小説『【短編集】BARD Song』
作者:bard(Minstrelsy)

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【Sweet Lily】


 好きだって言葉が、これほど痛いものだとは思ってなかった。
 小さい頃はそうじゃなかった。
 何の抵抗もなく好きだって言ったし、好きだって言われていた。
 いつからだろう。
 こんなにも重い言葉になったのは。
 相手を意識し始めてから?
 大人になり始めたから?


 友達から、一歩踏み込んでしまったから?


 言わないで、これ以上。
 その先の言葉は聞きたくない。
 聞きたくない。
 

 聞きたくない。


「ずっと」


 嫌だ。


「あなたの事が」


 やめて。


「好きだった」


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 耳を押さえてうずくまる。
 足下に出来た影はどこまでも暗くて、そのまま落ちてしまいそうだ。
 そこに重なるもう一つの影。
 手首を握る熱。
 耳から手のひらが引き剥がされる。


「嫌だ。聞きたくない」
「聞いて。お願いだから」
「嫌」
「最後だから」


 涙の混じった声に、思わず顔を上げてしまう。
 よく知っている顔が、ずっと一緒だった声が、目の前にあった。


「もう言わない。一緒にいるのも最後にするから」
「嫌だよ、そんなの。友達でいたい」
「ごめんなさい」
「聞きたくないよ。聞いたら友達に戻れない」
「ごめんなさい」


 それでもきっと言うんだろう。
 その唇が言葉を紡ぐ。
 一番聞きたくない言葉を。


「愛してる」


 その言葉と共に、最後の微笑みを見せる。


「さよなら」


 空に溶けるように、淡く、儚く。
 彼女を見たのは、それが最後だった。


「マイコが会ったのって、今噂の幽霊さん?」
「違う。そんなんじゃない。だって……小さい頃からずっと一緒だったから」
「私も付き合い長いけど、一度も会ったこと無いし」
「それは……」


 くだらない。
 そんな声が聞こえた。


「幽霊なんて、居るわけ無いでしょ」


 そう言い放ったのは、昨日来たばかりの転校生だった。
 その面影は、別れたばかりの彼女にとてもよく似ていた。

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