第六十七話『薫子の頼み』
Side〜ウリア〜
「やっほー、織斑君、篠ノ之さん、アインツベルンさん」
二限目終わりの休み時間に、一組に黛さんが現れました。
「あれ、どうしたんですか?」
「いやー、織斑君と篠ノ之さんの二人に頼みがあって」
「頼み? 私と一夏にですか? ウリアと一夏ではなく?」
珍しい?ですね。
「うん、そう。 あのね、私の姉って出版社で働いているんだけど、専用機持ちとして二人に独占インタビューさせてくれないかな? あ、ちなみにこれが雑誌ね」
これはティーンエイジャー向けのモデル雑誌ですね。
それにしても、姉妹揃って似たようなことをしているとは……。
お姉さんの影響を受けたのでしょうか?
「実際言っちゃうとアインツベルンさんにもお願いしたいんだけど、これは流石に二流雑誌の出版社が天下のアインツベルン社の企業代表を雑誌に出せるほどのギャラが出せないんだってさ」
「あ、その程度の理由ですか?」
「その程度って、姉の会社にとっては死活問題なのよ? だって下手のことを書いたらアインツベルン社に潰されるかもって、出版社のお偉いさんが顔を真っ青にして言ったらしいわよ?」
「あー……、私自身そこまで気にしないんですけど、お父様、お母様ならやりそうですね……」
「確かに、ウリアの父さんも母さんも超過保護だからな……」
一夏は夏休みのときにそれを見ましたからね……。
「にしても、この雑誌って、ISと関係ないですよね?」
「ん? あれ? もしかしてこういう仕事初めて?」
「はぁ」
そういえば、そういう仕事の話は聞いたことがありませんでしたね。
「専用機持ちとは本来、代表候補生や国家代表なんです。 国家代表は国の代表、つまり、国民の前に立つ人です。 国民の支持率も必要になってくるので、このようなことをするのです。 国家公認で、アイドル―――といっても主にモデルで、国によっては俳優業も含まれてきますが、アイドル業も国家代表・代表候補生の仕事の一つになるんですよ」
「へえ、流石はアインツベルンさん。 本職は詳しいわね」
アインツベルン社の企業代表ですが、本職は一応まだ学生です。
それと、当主継承しましたが、本格的に私が当主としての行動をするようになるのは卒業してからです。
「ウリアもやったことがあるのか?」
「ええ、まあ。 私はアインツベルン社の顔でもありますから、こういった仕事を全て断るわけにはいかないんですよ。 最近、俳優業もしないかという話も来ていますが、まだやってませんね」
流石に俳優までする気にはなりませんね。
今は、ですけど。
「また今度見せてくれよな」
「はい」
生憎今は持っていないので、見せることは出来ません。
それに、私が出ている雑誌はアインツベルン社の特集であったり、モデルとしてやっているのはドイツでしか売られていませんからね。
まあ、ネットで探せば出てくるかもしれませんが。
「じゃあ、放課後また来るわ。 それまでに決めておいてくれると助かるわ。 じゃあ!」
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、黛さんは颯爽と帰っていきました。
相変わらずフットワークが軽いですね。
☆
「なあ箒。 黛さんが言っていたこと、どうするんだ?」
「断る。 見世物など、私の主義に反するからな」
「やっぱりそうか」
まあ、箒がやるとは到底思えませんからね。
「再びやっほー」
放課後、黛さんが宣言通りやってきました。
「あ、黛さん」
「それでね、取材の件なんだけど」
「ああ、そのことでしたら箒が」
一夏の言葉を遮り、黛さんが言葉を発した。
「じゃん! この豪華一流ホテルのディナー招待券が報酬よ。 ちなみにペアで」
ホテルのパンフレットを一夏と箒に渡した。
「すみません、それでも私は断らせていただきます」
「あー、やっぱり? ダメ元だったんだけど、やっぱりダメだったかー」
「黛さん、代わりと言っては何ですが、私でよければ箒の代わりをしますよ?」
「えっ、いいの?」
「はい。 お父様、お母様にも確認してありますし、国のことも気にしなくて大丈夫です」
箒は元より断るだろうと推測していたので、一応確認しておきました。
一夏は後々日本を背負うことになるでしょうからね。
今の内から慣れておいたほうがいいでしょう。
「織斑君もそれでいいよね? じゃあ、明後日の日曜日に取材だから、この住所にお昼の二時に来てね」
「わかりました」
「それじゃあね〜」
颯爽と去っていく黛さん。
その足取りは、いつもよりも軽かったです。
「すまないな、ウリア」
「いえ、こちらこそ勝手に言ってすみません」
「断るのは気が引けていたのだが、お前が言ってくれたおかげで気が軽くなった。 助かった」
「そうですか? それならよかったのですが」
にしても、今週は簪のこともあり、少々忙しいですね。
Side〜ウリア〜out