小説『真剣に私に恋しなさい! 〜 最強の武将の名を受け継ぐ男? 〜』
作者:ラドゥ()

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閑話『未来の武神は歓喜する』


サイド:百代

私の名前は川神百代。

武神・川神鉄心の孫娘にして、武道の総本山、川神院の跡取り娘。
武道家の娘として、今より幼いころから修練を積んできた。

そのことについては文句はない。武道家の家に生まれた身としては当然だし、私自身も強くなる喜びを味わうのにのめりこんでいった。

なにより、強者との戦い。あれは格別なものがある。なんど吹き飛ばされても、なんど叩き伏せられても、それでも私の中の楽しいという感情はなくならず、ますます強くなっていった。

しかし、最近気づいてしまったことがある。。

まだ7歳の私とともに修練している中年の修行僧。彼は何年ここで修業しているのだろうか。彼はなぜ、









『自分より弱いのだろうか?』





そう、本来なら武のエリートと呼んでもいい、川神院の修行僧たち、その修行僧たちの実力を、自分は齢7歳にして超え始めてしまった。今では修行僧でもトップクラスの人間でしか、私の相手は務まらなくなっていた。

しかし、それも後数年で超えてしまうという確信が私にはあった。

敏捷性、瞬発性、筋力、持久力、反射神経、そして気の総量。武神の孫としての血は、あますことなく私の体の中にあったからだ。

今はまだいい。まだ修行僧の兄弟子たちでも私の相手はできるし、師範代の猛者たちに総代のジジイもいる。だが、五年後は?十年後は?

それは生まれながらにして最強の名を約束された武神。それゆえの孤独。彼女はそれが将来的に自分を襲うことがわかっていたのだろう。

故に彼女は焦っていた。

自分についてこれるものはいないのかと。

故に彼女は飢えていた。

自分と対等に戦えるものはいないのかと。

だから彼女は恐れていた。





自分は一人になるのではないかと。






そんな思いを抱えて修練の日々を送っていると、



「他流試合?」

ジジイの部屋に呼び出されて申し渡されたのは、他流試合の話だった。だが、その手の話だったら、特にめずらしくもない。
川神院は武道の総本山と呼ばれているため、世界中の腕自慢たちが挑戦してくるのだ。もっとも、そのほとんどが修行僧にすら勝てない腕なのだが・・・。

しかし、他流試合に私自身はまだでたことがない。実力うんぬんの前に、私自身の年齢がまだ一桁台であるため、「川神院では子供しか戦えないのか。」と、川神院が軽くみられる。もしくは、相手に対して非礼にあたるという理由からだ。
少なくとも川神院で準師範代クラスの実力にならないと他流試合の場には立たせてもらえない。そのはずである。

なのに、

「私がか?」

「うむ。」

ジジイが頷く。いったいどういうことなんだ。とりあえず、どんな相手か聞いてみるか。

「ジジイ一体どういう相手なんだ?」

「子供じゃ。」

・・・・・・は?

「こどもお?」

ジジイの言葉にすっとんきょうな返事をしたのは、川神院で師範代を務めている釈迦堂さんだ。もう一人の師範代である、ルー師範代も釈迦堂さんのように声はだしていないが困惑しているようである。

「総代、冗談きついぜ?百代の相手はトップクラスの修行僧でも最近きつくなってんだ。子供に百代の相手が務まるかよ。」

そう、私は今まで、川神院の跡取りとして厳しい修練を積んできた。そりゃあ、他人より才能はあると思うが、少なくとも同年代には敵はいないと思っている。

普段は釈迦堂さんと、その武術に対する姿勢から反発しあっているルー師範代も同感とばかりに頷いているし。

しかし、ジジイもそれは予想の範囲内だったらしく、気にしたようすはない。

ルー師範代がさらに言葉を紡ごうとしたとき、ジジイが呟いた。

「それが『鬼神』の息子だとしても、かのお?」

「「つ!?」」

師範代の二人の空気が変わった。

な、なんだいったい。

困惑している私を放置して、二人はジジイを問い詰める。

「て、鉄心様!鬼神とは、あの篠宮奉山殿のことでいいのデスカ。」


「ふぉふぉふぉ、わしは少なくとも、それ意外に鬼神と呼ばれているものはおらんよ。」

「こいつは、驚いた。あの人に息子がいたなんて知らなかったぜ。」

「そういえば釈迦堂は奉山ちゃんとは面識があるのじゃったのう?」

「いえまあ、やんちゃしてたときに完膚なきまでに叩き潰されましてね?あの容姿とあいまって、忘れられませんよ。」

「ふぉふぉふぉ、それもそうじゃのう。奉山ちゃんはいんぱくとのある見た目じゃからのう。」

「ふうむ。それが本当なら確かに百代の相手が務まるかもしれないネ。」

ええい!私を置いてけぼりにするな!!

「おいジジイ!いったいその奉山というのは誰なんだ。私にわかるように説明しろ!!」

「ジジイとはなんじゃ、ジジイとは!そういえばモモには話したことがなかったのう。」


そうしてジジイは篠宮奉山のことについて話しはじめた。

曰わくジジイにはライバルと呼べるものが二人いて、

一人は『ヒューム』。ジジイと表舞台で最強の座を争った男で、今は日本三大名家の一つ、【九鬼家】に仕えているという。

そしてもう一人が話にでてきた『篠宮奉山』であるらしい。

彼は呂家という武術家集団の一員で、その集団とは、簡単にいえば「流派の枠を超えて最強の武術家を目指す」という集団であり、奉山はその呂家のトップ、「奉先」の称号を持つ武術家であり、その実力は裏世界最強といわれているという。

私はそれを聞いて喜んだ。
まだみぬ猛者の話を聞いたのもそうだが、それほどの武人の息子ならば、もしかしたら、・・・・・







私はその試合を受けた。






そして試合当日。私は修練場で待っていろといわれていたがまちきれず、大きな気の気配を感じたので、その気配にむかっていった。

そこにいたのは予想以上の存在だった。

一人は色黒の肌をした筋骨隆々の男。女言葉を使っていて少し気持ち悪かったが、その立ち振る舞い。釈迦堂さんを圧倒する威圧感から、そいつが噂の篠宮奉山だということがわかった。

(そして・・・)

その側にいたのが、あいつが篠宮四季なのだろう。

近くで観察してみた結果、







予想以上だった。


重心、配置の取り方、筋力バランス等々。

気の総量も申し分ない。

見た目は優男だが、間違いない。




こいつは私の同類だ。

強者に生まれた人間だ。



そして今、私は修練場でそいつとむきあっている。

そいつは両手を脇に置き、ただ立っているように見える。

初めは舐められているのかと思ったが、相対してみて初めてわかる。

(攻撃が通るイメージが沸かない!?)

そう、いつもなら攻撃が通るときはしっかりそのイメージが沸くのに今回はそのイメージは沸かなかった。





ニィィ

思わず顔に笑みが浮かぶ。

(これだ、これを待っていた!)

私を包む感情は歓喜。

体中の血が燃えているようだ。

ふと、四季のほうを見ると、






ニヤリ

奴も嗤っていた。

嬉しそうに。

楽しそうに。

私と同じように。

ハハハハ。そうか、お前も私と同じか。

何故だろう。心が温まる。

孤独じゃないということがこんなに嬉しいことだったとは。

「両者構えい!!」

ジジイの声が聞こえ、私も構える。

四季も例の構えない構えをしている。

その隙が有りそうで無い構えを見ると感情が高ぶるのを感じる。

奴はどんな技を魅せてくれるのだろうか?

奴はどんな力を魅せてくれるのたろうか?

まあいい、直ぐにわかることだ。


「東方!川神百代!!」

「おう!!」

ジジイの呼ぶ声に気合いを入れて答える。



さあ篠宮四季。


「西方!篠宮四季!!」

「はい!!」




私と真剣で、


「それでは、しあいいいいいいいい、かいしいいいいいいい!!!」



死合おうかああああああ!!


今川神院で、未来の『武神』と『戦鬼』がぶつかり合った!!

-7-
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