小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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同日。学校。教室。

(……あれ? 石川さん今日も休みなのかな……?)

「ちょっと下郎」

学校の玄関口でいなくなった獅郎を後に、教室の引き戸を開けて入った真堂は、最初に石川岬の席を見ていなかったことから、今日も休みかと思ったその矢先、後ろから吉柳院友近に声をかけられた。

「うっ……な、なんですか?」

相変わらずの上から目線な口振りで、困った眼差しをしながら縮こまる真堂。完全に友近のことは苦手なタイプなってしまったらしい。

「安心しなさい。今日はおまえをからかっている暇はなくってよ。ところで岬はいないのかしら」

「石川さんなら多分また休みだと思いますけど……。なにかご用ですか?」

不意に真堂が用事をたずねると友近は暗雲な表情を浮かべる。

「いえ、いいのよ大した用じゃ……ないから」

そう言いながら友近は石川の件を後に自分の教室に戻って行った。

(なんだったんだろうか……? でも石川さん本当にどうしたんだろう。今まで学校を一度も休んだことなかったのに……)

苦手な富豪令嬢が去った後に真堂は、石川の席に近づいてから数少ない友である為、本格的に彼女の事を心配し始める。

「―――あれ?」

いざ真堂が近づいてみると昨日の掃除当番が手を抜いたのか、石川の席のイスが後ろに下がったままだった。几帳面であるわけではないが、真堂は気を使うようにイスを元の位置を戻そうとした。
その時―――

『ケェータケタケタケタケタケタァー!』

「―――痛っ!」

今の季節は『夏』。別に配線の漏電か空気が乾いているわけでもなく、ただ石川の席のイスにさわろうとした瞬間に、薄暗く隠れていて獣のような両目をした人間の顔が脳裏によぎった。それと同時に奇妙でかん高い笑い声を聞こえて、後に指のつま先からまるで静電気が流れてきたかの如く、数秒の激痛が走った。

(な、なんだ一体……!)

そのことで当然ようにすぐさま手を離し、さっき起こった現象がなにかを考え始めた真堂だが、あまりにも突然のことだったので少し混乱した状態になり、曖昧に思考を巡らせてしまっていた。

「おまえら席に着けー……、HR始めるぞ」

「あっ、やべ!」

めずらしく物静かに沈みかえっている杉山の登場でHRは始まり、真堂は謎の現象の解明を後にしてすぐに自分の席に着いた。

「今日は皆さんに大事なはなしがあります……。実はついさっき報告されたのですが……―――」

(な!)

真堂のクラスの担任・杉山薫から改めて告げられたことに、教室内の生徒全員が唖然と同時に沈黙した。なぜならその告げた内容は、真堂が朝に見たあるニュースに関係していた。
それは5日前、ミセリコルディア財団の事業の一つ『自殺防止活動』によって、神奈川に限る学生の自殺は止まったかに見えた。だが昨日突然、5人ほどの不登校の学生が亡くなったのである。死因は様々な自殺で、みな『財団』専属のカウンセラーのメンタルチェック(精神鑑定)が行われていて、特に以上はなかったはずが急に謎の誘発が起こった。

(石川さんに限ってそんな……!)

あまりにも衝撃的な報告に、座ったまま大きく目を丸くしている真堂。実はそれだけではなく、その自殺した5人の中に『石川岬』が含まれていたのであった。

少年はテロで父を失って以来、兄を事故で亡くし次は数少ない友が亡くなってしまった。この事で真堂は両手を握りしめながら、自らの無力さを大いに痛感し同時に戒めた。
そして、この先の大変な出来事を予知するかの如く、真堂はなにかの『胸騒ぎ』がしてしょうがなかった。

先が不安という薄暗さに微かに見える光を頼りに、人生を歩む少年・真堂李玖は、あるきっかけで難しそうで単純に浮かんだ言葉が、不意に頭の中に聞こえ、共感を得るように響いた。

その言葉とは、『人は無意識に屍を越えているのかもしれない』と、少年はふと思う―――

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