小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「『アヴァロン』っておまえ! そんな簡単に見つけられる代物じゃないだろ!」

「いや、現地でかなり貧困に苦しんでいた先住民の村から、『アヴァロン』を偶像崇拝の対象にしていたことから、偶然発見したんだ」

「なるほど『アヴァロン』の特質からして、見つけられた訳か……」

クラウスが話しに納得したジャスティン。話によると、クラウスが主張していた国では内戦が続いていて、偶然『アヴァロン』を保有していた先住民は、国内を移動しても、度々その内戦に巻き込まれては人が次々と亡くなり、今でも全滅の瀬戸際まで追い詰められていたので、その先住民の長にある取り引きを持ち掛けた。内戦のない他国の亡命を交換条件に『アヴァロン』を入手したのである。

「まあとにかく、『元老院』より先に見つけられたのが幸いでした」

「そうか……クラウス。出世おめでとう」

改めてジャスティンは親友のクラウスを祝福した。

「おめでとうございますクラウス」

同時にホリーもクラウスの出世を祝福する。

「二人共ありがとう。おっと、もうこんな時間だ! ではお二人様、私はもう総本山に向かいますので、ここでおいとまさせていただきます」

「そうですか。ではクラウス貴方に『聖果の祝福とともにあらんことを』祈っています」

教祖としての慈悲深さがこもった言葉を受け取ったクラウスは、教会を出て総本山に向かった。

「まさか、こんなにも早く平和えの道の一歩が進めるとは、思いもよりませんでしたね」
クラウスが教会を去った直後に、友の出世に対してジャスティンはまるで自分のことのように、微笑ましい思いにひたった言葉を述べる。

「ですがこれで、私のような人がまた一人増える事には変わりありません……」

「ホリー様……」

だがそんなこともつかの間。本当だったら財団とって喜ばしい事のはずが、そのある真意を知っているホリーは、とても気の毒なことにしか思えなかった。

「私の本意を知るあなただったらわかるはずですジャスティン」

「まだそうと決まった訳ではありません。誰を『聖餐者(せいさんしゃ)』にするかは財団の最高度な審査を決めることですし、そう簡単には見つからないでしょう」

「そうですが……」

かなりぎこちないない気持ちでホリーは行き止まり、うつむきながら、まるで自ら無力さを悔いるかのように両手を握り締める。

(ホリー様は本当にお優しい。だがその優しさゆえに多くの責任を背負いすぎている……。ああ、なんと悲しいことか……)

ホリー=シュミット。彼女には生まれてから約束されたものが三つある。
 一つは、約束された地位。とても裕福な家系に育ち、高度な英才教育を受け、彼女はなに不自由ない生活をおくり、教団の教皇という立場である。
二つは、約束された名誉。EUの議会を動かすほどの執政ができる立場であるように、世間と教団内から高く尊敬され賞賛させられている。
三つは、ここで一番重要なのが、彼女には『宿敵』つまりは約束された敵がいる。現在アメリカを拠点とした謎の組織・『元老院』と、世界の平和を左右する『アヴァロン』の原因を元に対立し、争奪戦が繰り広げられている。
この三つが幸福でもあり同時に不幸でもあった。ホリーの人生はまるで、真っ直ぐに敷かれたレールの上で電車が走行しているように、彼女はそんな人生に内心嫌気がさしていたのであった。

一人の少女が運命に導かれるように、また一人の少女が運命に抗うことを願う。こうして二人の少女の運命が、いずれ主人公達にどういう決意をさせられるのかは、まだ先の話しである。

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