小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第五十話 黒の騎士王の戦い




カイルとミストガンが現れた事に心底嬉しそうな顔をするラクサス。
だが二人は険しい顔をしていた。


「まさかお前が参加するとは思ってなかったぜ?────それにテメェもだ。確か出れねぇんじゃなかったのかァ?」


「俺にふかのーはない」


「そりゃ面白ぇ」


ククク、と楽しそうに笑うラクサス。
それを黙って見ていたミストガンが静かに口を開いた。


「…今すぐ神鳴殿を解除すれば、まだ余興の範疇で収まる可能性もある」


「おめでたいねぇ。知ってんだろ?妖精の尻尾最強は誰か。俺かお前らか噂されてることを」


「知ってるけど実にくだらんな。興味ねえよ」


「私も興味はないが…ギルダーツかカイルを推薦しよう」


「あいつはダメだ。帰って来ねえ。カイルはかなりいい。エルザも悪い線ではないがまだ弱ぇ」


「はぁ!?あいつが弱い?何言ってんだお前は?!」


思わず顔をしかめるカイル。あれ程強い女を彼は他に知らなかった。


「節穴もいいとこだな。お前の目は…」


そんなカイルやミストガンの言葉に、ラクサスはただ薄笑いを浮かべる。


一応説得的なものはしたが、やはり無駄に終わった。
ラクサスは意地でも闘いを終わらせる気はないようだ。



「白黒つけようぜ?最強の座をかけて」


付き合いきれんと言わんばかりに頭を掻くカイル。
ミストガンは杖を出した。


「なァ?カイル、ミストガン。
…いや、アナザー…────


「!!!」


驚きに目を見開いたミストガンが、ラクサスの言葉を遮るように攻撃を放った。
しかし、その攻撃はラクサスの雷によって相殺され、爆発を引き起こした。

凄まじい衝撃で大聖堂の窓ガラスが吹き飛ぶ。





「貴様…………そのことをどこで知った…!?」


眉を寄せ、ミストガンが低い声でそう言うが、ラクサスは怖い怖いとふざけた態度をとるだけで答えようとしない。



「いーじゃねぇか。カイルも知ってるみたいなんだからよ。内緒にすんなよ、仲間だろ?」


そう、カイルは知っている。彼に何度も相談を受けていたし、彼自身アニマの存在をすでに確認していた。


「そうだねェ…俺に勝てたら教えてやるよ」


「…後悔するぞラクサス。お前は未だかつて見たことのない魔法を見ることになる」


挑発的な笑みを浮かべるラクサスを見、ミストガンはたくさんの杖のうちの一本を勢いよく地に突き刺す。



「…カイル、やるぞ」


「いや、お前がやんなら俺はパス」


なっと目を見開くミストガン。ラクサスも呆然としている。


「黒の騎士王の戦いに、一対多はあっても多対一はねえよ。お前がやるなら俺はパスだ…………勝てよ」


フッと消えたかと思うと聖堂の二階に腰掛ける。参戦の意思はないようだ。


「─────摩天楼」



「…っ、うおぉっ!?」


ラクサスがカイルに気を取られてるうちにミストガンが仕掛けていた。


しまった、と思うよりも先にラクサスの足元が崩れ始める。
─────いや、ラクサスの足元だけでなく、カルディア大聖堂全体が崩壊し始めた。



「何…!?教会を…っうぉ!?」


ぐんっとラクサスの体が上へ引っ張られる。
あっという間に遠くなるマグノリアの街。


気が付けば、ラクサスは不気味に星が瞬く闇の中に浮かんでいた。



「っ!?」


周りを見渡していると、突然ラクサスの目の前の空間が歪み始めた。

そして、その歪んだ空間は大きく裂け、更なる闇と異形の怪物を出現させた。



「うぉ…っ!?」


怪物から距離をとろうとするラクサスに、逃がさぬ、と言わんばかりにぐるぐると何かが絡み付く。

動きを封じられたラクサスに、裂けた空間から身を乗り出した怪物が腕を伸ばす。



「っ何なんだよ…!この魔法はぁぁっ!」


恐怖に顔を歪めるラクサスに怪物の腕が触れる。
────と同時に、ラクサスの体から高圧の雷が溢れ出る。



「うおぉぉぁ!」



ラクサスの雷は紙を破るかのように空間を切り裂いた。


「はっ!はぁっ!!はぁっ!!くだらねえな!」


切り裂かれた空間は少しの間空中を漂い、霧散して消えた。


ここはカルディア大聖堂。
どこも崩れていない。


あの闇と怪物は、ミストガンが生み出した幻覚。


「中々いいコンボだったが…、こんな幻覚で俺をどうにかできるとでも思ったか?」


「流石だ…………だが気づくのが一瞬遅かったな」


ミストガンの言葉と共に、ラクサスの足元から頭上にかけて、幾重にも魔法陣が広がる。



「眠れ 五重魔法陣 御神楽!」


しかし、突然カイルの背筋を悪寒が走った。
それと同時にニヤリと口角を歪めるラクサス。



「気付いてねぇのはどっちだ?」


「ーーーっ!!しまった」


ミストガンの足元から雷の柱が立ち昇る。


同時にラクサスにもミストガンの魔法が降り注いだ。


「「ぐぁぁああああああ!!」」


少し動けなくなったかと思うと、すぐにまた構えた。


押さえていた腕から手を放し、口元を歪めるラクサス。
ミストガンもいつでも応戦できる体勢をとる。


総じて互角。再び闘いの火蓋が切って落とされようとした、────その時だった。



「「ラクサス!!」」


バンッと勢いよく開かれる教会の扉。
来たのはナツとエルザ。


三人が目を向けたその先に立っていたのは、エルザと術式から脱出したナツ。


「エルザ!」


「ナツ!出られたのか?」


エルザの問いにナツはあぁ、と短く答え、そして三人の中で一番異彩を放っているミストガンへと目を向ける。



「…で?誰だ、アイツ」


「ミストガンか…?」


エルザに姿を見られたことで、動揺したのか。ミストガンに一瞬スキができる。


「あ、バカ」


「もらった!」


カイルも反応が遅れてしまい、庇いに入る前にラクサスの攻撃がミストガンを捉えてしまう。


攻撃によって剥がれ落ちた頭巾。
その頭巾の下には、碧い髪。
そして、


ジェラールと同じ顔。


目を見開く二人。


最悪だ…
クソ、…!
因りによって顔を狙うかよ…!


拳を握り、眉を寄せるカイル。



「っ、お前…!」


「ジェラール…い、生きて…?」


敵意を剥き出しにするナツと、目に涙を浮かべるエルザ。

様々な反応を見せる三人を見、ラクサスは楽しそうに笑う。


「なんだ?知ってる顔だったのか?」


ラクサスが茶化すように言うが、その言葉はエルザとナツには届かない。



「ど…、どうなってんだ!?ミストガンが…ジェラール…!?」


「エルザ、あなたにだけは見られたくなかった…」


「、!」


「私はジェラールではない。その人物は知っているが、私ではない…」


エルザの瞳から涙が溢れるのを見、ミストガンは目を伏せる。



「………ミスト…」


「…すまない、あとは任せる」


「オウ、任せとけ」


逃げるように、霧となって姿を消すミストガン。
ナツの叫びが教会に響いた。


さてと…やりますか。


カイルが気持ちを切り替え、ラクサスに目を向ける。
すると、ミストガンのことは後回しだ!、とナツも同じように気持ちを切り替え、眼を鋭くした。


「ラクサス!勝負しに来たぞ!エルザ、カイル、いいよな?俺がやる!」


反応を示さないエルザに焦れ、ナツが目を向ける。


涙を浮かべたまま、茫然と佇むエルザ。


「っ、エルザ!!」


カイルがエルザに檄を飛ばす。と、同時にエルザの体に電撃が走った。


「っうあぁぁ!」


「!」


電撃を喰らい、エルザが悲鳴を上げる。
攻撃したのは言わずもがな、ラクサス。


「似合わねぇ面してんじゃねーよ、エルザ!おら、消えなーっ!」


「ったく!!」


ラクサスの電撃が再びエルザに届く前に、カイルが地を蹴る。
そして、崩れ落ちるエルザの足をすくい上げて横抱きに抱え込み、ラクサスから距離をとった。


「う…カイル…」


「すまん、助けに入るのが遅れた」


カイルは一度エルザを強く抱きしめ、ゆっくり床におろす。
その際に、エルザがカイルの服をギュッと握った。


ギリっと唇を噛みしめる。血の味が口の中に広がり、カイルはゆらりと立ち上がり、静かに口を開く。



「…ラクサス」


「あ?何だ?さっきの続きでもやるか…、っぐ?!」


雰囲気が変わったカイルを訝しげに思いつつも、ふざけ交じりに言葉を紡いだラクサス。
だが、言葉の途中で左頬に痛みを感じ、気付いた時には床に転がっていた。


「いい加減にしろよてめえ……」


手には雷切を、精霊王はカーバンクルを呼び出し、歩み寄る。


「っおいカイル!俺が相手するって言ってんだろ!この野郎!!」


「黙ってろ」


「はい!!」


ギロリと睨むとナツは一気に縮み上がった。


「…ハッ、本気ってか?」


「悪いな、二割程度だ」


挑発を挑発で返してきたカイルに、ラクサスが電撃を放つ。
すぐさまカイルは地を蹴り、電撃を斬る
そのままラクサスに斬りかかる。


「く、くそぉおおお!!」


「遅えよ」


拳をかいくぐり、抜き胴を放つ。もちろん峰打ちだが。


「がはっ!!ち、調子にのんな!!」


レイジングボルトを放つラクサス。
カイルも負けじと重奏雷華を撃つ


ぶつかり合う二人を見、震える腕で体を起こすエルザ。


私も闘わなければ…



エルザはキッと目を鋭くした。


「ぐぅ…!」


魔力の競り合いはカイルが勝利し、その拳がラクサスの腹を捉える。
よろけるラクサスに、カイルは更に回し蹴りを叩きこむ。


「チッ…」


ラクサスは蹴りを両手で受け止めてガシリと掴み、そのまま雷を一気に放出させた。


「ぐっ…」


カーバンクルのお陰で痛みはないが不快な感覚が体を奔る。


「一つ聞くぜ、ラクサス。それで限界か?」


手にエクスカリバー(約束された勝利の剣)を換装する。
『最強の幻想(ラスト・ファンタズム)』。人々の願いによって生まれた『栄光』という祈りの結晶。


光が咆哮を上げる。限界まで集束、加速された光は究極の斬撃と化して敵を焼きつくす。


「がぁあああああああああ!!!」


壁まで吹き飛ばされるラクサス。
輝く黄金の剣と雷切を構え、迫るカイル。


その時、



「うおぉぉぉ!!」

「!」


炎を拳に纏ったナツが二人の間に飛び込んできた。


「お前ら…ナメんのも大概にしろよーっ!」


「「はぁ!?」」


何言ってんだこいつは。


「うおぉりゃぁっ!」


「今度はてめぇか?ナツ!!」


ラクサスもナツに応じ、二人が闘い始める。




闘い始めた二人を見、考え込むカイル。
…どうしよっかな〜。
さっさとラクサスを倒さなければ、神鳴殿が発動してしまう。
俺もこのまま闘いに戻るべきか…
……それ、絶対ナツ怒るよなー…
でも、俺悪くね〜よなー。それ。


はぁ、とため息をつき、カイルが考えを巡らせていると、ドシャッという音と、ぐぇっと蛙を潰したような悲鳴が聞こえてきた。

ふと目を戻せば、エルザに押さえ込まれているナツの姿が目に入った。


「「エルザ…!」」


「─────…換装!」


エルザも気持ちを切り替えたのか、目を鋭くし、黒羽の鎧に換装した。


「だあぁぁ!」


「ふん」


ラクサスがエルザの太刀を受け止める。
エルザは更にそこから回し蹴りを放つが、それも受け止められてしまう。



「っラクサス!あの空に浮かんでいるものはなんだ!?」


「神鳴殿、聞いた事あるだろ?」


「まさか貴様…!マグノリアに攻撃をするつもりか!?」


「ハハハハッ!新しいルールさ!俺も本当は心が痛むよ」


「っ貴様ぁ!」


「あと二分だ」


口元を歪め、タイムリミットを告げるラクサス。

エルザに焦りが生まれる。



「っカイル、ナツ!全て破壊するんだ!」


「壊せねぇーんだよ!!ってか、違うな…壊したらこっちがやられちまうんだよ!」


「何、だと…!?」


驚きに目を見開くエルザに、カイルが苦々しい表情を浮かべながら理由を答える。
それを見たラクサスは、ククク、と口角を上げた。



「そう。あれは誰にも手出しはできないラクリマだ」


「っ、卑劣な!」


「クク…お前も俺の雷で消えろ!」


ラクサスの電撃をエルザはバク転で避け、距離をとる。



「換装!」



「……雷帝の鎧…か」


相性という点ではベストな鎧だ。だが…


「ふん、そんなもんで俺の雷を防ぎきれるとでも!!」


「ふん!」


エルザの稲妻を打消し、今度はラクサスが高圧の電撃をエルザ目掛けて放つ。
それをエルザは鎧の力である耐電の結界を展開し、電撃を防いで見せた。



「……やるじゃねぇか」


少し驚いた表情を見せるラクサス。



同じ属性の魔法がぶつかる場合、その優劣を決定づけるのは魔力の高さ、技術、経験。
─────そして、心。

これはマスターマカロフから学んだこと。


しかしラクサスは、マスターから学んでわかったことは、力がもっとも大事ということだと言う。

その言葉にエルザは怒りを露わにし、槍を構える。



「っエルザ!何やる気満々になってやがる!ラクサスは俺がやるっつってんだろ!カイルもだ!」


「おーい、ナツくーん。カイルさんが先にやってたんだけど〜」


一応言ったが完無視。後でしばく。


「…」


エルザはナツをジッと見つめ、そして何かを決めたように微笑みを浮かべた。


「信じていいんだな?」


「え」


そう言うと、エルザはラクサスに背を向け、教会の入り口へと走り出す。


「お、おい!どこ行くんだよ?…まさか、お前神鳴殿を止めに…?」


「ハハハハッ!無駄だ。一つ壊すだけでも生死に係わる。今この空には無数のラクリマが浮いているんだぞ?時間ももうない」



「全て同時に破壊する」


「俺が同行すんのは確定ですか、エルザ君」


すでにエルザはカイルの手を握っていた。
まあいいんだけどさ…


「不可能だ!できたとしても、確実にあの世行きだな」


「…だが、街は助かる」


「てめぇ!ゲームのルールを壊す気か!?」


「…こっちも信じていいんだな?エルザ、カイル……出来る出来ないかじゃねえぞ………お前らの無事をだ!!」


ナツの問いに無言で頷き、カイルとエルザは街の中へ消えていった。




















あとがきです。三十万ヒット超えましたよー!!やったぜ!!ありがとうございます。皆さんのおかげです。
ところでこの前カイルが弱い?というコメントがありました。結構強くしてるつもりなんですがどうなんでしょう?もっとぶっちぎりの方がいいのかな?でもあまりぶっちぎりすぎても面白くなさそう……その辺いかがでしょうか?コメントいただければ幸いです。それでは次回【最高のコンビ】でお会いしましょう!

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