小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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シリアス回
シリアルかい?何処かへ、そう貝になりたいだとかで海へ帰ったよ


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「よぉ、『夜天の』」
「体の調子は?」
「生憎に十全。今までとなんら変わりはないさ」
「そうか…そのくせ学校は休んだのだな」
「気持ちが悪くてな」
「鏡でも見たのか?」
「それほど酷い顔はしていないさ」

 尤も、鏡を見たら殺したくなるのだけれど。
‐尤も今はセネターの背格好だが
‐補導は勘弁願いたい
‐不備はない
‐不義もない
 カット。不義だらけさ。

「して、私に用事とは?」
「まぁ落ち着けよ。珈琲でも頼もうじゃないか」
「……あまり、長い話は好みではないのだがな」
「そういうなよ」

 近くにいたウェイターに珈琲を頼み、銀髪の彼女に目を向ける。
‐兎みたいだな
‐銀兎か?
‐バニースーツでも着せるべきか
‐術式構成
‐カット
 カット。やめろ。

「話は他でもない。俺の左手に関してだ」
「……いいか、ツキビト。私に答えれることは少ない」
「それでもお前は知っているのだろう?」
「知っている。が、教える気にはならない」
「……その理由は?」
「お前を殺したくない」
「今更何を言うんだ、この道具は」
「道具だからこそだ」
「道具なら修理した人間のいう事を聞かないか」
「優先順位は主の方が先だ」
「どうしてソコにはやてが出てきた」
「……」
「まぁ構わんがね」

 タイミングよく珈琲が出てきたので、ソレを一口飲む。
 対して銀髪の彼女も、カップを傾けて眉を少しだけ寄せてから角砂糖を二つ程カップに投入した。

「よく、こんなモノが飲めるな」
「ちょっとした中毒なのさ」
「それは、非常に残念な事だ」
「残念ながら、残念でもないんだがね」

 残念であるわけがない。
‐前は好んで飲まなかったがね
‐いつの間にか
 これこそが彼女である。彼女だからこそ。

「……どうでもいいか」
「どうかしたか?」
「いや、どうでもいい事を考えていた」
「このタイミングでか?」
「このタイミングだからこそ、どうでもいいのさ」
「私は帰らせてもらうぞ」
「まぁ待てよ。珈琲も冷めちゃいない」
「冷めたモノまで飲ませる気か」
「お前次第さ」

 寄せた眉をもう少しだけ寄せて、彼女は座り直す。
‐椅子になりたい
‐地面もいいな
‐靴になりたい
‐カップはもらった
 カット。

「先にも言ったが、ソレに関して私は何も教えないぞ」
「他のことなら教えてくれるのか?」
「……主の私生活以外はな」

‐ならスリーサイズから聞こうか
‐いやいや、落ち着け自慰の回数からだ
‐おいおい、まずはショーツの色から聞くべきだ
‐履いてるのか?
‐履いて、ない…だと!?
 カット。履いてるだろう。そういう事じゃない。

「感応系の魔法を教えてくれ」
「感応?……私の魔法は対象の意識に潜り込む類のものだぞ?」
「それもかなり強力なヤツだろ?知ってるさ。一度喰らってる」
「……何をするつもりだ?」
「知識として欲しいだけだ。他人や友人達に使いはしない」
「……本当だな?」
「信用がないな。別に構いやせんがね」
「信じていない訳ではない」
「なら、何を戸惑う?」
「…………私は性質上、沢山の人間を触れた」
「おいおい、珈琲が冷めるぜ?」
「冷ましても構わんさ…お前の為だ」
「猫舌じゃないんだがな」
「……話を続けよう。私は人間の本質を知っている。それこそ汚い部分までしっかりとな」
「願望を叶える道具だからな」
「そうだ…。そして、私の蒐集、お前が知っている感応術式はその対象の記憶を漁り、私の中に留める術式だ」
「……」
「私は、お前を知っている。知っている筈なんだ」
「ログは消した筈だろ?」
「違うッ!!」

 『夜天の』は声を荒げて、机を叩き、身を乗り出す。
‐もう少しで唇が!!

「私の管理しているログは、私でしか消せない。それこそ主だけにしか触れれないんだッ!!ソレに、お前が無いのはどういう事だ!!」
「…俺は存在してませんでした、てか?」
「違うッ!!確かにお前は私の中に入った!その形跡はしっかりの残っている!!だがな、お前の記録だけが、お前の過去だけがオカシイんだッ!!」
「……次にお前の言う言葉を当ててやろうか?」
「やめろ、言うな。それこそお前にとっては受け入れがたい筈だ」
「いんや。俺はその事について知っているし、理解も了解も、了承も決意もしているさ」

 彼女は歯を食いしばって、力無く椅子に腰を下ろした。

「俺は、生きていない」
「……違う、お前は生きている。生きているんだ」
「違わないね。生命活動しているが、俺は生きていない。死んでもいないがね」

 少しだけ冷めた珈琲を飲む。苦い。

「………七年か」
「短いだろ?お前と比べ様もないさ」
「私と、比べてくれるな」
「そいつは失礼」

 肩を竦めて珈琲を飲み干す。
‐苦い
‐あぁ、苦い


「……もしも、もしもだ。あの瞬間に」
「やめろ。その話はしたくない」
「……すまない」
「いや、いいさ」
「……お前はいつもそうあらんとしている」
「……そうだな。当たり前だ。当たり前に決まってる」
「当然の事じゃない」
「お前にだけは言われたくないさ」
「人間のお前と、道具の私では差がありすぎる」
「似たようなモノさ」
「…………お前は、途方も無く、愚か者だ」
「ソレも知ってた事さ」

 『夜天の』は肩を落として、瞼を下ろす。

「愚か者め」
「愚かしいよ……なんせ、まだ諦めれてないからな」
「そこではない……お前は、生きている人間なんだぞ?」
「わかってるさ。わかってるからこそ、俺は生きていてはいけないんだ」
「……ッ」

 真っ直ぐに彼女を見れば、息を飲む音が聞こえる。
‐だからこそ、俺は死ななくてはいけない
‐死ぬべきなのだ
‐早々に死ねばいい

「……わかった、教えよう」
「ふむ、意外だな」
「私ではどうにもならないからな…」
「おっと、主への進言はやめてくれよ」
「言えるわけがない。言った結果など、お前の口から偽りが出る程度だ」
「よくご存知で」

 術式の描かれた方陣が彼女の手のひらから出てくる。
‐解析魔法行使
‐解析完了
‐そのままスリーサイズをだな
 カット。

「いやぁ、助かったわ」
「……ツキビト」
「あ?」
「呑まれるなよ?」
「…知ってたなら、さっさと教えればいいものを…」
「私とて、疑問がない訳ではない……確認したいこともある」
「そうかい…まぁ精々頑張るさ」
「お前の無事を願うよ」
「願望増幅器に願われるとは……なかなかに滑稽だな」
「人間に無事を願うとは…滑稽だ」

 お互いにニヤリと笑って、俺は席を立つ。
‐方法は得た
‐あとは情報だけだ
‐あぁまったく

 後ろから先ほどまで話していた声が聞こえた。
 冷めた珈琲はやはり苦かったのだろう。

「まったく……締まらないな」

 次は一人だけで口角を上げて、俺は扉を開けた。

















◆◆

 真っ黒い空間に、俺は立っていた。

 少しだけ朱い何かが俺を包んでいるところを確認すると、夢の影響ではなくて感応魔法によって入った事がわかる。

 あの時と同じように、ザワザワと黒い何かが、俺を侵食していく。

 左手を飲み込み、
 左足を這い、
 右手に伸び、
 右足を包みこんだ。

 黒い線達は俺を見て、そして俺を飲み込んでいく。

 俺はコレ達を知っている。
 知っているからこそ、俺は口を開く。

 いつもの様に。
 いつも唱えている様に。
 少しだけ、謝りながら。

「カット」

 ぶわり、と霧散した黒の線達。
 溜め息を吐いて目的の人物を見つける。

 真っ白い世界に、真っ白いワンピース、真っ白い髪を少し揺らして少女はコッチを向く。
 輪郭がはっきりして、ようやく彼女が白い肌をしている事に気付く。そして彼女は白い瞳をこちらに向けて真っ赤な口を開く。

「はじめまして、お兄ちゃん」
「はじめまして…というのは些かおかしいけどな」
「そう言わないでよ。私に話す事はあっても、私と話した事は無いでしょ?」
「そうか、そうだな」
「そうよ」

 彼女はニッコリと笑って、俺にずっと向いている。
 一方的に話す事しかなかった彼女を目の前にして、俺はようやく会話というモノが出来たらしい。
 ならば、挨拶は大切だ。 

「なら、はじめまして。アンヘル」
「うん、はじめまして。御影夕」





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〜アンヘルタソ
 全てが白い少女、改、アンヘルさん。夕君の救出への種一号。
 基本的には諦観者、力は貸すけど勝手にしてくれ、状態

〜黒い線達
 彼を蝕んでるのはアンヘルだけじゃない事は、完結時に述べた筈です

〜生きていないけど、死んでない
 生命活動はしてるし、自律行動もしてます。でも生きてません、あぁ、ややこしい

〜ショーツの色
 たぶん、白。いや、白だ。きっと白だ。私が言った、今言った。彼女のショー(赤い何かで汚れている

〜夜天の書の感応系術式
 『夢』の話。尤も、私の解釈は間違えてるかもしれませんが、テキトウに脳内補完して頂ければ幸い

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