小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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―ふむ、どういうことだ?

 声の主は誰かに魔法を教えながら呟いた。

―私が研鑽を積んだ解析魔法をこれほど早く習得するとは
―分割思考?マルチタスクの事か
―空戦魔導士は所持前提の代物だ、おい、何を落ち込んでいる

 誰かは頭を抱え、声の主はソレに少し笑う。

―まぁいい。複数の同時解析が出来るのならば話は早い
―ここにある本を全て解析しておけ
―あとそうだ、

 声の主は部屋から出るのか扉に近づく。
 そして何か思い出したように立ち止まり、振り返る。

―今日の夕飯はなんでもイイが、出来ることなら野菜が取れて出汁の美味しい鍋なら私はとても嬉しいよ
―別に鍋にしろと言っている訳ではない。しかし、鍋であって欲しい。鍋美味しい













「うわ、なんやその紙袋は」
「知りたいか?知りたいのなら是非とも手伝って欲しい」
「いや、いいわ」
「そうかい」

 紙袋から課題の一つを取り出しペンを走らせる。
‐考えるモノなら余裕なんだが
‐量が多いのは流石にな
‐右手首が腱鞘炎だなんて
‐年齢が年齢なら何を言われるか
 カットカット。

「で、今日は『夜天の』も一緒か」
「ええ。少し頼みたい事もありましたし」
「頼み?幼女になりたいのなら消費魔力を抑えればいけるぞ」
「それではないです」
「リィンから色々教えられてんけどなぁ、どうしても魔法が使われへんのよ」
「それはイイ事だ。関わらない事はイイ事だ」
「出来る事ならば教えて欲しいなぁ…とか」
「…誰に?」
「ユー」
「ミー?」
「おーイエス」
「シグナムにでも教えてもらえよ。アイツなら手とり足取り何取り教えてくれるさ」
「ナニとりって…」
「魔力の話だ」

 まったく何を勘違いしてるんだか。
‐シグナム相手ならナニ取り教えられたい
‐おっぱいに目が眩んだ結果がコレか
‐大丈夫だ、まだ結果は出てない
‐むしろ教えられた結果より教えられる過程が大事であってだな
 カット。

「別にお前の魔法適正はそれほど低くもないだろうに」
「でも、出来ることならすぐにでも使いたいんよ」
「その心は?」
「歩けたら学校に行ける!」
「……あぁ、そうか。今までは通信教育だったのか」
「そう。リハビリもしてるねんけど、やっぱここは魔法の力でドカーンと」
「ドカーンでお前は学校をどうするつもりだ」
「通学する」
「痛烈な登校風景だな。幻想だ」
「その幻想をぶち殺す!」
「お前の幻想がぶち殺されました」
「あ……」

 少し落ち込んでから車椅子をキコキコと弄る彼女に溜め息を吐く。

「ほら、夕君教えるの上手そうやし、こぅ……歩けたらみんなと同じ学校に行けるやん」
「先に言うが、魔法でできるのは補助だけだぞ?全部魔法任せにすると飛んだ方がいいし、それだと意味もないからな」
「教えてくれんの!?」
「乗り出すな、こけるぞ?」
「その辺りはリィンが抑えてくれてるし、コケても夕君おるし」
「あともう一つ。結構細かい魔法制御になるんだが……」
「心配無用。目の前に()るは誰やと思ってるん?」
「……心肺機能が気がかり過ぎるが…明日の朝、迎えに行くからな」
「了解ー」





「あぁ、『夜天の』」
「どうかしましたか?」
「お前の姫様が怪我しても何も言うなよ?」
「……わかりました」
「ならいいんだが」

 はてさて、どうしたものか。





◆◆

 これはキツい。

「ほら、はやて立て。立って歩け」
「ちょい待って、コレはキツ過ぎるんやない?」
「お前に向かって魔力弾ブチ込んでないだけマシだろ」
「スパルタ!?」

 車椅子を押されて連れてこられたのは早朝の公園。
 まだ寒い時期の地面に私は突っ伏していた。

「お前が歩けない理由その一。足の筋肉量が足りない」
「おぉ…」
「その二、バランス感覚がない」
「うぅ…」
「その三、動くというイメージ形成が甘い」
「……」
「そして何よりもぉ!!」
「もうやめて!私のライフはもうゼロよ!!」

 目の前で立っている彼は言いたい放題である。
 ちなみに私の下には三角の魔法陣が展開していて、魔法の補助も受けている。受けているのだが。

「くそぉ……」
「またブレてるぞ。一度魔力を切って、やり直しだ」
「難しいなぁ」
「慣れれば色々出来るんだがな」

 苦笑しながら私の脇に腕を回して、膝裏にも腕を入れられて持ち上げられる。
 そのまま車椅子にもう一度座らせられて溜め息を吐かれた。

「そういえば、夕君の瞬間移動みたいなモノも同じ魔法なん?」
「似た魔法だ。俺のはミッド式に近いからな」
「近い?」
「……ミッド式の身体強化はどちらかと言うと防御重視の強化…つまり筋力の強化というより反応向上が基礎にあってだな」
「簡単に」
「俺に合わなかったからバラして、新しいのを組み立てた、以上」
「……魔法の事まだ詳しく知らんけど、なんかとんでもない事言われた気がする」
「そうか?」

 そうだろう。
 今まであったモノをわざわざ分解して、自分の都合のいい式にする。
 デメリットが多すぎて何とも言えない。

「俺の魔法は粗方そんなのだぞ?」
「なんかアリシアちゃんの言ってた言葉を思い出したわ」
「アイツ、何言ってるんだ…」
「夕君だから仕方ない」
「酷い言われようだ」

 少し落ち着いた所で意識を集中する。
 歩く。という動作を思い出してしっかりと意識する。
 胸に収まる剣十字に命令を送り、身体強化の術式を指定。
 自分の中にある魔力を少しだけそこに流して、足を地面につける。




「毎度毎度言ってるんだが、魔力は少しずつ流す感覚だ。塊持ってきてんじゃねぇよ」
「すいません。本当に申し訳ないです」
「地面の強化とか不思議な事をするとは思わなんだ」

 倒れている私の後ろにあるのは少しヘコんだ地面。
 夕君曰く、結構な魔力を流した結界だそうで、ヴィータの撃つ魔力弾一発ではビクともしない代物だそうで。

「感覚が、感覚がやな」
「覚えろ」
「覚えてる最中やもん」
「なら魔力制御からするか。どうせあまり器用な事は望んでないし」
「悪かったな、不器用で」
「誰も不器用とは言ってないだろ。器用でもない事を出来ない、とは言ったが」
「夕君がいじめる!!」
「はい、じゃぁ魔力制御するぞー」

 彼は私の話をスッパリと切った。
 もうなんていうか、ゴメンなさい。

「まずは魔力弾…は出せるよな?」
「馬鹿にすんな、そのくらい出来るわ」

 私と夕君の間に魔法陣を出して、そこから魔力弾を出現させる。
 白い光を出すソレに夕君は納得したように頷き

「バカだな」

 ダメだしをした。

「魔力を無駄にしすぎだ、馬鹿者」
「これでも結構制限して出してるんやで?」
「もっと制限しろ。眩しい」

 夕君の足元から出てきた、朱色の弾が私の白い弾を貫いて、そこに留まる。
 同じ術式から出てきているというのに、私が出したモノよりも光が弱い。

「お前が歩くのに必要な魔力はこの程度でいい」
「……そんな小さくてええの?というかどれだけ制限しろと…」
「俺をスポイトで例えるならお前は消火栓みたいなものだからな」
「あれ?それ無理やない?」
「やれ」
「いや、だから」
「歩きたいんだろ?やれ」
「……はい」

 落ち着け、落ち着いてやれば大丈夫な筈や。
 深呼吸して魔力弾を出現させる。瞼を閉じていてもわかるほどに眩しい。
 そこから魔力の弁をゆっくりと閉じていく。ゆっくり、ゆっくりと。
 そして、瞼では分からない程に光が収まり、ゆっくりと瞼を上げる。

「本当に、向いてないな」
「改めて言わんでも自分で理解してるもん!!」

 朱色の弾の横には何もなかった。

「ここまで向いてないとは思わなかった」
「……笑えばええやん」
「アーッハッハッハッハッハッハッ」
「なんてイラつく棒読みな笑い……」
「まぁ冗談は炉端に放置しよう」
「草場の影から失敗がチラつくとか勘弁して欲しいけどなぁ」
「そんなはやてさんに裏技を紹介してやろう」
「裏技がアルヤテー!?」
「というか、はやて専用裏技だな」
「あー、うん。なるほど、わかった」

 夕君が後ろを向き、そちらを向くと一本の木があった。
 その木の端に銀色が見えていて思わず和んでしまった。

「リィン、出てきてええよ」
「主!大丈夫ですか!?」
「うん、たいした怪我はないしなぁ」
「ということで、裏技さんです」
「う、裏技さんです!」
「わざわざノらんでもええんよ?」

 顔を真っ赤にしてなかなかに可愛いけど。
 そんなリィンは赤くした顔で夕君を睨んでるけど、夕君はどこ吹く風。

「裏技さん、わかった、睨むなよ『夜天の』」
「さすがの私でも怒りますよ?」
「はいはい。まぁ『夜天の』が魔力制御すれば万事解決」
「あぁ、なるほど」
「しかし一つ問題。髪色やら瞳の色やらが変わりすぎる」
「おうふ」

 まさかの問題に思わず声が出てしまう。
 つまり、リィンを使って歩けはするけど学校にはいけないと?

「慣れるまでの、まぁ松葉杖だと思えばいいさ」
「主の為ならなんでもします」
「なんやろ、めっちゃ勿体ない事をしてるような気がする」
「気のせいだ」
「気のせいですよ」

 そうなのだろうか?
 二人が言ってるからそうなのだろうが、どことなく勿体ない気がしてならない。






***************************
〜紙袋
 前回の夕君のオチ

〜ナニとり
 ○○だと思った!?残念!魔力でした!!

〜その幻想をぶち殺す
 音速で飛んでくるコインに反応して受け止めれる程度の反応速度を持つ【普通の】高校生の決め台詞

〜そして何よりもぉおお!!
 速さが足りない!!

〜ロストロギア松葉杖
 まさか【闇の書】を託したあのオジサマもこんな使い方をされるとは思わなんだ

〜アトガキ
 『夜天の』の言葉使いが不安定すぎる。丁寧語な方が安定しました。でも主はやてがいない時は、いつもの高圧的なアッチに戻ります。なぜか?私の趣味です。

 そろそろネタ回収の旅に出ないと枯渇しそうです。でも回収の旅に出た後はなんか
「猫毛布?あぁ、いい奴だったよ」
 みたいな感じで何処かへ消えて、新しい何かを書きそうなので、カラカラ乾きながら頑張ります。

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