小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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 既に『答え』の出ている式を繰り返す。
 
 それこそ、まるでプログラムで設定された『答え』がずっと出てくる空白の式。

 どれほど難しい公式を当てはめたところで

 どれほど簡単な足し算を当てはめた所で

 ずっと『答え』は変わらない。
 『答え』を変える事は出来ない。

 自身で決めた筈の『答え』が気に食わなくて

 また式に斜線を引く。

 愚かにも、『答え』はずっと決まってる筈なのに

 肯定から生まれた『答え』。
 その『答え』を否定し続ける式。

 それでも自分は否定する事しか出来ないのだから。


◆◆



「あれ?ユウちゃんが私達の家に居るなんて珍しいね」

 読んでいた資料から少し目を離して声の主をチラリと見る。
 鏡合わせの様に手を繋いだ二人に少しだけ苦笑して肩を竦める。

「読みたい資料があってな。迷惑か?」
「ううん。大丈夫だよ」
「夕御飯作ってくれたら許したげる」
「アリシアぁ…」
「ふむ、では腕に縒りをかけよう」
「やった!」

 両手を上げて喜ぶアリシアとその手と一緒に片手が上がってしまったフェイトを見て、次は隠さずに苦笑する。
‐可愛いな
‐愛でたい
‐もうロリコンでいいや
‐ロリータコンテスト
‐お巡りさんを呼ぼう
 カット。思考が何処かへ飛びすぎた。

「で、何を読んでるの?」
「ん?ァー……とある計画の原本、正確にはその写本とでも言うべきか」
「ふーん……だってさ、フェイト」
「なんで私に振ったの!?」
「ふふーふ、そういうことだよ。ねぇユウちゃん」
「……まぁ、そういう事だ。諦めろ、フェイト」
「ユウまで!?」
「なんなら、今はいないアルフとプレシアの了解もとってみるか?」
「そこまでしなくていいよ!!」

 プンスカ、と怒るフェイトを見ながらクスクス笑う俺とアリシア。
 読んでいる内容は『FATE』の作成方法。正確に言うなれば、『フェイト』の出来上がり方を読んでいたのだ。フェイトには、あんまり言いたくない。
 そういう事を珍しくも察してくれたアリシアの機転により、プンスカ怒っていたフェイトは自室へと移動した。

「…なんで今更そんなモノを引っ張りだしてるの?」
「必要だからに決まってるだろ」
「……誰かを蘇らせるつもり?」
「蘇らせる……なんて考えてないさ。出来るのなら既にしてる」
「そうだよね。私を蘇生させたのはユウちゃんだし」
「俺じゃないさ。アレはプレシアの御蔭だよ」
「お母さんも、ユウちゃんも、すごいよ……本当に」

 少しだけ下に視線を向けて溜め息を吐き捨てられる。
‐落ち込む内容なんざないぞ?
‐泣かせたか
‐やーい!!なーかしたー!!
‐ナーガしたー!!
‐神様が下敷きに
 カット。蛇皮の下敷きなんざ使えもしない。精霊を殺すのも気が引ける。

「同じ世界を見て、ようやくどれだけ遠いかわかったよ」
「手を伸ばせば届く距離だろ」
「そっちからは簡単に伸ばせるよ。こっちから伸ばすのは、ちょっとね」
「……そんなモノか?」
「ユウちゃんにもそう言う時期があったと思うんだけど……?」
「ァー……まぁわからんでもない。というか俺でも届かない存在はいたな」
「ね?」
「確かに、追いつけないな」

‐ずっと近くに居たはずなのに
 カット。
‐ずっと師事できる筈だったのに
 カット。
‐ずっと先にいる筈だったのに

「カット」
「え?」
「いや。まぁ、なんだ、目標があっていいことじゃないか。それこそ目に見える目標で」
「そういうモノなの?」
「知らん。目標が先にありすぎて、学んでも学んでも足りない俺に聞くな」
「それは…途方もないね」
「途方に暮れたいね」

 途方に暮れる事が出来たなら……いや、途方に暮れる事など許されない。
‐思考を停止させるな
‐考えろ
‐考えろ
‐考えろ
‐ソレが彼女の教えだろう
 あぁ、そうだ。途方に暮れるならば、ソレは死ぬ一瞬前だけでいい。

「とは言っても、その目に見える目標が同い年なんだけど……」
「近くて、遠いよ。ふむ、亜空間に目標を設置だなんて、中々にカナカナ」
「ヒグラシの鳴き声は関係ないよ」
「語呂はいいだろ」
「そういう問題?」
「そういう問題」
「あっそ」

 そうしてアリシアはクスリと笑って、息を吐く。
‐吹っ切れたか
‐どうだろうか
‐偽りかもしれんぞ
 まぁそれならばソレで構わんさ。
 ふとアリシアの視線が俺の少し上で止まる。その視線を辿れば恐らくフェイトとの部屋があるのだけど。
 体ごと捻り、後ろを向けばフェイトが扉からコッチを覗いていた。

「……」
「……」
「……」

 沈黙。
 いや、暗い感じではない。どちらかと言えば三人全員が呆然としているというか。
 そんな中、フェイトがひょっこりと顔だけを出す。

「……えっと、難しい話は、終わった?」
「……」
「……ッアッハハハハハハハ!!フヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」
「アリシア!!笑わないでよ!!」
「ムリッヒヒヒヒヒヒ!!」
「笑いすぎだろ……ふひ、」
「ユウ!!」

 またプンスカと怒り出すフェイト。
 数分話していた俺達とは違い、フェイトは一人だった訳で。その数分でさえ寂しくて、でも怒った手前出ようにも出れなくて。
 結果的に難しい話を終わるまで待っていたのだろうけど。その姿を思い浮かべると、なかなかどうしてシュールに写ってしまった。
‐一人で悩むフェイトたそペロペロ
‐出ように出れないフェイトたそカワユス
‐もうロリコンでいいな
‐もうロリコンだ

「随分と賑やかね」
「おかえり、お母さん」
「母さん!!聞いてよ!!」
「えぇ、アナタの言葉なら一から全までは聞いてあげるわ」
「プレシア、荷物どこに置けばいいのさ」
「部屋にでも置いておいて」
「荷物持ちとはご苦労だな、アルフ」
「正確には研究の手伝いなんだけど……やってる事は間違ってない分言い返せない!!」
「アリシアとユウが虐めてくるの」
「アリシア、可愛いフェイトを虐めたくなるのは分かるけど加減を覚えなさい」
「はーい」
「ガキ、焼き殺すわよ」
「あれ?なんだろうか、この扱いの違いは……」
「ダメだよ!お母さん!夕飯が無くなる!」
「なんだい、今日はユウが料理するのかい?」
「そういう事になってる」
「安心しなさい。コイツが亡くなっても、私が夕飯を作るから、無くならないわ」
「じゃぁ大丈夫だね!」
「なんだい、ユウが料理されるのかい」
「そういう事になりそうだ」

 これは、笑ってる場合ではないかもしれない。



















「で、研究ってのは?」
「アナタが出した魔法の解析よ。殆どは」

 頬を上気させながら、一口ワインを飲み込んだプレシア。数分前になるが、双子は布団で眠っている。
‐よし、添い寝しよう
‐残念、番犬がいる
‐省エネ状態だろ
‐なんだ問題ないな
 カット。目の前に問題がある。

「そいつはご苦労なこって」
「死ぬなんて、嘘なんでしょ?」
「さてね。どうだか」

 肩を竦めて、睨みつけてくるプレシアをはぐらかす。

「どうしても、アナタがそこまで死にたがるか分からないの…」
「……似たようなモノだよ、アンタと」
「……なら似たような結果に出来るんじゃないの?」
「プレシアはアリシアを試験管の中へ、俺は自身の中に入れてしまった。違いはそれだけさ」
「それだけで、そこまで違うのね」
「まぁ違いを言ってけば色々出てくるんだけどな。コレが全ての原因って訳じゃないし」

 少しだけ不貞腐れてみる。
 どうしようもない、どうする事も出来ない。

「……原因の一部に、ソレは?」
「アンヘルは関係ないさ。いや、どうだろうか?」
「どうなのよ」
「関係ない、とは言い切らないが、関係はある、とも言えない」
「煮え切らないわね」
「煮え切ったら鍋に穴が空くだろ」
「そうね。新しく水を入れるのは面倒ね」

 そうして、また一口。

「ねぇ、一つだけお願いしていいかしら?」
「残念、今はやめてくれ。コレが終わったら何でも聞いてやるさ」
「ソレが終わったら、アナタは死んでるんでしょ?」
「俺は死んでるだろうな」
「……まぁ死なせないからいいわ。全部終わってから」
「怖いな、まったく。まぁ死んでなかったら聞くさ」
「絶対よ?それこそ、逃げるのは許せないから」
「はいはい、酔っ払いの戯言程度に聞いてやるよ」
「酔って無いわよ」
「寄ってきてるから言ってるんだ」
「アナタが寄ってるんでしょ?」
「年齢を、いや、ホントすいません何でもないです」

 先程の睨みではなく、笑顔に変わったプレシアから視線を外す。
 今、目を合わせたら死ぬ。確実に、死ぬ。

「まぁいいわ。お酒もこれだけにしましょ」
「あんまり飲み過ぎるなよ」
「呑まれない程度なら構わないでしょ?」
「健康体になったのに…」
「健康体になったからこそよ」

 そうですか。
‐諦めろよ
‐諦めろ
 諦めてしまおう。まぁ付き合わされない限りは、諦めたい。



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〜ロリコン→ロリータコンテスト
見学者は黙って、カメラは持たずに、紳士スタイルで参加すべきだ

〜ナーガ
下半身蛇、上半身人間のインド神話だかの神様

〜ユウの目標とした人
彼女です

〜フェイトの行動
出ようとすると難しい話が聞こえたので思わず扉を閉じる。閉じてしまった事で出るタイミングを逃す。アウアウ言いながら悩む。悩んだ結果、話が途切れたら出よう!と決心。途切れるまで観察…観察…見つかる。とたんに恥ずかしくなって一度引っ込んでから、ゆっくりと顔を出す。思わず本音を言う。
可愛い(断言)

〜煮え切った鍋
空鍋を火に掛けるなかれ

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