小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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「で、この二人がその仮面の男の正体だ」

「「うにゃぁ〜…………」」

 速攻ではやての病室まで行って連れてきた仮面の男。率直に言えば、その正体は管理局の重鎮でありはやての保護責任者でお金をやりくりしていた人物、ギル・グレアムの使い魔だった。名前はリーゼロッテとリーゼアリア、双子の猫耳娘だ。
 これで、全ての懸念は解決した。俺達蒐集組は自首したし、闇の書の危険性は夜天の書に修正される事でなくなり、謎の仮面の男は捕まった。後は管理局が自分達でギル・グレアムと話をつけるだろうし、そうなればこの闇の書事件は終わり。平和的で実に危険性も何も無いチープな終幕であった。

「アリア……ロッテ……君達がどうしてあんな事をしていたのかは大体察しが付くし、深くは追求しない。後できちんと提督と一緒に話を付けさせてもらう」

「……うん」

「分かったよ、クロスケ」

「クロスケ言うな」

 クロノには何がどうなって彼女達がこんな行動を取ったのか察しが付いている様だ。さて……と、面倒になる前にさっさとやる事やって俺は退散しよう。

「なぁクロノ、病室は何処だ? あんなんでも俺の生徒だったんだ、最後くらい面会させてくれよ」

「ああ、分かった。案内しよう……一人にした方がいいか?」

「ん? ああ、そうだな。そうしてくれ」

 クロノはそう言うと、俺に少し同情の視線を向けた後病室までの行き方を俺に教えた。別に、同情される様な悲しみは持ってないし、やりたい事があるから死体を俺に差し出せと言外に言っただけだが……まぁそっちの方が都合良いか。

「じゃ、『さようなら』」

「? ああ」

 この時、クロノは俺の言ったこの言葉に疑念を抱いたが、特に何もしなかった。これが最終的に俺とクロノの最後の言葉になるとも知らずに――――



 ◇ ◇ ◇



「さて―――」

 やって来たのは病室。顔に白い布を被せられた二体の遺体と、そこに並んで眠っている神崎となのは、フェイトの三人。まぁ死んだ二人には親はいないし、悲しむ人間なんて学校で彼らに口説かれた女性と位の物だろう。それ位なら時間が全てを解決してくれる。

 それより俺がやりたい事は他にある。

「起きろ。なのは、フェイト」

「ふみゅ!?」

「ふきゃ!?」

 二人のおでこにデコピンをかまして眼を覚まさせた。その際に、印象改竄魔法を使って気絶直前の死体に対する印象を若干和らげて再び気絶する事態を防いだ。

「あ、あれ? 珱嗄先生?」

「うぅ……痛い」

「とりあえず、聞け。闇の書事件解決したから」

「え?」

「本当に?」

「本当だ」

 とりあえず、二人には闇の書事件の顛末を全て話して火喰と會田が死んでしまった事と神崎が魔導師として致命的なダメージを負った事を話す。仮面の男の正体についても話したので、闇の書事件解決を二人が理解するのにそう時間は掛からなかった。

「それで、俺はこれから逃げるから」

「え? だ、駄目ですよ、ちゃんと悪い事をしたら償わないと……」

「ホント、良く知ってるよねぇそういう難しい常識。面倒だけど、面白いな」

 だが俺は逃げる。管理局に無償奉仕、なんて面倒な事は守護騎士達に任せ、アリシアも本来の母親の下に引き渡せばいい。というか、俺が逃げたらきっとそうなる。プレシアはそういう母親だ。

「ああ、そうだ。俺は逃げるから、俺の義妹……夜天の書の主である八神はやてと仲良くしてやってくれよ。魔法についても知ってるから精々ガールズトークにでも耽ってくれ」

 ゆらりと笑ってそう言うと、俺はなのはとフェイトが動き出す前にバインドで拘束した。アリシアと作成した特殊バインドの一つ。『過重拘束の鎖(オーバースペックチェイン)
 バインドを設置した場所に対象を固定する能力は無いが、バインド自体に馬鹿げた位の重みがある。つまりはバインドその物の体重による拘束。

 まぁ持ち上げられれば動く事は出来るが、そんなの出来るのは早々いないだろう。

「ま、待って……」

「やなこった。皆無事で、二人が死んだだけで済んだ。良いだろう、それで」

 俺はそう言って、ゆらりと病室を出て行った。



 ◇ ◇ ◇
 


 さて、これで闇の書もおしまい。転生者の盗聴で以前得ていた部分的な原作知識では今は闇の書編という第二期のリリカルなのはの時期であり、解決したからには第二期終了だろう。また、アニメは第二期で大抵終わるから多分この辺で魔法少女リリカルなのははおしまいだろう。
 これからの彼女達に少しだけ興味もあるが……まぁいいだろう。

「じゃ、何処へ行くかな……」

 管理局から逃げるにはどこか遠くの世界に行った方が良いだろう。

「じゃ、とりあえずは面白そうな場所へ行こう」

 そう言って転移魔法を展開する。そして転移しようとした瞬間――


「ま、待ってくれ……!」


 一人の声によって遮られた。視線を向けた先にいたのは、神崎零。どうやら意識だけは既に戻っていたようだ。となると、俺がなのは達に話した事の顛末は聞いただろう。3人の転生者が死んだことも、夜天の書が元通りになった事も、そして………自分がもう魔法が使えないという事も

「どうした、神崎」

「アンタに、頼みがあるんだ……!」

 重そうに身体を引き摺って俺の目の前にふらふらと立っている神崎。その瞳には、悲嘆と焦燥が垣間見えた。その様子は俺も見たことがない初めて見た神崎。今までの噛ませ犬キャラが嘘だったかのように、主人公オーラを見せる彼の姿。その姿に俺は、少しだけ興味を引かれた。

「へぇ、なんだ?」

「俺は、もう……戦えないんだろ…?」

「ああ」

「もう……なのは達を助ける事は出来ないんだろ……?」

「ああ」

「もう……原作に介入することは……出来ないんだろ…?」

「―――ああ」

 涙をこらえて、歯噛みしつつ問いかけてくる神崎に俺はただ皇帝を返した。神崎自身は否定の言葉を期待していたようだが、そんな気遣いや同情なんて俺は持ち合わせてないし、勇者や物語の主人公みたいな変な優しさは持ってない。だから、俺は否定する。

「……っ…頼む! 俺にもう一度だけチャンスをくれないか!」

「は?」

「アンタはアリシアを蘇生させた! なら、リンカーコアを作る事だって出来るだろ!? 頼むよ、俺にもう一度だけ戦う力をくれ!」

 神崎の頼みはただ一つ。また立ち上がれるだけの力をくれという事。確かに、俺の魔法の中にはリンカ―コアを作り出せるだけの魔法が一通りそろってるし、なんなら作ることも出来る。まぁランクEXの代物は造れないけど。

「俺にメリットが無いぜ?」

「なら、俺の原作知識をやるよ! だからっ――――」

 神崎は地面に頭を擦りつけ、土下座する。恐らく良い様に思っていない俺に、その高いプライドを圧し折ってまで平伏した。



「頼むっ!!」



 ◇ ◇ ◇



 俺は、馬鹿だった。


 一度神の手違いで死んで、転生というチャンスが訪れた事で舞い上がっていたんだ。誰にも負けない特典を貰って、現実で夢見た小説や漫画、アニメの主人公になれると。昔話にある様な英雄になれると、そう思ったんだ。
 
 ―――死ぬ前は、平凡以下の高校生だった。

 勉強も運動も人並み以下で、ルックスだって良くなかった。趣味はパソコンの前でアニメの動画を見る事。出掛ける場所は何時も決まって本屋の漫画コーナーやアニメ専門グッズ店だった。女の子は二次元でしか愛せないといつも思っていたし、現実で自分を馬鹿にする奴らはクズだと心から信じていた。

 そんな俺は手違いでも死んだ時ですら誰にも悲しまれずにいた。俺を見限っていた両親は重荷が下りたかのように葬式をとり行ったし、クラスメイトは何事もなかったように普段の喧騒を騒がせた。
 それを見た俺は神に頼んで生前大好きだった魔法少女リリカルなのはの世界に行かせてもらう事にした。強力な特典を貰って、転生した後はなのはやフェイト達といった画面の向こうで恋焦がれた手の届かない少女達を悲劇から護りたいと思った。この俺の手で。

 そして、あわよくば恋人に……なんて幻想を抱いた。でも、この世界の彼女達にもれっきとした自我が有った。現実と同じく俺の幻想はただの幻想でしかなかった。
 強大な特典を持っていても、生前同様何も出来ないまま特典を奪われ、彼女達を護る処か一切行動を取ることも出来ずに死に掛けたのだ。

「頼む……!」

 だから、俺は諦めようと思った。いつも通り、生前から染みついていた俺の諦め根性が前に出て来て諦めようと、そう思ったのだ。

 いつだって諦めてきたじゃないか。いまさらなにも痛くねぇよ。

 でも、そう思えば思う程諦めたくないという思いが込み上げて来て胸が張り裂けそうになった。一度人生を諦め、二度目の人生は自分をやり直すチャンスでもあったからだ。


 ―――二度目の人生でまで諦めるだけの人生なんて、まっぴら御免だった


 だから、俺は頭を下げた。もう一度だけ、やり直せるチャンスが欲しかった。なのはやフェイトと恋人に、なんてもはやどうでもいい。最初に思った意思を貫き通したかった。彼女達を護る、それだけが俺の意思を貫くただ一つの方法だった。

「俺の出来る事なら何でもする……お願いだ!」

 そう言って、俺は返事を待った。正直、イレギュラーな存在である俺の教師にはメリットがない。願いを聞いてくれるとは思えなかった。


「―――なるほど。やっと面白くなったじゃないか、お前」


「え?」

 顔を上げる。そして視界に入ったそいつの顔は、何時もの様にゆらりと笑みを浮かべた表情。玩具を与えられた子供みたいでいて、犯罪を起こす前のテロリストのようにも思えた。

「いいよ、お前にもう一度だけ―――諦めない道を開いてやるよ」

 そいつは確かに、そう言った。




 ◇ ◇ ◇




「っと、これで終了。流石にランクEXなんて代物は作れなかったけど、まぁ多分ランクS位はあるんじゃね?」

「あぁ……ありがとう、ございます」

「今更しおらしくなられてもなぁ」

 カラカラと笑いながらそう言うと、神崎は苦笑で返した。その表情からはこれまでのハーレム願望なんて感じられず、さながら物語の主人公の様にも思えた。

「じゃあ代償の原作知識を貰おうか」

「ああ」

 そう言って、記憶操作魔法を使って彼の頭の中にある原作知識をコピーして俺の知識に加えた。なるほど、どうやらまだまだ面白い事が起こりそうだ。

「これで終わり。じゃ、俺は管理局から逃げるから。精々頑張ると良いよ、神崎君」

 再度、転移魔法を展開する。

「それじゃあまた今度」

 俺はそう言って、別の世界へと転移していったのだった。



                           第1,2期完

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 ここで、無印とAsが終わったので一旦終了です。

 stsについてはちゃんとやります。めだかボックスの方で安心院なじみの生徒会長選挙編が終わる位までやったらまたsts執筆に掛かりたいと思います。ありがとうございました。

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