小説『真剣でパパに恋しなさい!』
作者:むらくも。()

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「コラモモ! また精神修行をサボりおったな!」
「五月蝿いジジイ! そんなのは後回しでいいだろ! それより私は出掛ける!」
「あ、待たんか! ・・・行ってもうたわい」


 やれやれと溜め息をつく川神鉄心は、自分の孫娘が消えた先をジッと眺めていた。
 ・・・まあ、よいか。どうせあやつの所に行ったようだし、一応連絡だけはしておこうかの。


「ルー! ルーはおるか!?」


 娘もあやつの事になれば武人ではなく、ただの恋する乙女のようだと思いながら、自分の教える川神院に戻る鉄心だった。













「来たぞ! 今日こそは戦ってもらうぞ!」
「・・・ちっ。また厄介なのが来やがったな・・・ジジイも孫娘くらい抑えてやがれ。なんだクソガキ。俺様は忙しいから帰れ」


 シッシッと嫌そうに手を振りながら煙草を吸う青年。
 先程、川神院から抜け出したモモこと、川神百代はそんな青年のいる家に突撃し、目をギラギラさせながら掴み掛かっていた。
 掴み掛かる長い黒髪を持ち、赤い目を持つ少女。少女に掴み掛かられてウンザリする黒髪をショートカットにし、ダルそうな黒い目をする青年。
 百代が一方的に青年に掴み掛かっているようで、青年はかなりイライラした様子で拳をプルプル震わせていた。


「なーなーいいだろー戦えよー!」
「じゃあっかしい! 前も言ったが俺はクソガキ相手をしてる暇はねーんだっつーの!」
「いつもぐーだら家にいるからいいだろー! ジジイも川神院に住んでいいって言ってるから来いよー!」
「黙れ! 俺はとっくに川神院からは抜けたんだ! 今更戻るつもりはないんだよクソガキめが!」


 片や頼み込む少女。片や少女の頭をグイグイ押す青年。
 見る者によっては勘違いするかもしれないが、このやり取りは日常茶飯事なので本人達は気にしていないようだ。


「それに前、戦って俺様が勝ったからもう戦わない約束はしただろうが! 良くてテメーが中学生になってから再戦ってジジイとも約束しただろうがッ!」
「やだー! 今戦いたいんだよー!」
「死ね!」


 以前、百代は青年に戦いを挑んだことがあり、惨敗している。
 最初は、里帰りということで後輩相手に腕試し。その時に相手をしたのが当時実力のある川神院の門下生だった。
 しかし、幼い川神百代はその門下生を圧倒したのを見て、当時から川神院の門下生の中でも師範代レベルの実力を持った彼女は彼に挑戦。
 今までの戦い方や、練習の積み重ねを否定されるかの如く、手も足も出ないで彼に敗れた。
 それから彼女は悔しさをバネに、更なる鍛練をするが、当の本人はやる気なし。こうしておねだり(?)するのが彼女の日常になりつつある。


「戦えー戦えー戦えー戦えー!」
「ああ、もうウザい!! ジジイ、マジでこのクソガキをどうにかしやがれ!!」


 遠くからフォフォフォ・・・と川神鉄心の幻聴が聞こえた青年は、今度会ったらぶっ殺すと決意した。
 煙草の吸い殻を灰皿に落とすと、首に絡むように手を回す百代に疲れたような顔をしていた。
 ・・・ん? 戦いならなんでもいいんだよ、な?
 何かを思い付いたのか、悪役真っ青な悪い顔をする青年。幸いか不幸か、百代はそんな青年の顔は見えず、固まる青年に首を傾げる。


「・・・クソガキ。勝負してやるよ」
「! 本当か!?」
「ああ。ただし、俺が勝ったら二度と来んな」
「よっしゃー! じゃあ川原、変態大橋の川原に・・・」
「まあ待て待て。勝負内容は・・・これだ」


 ででーん!と飛び出したのは、将棋盤と駒だった。
 それを見た百代は固まり、嘘だろ?と言いたそうな顔をする。


「勝負って・・・将棋?」
「うむ。戦えとしか言わないから将棋で勝負をしてやろう」
「・・・くそぅ! これだから大人は! 汚いぞ!」
「はん。負け犬の遠吠えにしか聞こえんな百代ー?」
「う、うぐぐぐっ!」
「代わりに勝ったらなんでも言う事を聞いてやろう。勝負でも、結婚でもなんでもしてやろう」
「!!!」


 百代に電撃が走る。青年の“勝負”もだが、“結婚”のキーワードに過剰に反応をした。
 結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚と呟く百代はやる気を見せ、青年と戦う。ハンデとして、青年は飛車角落としをして百代に渡していた。


「王手」


 有利すぎるハンデにも関わらず、百代は玉と銀二枚、歩が二枚と盤上に残らず、青年の方にはズラリと成り上がりをした駒などが殺到していた。
 更に、じわじわとなぶり殺しをするように駒を取ることに集中したり、わざと玉を逃がして端に追い詰めたりする鬼畜ぶりを発揮した。
 汚い。この青年、汚すぎる。


「う、うっ、うぅっ」
「一昨日来やがれ」
「うわーん!!」


 案の定、百代は泣きながら川神院に帰った。
 ウケケケと笑う青年は満足そうに将棋盤と駒を片付け、アパートの窓から足を出して煙草を吸い直していた。



 これは、後に武神として名を轟かせる川神百代の幼くも、大事な思い出の記憶である。



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