重ね重ね驚く真堂は、そのフェルメールの言う年齢が信じられず、本当だったら老人であることに変わりないはずなのに、見た目は明らかに十代にしか見えない。
「冗談だよね……」
「冗談じゃないよ」
「ハァ……なんか疲れた」
即答することに驚くところ、疲れてもう驚く気力すらなかった真堂にフェルメールは次のように答える。
「わけあって老いなくて死なない体でね、それでいていろいろと偏見されることが多かったんだよ」
「いや……もう驚きはしないけどさ、とにかくその『不老不死』に目をつけられなかったの?」
「そうだな……『元の世界』にいた頃、突然家に知らないおじさん……いや軍人かな、その人達にどっかの収容所に大人や子供から年は関係なくそこに連れてかれてね。僕は数日いただけで他の人達はどうなったか知らないけど、一人だけ特別扱いされるかのように違う施設に連れてかれたんだ」
フェルメールは思いつめたような振る舞いで、真堂に自らの生い立ちの一部を話す。
(なんか急に暗くなったな……、まあいいや聞くだけ聞いとこ)
真堂はそのままフェルメールに話しを続けさせ、自分は詮索する質問の準備を整いていた。
「まあ特別扱いって言っても、この体のせいでいろいろな拷問や人体実験をされただけなんだけどね……」
「え……!」
その話しを聞いて真堂は妙な引っかかっりを感じた。それは迫害をされたなら生傷の一つや二つくらいあるはずなのに、フェルメールはなんともないこの白い荒野に合った綺麗な白い肌をしている。
「ん〜……」
生傷の無いことから疑う真堂をフェルメールはある行動にでた。
「―――なっ、フェルメールなにを!」
自らの片腕を伸びきった爪で表面の肉をえぐれさせるように、張りと艶のある肌を大きく傷付けた。
「心配しないで、ほらよく見て」
そう言いながらフェルメールは傷付けた片腕を見せつけ血を拭き取ると、驚いたことに生傷が付かずにすでに完治していたのだ。
「!」
「最初に自分が不老不死だと気付いた時は、生傷がついて二・三日で治る程度だったんだけど、歳を重ねるごとに段々普通じゃなくなってきてさ。それに目を付けた奴らが僕を苦しめながら純潔をももてあそばれ続けた……」
話しを整理すると、フェルメールをその不老不死の仕組みに興味を持った軍人が、収容所と違う施設に移されたと同時に拷問や人体実験を繰り返しやられ、当然そんなことをやられたら心も体もボロボロになるはずだ。しかし今と比べて全然そんな様子は見られなく、真堂はなにかふっきれたことでも合ったのだろうと、思いそのままフェルメールの話しを聞いた。
「そんな時、施設が何者かに襲われてね、その襲った人は僕を助ける為に一人で敵に立ち向かって救出してくれたんだ。かっこよかったなあ……その人は綺麗な長い髪をしていて、拷問や人体実験でボロボロだった僕に救いの手を差しのべてくれた人なんだ」
フェルメールはまるで、新しいオモチャを買ってもらって喜んでいる子供の様子で、それを見て真堂はその話しに出てくる人物がよっぽど気に入ってることを悟った。
「白馬の王子様的な感じ」
真堂は簡単な解釈をしてフェルメールに返答した。
「そう、そんな感じかな。自由をくれた人でもあると同時に、僕にとってあの人は『英雄』でもあるんだ。助けてくれた時にその人は日本の偽名を使っていたらしいんだけど、僕にだけ本当の名前を教えてくれたんだ」
「本当の名前?」
「そう、その人の名は―――」
その時、真堂が瞬きをした瞬間―――
6月8日。火曜日。朝。藤沢市民病院。
「ん……ここは……」
真堂は一瞬自分の目を疑った。なぜなら目を見開いたら、知らずに病室のベッドで横になっていた。突然元の世界に戻れたのである。
「ここは……病院……?」
「李っちゃん……」
「ん?」
真堂がベッドから起き上がると、自分が今いる場所を確認したと同時に横から聞こえてきた声に振り向くと―――
「真堂さん」
「よかったー!」
「うわっ、名無しさん。ちょっ、ね、姉さん!」
見舞いに来て早々跳躍して抱きしめてきた姉・智美と、同じく安否を心配してきた居候の名無しがそれに驚きながらも、2日続きの昏睡状態から目覚め、真堂はあの出来事が争いの予兆だと知らずに朝を迎えるのであった。