第五十一話 最高のコンビ
「多いな…」
空を仰ぎ見るカイルとエルザ。
その視線の先には何百もの神鳴殿。
最低でも200はあるだろう。
チラッと目を向けた先には、未だに発動しているフリードの術式。
残された時間はもう僅かだ。
カイルとエルザは、その僅な時間で神鳴殿全てを破壊しなければならない。
「このマグノリアの街を守るため、剣たちよ…私に力を貸してくれ」
天輪の鎧を換装するエルザ。
その周りには無数の剣が刀身を光らせ、浮かぶ。
「…………発動。【千の顔を持つ英雄】」
カイルもかなりの数の剣を創造する。
剣は神鳴殿一つ一つに切っ先を向ける。
「……エルザ。お前はどれくらいいける?」
「ひ、百なら何とか…」
「オーライ。なら俺が150、お前は100頼む。それでいけるだろ…」
二人とも手を天に翳し、剣を呼び出し続ける。
「っ…145…146…く、…!まだ、だ…!まだ足りない…」
「………ちっ、フリードに精霊魔装は使うんじゃなかったな」
苦痛に顔を歪めるエルザ。
エバーグリーンとの闘いで、かなり魔力を消費してしまったようだ。
だが、それはカイルも同じで、いくら強大な魔力を持っていようとも、術式の破壊にフリードやラクサスとの戦闘。
流石のカイルも魔力をかなり消費していた。
しかし、二人の剣の数を合わせても、神鳴殿の数にはまだ及ばない。
横にいるエルザに目を向けると、かなり無理をしているようで、フラりとよろめき、遂には膝をついてしまう。
「おい!大丈夫か!無理すんな」
エルザは首を横に振る。
「カイル…私は平気、だ…!、っ…」
「いいからもうよせ。後は俺がやる。………200!!」
一本一本だが剣は着実に増えていく。
そして遂に、200を超える剣が空に浮かんだ。
「う…ハァ、ハ…」
苦しそうに呼吸を繰り返すエルザ。
もう魔力が持たない様だ。
「よし、何とか数は用意した。後はタイミングだ……エルザ、やれるか?」
「あ……あたり……前だ!!」
それでこそだぜ、相棒…
「行け!剣たち!!」
「ぶっ壊す!!」
エルザとカイルの命により、空を覆う剣たちが一斉に神鳴殿へと向かう。
そして、神鳴殿はドガァンッと激しい音を立て、全て同時に破壊されていった。
術式に目を向ければ、タイムリミットを示していた文字が消えている。
つまり、ルールはなくなったのだ。
「よっしゃ!」「やったぞ!!」
カイルに飛びつくエルザ。カイルもエルザを抱きしめる。
これでようやく馬鹿な戦いをやめられる……ん?何か忘れてるような……?
「あ…」
カイルが思い出したのと同時に、電撃が二人の体に走る。
「がっ…!」
「きゃああああああ!!!!」
200もの神鳴殿を破壊したのだ。
生体リンク魔法の効果は凄まじいものだった。
エルザは仰向けに倒れ、カイルは心臓を抑え、壁にどさっともたれ掛かる。
「………おい、生きてるか?相棒…」
「ふふ………何とかな…」
仰向けに倒れているエルザが笑う。俺も笑いかえしてやる。
「全く…バカをやる」
「お前のがうつったんだ。私のせいではない」
「はぁ!?俺は天才だっての」
「無論紙一重だがな」
そんだけ減らず口叩けるなら上等だ…
「…………ふふ、やはり私達は最高のコンビだな」
「ギルドの中に問題児がいなきゃもっと楽なんだがな…」
「はは…そうだな…」
〈神鳴殿破壊。エルザ、100個。カイルディア、120個。〉
カルディア大聖堂で戦ってるナツ達の前に浮かび上がる術式。
それを見て驚愕の表情を浮かべるラクサスと口角を上げるナツ。
「みんなカイル達が壊してくれたみたいだぜ、良かったなぁラクサス」
「………黙れ」
「へへ……意地はるのも楽じゃねえな〜。ラクサス?」
「黙れぇええええええ!!!!」
ほとばしる超高圧電流。吹き飛ばされるナツとガジル。
「そうだ……最初からこうしていれば良かったんだ……強さこそが俺のアイデンティティだったはずだ」
そして闘いは苛烈を極める……
壁にもたれ掛っているカイルに目を向けるエルザ。
「…動けるか?カイル」
「当たり前だと言いたいところだが……少々きちいな」
早いとこラクサスんとこにいかなきゃならんが……まあナツに任せてりゃ問題ないか。
「ま、今回の俺らの仕事は終わりだろ。後は若いもんに任せるさ」
「お前も充分若いだろうが」
「わからんぞ?俺はもしかしたら80超えてるかもしれん」
「ならば今日からお前の呼び名はジジイだ」
「いいけどその場合お前はジジコンになるぞ」
「かまわんさ、相手がお前ならな」
馬鹿話をしていると突然強大な魔力を感じた……
こいつはファントムん時の…
「おい、カルディア大聖堂から…」
どうやらエルザも気づいたようだ。冷や汗を浮かべ、カルディア大聖堂の方を見ている。
「今思ったんだけどよ。カルディア大聖堂って俺の名前に似てない?一字足しただけだし」
「ああ、お前の本名はカイルディアだったな、いつもカイルだから忘れてた……てそうじゃなくて!!コレは間違いなく…」
そう、感じた魔力は、以前幽鬼の支配者との闘いでマカロフが使用し、マスタージョゼを一撃で倒した超魔法 妖精の法律(フェアリーロウ)と同じものだった。
妖精の法律…
術者が敵と認識した者を攻撃する超魔法。
ラクサスが妖精の尻尾の仲間たちを、この街の者を敵と認識して発動したのならば、妖精の法律の効果で街にいる全員が消えてしまう。
「だってその場合もう手がねえじゃん。だから思った事を言っとこうと、思って」
「何でお前は何時でもそんな余裕たっぷりなんだ!?」
「まあ大丈夫だから。念のため俺から離れるな」
仰向けになって倒れてたエルザを抱き上げる。
魔法陣は金色の光を放ち、マグノリアに全体を包み込んだ。
光が収まったことで、霞んでいた視界が戻ってきた。
「カイル…?」
「な?大丈夫だったろ?」
「さっきの光は…」
「ラクサスの妖精の法律だな…」
「妖精の法律…、ならば、何故私たちは…」
生きているのか…?
その疑問の答えは簡単なものだった。
「…あんなことを言っていても、ラクサスは心の底では俺たちを敵と思っていなかったんだよ。前に言ったろ?あいつもフェアリーテイルの仲間で俺らの家族だってさ」
はっとして目にうっすら涙を浮かべるエルザ。あんな事をされても彼は仲間を信じていた…それゆえの余裕だったのだ。
「つくづく大きなオトコだ……私など足下どころか、爪先にも及ばん」
「爪先って足下じゃね?」
「いちいちそういうのはいらない」
いやツッコミは大事よ?確かにツッコミであんま器デカイやついないけどさ。
ルーシィしかり。
あとがきです。師走ーー!!!忙しいぞバカヤローこのヤロー!!というわけで更新です。時間かかったわりには対して内容進んでないし……それでは次回【はしゃいだ後はやっぱりお説教】でお会いしましょう!