小説『ZOAR』
作者:ララ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

25, 矛盾したこと






  「見落としてるって、香の言葉が矛盾してるってこと? 」
 
  「はい、何となくなんですが

  あたしの時代にいるときから、香の話にはなにか引っかかるところがあって……」

  夏の声はだんだんと小さくなる。

  しかし攻め立てる様子もなく、黎弥は優しく聞いた。

  「君にこんなこというのは変だと思うけど

  香はそそっかしい奴だからね

  慌てて言うことが間違ってたりするのかもよ? 」










  「で、でも………」

  「心配しすぎじゃない?

  何が気になるのか、オレにちょっと話してみてよ? 」

  黎弥の笑顔に押し負けて、夏はゆっくり口を開いた。

  「香は、既に何体もの?ZOAR?を作っているでしょう?

  なぜか、あたしの設計図とはちょっと構造が違う奴を。

  もう完成形も出来かけてるんだから

  あたしだって、あたしの設計図だって必要ないはずです。

  なのにどうして………」










  黎弥は少し考え込んだ後

  「確かに今の香に、夏ちゃんの設計図が必要だとは思えない。

  けど、夏ちゃん自身はどうだろう?

  きっと香にも、何か考えがあってのことだろう。

  大丈夫、自分を信じなくて誰を信じるんだい」
  
  そう言って、夏の肩にポンっと手を置いた。

  夏の顔はまだ晴れない。









  「まだ、気になることがあるの? 」

  「香は拓斗に……あたしの弟にトラウマがあるって言ったんです。

  それもずっと気になってて……

  香のトラウマってなんなんですか? 」

  それを聞いて、黎弥はなぜか言葉をにごらせた。

  笑顔が消え、目を泳がせている。

  「黎弥さん………? 」









  「夏ちゃん………それは

  絶対香の前で口にするなよ、香にそれはタブーだ」

  「タ、タブー? 」

  「頼むから……そのことは、伏せててほしい……」

  「いったい何が……」

  そういいかけて、慌てて夏は自分の口を押さえた。

  もう少しで真実が開けてくるような気がしたが

  再び何かを質問することはなかった。

  何もしゃべらなくなった夏をみて、黎弥は恐る恐る言った。











  「ごめん、力になれなくて。余計に気になることが増えたね? 」

  けれど夏はぼそりと、けれどしっかりとつぶやいた。












  「…………もう、いいです。香のことは何も探らなくったって。

  それにあたしは見方だって、香に言いましたから。










  あたしは、ただ香を信じたいもの―――」











-34-
Copyright ©ララ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える