第七十話『二度目の接触』
Side〜簪〜
「………………」
IS学園、IS整備室。
各アリーナに隣接する形で存在するその場所は、本来二年生から始まる『整備科』のための設備。
私は一年生だけど、そこに入浸っている。
「……格駆動部の反応が悪い。 どうして……」
私は未完成の私の専用機『打鉄弐式』を完成させようと作業しながら、まったく別のことを考える。
いつもならこんなことはしないのに、どうしても考えてしまう。
昨日やってきた織斑一夏。
私の尊敬するウリアさんの恋人で、私の機体開発が止まった原因。
「……集中出来ない」
作業をしたいのに、考えてしまって集中出来ない。
これじゃあ、間違いが増えるだけだろうからやるだけ無駄。
まったく、いい迷惑よ。
(帰ってアニメでも見よう……)
私の密かな趣味。
それは、古今問わずアニメを見ること。
ジャンルは決まってヒーロー・バトルもの。
悪を主人公が打ち倒す、そんなシンプルさが大好き。
(今日は何を見よう……)
そんなことを考えて整備室を出ようとしたときだった。
「やあ」
自動ドアが開いた先に、その手に缶ジュースを持った織斑一夏がいた。
「……なんでここにいるの」
「ウリアがここにいるだろうって教えてくれてな。 作業の様子を見に来たんだ」
どうして私の作業を見に来るんだろう?
ウリアさんの差し金?
というより、ウリアさんはどうしてそこまでするんだろう?
「とりあえず、紅茶とぶどうジュース、どっちがいい? 手ぶらで来るのも気が引けたから買ってきたんだが、正直何がいいかわからなかったからこれにしたんだが」
「……じゃあ、ぶどうの方……」
織斑一夏は私にぶどうジュースの缶を渡してきた。
私はそれを受け取る。
「なあ、更識さん」
「……何?」
織斑一夏は何か思いつめたように切り出してきた。
「何で一人でやろうとするんだ? 良ければ、教えてくれないか?」
「貴方に教える必要は無い」
「そっか……。 じゃあ、俺からは一つだけ言うな」
詳しくは聞いてこなかった。
「一人で何でも出来る人なんて、この世に存在しない。 どんな天才だって、誰かの助けを受けずにやることなんて、出来はしない」
この人の、私のことを思ってくれる気持ちは嘘じゃない。
私は演技がどうかとかはわからないけど、この人は本心で思っている。
初めて来た時に言ったことも、今言ったことも、全て嘘偽りの無い本心だと、私は感じた。
「それはウリアだって、楯無さんだって例外じゃない。 人間は完璧じゃない。 そして、完璧な人間もいない。 人間は、互いに欠点を補い合っているからこそ成長できる。 俺は、そう思っている」
「………………」
……そんなこと、わかってる。
この世界は現実で、アニメみたいに完璧な人間がいるわけが無いことも、わかってる。
それでも私は、気にしないことなんて出来ない。
私は、そんなに強くないから。
「機体の完成を一人で頑張るのもいいけど、誰かに頼るってことをした方がいいと思うよ。 ウリアになら、俺から頼んでみる。 まあ、決めるのは更識さんだから、考えてくれるとありがたいかな。 んじゃ、俺はこれで戻るな」
彼はそう言うと去っていった。
ウリアさんが協力してくれるのは、とても心強いし頼りになるけど、私はそれを素直に受け入れることは出来ないでいた。
それは、彼への拒絶なのか、それともウリアさんへの嫉妬なのか、それとも別の理由かもしれない。
何が原因かはわからないけど、今は受け入れる気にはなれなかった。
……気持ちの整理が出来たら、受け入れることが出来るのかな……?
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