小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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フェルメールはもったいぶるような言い方で気軽に話すが、何か裏があるのではないかと真堂は気になってしょうがなかった。

「君がその襲われたっていう悪魔は、おそらく契約者だろう。しかも一番最下層のミソパエス級の悪魔のね」

「けいやくしゃ? みそ……なに?」

「契約者もとい『悪魔に憑かれた人間』と『悪魔に契約して憑いた人間』っていう二つ意味を合わせた名称のことを言うんだ。あとさっき言ったのはミソパエス。夜にだけ行動している最下層の弱い悪魔のことをいうんだよ。まあ詳しく言えば悪魔のルーツは全部で六種類あって、最初から説明すると、さっき言った一つ目の悪魔はミソパエス。これは昼間は姿を見せずに、夜の間だけ肉体を得て行動する太陽を憎む悪魔で、吐く息だけで人が殺せる逸話が悪魔なんだ。次は二つ目の悪魔・ヒュポクトニア。これは山の洞窟に住む地中の悪魔で、とても卑しくてたまに地震を起こしたりして、鉱山とかで働いて人を苦しめたりする悪魔なんだ―――」

(なんかよく喋る子だな……)

真堂が倒した悪魔の正体についてフェルメールは的確な説明をし、それに対して悪魔学を噛んでいることを悟り、ちょっとした感心が持てた。

「次に説明する残りの四種類は四大元素(火・風・土・水)に関わる悪魔について、この種類によって住み分けている場所が大きく違うんだ。まず三つ目の悪魔・ヒュドライア。これは川や湖などに住んでる水の悪魔で、海で嵐を起こしたり、人を溺れさせたりして、喜怒哀楽が激しくたりするんだ。女性であることが多いんだけど、まあこれはあまり関係ないと思うから忘れて。次は四つ目の悪魔クトニア。これはキリスト教の伝承で天から地へと投げ落とされた地の悪魔、つまり堕天使で、その辺の野山に住んでいるんだ。それで次は五つ目の悪魔アエリア。これは人間の周囲にある空中に住んでいる風の悪魔で、まあ空中から地獄まで自由に住来できるから、住んでいる所はバラバラかな」

「へー、ずいぶん詳しいんだね」

フェルメールの説明にさらに感心が持てた真堂。

「あるきっかけを境に悪魔学に熱中してた頃があってね、そのおかげなんだ」

「あるきっかけって?」

「あくまであくまだから……かな?」

あくまで意味不明にもったいぶるフェルメールに真堂は少し機嫌が悪くした。

「うぅ……」

「アハハ、うそうそ」

唸る真堂のことを察したのか、思わず笑みがこぼれたフェルメールはさっき言ったことを冗談だと告げた。

「う〜ん……」

「冗談はさておき最後の説明するよ、次は栄光のデーモンと呼ばれる六つ目の悪魔レリウーリア。これは最後の審判の日まで空の上に住んでて、人間とはあまり関わりを持たない高貴な火の悪魔なんだよ。以上で悪魔について説明終わり。まあこの分類はキリスト教的じゃないから、あんまり広く伝わることはなかったから、さっきまで説明した悪魔については完全に真実とは限らないから、そこんところ気をつけてね」

「へー、そうなんだ。でもさっき言ってた『レリウーリア』だっけ、あれは関わりを持たないって言うけど、仮に人間に関わったらどうなるの?」

「ん〜、『審判の日』が近づいているってことかな」

フェルメールは余裕を持った発言をした。

「なんか色んな意味で危なくない!」

説明が終わると一息つくかのように真堂が質問をしたところ、フェルメールの返答に危機感を憶えた。
ちなみにフェルメールが説明した悪魔学については、5世紀のローマの哲学者・プロクルスが悪魔を五つに分類したが、そのうち四種類の悪魔は四大元素に関わり地下に住むのを5番目として、11世紀のビザンティン(東ローマ帝国の首都)の哲学者ミカエル=プセルスがそれにまた1種類を加え、次のような6種類に提唱したものだった。

「ん〜、まあそんな予兆もないし……心配することないんじゃないのかな」

「そう……ってか、また聞くけどなんでそういうのに詳しいの?」

フェルメールに悪魔学の詳細の一部について、なぜ詳しいのかを真堂は再び問うた。

「そんなに聞きたいのか、実は……この世界に来る前にさかのぼるんだけど、物心ついた頃に女で一つで僕を育てくれた母が契約者に殺されてね。それ以来僕は二度と同じあやまちを繰り返さない為に、悪魔学に熱中していて、いつの間にか悪魔について知識が付いていたんだ」
フェルメールの言った事情を想像しながら、自分と同じ身内を亡くした身だと知った真堂は、同情と同時にその気持ちを痛いほど理解した。

「そうか……大変だったんだね……」

「大丈夫だよ。もう過ぎた事だから」

フェルメールは過去を振り返るかのように真堂に背を向けて、遠い目をしながら崖の向こうの白い地平線を見上げる。

「そう……」

「この世界に来てもう『59年』になるけど、こんなこと話したのは君が始めてだよ」

「そうか……ん……? 59年!」

フェルメールが言ったその二桁の数字に真堂は驚きを隠せなかった。

「そうだよ」

「なんで……そんな正確なの……」

「僕の自慢の腹時計(体内時計)がそう示しているのさ」

「えっ、じゃあ今いくつなの?」

「ん〜……たぶん今年で76歳」

「!」

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