第七十一話『取材』
Side〜ウリア〜
「さ、行こうぜ」
「はい」
日曜日。
私と一夏は、黛さんの依頼の取材のために、街へと来ていました。
もちろん私服で、今回は待ち合わせはしていません。
今回はデートではなく、取材が目的ですからね。
まあ、取材が終わって時間が余れば、そのままデートにしようかとも考えていますけどね。
ですけど、きっと出来ないんでしょうね……。
「ちょっと寒いな。 ウリア、大丈夫か?」
一夏は私を見ながらそう言ってきました。
「大丈夫です。 ドイツの城は一年中雪景色ですから、寒さには慣れているんですよ」
ずっとドイツの城にいた私は、寒さに強いんです。
まあ、日本の夏は厳しいですが、そこは魔術を使えば解決します。
おかげで、夏はそこまで辛くはありませんでした。
「そっか。 それならいいんだ。 でも、寒かったら言ってくれよ? 風邪なんてひかせたくないからな」
「ありがとうございます。 でも、一夏もですよ? 私と違って、寒さにそこまで強くないんですから」
城の寒さははっきり言って、日本の寒さとは比べ物になりません。
城内は暖かいですが、一歩外に出れば白銀の雪に覆われた世界。
とても寒い空間です。
「わかってるよ」
一夏は微笑みながらそう言います。
「まだ時間に余裕もあるし、ゆっくり行こうか」
「そうですね」
私たちは、腕を組んだまま歩みを進めます。
☆
「どうも、私は雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長をやっている黛渚子です。 今日はよろしく」
「どうも。 織斑一夏です」
「ウリアスフィール・フォン・アインツベルンです」
取材のために通された場所は広く、ソファーが三つ、三角状に並んでいました。
「いやー、まさかアインツベルンの企業代表に取材できるなんて、夢にも思っていなかったわ」
「今回はよろしくお願いしますね」
少し緊張していますね。
アインツベルンというのは、やはり大きいのでしょう。
「えーっと、それじゃあ先にインタビューから始めます。 そのあとで写真撮影になります」
渚子さんはなぜか敬語でした。
多分、アインツベルンの企業代表に失礼な態度でいられない、とかそういった理由でしょうね。
「普通に話してもらって構いませんよ。 私はアインツベルンの企業代表だとは言え、一介の高校生でしかないので」
「そ、そう? ならそうさせてもらうわね」
一介の高校生でしかない私に、敬語を使う必要はありませんが、アインツベルンという名が、そうさせるのでしょうね。
「それじゃあ、最初の質問いいかしら? 織斑君、女子校に入学した感想は?」
「いきなりそれですか……」
「だってぇ、気になるじゃない。 読者アンケートでも君たちへの特集リクエスト、すっごく多いのよ?」
「そうですね……使えるトイレが少なくて困りますね」
実に一夏らしい答えでした。
「ぷっ! あは、あははは! 妹の言ってたこと、本当なのね! アインツベルンさん以外興味のないハーレム・キングって!」
確かに、未だに一夏を狙っている人はいますからね。
強ちハーレム・キングというのも間違いじゃないですね。
「何ですか、そのハーレム・キングって……。 俺はそんなつもり無いですし、そもそもウリア以外を愛するつもりは無いですから。 ……ああ、そういうことなら、IS学園に入って正解でしたよ。 何たって、ウリアに再会できたんですから」
「それは私も同感ですね。 おかげで、叶うことはほとんど無いだろうと思っていた初恋が実ったのですから」
「本当に相思相愛なのね。 まったく、羨ましいわ」
微笑ましく私たちを見る渚子さん。
「じゃあ次にアインツベルンさんに質問ね。 世界一と名高いアインツベルン社の企業代表になるほどだから、きっと大変なことをいっぱい経験してきたと思うの。 今までで一番大変だったことって何かしら?」
「そうですね……やっぱりISの訓練ですね。 私は操縦時間もですが、訓練密度も高いんです。 おかげで企業代表になれるほどの実力を手に入れましたが、あれは大変でしたね。 何と言っても、国家代表レベル三人との模擬戦は大変でした。 始めの頃は三人の連係で何度も負けましたね」
今では千冬義姉さんともまともに戦えるだけの力を手に入れました。
「うわー……流石アインツベルン社企業代表ね。 私の想像の遥か上を超える大変さね。 じゃあ、今その三人と戦って勝てる?」
「勝てますよ。 今の私は自分の機体の性能を十分に理解して、私自身も初期のころよりも動けるようになりました。 今では、並の国家代表レベルならば五人同時に相手にしても勝てる自信があります」
でなければ、千冬義姉さんに勝ったと誇ることすら失礼です。
それほどまでに、千冬義姉さんはIS操縦者として、とても尊敬する存在です。
「凄い自信ね。 でも、妹に聞いている通りだったら不思議じゃないわね」
渚子さんは、黛さんからどのように聞いているのでしょうか?
気になりますね。
「じゃあ次。 織斑君とアインツベルンさんってどっちが強いの? やっぱりアインツベルンさん?」
「そうですね。 ウリアの方が強いです。 俺はウリアの足下にも及ばないですし」
確かに、素の技術だけなら私のほうが圧倒的に上です。
模擬戦をしても、私の勝率は100%です。
「織斑君はそう言ってるけど、アインツベルンさんはどう思う?」
「確かに今は私のほうが上です。 ですが、一夏の成長速度ははっきり言って異常です。 このままの速度で成長し続ければ、一年ほどで今の私を越えるでしょう」
「なかなかの高評価ね。 でも、国家代表レベル三人と同時に戦えるほどのアインツベルンさんを超えることが、たった一年で出来るのかしら?」
普通の人なら無理ですが、一夏なら可能でしょう。
一夏の成長速度は異常ですからね。
「出来ますよ、一夏なら。 だって、そう思わせるだけの努力も結果も見せてくれてますから」
「ウリアにそう言ってくれると自信になるな」
一夏は、並の人とは比べ物にならないほどに努力しています。
私もそれに応えて全力で一夏の相手になっています。
そんな一夏が私を越えることは可能です。
ですけど、私だってそう易々と越えられるわけにはいかないんです。
一夏が一年で今の私を越えるのなら、私はさらに成長するまでです。
リグレッターの世界の私が、その世界の一夏よりも強かったように、私もそうありたいんです。
「でもそれだと、悔しいんじゃない? 好きな女の子を守れないのは」
「悔しいですよ。 ウリアを自分の手で守りたいです。 でも、理想だけじゃあ守れない。 現実は甘くないんですよ。 俺はウリアよりも弱い。 それは覆らない事実です。 だからと言って、俺は守ることを諦めるつもりはありませんよ」
「お、言うことが違うわね」
「愛する人は自分自身の手で守りたいと思うのは、男として普通のことでしょう? 俺はお姫様を守る騎士になりたいんですよ。 あらゆるものから守れるような、そんな騎士に」
一夏は恥ずかしがることなく、堂々と言います。
流石の私もこれは少し恥ずかしいです。
「格好いい台詞ね。 それを使って映画でも撮りましょうよ」
指で作った輪っかをカメラに見立てて微笑む渚子さんは、黛さんみたいに生き生きとしてました。
流石姉妹。
「それじゃあ騎士様、戦場での心得をどうぞ」
一夏は渚子さんの無茶振りに、すぐに答えました。
「ウリアの敵は全て俺が斬り伏せる!」
「イエス! 格好いいわよ、男の子!」
やっぱりノリが黛さんと変わりませんね。
流石は姉妹ですね。
「そういえば織斑君とアインツベルンさんって生徒会に所属しているのよね? 楯無ちゃん、イカすでしょ?」
イカすって、最近聞きませんね。
「一つ訂正しますが、私は生徒会に入ってません。 ただ、手伝っているだけです」
私はサポートをしているだけで、生徒会に入った覚えはありません。
「あ、そうなの?」
「ウリアが手伝ってくれるおかげで、俺の仕事も大分楽になってますね。 まあ、ウリアに手伝わせちゃってるのは心苦しいですが」
「それは私が好きにやってることですから、一夏は気にしないでいいですよ。 それに、私が生徒会の手伝いをしてるのはそれだけではないですしね」
生徒会と言えば、楯無がいますからね。
「そういえば、アインツベルンさんが楯無ちゃんを瞬殺したって本当?」
「あーしましたね……思いっきり。 瞬殺で容赦ない蹂躙で、楯無には絶望を、観客にも恐怖を植え付けたことが……」
吹っ切れたつもりでしたけど、やっぱり引いてしまうものですね……。
「すみません、渚子さん。 ウリア、あのことを気にしすぎちゃっていて……思い出すだけで落ち込むんですよ」
「そ、そのようね。 思い出させちゃってごめんなさいね」
「い、いえ、お気になさらず……」
アインツベルンの当主たる者、このようなことをいつまでも引き摺っていては駄目ですね。
当主らしく、強くありませんと。
そんなこんなで雑談交じりのインタビューが終わり、写真撮影へと移るようです。
「それじゃあ地下のスタジオに行きましょうか。 更衣室があるから、そこで着替えてね。 そのあとメイクをして、それから撮影よ」
「え? 着替えるんですか?」
「うん。 スポンサーの服着させないと私の首が飛ぶもの」
そう言って首を手刀で切る仕草をする渚子さん。
「あっ、でも、アインツベルンさんならそのままでも構わないわ。 いくらスポンサーでも、相手がアインツベルン社企業代表じゃあ口出しできないから」
「いえ、ちゃんと着替えますよ」
「そう? それじゃあ、行きましょう」
Side〜ウリア〜out