小説『ZOAR』
作者:ララ()

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26, 人影






  どこかの部屋の一室。

  暗闇一色に染まるその一室には、小さな小さな豆電球が一つだけ。

  電球の下には、不気味に光る大量の液体があって

  鼻のこじれんばかりの異臭を放っている。

  そんな部屋に、ある人影があった。

  何かをぶつぶつと唱えながら、人影は部屋を歩き回る。

  なれた足取りで部屋を歩きながら、何かを探しているようだ。

  長いベルベットのような髪に、整った顔立ちの女。

  口にタバコをくわえ、長い白衣を揺らして歩いていた。









  たった一つの電球を頼りに、女のような人影は

  あるものに手を伸ばした。

  縦長で中に奇妙な色の液体の入った、カプセルのような不思議な物体。

  人影はゆっくりとその側面に手を置いた。

  その瞬間、カプセルは内から不気味な光を放ち始めた。

  ゴポゴポと液体のあわ立つ音が、部屋中にこだまする。

  そして輝くその液体の中にあったのは、人間そっくりの―――ロボットだった。











  人影はそれを愛おしそうに見つめた。

  まるで愛する誰かを見つめているような、優しく、けれど悲しそうな目で。

  それから人影は、ふと右の方を見た。

  そこは、小さな電球の光も届かない、恐ろしい闇の支配する空間があった。

  しかし人影は、何に戸惑うでもなくその闇へ向かって手を伸ばす。

  中指と親指をゆっくりとあわせ、パチンっと指を鳴らした。

  その音は部屋中に響き渡るのだった。

  すると、まるでその音に反応するように

  ぼうっといくつもの不気味な色のライトが浮かび上がった。











  不気味なライトが照らすのは、カプセルの中。

  ライトに照らされた無数のカプセルは、部屋の奥へ向かって長蛇の列を作っていた。

  一番手前のカプセルの中には
 
  同じような色の液体に沈んだ、同じ顔のロボットが一体。

  そのロボットは他同様に

  液体の中で直立しており、顔を見せないように俯いていたのだが

  長くやわらかそうな髪からは気品というものが伺えた。

  人影は、そのカプセルらをじっと見つめ

  不気味に微笑みながら、タバコを吹かす。









  
  液体の沸き立つ音を聞きながら、人影は目の前のカプセルに目を移した。

  中で俯くロボットに、冷ややかな視線を浴びせる人影。

  すると、今まで微動だしなかったロボットが

  口からいくらかの気泡を吐いて、顔を上げた。

  液の中で踊るような髪、色白の細身、ロボットとは思えない美しい外見だ。

  しかしその外見は異様なものだった。











  なぜならその外見は、

  ロボットを見つめ不敵に笑う人影と―――――瓜二つだったのだから。

  
    
  

  








  

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