ。これからはレベッカが来てくれたから半減すると思うが……。

「それにしてもお主、モテモテじゃの?」

「またそれですか」

「それはお主、フロニャルドはその話題で持ちきりじゃぞ?」

たった1人のお付き合いでそこまで騒げるってフロニャルドは余程事件が起きないんだな。

「ところで駿よ、お主は一体後何人と付き合うつもりじゃ?」

「………………付き合う前提ですか?残念ですが、他の人の恋愛ベクトルはシンクもしくはガウルに向いていますからこれ以上は増えませんよ」

若干何名か、別の人にベクトルを向けている人もいるにはいるがどちらにしろ俺にはもう向いていない筈だ。
「…………わざと言っておるのか?」

「へ?何がですか?」

「そうやって自分は好いてもらっていないと言うじゃろ、お主?」

心なしかクー様は少し怒っている、気がする。

「…………実際そうでs「わしはお主が好きじゃぞ」…………」

これがモテ期というものだろうか?あれは都市伝説ではなかったのか。

「う〜ん、それにしてもクー様が彼女…………」

俺はクー様とデートしているところを思い浮かべる。なんというか……なんていったらいいのだろう?

「どうしたのじゃ?」

「クー様は、彼女というより………………妹?」

「なんじゃと!?」

クー様が俺の方を向いて顔をグイッと近づける。美保の様に体温は上がらない。

「うん。やっぱり、クー様は彼女と言うより妹にしたい。なるほど、これが好きの違いってやつか」

「それは合っているかもしれぬが…………」

「クー様、別に人の関係が恋愛だけじゃないんですよ。友達だってありますし、主従の関係だってありです」

俺はそう言ってクー様の頭を撫でる。つい最近好きと言う気持ちを知り始めた人間が言っても何の説得もない気がしないでもない。

「いっぱい甘えてください。どんとこいです」

「そうか。お主も随分と包容力が上がったのう。2人と付き合うことになったおかげで余裕というわけじゃな。よ〜くわかったのじゃ」

「そうですか、わかってもらえましたか〜」

少し怒っているっぽいクー様に冗談っぽく言ってみたものの、クー様は表情を変えない。これは…………やっぱり駄目かな?そう思った矢先、クー様は俺に抱きついた。

「それじゃあ、お言葉に甘えていっぱい甘えさせてもらうのじゃ」

「……はい」




これでもか、というくらいクー様を甘やかした俺はビスコッティ巡りから帰ってきたシンクと一緒にお風呂に入っていた。

「いやぁ、シンクと二人はかなり久しぶりだな」

「そうだね〜。駿はいっつも女の子といたもんね〜」

「お前に言われたくねえよ」

こうやってシンクと一緒にお風呂に入るのはこれが初めてではない。前のときも何回か入っていた。別に男友達とこうして同じ湯に入るのは嫌ではない、のだが、シンクと入ると十中八九サービスシーンが入る。だが、それも4度目にもなれば駿も対策を考える。今日はしっかりと入り口に“男子貸切”と書いた看板を置いてきた。

「そういやシンク、明日は合宿だったな」

「うん。ユッキーやエクレ、ノワと一緒にね」

前々からやろうと言っていたけどいつの間にかもう明日になっていたんだなぁ。こっちに来てから時間が過ぎ去るのが早い気がするな。

「もう、3か月以上経ったのか」

『おっふろ、おっふろ〜♪』

『美保さん。こけますよ〜』

少し物思いに耽ろうかと思った瞬間、入り口方面から声が聞こえた。

「ねぇ、駿。ちゃんと看板立てたんだよね?」

「立てたぞ」

「もしかしてフロニャ文字で書いた?」

…………………………………。
日本語で書かなかった俺は悪くない。そういうスキルを持つシンクも悪くない。文字を読めない3人も悪くない。なら誰が悪いんだろう?

ガラガラガラ

現実逃避しようとしたが、扉の開く音によって現実に引き戻される。

「「「……………………」」」

「おい、看板を立てていたろ?」

「え、ちょ、あ、う、あうあうあうあうあうぅぅぅぅぅううううう!!!」

もはや言葉になっていない。さすがの俺も翻訳が不可能っぽい。たぶん顔真っ赤なのだろう。見てないから分からないが。

「看板ってあれ?そう書いてあったんだ」

「まぁ、俺にも非はある。すぐに出るからちょっと別方向を」

言い掛けて止まる。何故なら言い終わる前に七海は湯船に浸かったからだ。

「わ、私、後で入るね!」

美保が出て行った。

「わ、私も!」

レベッカが出ていく。

「じゃあ、僕も!」

シンクまで出て行った。

残るは俺と七海、しかも肩が触れるか触れないかの距離にいる。こっちが離れても同じだけ距離を詰めてくるのでもう諦めていた。

「じゃ、じゃあ俺も……とはいかないみたいだな」

「うん。ここで罰ゲーム執行だね」

「お前、恥ずかしくないのかよ?」

「恥ずかしいよ。恥ずかしすぎてもうのぼせそう」

…………これは誰に対しての罰ゲームなんだ?七海の方を向きかけたが、一瞬綺麗な肌見えたので首が一周回りそうな程の勢いで逆方向を向いた。

「な、七海?背中合わせにならないか?」

「え?あ、うん。いいよ」

俺と七海は浴槽の縁から離れてお互いに背を向ける。何故かピタッと引っ付いているが、気にしてられない。
「それでここからどうするんだ?」


「駿ってさ、美保さんと付き合ってるんだよね?」

「正確には美保とも、だ」

ようやく話が見えてきた。いや、実際はお風呂に入ってきた辺りでなんとなく分かっていたのかもしれない。

「昔、私た森に迷ったことあったでしょ?」

「ああ、あったな」

「あの時、私はお姉ちゃんだったから必死頑張ったけど、実は怖かったんだ」

まだ子供だったのだから当たり前だろう。寧ろあの時全く気にしていなかった俺の方が異常だろう。

「だからあのとき、助けてくれた駿は凄いカッコよかった」

「なるほど、それで俺に惚れたと」

バシャバシャ!

「しゅ、駿!?」

「すまん。こういったことに少し余裕が出てきたからつい…………」

これ後で思い出したら、きつそうだから早めに直しておいた方がいいな。

「………………でも、うん、それであってる、と思う」

「思う、か…………七海」

背中からは熱を感じる。それがお風呂の所為なのか、それ以外の何かなのかは俺には分からない。

「俺はドルチェと美保と付き合ってる。それが善いことか、悪いことか、世間さんに聞いてみればきっと悪いことと言われるだろう」

同時に違う女の人と付き合う人間なんて最低だ、非難殺到だろう。

「だけど、俺は自分の所為で、俺を好きになった所為で知り合いが悲しい思いをするところなんて見たくない」

泣いている美保なんて見たくない。泣いているドルチェなんて見たくない。無理して笑う美保やドルチェを見たくない。

「だから、俺は誰が何と言おうとも俺を好きになってくれた人たちと付き合おうと思っている」

どんなに非難されようとも、どんなに罵倒されようとこれだけは曲げる気はない。

「けどな、七海。お前の好きは本当に美保と同じか?」

「…………分からない。私こういうの初めてだもん。駿が美保さんと付き合うって聞いたら何かモヤモヤして…………」

「そっか」

つまり俺と同じ感じ。好きではあるのだが、その好きが一体何なのか、区別が出来ないんだ。なら俺が七海に言える言葉は一つしかないだろう。

「七海、それならば焦らなくてもいいんじゃないか?」

「え?」



「ここで無理やり答えを出すより、じっくり考えようぜ。俺はいくらでも待つからさ」


「……そうだね。うん、そうする」

七海の声に元気が戻った。そして冷静になったのか急いでお風呂を後にした。

「はぁ……それにしても七海が俺のこと……意外だったな」

それにしてもなんか頭がはっきりとしない。やっぱりさっきのことで照れてんのかな?妙に体も熱い、し………………。

この後、のぼせた俺を美保が発見したのは別の話。
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maguro328です。まさかの3部構成、それにしても久しぶりの美保視点、はっちゃけてるなぁ。

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