市元荒波が親愛なる親友を化学の法則のよって撃破し、片路夜春が最愛なる愛人をモチベーションによって愛護していた別の場所で、 上条当麻は禁書目録と名称する少女を探索するために、自身と彼女の足が許せる範囲の東西南北を奔走していた。
学園年レベル5の第三位、御坂美琴の闘争を頑なに拒絶し、電撃の槍を前にしても背を向け走り去る普段の彼ならば、禁書目録の失踪よりも、敵対する魔術師の一人、神崎火織から禁書目録の情報を得るほうが優先すべき事態なのだろううが、『学園都市の内戦』という思わぬイレギュラーにより、それは俳されてしまった。
「畜生! どこだ! インデックスっ!」
息を切らし、身に纏う服は海水にでも浸したかのような状態でも、上条はそれを気にする素振りは見せない。ただ我武者羅に禁書目録の名を呼び、地を駆ける。
____畜生、神崎とか言う女と別れてもう何十分と経つが、インデックスは一向に見付かりそうにねえ。
酷く憤慨したように、上条は表情を歪ませる。もし仮に、禁書目録が早朝の上条宅で修道服を模したが上条の右手に秘められた能力、によって破壊されていなければ、上条の憤慨と焦燥は幾つか緩和されていただろう。
上条はそんな右手を恨んだ。禁書目録には不幸の元凶と言われつつも、学園都市の最高峰の強さを誇る御坂美琴に好敵手と認めれらたことは、この右手のお陰であり、荒波との初接触時に起きたいざこざで彼に手を貸し、見事あのマッドサイエンティストを撃破に貢献したのはこの右手だ。
だが今回の状況を悪化させたのは上条の不注意と、この右手の暴発だ。
____クソッ! 後悔している暇はねぇ! こんな万能な右手に頼る……待てよ……
上条の動きが止まり、脳が思考の為に稼動した。
「そうだ! こんな時にこそ、こと片路夜春に頼れば!」
上条は即座に右ポケットから携帯を取り出し、片道夜春の携帯番号を表示する。
と、同時に上条の背後に影が覆った。
「なっ!」
携帯に目を奪われていた上条だったが、不気味に陰る影と、凶暴な闘牛の如きプレッシャーは上条の直観力が瞬時に働きかせ、襲いかかる『何か』を視認するよりも早く、身を飛び退けさせた。
だが第一波で敵の攻撃が終わる訳がなかった。『何か』は虚空に拳を向け、上条がコンマ何秒前に乗っていた学園都市製のコンクリートを粉砕し、平坦な形状を窪ませると、修羅に恐怖を覚える上条の首を掴んだ。
「な、何だてめえは!」
上条は強気を装ったような態度を色素の薄い髪をした赤い髪の少年に向けた。
「テメェ今どんな状態かァ理解が及んでんだろうなァ。俺がチョットでもベクトルを操作しりゃァ、テメェの首は胴体から離れるんだぜェ」
狂気の表情を、赤い髪の少年、『一方通行』は浮かべる。上条は自分の酸鼻な死体が脳に浮かび、そして支配した。上条の精神状態にに、冷静が喪失した。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
シ………ヌ
上条は窮鼠が猫を噛むよりも幼稚な悪あがきで自身の右手を、一方通行の細腕を掴んだ。一秒一コンマ一瞬、少しでも遅れていたならば、一方通行のベクトル操作により、上条の脳内と同じ映像がリアルとなっていただろう。
「なッ! 能力が使えねェ!」
一方通行の絶対的な優勢が、過大な自負心を生んだ。それが、仇となり、隙を作った。
上条はいまだパニックを渦ませたまま、空いた左手で、一方通行の右頬に拳をめり込ませた。パニックによる付加力がかかったのか、一方通行は軽自動車にでも轢かれたと錯覚を受けるような反動で、虚空を舞った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
上条の呼吸が乱れた。しかし上条はほんの一瞬の誤りで死を誘う戦闘の疲労で、それを意識的に整おうと考える事は出来なかった。
一方通行は虚空を無っている最中、一人の人物を想起させた。能力を使う素振りを見せない癖して、スキルアウト程度の戦闘能力しかない癖して、レベルゼロの癖して、一方通行の顔に泥を塗った、あの『ゼロの頂点』を
「何だァ! 何だァァテメェらは! この俺は学園都市第一位の『一方通行』だぞォォォォ!」
「知るかよ」
何が何だか分からず、理解できない上条であったが、反射的に脳髄が動いた。
「その学園都市第一位さんは学園都市最弱のレベルゼロ相手に奇襲で虐殺しようってのかよ! 俺はスプーン一つ、曲げることが出来ねえレベルゼロだ! そんな雑魚キャラ相手に、臆病なテメエは俺の背中を襲ったんだ!」
「俺が……まさかお前は……卑怯だって言いてェのかァ?」
「当たり前だ! 三下が! テメエがもし、高慢な態度を依然と取り続けるって言うんだったら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」
上条当麻は、拳を上げた。