小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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目標を見失ったことで辺りを見回そうとした瞬間、急に何者かが両手で真堂の真後ろから口元と体を取り押さえた。

「しっ! 落ち着け、俺だ……!」

「むむ……む?」

そのことで真堂は拘束を解くために必死にもがくが、耳元に聞き覚えがある声でささやかれたことで、落ち着きを取り戻した。

「プハッ! ―――アベルどうして……!」

真堂を拘束していた正体はアベルだった。どうやら密かに尾行されていることに気付いたアベルは、とっさに真堂の後ろから素早く回り込み、取り押さえ今に至るのであった。

「それはこっちのセリフだ。なんでお前がここにいる」

「そ、それはその……すいません」

会話が始まってそうそうに、アベルはまるで門限を破った息子を叱る父親のような勢いで問う。一方で問われている真堂は、大した訳もなく尾行していたなどと言えずに、ただひたすら縮こまっていた。

「ハァ〜……まあいい、とにかく許してやる。ここは危険だから一刻も早く離れろ」

「ここが危険……? どういうことですか?」

「それは―――!」

アベルが真堂にあることを告げようとしたその時。急にバケツ一杯の冷水をぶちまけられた感覚に似た刺激が、長髪の青年の背筋を襲い、それをたどるかのように瞬時に後ろを振り向いた。

「………×2」

同じくつれられたかのように、真堂はアベルの振り向いた方向に視線を向いた。するとそこには、廃ビルの敷地の入り口に出てきたと思われる、二十代後半の男が二人いた。

「アベルさん、あの人達は知り合いか何かですか?」

二人の男達はなぜかアゴを低くし、脱力感を覚える虚ろな眼差しでアベルを見つめている。それを目にした真堂は彼らの様子がおかしいことに気づき、一人で怪しい行動しているアベルに対して、関係者なのかを問う。

「まずい『眷族』か……!」

「え?」

アベルがなんらかの呼称を口走った直後に、さっきまで沈黙していた二人の男達は少し遅れた状態で口を開いた。

「立ち去れ……ここ……お前達……来るところじゃない×2」

この時、男達が同時に発したセリフには妙な怪しさが含まれていた。ちゃんと人間の口から出た言葉とはいえど、口調からして明らかに棒読みで、まったく生気が感じられずいた。そしてなにより、男達自信が本当に発している言葉なのかどうか怪しく、かなり違和感がありすぎたのである。

(あの人達は一体……ん? あ、あれは!)

向こうの男達を怪しく感じる中で真堂はある衝撃的なものを目にした。それは彼らの背にうすらぼんやりと数十本の鎖が見え、それを持ったマガマガしい獣の姿で、霧状の黒い瘴気(しょうき)をまとった『悪魔』がいた。

(―――まずい、こんな所でハチ合わせするなんて、このままじゃアベルさんも巻き込みかねない。一体どうすれば……)

真堂は去年ぐらいかに一度『悪魔』と戦い、謎の能力のおかげで勝利した経験ある。だが今はその能力が発現する気配は感じられず、その状態で戦った場合だと、明らかに苦戦を強いられるのが目に見えていた。そのことで幾つかの打開策を脳裏に巡らせた結果、真堂は―――

「アベルさん逃げてください。この人達は危ない! ―――っていない!」

とりあえずその場からアベルと一緒に逃げることを決めた真堂。するとその矢先、真堂は一緒に逃げるはずの長髪の青年がいないことに気がついた。

「アベルさんどこに―――」

ドスッ!

『ギャアアアァァァー!』

「―――え!」

一瞬混乱する真堂。そんなことにも関わらず、すでにアベルはある行動に出ていた。
実は男達が『悪魔』によって操られていたことに気づいたアベルは、速攻に転ずることを決め、『悪魔』に目掛けて走り出した。
そして充分に加速と助走をつけた後に跳躍。
即座に隠し持っていたある木製でできた『杭』で『悪魔』の心臓を突き刺し、瞬時に絶命に追いやったのである。

「ザコには用はない……」

『ばかな……! なんで霊体である俺にこんなこと……が―――』

アベルが捨てゼリフを残した直後、『悪魔』は煙のように消え去り絶命を知らせた。

「アベルさん……、あなたは一体なに者なんですか……?」

一方でそれを目の当たりにした真堂は、今起こったことが信じられずにいた。冷静に悪魔を難なく倒したアベル。

この先、謎の青年によって少年は大いなる成長と真実に導かれる訳だが、今回の場合は『背中を押される』という、越えるべき境界線を越える結果になることに過ぎないのであった。

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