小説『IS インフィニット・ストラトス 〜銀の姫と白き騎士〜』
作者:黒翼()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第六十八話『接触』



Side〜一夏〜

翌日の昼時。
俺は、簪さんがいる四組へ向かわなければならない。

「一夏、一人で行くんですか?」

ウリアは俺に話しかけてきた。
ウリアはやることも知ってるし、協力してくれるって言ってくれている。

「まずは俺一人で行くよ。 ウリアの力も借りると思うから、その時は頼むな」

「はい、わかりました」

別の女子と仲良くなろうとしているのに、よくこんなに堂々と認めてくれるよな。
普通がどうかはわからないからはっきり言えないけど、ウリアは俺を信じてくれている。
俺が別の誰かに靡かないって。
……ホント、いい女だよ、ウリアは。

「あれ、お兄様? 今日はお姉様と一緒には食べないのですか?」

俺が四組に向かおうとしたら、ラウラが聞いてきた。

「ああ、そうなんだ。 ちょっと野暮用があってな。 ウリアもわかってくれている」

「そうなのですか。 お姉様がわかっていらっしゃるのなら構いませんが」

「じゃあ、俺はちょっと急ぐからまたな」

ラウラには悪いけど、出来るだけ話す時間が欲しいからな。

「あ、はい。 呼び止めてしまい、すみませんでした」

「いや、いいさ。 じゃあな、ラウラ」

「はい、また」

いい妹だよな、ラウラは。
……俺の周りにはいい女性が多いな。
さて、俺も行かないとな。
俺は邪魔も無く、すぐに四組に辿り着けた。

「ああっ! 一組の織斑君だ!」

「え、うそうそ! 何で!?」

「よ、四組に御用でしょうか!?」

うわ、俺が来たのが知れた瞬間、一気に人が集まってきた。
ウリアと付き合っているとはいえ、男一人の人気は高いのか?
まあいいや。

「あのさ、更識さんっているか?」

「「「え……」」」

女子一同の声がハモった。
あー……こうなるか……。

「更識さんって……」

「『あの』?」

女子の壁が開き、その直線上、クラスの一番後ろの窓側の席にいた、簪さんはいた。
購買のパンを脇に避け、空中投影ディスプレイを凝視しながらその手はひたすらキーボードを叩く彼女が。

「………………」

(写真じゃ暗いってイメージだったけど、実際見るとそうでもないな)

俺がそんなことを考えていると、女子の一人が呟いた。

「えっと……もしかして、朝のSHRで説明された、専用機持ちのタッグマッチの相手として更識さんを選んだとか?」

「ん? ああ、そうだけど?」

俺がそう言うと、波紋が広がった。

「アインツベルンさんは!?」

「ウリアは出ないんだよ。 だから俺は更識さんを選んだんだ」

さらに広がる波紋。

「え……。 だってあの子、専用機持って無いじゃない」

「今までの行事、全部休んでるしさぁ」

「それに、あの子が専用機を持っているのってお姉さんの―――」

「訂正しろ」

俺は、女子たちに対してそう言った。

「訂正しろ。 俺も詳しく知っているわけじゃないから強く言えないが、更識さんのことを、更識さんの努力を馬鹿にするな」

俺は、たとえいくら結果が出なくても、努力をする人を馬鹿にする奴だけは許せない。
簪さんのことに関して、俺はウリアと楯無さんからしか聞いていない。
だが、それだけでも、簪さんが努力しているのを知った。
だから俺は純粋に彼女を手伝いたいと思ったし、ペアを組みたいとも思った。
楯無さんの頼みじゃなくても、俺個人が、彼女を応援したくなった。
だから俺は、更識簪という一人の少女の努力を絶対に笑わない。

「俺は努力する人間を知りもしないのに馬鹿にする奴は絶対に許せない。 それだけは言っておく」

俺はそう言うと、簪さんのいる席へとまっすぐに向かった。
近くにいた女子に頼んで椅子を調達して、簪さんの正面に断りも無く座った。

「………………」

カタカタとキーボードを素早く打ち続ける音が響く。
彼女が使っているのは昔ながらのメカニカル・キーボードって奴だ。
にしても、タイピング速度が速いな。
束さんには到底及ばないが、相当速いぞ。

「あー……」

ちなみに、彼女の髪はセミロングで、楯無さんとは対照的にその癖下のハネが内側に向いている。
ディスプレイを見る目は人よりも細く、虚ろに見えなくも無い。
顔にかけている長方形レンズの眼鏡が、人を寄せ付けない雰囲気を放っていた。
本当に、間逆な姉妹だな。
はぁ……邪魔したくないけど、仕方ないか。

「初めまして。 織斑一夏です」

まあとりあえず、話かけよう。

「………………」

簪さんのキーボードを叩いていた手が止まった。

「……知ってる」

よかったよかった。
反応はしてくれたみたいだ。
すると、簪さんは立ち上がった。

「?」

それから右腕を僅かに上げてから降ろすと、そのまま席についてキーボードを叩き始めた。

「……私には、貴方を……殴る権利がある……。 けど、疲れるから……やらない」

さっきのはそう言うことか。
専用機のこと、気にしているんだろう。

「そうか。 じゃあ一つ言っておく。 俺を殴ってくれても構わない。 俺はそれを無抵抗で受け入れる。 直接的ではないとはいえ、俺はそれだけのことをしたんだからな」

俺がISを動かしてしまったのがそもそもの原因。
俺が動かしてしまったから、倉持技研は簪さんの機体の開発を放置して俺の白式に取り掛かった。
間接的に、俺は彼女を苦しめてしまったのだ。
だからこそ、俺は無抵抗で受け入れる。
それで少しでも彼女の気が済むのなら、俺はいくらでも受け入れる。

「…………用件はそれだけ?」

少し間があって、簪さんは聞いてきた。

「それはおまけで、本題は別にあるんだ」

「……早くして」

急かされてしまった。

「ああ、すまん。 今度のタッグマッチ、俺と組んでくれないか?」

「イヤ……」

即答だった。
一切考える間もない即答だった。
だが、ここで折れるわけにはいかん。

「そんなこと言わずに、組んでくれないか?」

「イヤよ……。 それに貴方、組む相手には……困っていない……。 それに、私はあの人を怒らせたくない……」

あの人、って言うのはウリアだろうな。
簪さんとも面識あるみたいだし、ウリアが怒ったときの恐ろしさは姉である楯無さんが実際に受けたから、簪さんも知っているだろう。

「そもそもウリアは出ない。 それに、ウリアも知っているし了承もしている。 ウリアのことに関してはあまり考えなくてもいいよ。 更識さんも、ウリアのことを知ってるみたいだし、ウリアの優しさは知っているんじゃないか?」

「……ウリアさんは優しい。 けど、怒らせたら一番怖い……」

「確かにそうかもな。 楯無さんが怒らせて大変なことになったし」

「………………」

しまった、失言だった。
俺が楯無さんの名前を出した瞬間、簪さんは黙って表情を暗くさせてしまった。

「今回の件で、万が一も無いだろうけど、もしもウリアが怒ったなら、俺が守るよ。 ウリアが怒る原因を作ったのは俺でもあるからな。 更識さんは悪くない。 全部、俺が原因だ」

こんな状況になったのも、俺がISを動かしたから。
億が一も無いだろうけど、ウリアが怒ったならそれも俺が不甲斐無いからだ。
だから、簪さんは悪くない。

「更識さんが俺を拒絶したいのもわかる。 俺自身、機体のことについて知ったのはごく最近だ。 だから今まで俺は更識さんに会うこともしなかった。 だからこそ、俺はこの機会に償いたい。 更識さんはそんなことを望んで無いかもしれないけど、俺の気が済まない。 俺が知らないうちに、俺が原因で更識さんを苦しめた。 だから俺は、更識さんのために何かをしたい」

「………………」

簪さんは黙り込んだままだ。
まあ、時間が欲しいよな。

「今日はこの辺りで帰るよ。 また来るな」

俺は立ち上がり、教室を後にしようとする。

「あ、作業の邪魔して悪かったな」

俺は最後にそう言って、四組から立ち去った。

(いい返事、聞けるといいな)

少しでも、俺の気持ちが彼女に届いているといいんだけど……。
はぁ……簪さんのためになること、何かできねえかな……。


Side〜一夏〜out



-70-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




なのこれシリーズ IS (インフィニット・ストラトス) コレクションフィギュア VOL.2 BOX
新品 \2660
中古 \
(参考価格:\5040)