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敦彦
この物語は、妹の身の回りで起こった事の顛末を記したものである。
間宵
この物語は、わたしと兄の敦彦、そして、憑きものたちの物語です。
アネモネ
この物語は、人間と憑きものの命運を分かつ物語だったりとする。
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◇◆プロローグ◆◇
〈敦彦〉
妹――。
妹というものは、兄より後に生まれ、兄を反面教師として捉え、軽蔑する側面を持ち、“できの違い”をこれでもかというほど見せびらかしてくるような存在である。そして、兄はどこからともなく湧いてくる嫉妬心を抱き、いずれは妹と衝突するものだ。
僕には、一個下の妹がいる。
名前は、藤堂間宵という。
彼女は兄よりも先に“自律”という言葉を覚え、学業優秀、スポーツ万能、それでいて活発、明朗、知的好奇心旺盛――そんな小娘。なので、嫉妬を抱くのも無理はない、と自分自身に同情することも多々ある。
青は藍より出でて藍より青し、ではないが、人生という名の旅路において、僕の方が先にスタートを切っていたはずだったのに、いつのまにか追い詰められ、追い抜かれていた。
そんな優秀な妹と、自律という言葉をまるで知らない、できそこないの兄。僕らふたりは遠く離れた存在であり、共通点を探すのは、市民プールに満ち満ちた水の中から、コンタクトレンズをすくい取るぐらいに相当する難易度の高さであるように思えるが、実はといえば、僕は共通点をすでにひとつ見つけている。
彼女もまた奇々怪々、珍妙奇天烈で奇想天外な“ある生物”の存在を認知できる人間なのだ。
そう、僕らふたりは、“憑きもの筋”なのである。