第二章 月に抗う氷結の美女と運命に抗う銀髪の聖女
序章 ボーイミーツガール・平和を祈る少女
2003年。2月14日。バレンタインデー。金曜日。石川県金沢市。北陸学院高等学校。屋上。
現在から2年前―――
「―――はぁ〜……彼氏……か」
学校の昼休み。一人屋上で漠然とため息をつきながら、少女がある少年と同じように空を見つめていた。
殿難美麻(とのがたみお)・17歳。
少女はどこにでもいなさそうな高校生で、腰にまでとどく滑らかな長い髪に、見上げている群青色の空のように蒼い瞳を持っていた。それでいてスレンダーな体つきと、発育のいい胸の持ち主でありながら、学ランが似合う。まさに文句無しの身体の持ち主だった。(※本人は自覚なし)
そして優しい顔立ちから裏腹に、どこか逞しい面持ちを持っていて、なぜかつまんなそうな表情をしていた。美麻は生まれてこのかた彼氏がいなく、他の女子と比べて孤立感を感じていた。いわば一部欠落した青春をおくっていた。
「私なんで……彼氏いないんだろう……」
そして、しばらく北風に当たっていると―――
「う〜さぶっ」
ブーンブーンブーン―――ピッ
「もしもし」
『ああ、美麻ちゃん……』
「あれ? お母さん?」
母親が携帯に出てきて、なにか暗い気持ちを立ち込めた声で美麻を呼ぶ。
「どうしたのこんな昼に?」
『あのね……おじいちゃんがね―――』
この日は美麻の17歳の誕生日でもあるが、同じくして彼女の祖父・殿難秀正(ひでまさ)が急に亡くなった日でもあった。