それから時間が経ち、遂に模擬戦の時がやってきた。スターズとライトニングの二組に分けて二戦、なのはと勝負することになる。珱嗄はその間、何もせずにいた。前回の最後でティアナにセクハラするとか何とか言ってた割に、これといった行動はしなかった。
とはいえ、珱嗄は言った事は必ずやるタイプだ。つまり、珱嗄にとってのセクハラに含まれた意味合いがどのような物でアレ、珱嗄は何かしらやる。
「それじゃあまずは、スターズからだね」
「はい!」
「頑張ります!」
なのはの言葉で、スバルとティアナだけ。エリオとキャロはヴィータに連れられて安全な場所へ移動した。珱嗄とアリシアもそこにいる。神崎は心配そうな顔をしながらも自身の仕事をするべくデスクワークへ向かった。
そして、しばらくして戦闘が開始されると、フェイトもやってきた。
「もう始まってたんだ」
「ああ、それにしてもフェイト。お前ってなんで小学生時代途中まであんな生活してたのにそんな発育いいの?」
珱嗄はやってきたフェイトにゆらゆらと笑いながらそう言う。フェイトはそんな珱嗄の言葉に噴き出しながら自身の身体を抱き締める様にして赤面した。
「な、何言ってるの!」
「なんて冗談だよ。でも……なんでもない」
「なんで今私の方見たの! フェイトの方が胸がおっきいから? そうなの!!?」
珱嗄はフェイトとアリシアを見比べて、アリシアから向けられた視線から眼を逸らした。アリシアはそんな珱嗄の態度に涙目になりながらそう叫んだ。珱嗄はそんなアリシアをどうどうと宥め、またなのはへと視線を戻した。
「それにしても、スバルとティアナ……なんか動きが変じゃないか?」
「え? ……うん、なんというか危なっかしい、かな?」
「つっても、ティアナはいつもの切れがねぇな」
珱嗄の言葉は、話を逸らす事に成功したようで、全員の意識は戦闘へと向いた。
「なっ……!」
ヴィータが声を上げる。するとそこには、危ない軌道でなのはに接敵したスバルと、その真上から魔力刃をなのはに向けて迫るティアナがいた。
それは現場でなら、危ないというよりやってはいけない行為だ。チーム戦という概念を度外視している。まるで二人ではなく一人一人で戦っている様な、そんな戦い方。
無論、そんな戦い方をなのはが許す筈がない。
「ねぇ、二人とも……どうしちゃったの?」
なのははデバイスのモードをリリースし、素手で二人の攻撃を止めていた。魔力刃を掴む手からは血が流れ、なのはの雰囲気からは恐怖心が生まれた。
「こんなに危ない攻撃……いざって時にお互いを傷つける様な戦い……ちゃんとさ、練習通りにやろうよ。本番の為に一所懸命訓練してきて、本番でこんなんじゃ……訓練の意味、ないじゃない」
「っ……」
「私の言ってる事、私の訓練……そんなに間違ってる?」
なのはは、無表情。ティアナはその言葉に揺れる。その場から飛び退き、距離を取る。涙を流しながら、なのはに叫んだ。
「私は! もう誰も傷つけたくないから! 失くしたくないから! だからっ……強くなりたいんです!」
なのはに銃口を向ける。そして、魔力スフィアを精製する。それに対しなのはもまた魔力を溜めて攻撃態勢に入った。お互い、意見が反発し、分かりあおうとして擦れ違う。そうなれば必然、どちらかが倒されるしかない。
だが
「うーん……うん、フェイトの方が大きいなこれは」
それはこの男がいなかった場合である。
「あ」
「え」
「は」
「「………ええ!?」」
観戦していたヴィータ、アリシア、フェイト、キャロ、エリオが声を上げた。その視線の先には、なのはがいた。いや違う、珱嗄に後ろから胸を揉まれたなのはがいた。
珱嗄はなのはの胸から手を放し、顎に手を当ててなにやらフェイトと大きさを比べている。こんなシリアス雰囲気に何をしているのだと思うが、思い出して欲しい。
珱嗄は言っていた
『あのツンデレツインテールにセクハラしてくんだよ』
ツンデレツインテールとは、ティアナの事では無かったのか、その魔手はなのはへと向いた。何故なら、今のなのははセットアップ後で、髪型が変化している。そう、『ツインテール』に。
ツンデレという要素を無視して、珱嗄はなのはへとセクハラしたのだ。
「……珱嗄さん……なに、してるのかな」
「いや別に。続けてもらって結構ですが」
「そう……ちょっと頭、冷やそうか」
なのははティアナを即座に撃墜。そのままレイジングハートを展開し、珱嗄に向けた。スバルはティアナの下へと走り出す。なのははそれを特に止めたりしなかった。
「おいおい、なんで俺に向けてんだよ」
「大事な所で茶々入れといて、何言ってるのかな? それに、女の子の胸を気安く触るなんて最低だよ?」
もはやティアナは空気である。自分で書いてて何だけど、もう何処へ行ったらいいのか分からない。どうすればいいのだ。
「ふぅ、何を言っても無駄か頑固娘。いいだろう、この年寄りが少し教育してやる。ティアナもまだ意識があるようだし―――――強いってのがなんなのか、見せてやる」
珱嗄の表情が変化する。いつものように、ゆらりと笑っている口元に反して、珱嗄の青黒い瞳は……鋭く殺気を帯びていた。
「いいか、ティアナ。お前がなろうとしている強さはお前が足元にも及ばない場所にある。いいか、なのはちゃん。お前が言いたい事は、行動だけじゃ伝わらない」
珱嗄はそう言って自身の課せられたリミッターをかしゃんと解除する。途端に溢れる珱嗄の魔力。その色は青黒く、珱嗄はそんな魔力を纏う様にそこにいた。
押し潰される様な圧力と、体を串刺しにする様に鋭い殺気、なのははいままでの珱嗄の実力と今目の前にいる珱嗄の実力が違いすぎて、驚愕に目を見開いた。
「さてさてそれじゃあ……一回寝て貰うぞ。何安心しろ、寝てる間にセクハラするだけだから」
珱嗄はそう言うと、ゆらりと吊り上がった口端を、更に上へと吊り上げた。