「なに?」
「………。」
美咲は黙って雄也の言葉を待つ。
雄也は傷のないほうの手を強く握り締めた。
「俺たち…、その…。 こ、恋人に… ならないか?」
もし、その雄也の顔が見えていたなら、一生忘れられなかっただろう。
悲しみに満ち、苦渋に満ち、身を切り裂かれるほどの痛みに耐えたその顔を。
たとえ見えなくても、その雰囲気はわかったであろう美咲。
もしも、その顔が見えていたとしても同じ返事をしたであろう美咲。
「うん。 私、雄君と恋人になるよ。」
恋した二人の世界が幸せに塗り替えられていくはずの瞬間。
二人を祝福するはずの鐘の音が鳴り響く事はなかった。
◆つづく◆