小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 管理局の医務室のベットの上で、高町なのはは眼を覚ました。今まで身体に取りつく様にあった怪我の激痛は無くなっており、包帯を取って見るとその下にあったのは見慣れた自分の腕。その柔肌には一切に傷跡が無く、今まで仕事で負った負傷の傷跡や既に完治した筈の怪我で残った若干の跡もきれいさっぱり消えていた。
 そして、動く事も魔法を使うことも可能になっていて、自身の回復に驚愕を隠しきれないなのはは、自身の隣にある四角い物体を見つけて手に取る。それは、魔力の痕跡もあり、既に壊れかけているようだったが、過去のロストロギアである闇の書やジュエルシードと同様の何かを感じられたことから、それがロストロギアであることが分かった。

 だが、そのロストロギアはなのはが手に取ってすぐにピシリと罅を走らせて消え去った。手元にそれは残らず、既に反応も無くなってしまった。なのははなんだったのかと思ったが、壊れたのなら危険は無いだろうと気に留める事は無かった。
 そして、また自身の回復の原因を探る。記憶ははっきりしているし、自身の怪我の原因も分かっている。だが、自分の回復の原因が分からない。何か大切な事を忘れている様な、そんな感覚。

「……!」

 なのははそんな感覚のなか、一つの言葉が思い浮かんだ。誰が言ったのか分からないが、ごく最近……自分が言われた言葉を。


 ―――頑張るのはいい。無理をするのも良い。だが、お前の周りにいる仲間はお前が無茶して怪我をした結果、どう思うか。それをちゃんと考えて行動しろ。お前の仲間は、お前が魔法を使えなくなったからって離れていく様な奴らじゃないだろ?


 不意に、涙がこぼれた。その言葉は、なのはが忘れていた友達や仲間へまっすぐぶつかっていく気持ちと諦めない不屈の闘志を蘇らせた。
 そう、なのはの仲間はどんなときだって自分と一緒にいてくれて、魔法だけで繋がっている浅い関係じゃない。それを思い出した高町なのはの瞳には、生き生きとした生命の輝きが戻る。

 そして彼女はその誰が言ったかも分からない言葉を胸に、その言葉を言った人物に感謝した。思い出そうとすると、顔は分からないがゆらりと笑う男が思い浮かんだ。その顔や体には黒い影が差していて上手く思い出す事が出来ないが、確かにその男は自分にそう言って、もう一度魔法の力を取り戻してくれたのだ。
 いつか、また会えたときにお礼を言わないといけないな。なのははそう思い、嬉しそうに笑った。



 ◇ ◇ ◇



「あれ……? なんで私は……死んだ筈なのに……」

 その頃、アリシア・テスタロッサは自身の記憶に困惑していた。高町なのはの発動したロストロギアのせいで、自身の記憶の中からあの男の記憶が消えたからだ。アリシア・テスタロッサは彼によって死の淵から戻って来たし、彼のおかげで魔法が使える様になったし、彼のおかげで五感を保っているし、彼のおかげで家族と暮らす事が出来た。
 だが、その彼の記憶が無くなったのだ。それは、彼女の中で困惑を起こす。


 誰のおかげで生きているのか? ―――――分からない


 誰のおかげで魔法が使えるのか? ――――分からない


 誰のおかげで五感が保てるのか? ――――分からない


 誰のおかげで家族と居れるのか? ――――分からない


 何も分からなかった。今のアリシアにとっては、何故か生きているし、何故か魔法が使えて、何故か五感を保てて、何故か家族と居れている。そんな感覚だったのだ。

「……ひ……っ」

 怖かった。何故死んだ自分が生きているのか、何故知りもしなかった魔法が当たり前の様に使えているのか、失ったと認識していた五感が何故戻っているのか、離ればなれになった筈の家族が何故また傍にいるのか、全てが分からなかったから。自分という存在が、意味不明すぎて怖くなったのだ。
 そしてなにより、自分の胸の内からぽっかりと空いてしまった何か。そこにあった筈の大切な何かが無くなってしまった事が悲しかった。

「分からない……分からないよ……」

 涙を流すアリシア。訳も分からず泣き続けた。それを見つけたプレシアが、どうしたのかと問うが、分からないと答えるばかり。また、プレシアにその疑問を投げ掛けるがプレシアも分からなかった。目の前の娘が何故生き返っているのか考えれば考えるほど分からなくなった。
 だが、プレシアは目の前で泣き続ける自身の愛すべき娘を見て、そんな事は関係ないと抱きしめた。何故生き返ったのかは分からない。だが、それでも確かに娘は目の前で生きている。ならば、もう手を離さない様にすればいい。プレシアは多くの疑問を持つ中、娘を抱き締め続けた。



 ◇ ◇ ◇



「―――ふっ」

 そして、喜びと悲しみが一つのロストロギアから生まれたその時。そのロストロギアを作った彼は、無人世界の中で、ゆらりと笑う。流れ込んでくるアリシアの悲しみは、彼にとって予想していた事だった。
 だが、記憶を消した理由はあったし、そうした方がいいと思ったのだ。その理由は、そろそろ逃走に飽きたのだ。闇の書事件から2年。彼は追いかけてくる管理局から逃げ続けていた。それは面白い事を求める彼からすると、鬼ごっこの様で少しは面白みも有ったのだが、やはり遊びは飽きてくる。

 そこで彼は自身の犯した事の証拠と記憶を全ての人間の脳から消してしまう事にした。4番目の転生者の使っていた消去魔法を基盤にロストロギアを作りあげ、発動すれば設定した人間以外の者が設定した人間の事を記憶から消してしまうという効果をなのはを使って発動させた。

 結果は成功。彼は最早管理局から逃げ続ける事をしなくても良い状況を作りあげた。だが、この効果は人間にのみ効果を発揮する。機械系統には一切に手が加わらないのだ。故に、彼の過去の映像は残っている。


「さて、それじゃあ……原作知識によるとまだまだ時間はあるようだし――――もう少しだけ、研鑽するとしよう」


 彼はそう言ってゆらりと笑い、修行を開始した。


-37-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




キャラクタースリーブコレクション 魔法少女リリカルなのはViVid 「ヴィータ」
新品 \2180
中古 \
(参考価格:\699)