第五十一話『学園祭開幕』
Side〜ウリア〜
ついにやってきました学園祭。
私は皆に受け入れられて、本調子を取り戻しました。
一般公開がされていないので花火とかはありませんが、生徒のテンションはとても高いです。
「うそ!? 一組であの織斑君の接客が受けれるの!?」
「しかも執事の燕尾服!」
「それだけじゃなくてゲームもあるらしいわよ?」
「しかも勝ったら写真を撮ってくれるんだって! ツーショットよ、ツーショット! これは行かない手は無いわね!」
一組のご奉仕喫茶は大盛況で、特に一夏が引っ張りだこです。
あ、お客さんです。
「いらっしゃいませ。 こちらへどうぞ、お嬢様」
私たちは実家のメイド服を着ています。
今の奴は現代風の可愛らしいもので、結構評判が良かったので安心しています。
にしても、まさか私自身がこれを着て接客することになるとは思ってもいませんでした。
「ご注文は何になさいますか? お嬢様」
「アイスコーヒー一つ」
「アイスコーヒーが一つですね。 かしこまりました。 少々お待ちくださいませ」
オーダーは復唱の際にブローチ形マイクから音声で通じているので、オーダーを伝える時間の短縮になります。
無駄に凝っているんです。
私はキッチンテーブルに戻ると同時にアイスコーヒーが手渡され、お客の下へと戻る。
「お待たせしました、お嬢様。 アイスコーヒーになります」
「ありがと」
「御用がありましたらお呼びください。 では、私はこれで」
礼をして別の席へと向かいます。
あ、ちなみに言っておくと、一夏が一番人気で、二番がなぜか私。
三番はラウラで四番がシャルロットと箒です。
ラウラは私と一夏や千冬義姉さん以外だと基本無愛想なので、そんなラウラが可愛いメイド服を着て接客するのがギャップ萌え的な感じで人気なのでしょう。
箒も多分同様の理由でしょう。
箒は仏頂面なのですが、それでも珍しいということで人気みたいなんですね。
今気づいたんですけど、鈴が来ていますね。
しかも来ているのはチャイナ服。
さすが中国人というべきなのでしょうか、似合っていますね。
チャイナ服を着ているということは、二組もコスプレ喫茶なのか、中華喫茶あたりでしょうか。
「え?」
あれ?
どうして楯無が予備のメイド服を着てここにいるんでしょうか?
まだあれの時間ではないですし、とりあえず聞いてみましょう。
「ちょっと楯無、いいですか?」
「は、はいぃ! 何でございましょうか?!」
後ろから声をかけると、ピンッと背筋を伸ばして反応して、私のほうを向くと同時に正座をしました。
……あの、凄い目立つんですけど……。
「いや、正座をしなくていいんですけど、まだ時間じゃないですよね? というより、どうしてそれを着ているんですか? 別に構わないんですけど」
「えっと、無断で拝借したのは謝ります。 すみませんでした」
正座から土下座へと移行する楯無を止める私。
学園祭でまでこんなことになるのは少し面倒くさいです。
「楯無。 どうしてそれを着てここにいるんですか? まだ時間でも無いですけど……」
「それはですね、以前ご迷惑をおかけしたお詫びと言いますかなんと言いますか、一夏君とウリアスフィール様に二人っきりの時間を少しでも提供できないかと思い、私が手伝わせていただこうかと思いまして。 あまり長い時間は出来ませんが、少しでも楽しんでいただこうかと思いまして」
……嘘は言っていないようですね。
「わかりました。 というより、いつまで正座しているつもりですか? さ、立ってください」
「は、はい」
楯無はようやく立ち上がりました。
私がさせているみたいな感じがして、少し居心地が悪かったです。
「どうもー、新聞部でーす。 話題の織斑執事とメイドアインツベルンさんの取材に来ましたー」
な、なぜ私もなんでしょうか?
「あ、薫子ちゃんだ」
「わお! たっちゃんじゃん! メイド服も似合うわねー。 あ、どうせなら織斑君とツーショットちょうだい」
そういいながらシャッターをもう切っている黛さん。
いつの間にか移動していた楯無は一夏とツーショットで撮っていますし。
そういうのは相変わらず早いですね。
「お店のメイドさんは来てー。 写真撮るからー」
「じゃあ私はお店のお手伝いするわね」
そういって楯無は接客をしだしました。
とりあえず、黛さんの召集に応じましょう。
まず一人目はセシリア。
「わたくしが一夏さんとツーショットと言うのは、やはりいけないような……」
おそらく、私のことを気にしているのでしょう。
「構いませんよ。 それに、黛さんも納得しないでしょうし」
「もっちろん! やっぱり本妻の余裕と風格よね!」
そんな感じでシャッターが切られた。
二人目はラウラ。
「お兄様と私とでは身長差がありますね」
「確かにそうだな。 んー、あまり時間をかけるのも悪いし、ラウラ、抱えるぞ」
「え? あ、はい」
一夏はラウラの両脇に両手を差し込んで、ひょいっとラウラの身体を持ち上げる。
ラウラは小柄ですし、一夏は力もありますから余裕そうですね。
三人目はシャルロット。
「黛先輩。 お店もあるので早くしてくださいね」
「オッケー」
シャルロットが黛さんを急かして即終了。
四人目は箒。
「こ、このような格好の写真が残るのは避けたいのだが……」
やっぱり渋りますね。
まあ、箒ですしね。
「仕方が無いだろ。 皆撮ってるんだし、お前だけ撮らないってのは駄目なんじゃないのか?」
「そ、それはそうだが……」
「もう諦めようぜ。 どうせ言っても無駄なんだし」
一夏がそう言うと、黛さんはもちろんと言いたげに拳を握って親指を立てる。
そんなこんなで箒も諦めて写真が撮られる。
最後は私みたいですね。
「うん、やっぱり織斑君とアインツベルンさんのツーショットが一番よね!」
ならば何で撮ったと言いたげな箒。
まあ、そう言いたいのはわかります。
「やっぱり何度見ても似合ってるな」
「ありがとうございます。 でも、まさかこれを着て働くことになるとは思ってもいませんでした」
「ははは。 確かに、ウリアはメイドっていうよりお姫様だからな」
「そうですか? 一夏も似合っていますよ」
「ありがとな」
全員分のツーショット写真を撮り終わると、黛さんはほくほく顔で何度もカメラのプレビューを眺めていました。
「や〜。 一組の子は写真映えして良いわ。 撮る方としても楽しいわね」
「薫子ちゃん、あとで生徒会の方もよろしくね」
「もっちろん! この黛薫子にお任せあれ!」
ドンと胸を叩いて答える黛さん。
なぜ文化部なのにノリが体育会系なんでしょうか?
「さ、一夏君にウリアスフィール様。 ここは私が手伝っていますので、校内を回ってきてください」
楯無がさっき言っていたことを言ってきた。
「え、いいんですか?」
「はい。 そのために来たので」
「いや、でも、俺とウリアが抜けたらクラスメイトからお叱りが来ると思うんですけど」
「そこは私のほうで誤魔化しておきますので」
確かに楯無は人気もありますから大丈夫だと思いますけど、人気ツートップが抜けるのは流石に難しいのでは……。
「少しなら行ってきていいよー」
それを訊いていた生徒がそう言ってきたので、私たちはその好意に甘えることにします。
「私も生徒会の企画があるので、そう長くは出来ませんが、抜ける際にはご連絡させていただきます」
「わかりました。 では、私たちは少し抜けますね」
私はそう言って、一夏と一緒に教室から抜ける。
一夏は執事服の上着をいつの間にか脱いでいました。
「あ、織斑君とアインツベルンさんだー」
「ねー、どこ行くのー? 休憩?」
「まあ、そんなところ」
返事をしながら正面玄関へと向かいます。
私と一夏の招待券は弾さんと蘭ちゃんにあげたので、その出迎えです。
お父様たちなら企業関連の重役として来れるので、二人に渡したのです。
「ちょっといいですか?」
会談の踊り場で後ろから声をかけられた。
「はい?」
「私、こういうものです」
「えっと……IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・巻紙礼子……さん?」
「はい。 織斑さんにぜひ我が社の装備を使っていただけないかなと思いまして」
またその話ですか。
一夏は全て断っていると言うのに、しつこいですね、ほんとに。
「お断りします。 俺は今の武装で十分です。 これ以上増えても邪魔になるだけなので」
一夏の戦いは、リグレッターとの特訓で確立しています。
新しいものが増えたところで、邪魔になるだけなんです。
それに、白式が拒んでいるので、無駄なんですよ。
「では、俺たちはこれで失礼します」
そう言ってなおも交渉してくる巻紙さんを無視して待ち合わせの場所へと向かう。
にしても、あの人はあれでばれないと思ったのでしょうか?
あの人、完全に一夏狙いじゃないですか。
Side〜ウリア〜out