小説『遊戯王 New Generation』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 「天霊魔導師−アイシスで、トライデント・ドラギオンに攻撃、『天帝滅光破』!」
 「私達の勝ちだ!」


 「どわぁぁぁぁ!!」
 LP200→0


 『決まった〜〜!迦神霧恵の華麗な戦術で、チーム遊戯王此れで決勝トーナメント出場の権利を得た〜〜!』


 中央スタジアムでは、霧恵の華麗な勝利で、遊哉達『チーム遊戯王』が大会の決勝トーナメント出場の権利を得ていた。
 が、そんなサーキットを観客席の影から見ている一組の人影。
 数は…男女の5人組のようだ…

 「相変わらず、強いわねあの女。」
 「だな。まぁ俺達の真の目的は『霊魔導師』のカードだ。…必ず抹消してやるぜ、その忌々しいカードをな。」

 不穏な空気が渦巻いているのだった。









 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel37
 『失われた霊魔導師』










 「予選通過は決まったけど、だからこそ気を引き締めていかないとね。」

 予選通過を決めた翌日、霧恵は1人デュエルレーンを疾走していた。
 特に目的があるわけではないが、ただ風を感じながら走るのも悪くない。

 「ん〜〜…良い風。どうせなら全勝で予選を終えたいものよね。」

 呟きつつ、其れも不可能ではないと霧恵は思っている。
 チームの面々を思い起こすと、どうにも負ける気だけはしないのが本音。

 「次はファーストホイーラー任されてるし…頑張んないとね。……ん?」

 そんな、気持ちの良い走りの中、背後から聞こえてきたエンジン音。
 それは紛れも無くDホイールの物で、霧恵にピッタリとくっ付いてきている様子。


 ――誰?…少なくてもファントムでは無さそうだけど…
 「何か用?そうやって付いてこられるのはあんまし良い気分じゃ無いんだけど?」

 如何にも『不愉快です』と言った感じを隠すことも無く、追随してくる相手に対して告げる。
 一方の相手はそんな事など知らんと言った風に、霧恵の横に付く。

 フルフェイスタイプのヘルメットを被っていて顔は分からないが、体格・体型から恐らくは女性であると思われた。

 「何か用かと聞かれれば、お前にデュエルを申し込みに来た、と答える事になる。
  まさか逃げはしないだろう?チーム遊戯王、霊魔導師使いの迦神霧恵よ?」

 変声機でも使っているのだろう、不自然に変調がなされた声で挑発的な一言を投げつける。
 勿論、そんな安い挑発に乗る霧恵ではない。

 「別に逃げないけど…デュエル挑むんなら顔くらい明かしたら?それとも顔を隠して声を変えないといけない様な後ろ暗い事情でもあんのかしら?」

 寧ろ逆挑発とも取れる切り替えし。
 だからと言って、売られたデュエルを蹴るかと言われれば、それは否。

 「ま、良いけどね。負ける気は更々無いし。」

 売られたデュエルを買わないなどと言う選択肢は最初から存在していなかった。

 「そう来なくてはな。行くぞ!」

 そして同時に急加速。
 ライディングデュエルお決まりのデッドヒート開始。

 「貰った!」

 コーナー直前で機体をギリギリまで倒す『スライドターン』で霧恵が先攻を取った。


 「「ライディングデュエル、アクセラレーション!」」


 霧恵:LP4000   SC0
 ???:LP4000   SC0


 「あたしのターン!『陰陽狐タマモ』を攻撃表示で召喚!」
 「コンッ!」
 陰陽狐タマモ:ATK1500


 「タマモの召喚に成功した時、デッキから魔法使い族のチューナー1体を手札に加えることが出来る。
  私はデッキから、チューナーモンスター『魔導蛇龍オロチ』を手札に加え、カードを2枚伏せてターンエンド。」

 シンクロの準備を整え霧恵はターンを終了。
 対して、

 「私のターン。」


 霧恵:SC0→1
 ???:SC0→1


 ――はは、狙い通りね。精々シンクロしなさい。それがデュエリストとしてのアンタの終焉になるんだからね。
 「ターンエンド。」


 何と伏せカードも無くターンエンド。
 手札事故だろうか?

 「私のターン。」


 霧恵:SC1→2
 ???:SC1→2


 ――モンスターもリバースカードも無し。ゴーズ系のカードの可能性もあるけど…
 「手札からスピードスペル『Sp−エンジェルバトン』を発動!
  スピードカウンターが2つ以上有る時、デッキからカードを2枚ドローしその後手札を1枚捨てる。
  私はデッキから2枚ドローし、風霊魔導師−ウィンを墓地に捨てる。そしてチューナーモンスター『魔導蛇龍オロチ』を攻撃表示で召喚!」
 「シャァァァァ!」
 魔導蛇龍オロチ:ATK1200


 「オロチの効果発動!このカードの召喚に成功した時、自分の手札からレベル3以下の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚できる。
  私は手札から、レベル3の『水霊使いエリア』を攻撃表示で特殊召喚!」
 「いっきま〜す!」
 水霊使いエリア:ATK500


 「来たか。さぁシンクロするが良い。」

 「言われなくともね!レベル3のエリアと、レベル4のタマモに、レベル3のオロチをチューニング!
  大いなる魔導師の魂よ、古の力を我が前に示せ!シンクロ召喚、裁け『聖霊魔導師−アリオス』!」
 「さぁ、行くぞ!」
 聖霊魔導師−アリオス:ATK3000


 相手の戦術に疑問を持ちつつも、霧恵は自身のエースであるアリオスを召喚。
 そしてそれだけでは終わらない。

 「更にアリオスをリリースし、来なさい『天霊魔導師−アイシス』!」
 「さて、覚悟を決めてもらいましょうか?」
 天霊魔導師−アイシス:ATK3500


 更にペガサスから託された1枚がその姿を現す。


 「このまま一気に行かせて貰うわ!リバースカードオープン、永続トラップ『リビングデッドの呼び声』!
  この効果で私の墓地のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。蘇れ『聖霊魔導師−アリオス』!」
 「さすがに良く考えているな。」
 聖霊魔導師−アリオス:ATK3000(リビングデッドの呼び声)


 2体の光の霊魔導師がその姿を現す。
 合計6500の攻撃力は相手を倒すのに充分すぎるものだ。
 だが、

 「くくく…あ〜っはっは!!かかったわね迦神霧恵!その瞬間を待っていたのよ!」

 突然覆面デュエリストは笑い声を上げ、Dホイールのスピードを緩める。
 其れと同時に、

 「は、如何いう…!!!な、Dホイールのコントロールが効かない!?」

 突如霧恵のDホイールが制御不能になってしまう。
 更に目の前には突然巨大なトラックが、コンテナの扉を開けた状態で現われた。

 「遠隔操作でお前の機体は操らせてもらったわ。暫くそのコンテナの中で大人しくしてなさい!」

 「え、ちょっと!やぁぁぁぁぁ!!」

 急加速し、トラックのコンテナに突っ込む霧恵。
 そして霧恵が突っ込んだと同時にコンテナの扉は閉まり、鍵が掛かってしまった。

 「ちょっと!出せ、出しなさいよ!!」

 狭いコンテナに入った事で急停止したDホイールから降り、霧恵は扉をガンガン蹴りつける。
 無論そんなもので扉が開くはずも無く…


 ――シュ〜〜〜〜……


 何かがコンテナの中に満たされてきた。

 「!!!此れはガス!?し、しかもこれって催眠…な、何で?…」
 ――此れはヤバイね…遊哉、遊星、気付いて!


 ガスが催眠効果を持ったモノだと気付き、霧恵は慌ててDホイールを操作し、ある機能を動かした。
 だが、其れが限界。

 操作を終えた直後に、霧恵の意識は闇へと沈んだ。








 ――――――








 「クソッタレどうなってやがる!何で霧恵が!!」

 霧恵が意識を失って十数分後、遊哉はDホイールでレーンを疾走していた。
 いや、遊哉だけでなく鬼柳とアキも同様に別のレーンを走っている。


 霧恵が意識を失う前に操作したのは『非常事態警報装置』。
 何か有った時の為に、遊星がつけておいた非常装置で、操作すればすぐさま登録した仲間のDホイールに信号が送られるようになっている。

 その信号をキャッチし遊哉達はこうして疾走しているわけだ。

 因みに遊星とシェリーは、コンドミニアムで信号を元に、何処に霧恵が居るのかを検索している。


 「前にアンだけの怪我して動いてたから大丈夫だとは思うけどよ…無事ならそれにこしたことはねぇ!!」
 ――大体、アグニ達にも探してもらってんのに、霊魔導師達が見つからねぇとは如何言うこった?


 遊哉は『精霊探せば早い』と考え、自身の龍皇達も霧恵捜索に出動させている。
 が、一行に見つからないのだ。


 『緋渡、聞こえるか?』
 「遊星!聞こえてるぜ?分かったのか!?」

 そんな中、遊星から遊哉に通信が入る。
 どうやら霧恵の所在が分かったらしい。

 『31番レーンを南に向かって走っている大型のトラックのコンテナ、信号の発生源は其処だ。』
 「GJ遊星!31番レーンなら、今走ってるぜ!俺との距離は?」
 『約4kmだ!』
 「OK!飛ばして行くぜ!!」

 漸く見つかった霧恵に、遊哉は更速度を上げ、レーンを疾走していった。








 ――――――








 一方の霧恵は、

 「う、うぅん…」

 ガスの効果が切れ、コンテナ内で目を覚ましていた。

 「く…そっかデュエルの途中でコンテナに閉じ込められたんだっけ…Dホイールは無事みたいね。」

 現状を確認し、Dホイールが無事だったことに一安心だが、其れを確かめたうえで何か感じる違和感。


 ――?Dホイールに異常は無さそうだけど…!…!!!!!!
 「デッキが無い!!」

 そう、Dホイールのデッキを装着する部分にはデッキが入っていなかったのだ。
 直前までデュエルをしていたのだから、デッキはあって然るべき、其れなのに無い。

 「まさか…狙いは私のデッキ?」

 あくまで可能性、だが実際にデッキが無い以上、恐らくは其れで正解だろう。

 「この…あたしの魂のデッキを!」

 又しても霧恵は扉を蹴りつける…と、今度は簡単に開いた。

 「デッキは返してもらうからね!」

 Dホイールを起動させ、一気にコンテナの外に飛び出す。
 勿論それは非常に危険な行為で、下手をすれば事故を起こして命を失いかねない。

 だが、其処は霧恵。
 巧みなドライブテクニックで何とか体勢を立て直し、加速する。

 「霧恵〜〜!!」

 そして其処に、遊哉も到着し、霧恵の横に並ぶ。

 「無事だったかよ!一体何が有ったんだ!?」

 「遊哉…、さっきデュエルを申し込まれたんだけど、その最中にDホイールのコントロールを奪われてトラックに閉じ込められた。
  で、ついさっきまでガスで眠らされてたのよ…やってくれるわ!」

 「はぁ?んだそりゃ!?大丈夫なのかよお前、寝起きだろ!?」

 「大丈夫!でも其れどこじゃないの。デッキが奪われた!」

 「んだとぉ!?」

 思いがけない一言に、遊哉の怒りが(大して高くも無い)沸点を一気に突破した。

 「ざけんじゃねぇ!デュエリストの魂とも言えるデッキを強奪だと!?舐めたまねしやがって!!」

 「きっと最初から、あたしのデッキが狙いだったんだ…早く取り戻さないと!」


 「霊魔導師を見つけたぞ主よ!」
 「レーンを降りて、廃工業地帯を走っています!」

 今まで霊魔導師達を探していた、アグニとエアトスが霊魔導師発見を告げに来た。
 実にいいタイミングで見つけたと言えるだろう。

 「廃工業地帯…犯人がいるかも知れねぇ!」
 「うん、行こう!!」

 場所が分かれば、どうと言うことは無い。
 すぐさま近くのジャンクションからレーンを降り、2人は廃工業地帯へ。

 向かうと同時に鬼柳とアキにも連絡を入れるのも忘れては居ない。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・




 「主よ、アレだ!」

 程なくして、廃工業地帯に入り、霊魔導師……引いては霧恵のデッキを乗せたと思われる車両を発見したが、

 「「タンクローリー!?」」

 そう、それは大型のタンクローリ。
 おまけに積載物は『ガソリン』と言う危険極まりない代物。

 それが150km以上のスピードで疾走しているのだから驚くなと言うほうが無理がある。

 「何考えてんだ運転手!」
 「エリア、ヒータ、アウス、ウィン、ライナ、ダルク、アリオス…其処に居るの!?」

 「霧恵〜〜!!」

 霧恵の叫びとも取れる問に応える形で、エリアの声が聞こえてきた。

 「エリア!皆は?」

 「それが、何かこの車変で、皆カードから出てこれないの!皆の力合わせても私1人を現界させるのが精一杯。
  って、其れよりもこの車は遠隔操作で無人なの!危ないからはなr…」

 其処まで言ってエリアは消えてしまった。
 恐らくは現界出来る力が無くなったのだろう。

 「エリア?エリア!!」

 「精霊の力を制限してるってのか?一体何モンだよ!てか無人機だと!?」

 なんだかトンでもない事態に発展している気がしてならない。
 遊哉も霧恵も、何とも言えない嫌な予感を感じているのだ。


 ――だが一体どこに向かって…?や、ヤベェ!この先って確か!!
 「霧恵!ヤバイぞ、この先は確か行き止まりのはずだろ!!」

 「!!!そう言えば!……まさか!!」


 最悪の展開が頭を過ぎる。

 異常なスピードで走る無人のタンクローリー。

 奪われたデッキ。

 そしてこの先にある行き止まり。


 「う、嘘だろオイ…!く、龍皇達よ!!」

 「無理だ主よ!精霊相手なら兎も角、我等は現実に物理干渉する力を持っては居ない!」

 最悪の展開は恐らく現実になるだろうと、遊哉は龍皇達でタンクローリーを止めようとするが、精霊に現実干渉の力は無い。


 「そんな…皆逃げてぇ!!」

 霧恵の悲痛な叫びは、しかし、カードが独りでに動く事などありえない。
 さらにこの超高速状態では、タンクローリーに飛び移ってデッキを取り戻し、又Dホイールに戻ることなど不可能だ。


 そしてタンクローリーは更にスピードを上げ…



 ――ゴッ!……バガァァァァァァァァン!!!!!



 行き止まりの壁に派手に激突し、爆破炎上!
 霧恵はギリギリでタンクローリーから離れたが、積荷のガソリンにまで引火し、大凡近づける状態ではない。


 現実になってしまった最悪の展開。
 この炎に飲まれては、所詮は紙で出来たカードなど灰になってしまう。
 更に悪い事に、遊哉の姿が無い。

 どうやらギリギリまでタンクローリーを如何にかしようとして巻き込まれたらしい。

 「そ、そんな…。」

 認めたくない現実に、霧恵は膝から崩れ落ちる。

 「「霧恵〜〜!!」」

 此処に来てやっと鬼柳とアキが合流した…が、遅すぎた。

 「?遊哉はどこ?」

 「ま、巻き込まれて…一緒に…」

 余りの事に身体をガタガタと震わせ、霧恵は何とか燃え盛る炎を指す。

 「何ですって!?」
 「う、嘘だろおい…」

 思ってもいなかった事に絶句。

 幾らなんでもこの炎では…


 「死ねるかオラァ!!この緋渡遊哉様を舐めんじゃねぇ!!!」


 生きているはずが無いと思った矢先に、炎の中からDホイールを唸らせ、遊哉が出て来た。
 服もDホイールも、あちこち焦げてボロボロだが、どうにか無事だったようだ。

 「遊哉…!」

 「さ、流石に熱かったぜ…わりぃ霧恵…デッキ取り戻せなかった……辛うじてコイツ等だけ…他はダメだった。」

 言いながら6枚のカードを出す。
 それは6体の霊魔導師のカード…しかし、半分以上が焼失し既に使える状態ではない。
 辛うじて持ち出せた6枚で此れだと、そのほかのカードは絶望的だ…


 「そんな…」

 遊哉が無事だったことには安堵したものの、霧恵のデッキは事実上失われた事になる。

 「あ…あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 今まで共に戦ってきた相棒達の焼失。

 廃工業地帯には霧恵の慟哭が、只虚しく響き渡っていた…















  To Be Continued… 

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