同日。深夜。日本。神奈川県。片瀬。真堂の自宅。
「う……うぅ……ん……あれ?」
零時をすぎた深夜のGW(ゴールデンウィーク)初日。
アベルと昼に話し会ってから、夕方に帰ってきた真堂は、結局少しだけ気まずい関係になってしまい、これから彼とどう向き合うか考え込む。それにより、あまりにも事情が複雑すぎて、困惑してしまう。
そこで頭の中を整理する為に少し仮眠をとったつもりが、いつの間にか熟睡する。外はすでに暗くなり、部屋の窓に射し込む満月の光に顔を照らされ、目を覚ましていた。
「ん〜、夜中の一時か……俺なにやってるんだろう?」
時間を調べた後に真堂はどこかやるせない気持ちでうつむき、自分のしている行動が理解しかね、思わず自問する。
(起きた時間が深夜とは……、まあ一応思考は整理できたけど)
実際の目的を達成したのはいいが、余韻にひたることない。眠気が邪魔してそれどころではなかったからである。
(人を殺した記憶……か、トラウマみたいに言っていたけど、なにか理由があるはずだ。きっと……)
思考の整理がついたところで、真堂は片手でアゴを支え、まだはっきりとしたかわからないが、アベルが殺人を犯した過去について、シンプルな推理を始める。
(正当防衛で人を殺したとか、間違えて殺したり……して、いやこれはただの現実逃避に過ぎないか、……それか―――)
カラカラストン
考え込む途中に真堂の部屋の隣から、わずかに窓が開く音が聞こえた。
「ん……なんだ?」
それに気づいた真堂は、音の出どころが兄の部屋だとわかる。
(あ……! そういえば兄さんの部屋だけ戸締まりしてなかった……)
『兄の死』という名のしがらみに、二度と囚われたくない。ゆえに去年アベルが失踪して以来、あの部屋には誰も足を踏み入れていない。いわゆる『開かずの間』になっていた。
(ヤバイな……、気のせいだといいんだけど。仮に泥棒だったとしても、対処法方とかは備えてないし、うぅ……調べよう)
考えても時間の無駄だと単純に悟り、唸る真堂。やるせない気持ちを抱きながらも、恐る恐る兄の部屋に向う。
(誰もいませんように。誰もいませんように。誰もいませんように……)
部屋の扉の前に棒立ちしたまま、真堂は同じ言葉を心の中で数回連呼する。そして気を落ち着かせた後に、本当に人がいないかどうか耳をすます。
―――ガサガサ
(いる! 明らかにいる! うぅ……、かなり面倒になってきたな……、さてどうする。俺……)
目の前の扉を開けるか開けまいが真堂は迷い。自問に自問を重ねてるそんな矢先―――
(ん……は! こ、これは!)
なんと真堂は無意識に片手をドアノブ伸ばしていた。気づかないうちに『見てみたい』という、いらぬ好奇心にかられていた。
(だ……ダメだ! テ……手を……手を放すんだ〜! なんか見たいけど……)
「よういち……」
「―――え……!」
今の扉越しの声で、部屋の中にいるのが泥棒だという確率が大幅に減った。おそらくさっきのセリフからして、兄の知り合いだと悟る真堂。
「今の声……知らない人だけど。今、兄さん名前が……―――」
セリフをたよりに扉を開ける決心がついた真堂は、すぐさまドアノブを掴み、音がたたない程度にゆっくりと回してから、ついにドアを開けた。
そして少年は扉の向こうの光景をみて、過去を振り返るように思う。