小説『Silent World』
作者:Red snow()

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最終夜 -月夜の魔女-

二人はいつもの地下水道を通って廃病院へ。
そこには味方の二個小隊と迫撃砲小隊が待機していた。隊長らしき人物は無線機に低く怒鳴っている。

「指揮官はどこに?」
秀介が近くにいた兵士に尋ねるとその兵士は近くにいた無線手に何かを耳打ちした。
「今来ました。・・・・・ええ予定通りです。・・・・・・・・・はい。・・・・・・・・・・・・了解」
無線手は誰かと話していた。多分司令室だろう。

「君たちか。待っていたぞ」
岩陰から兵士が出てきて言った。

「で、迷子の仲間はどこに行ったんだ?」
蓮杜は相変わらずの口調である。

「味方の小隊は座標D3X4Y2で消息を絶った。探しに行きたいのは山々だが、目立つ行動は避けたい。
そこで君たちの出番というわけだ」
兵士は地図を叩きながら言った。

「了解。じゃ迷子を探しに行きますかね・・・」
秀介も疲れからか口調がなげやりだ。

「あぁそうそう。君たちが持っているその無線機で火力支援要請をしてもらえれば、こちらの迫撃砲を撃ち込もう」
兵士が廃病院前の広場に展開された20門ほどの迫撃砲を指差した。

「はいはい。ありがとさん」
二人は歩き出しながらそう答え月夜の闇に溶けていった。





慎重に捜索しながら1時間ほど歩いたとき

そこは廃病院から5キロほど離れた場所。
二人は狭い路地に立っていた。立ち尽くしていた。

「なんだよこれ・・・」
そういった秀介の目の前には見るも無残な味方の死体――いや、もはや肉塊と言った方が正しいか。
狭い裏路地は壁も地面も紅く染まり、宙に吊られ首を掻き切られた死体からは絶え間なく赤い蜜が滴る。
それは、どんな言葉をもってしても表現できない光景。

「魔女・・・・・・だろうな」
蓮杜がつぶやく。

「戻ろう!こんな化け物に勝てるわけがない!」
秀介が叫んだ。

その時だった

この紅い海の上を歩く者がもう一人

ぺちゃ・・・・・ぺちゃ・・・・・・

その音はゆっくりと二人に近づいた。

そして二人は見た。それは

この戦争が生み出した無数の悲劇のうちの一つ。


「そうね。彼方たちはどう足掻いても殺されるわ」
地獄に響くその声は、もし例えるならば『絶望』と『狂気』で満たされた終末の旋律。

その者

全身から紅い雫を滴らせ

片手に鈍く光る山刀を持ち

頭に大きな黒い羽根を挿し

月に照らされ妖しく輝くその姿――それはまさに

  ― 『魔女』 ―

恐怖で足がすくむ。真っ直ぐにこちらを見つめる魔女の眼は気を抜けば引き込まれそうなほど
暗くて寒い闇のような眼をしている。
体中の細胞が叫ぶ。

逃げろ!!と

「走れ!喰われるぞ!!」
蓮杜が叫び、銃を捨てて走り出した。
「ちくしょう・・・・ちくしょうちくしょう!!」
絶叫しながら秀介も銃を捨てて走り出す。
「秀介!火力支援要請だ!!座標D3X4Y3だ送れ!」
蓮杜が走りながら叫ぶ。
「中隊聞こえるか!?こちら狙撃班!!」
秀介は走りながら叫び続けた。
「どうした!?」
中隊長の慌てる声が聞こえた。

「こちら狙撃班!奴だ、魔女だ!!火力支援を!!」

「了解した!!座標を送れ!」
中隊長もつられて叫ぶ。

「座標D3X4Y3 効力射だ!!」
「了解!40秒耐えろ!」
二人の絶叫に無線から漏れる音が割れる。
「急いでくれ!早くしないと挽肉にされるぞ!!」
蓮杜が腰に巻きつけてあった弾装を捨てながら叫んだ。

一秒が長い。 一秒が一時間、いやそれ以上に感じる。
40秒間耐えられるか・・・・

同時刻 廃病院前広場

「さっさと起きろ!バカども!!」
中隊長の絶叫に休んでいた迫撃砲小隊の各員は飛び起きた。

「火力支援要請だ!座標D3X4Y3 効力射!!」
その言葉で全員の眼が変わった。
「120ミリ迫撃砲だ!榴弾を用意しろ!目標までの距離4500 観測射なし 制圧射撃! 効力射!!」
迫撃砲小隊の小隊長が各員に指示を出す。

「装薬3弾薬!」
「装薬3弾薬よーし!」

「半装填!」
「半装填よーし!!」

「準備よーし!!」
各班から発射待機の声が上がる。

「狙撃班と魔女を分断しろ!撃ち方はじめぇぇぇぇ!!!」
小隊長の号令と共に全砲門が火を噴いた。爆風で広場の土が舞い上がる。

「砲弾を発射した!弾着まで10秒!!耐えろ狙撃班!」
中隊長が無線の受話器に怒鳴る。
「とにかく撃ち続けてくれ!弾幕を張るんだ!!」
秀介が怒鳴り返す。

やがて砲弾の飛翔音が蓮杜と秀介にも聞こえた。

「.......5...4...3...弾着.....今!」
中隊長の声と共に二人の周囲はすさまじい爆炎と衝撃が襲った。

「倒れるな!倒れたら殺されるぞ!!」
すさまじい爆音と煙の中、蓮杜が叫ぶ
「あぁわかってるさ!!」

「川だ!川を目指せ!」
蓮杜が叫ぶ。

「もっとだ!もっと弾幕を張ってくれ!!」
中隊長に懇願する秀介の声は既に枯れていた。




「おいもっと弾幕張らんか!」
中隊長がそのまま小隊長に怒鳴る。
「味方に当たっても知りませんよ!?」
小隊長が心配そうに言った。
「構わん!撃ち殺せ!!」
あまりの混乱で命令も無茶苦茶であった。

中隊中が混乱している中、ただ一人冷静な者がいた。
「ええ・・・・はい。そうです全てうまく行きました。・・・・・了解です。
では撤退を・・・・はい分かりました」

次回へ......




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