小説『飛ばない寄生虫』
作者:厨房娘()

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私はつい最近大学を卒業した、就職活動に失敗したフリーター(22)。

いろんなアルバイトをしてみてはやめ、してみてはやめ、の繰り返し。

まぁ今アルバイトなんて星の数ほどあるからそんな生活でもそれなりの収入になるんだと思う。だけど、時給で稼ぐのは果てしなく地道な金稼ぎだとしかいえないだろう。
諦めは時に肝心だよなと思う。

20~30社ほど正社員になるための選考を受けてみたものの、エントリーシートが通ったのはたったの2社。うち、面接が通ったのは1つもない。
初めの会社説明から、どこの会社とも自分が馴染めないのはなんとなく感づいていたし、説明会が始まって10分ほどで全く会社に対する興味を失っていることは自分でも分かっていた。
結構無理をして随分長いこと奮闘したため、今ではもう就職活動なんてさらさらする気になれない自分。体力も精神力も使い果たしたというほどではないが、不採用が決定した時はやはりどうしても参ってしまう。宝くじをありったけ買うように就職活動をしていてはショックでぶっ倒れるかもしれないと思う。

その割には他の人よりはあっさりと就職活動をやめてしまっていたが、人と自分を比べてどうのなんて顔つきも生まれも生き方も違うんだから、そんなものにこだわるつもりはない。

最近派遣会社に登録してはみたものの、応募しても全然仕事をもらえない。正社員になれなかった人間が派遣社員になるのかと思っていたが、ある程度経験がないと仕事を派遣会社の社員からもらえないようだった。中途採用で漏れた人間が行く場所なのだろうか、確実なことは分からないが、世間の風が冷たく、世知辛い世の中になっているということは、私は身に染みるほど就職活動の時に思い知っている。


ある日、私の家に私に飼われたがっている女がやってきた。まぁ飽くまでもパソコンの中にいて、こちらとは直接関わることはできないが。
年齢は私より一つ年上で23歳。名前は瀬戸ほのか。彼女は一度正社員になったもの、辞職させられ、現在はフリーターではなく、ニートである。おそらく、仕事のために外に出る気力もないのだろうと思う。

外でそれなりに働くには「せこく」ないとならない。私はそういうのとは縁を切ったつもりだが、そうやって自分の糧を刈り取ることを強いられている人も多いはずだし、そういうことに長けている人も多いはずだ。本当は殴り合いでもしたいところ我慢しているのである。その中に「食うための術」として仕方なく働いている人間がどれくらいいるのだろうか。瀬戸さんはそういう類の人間でもなければ、平和主義者というわけでもないようだ。

瀬戸さんは私と仲良くしたくて私に飼われたがっているのではない。
寄生したがっているのである。私が敢えて「友達になりたがっている」のではなく、「飼われたがっている」と表現したのはそういうことである。



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