小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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「指導役だなんて僕では不適格だね…」
 一時的に自信を喪失してしまった先輩が普通ならあり得ない無茶振りをする。
「ということで…高橋さんが猫好君の指導をしてくれるかい?」
 まさかの展開に彼女は驚くだけで精一杯だった。
「えぇ!?」
 たった一日前に覚えた仕事量では心もとなさすぎて焦りながら高橋さんがテンパっている。

「そっそそ、そんな先輩!! いくらなんでも無……」
 馬山先輩はウツ気分になってしまったのか落ち込んでしまって高橋さんの声が聞こえている感じはなかった。
「一人教えるのにも精一杯なのに……二人もだなんて荷が重すぎたんだ……」
(聞いてくれない……)


 どうしようもない状態な馬山先輩を見て、高橋さんが決意をする。
(仕方ないわ! 馬山先輩が回復するまで私が)
 先輩と高橋さんがいない間、レジにて接客準備をしていると高橋さんが近くで大声を出すので私はびくっとした。
「ちょっと猫好!!」
「な……何?」

 その彼女が仕事の提案をする。
「アタシがレジをするから袋詰め手伝いなさいよ」
「あ、うん」
 高橋さんの剣幕に押されて私はレジの端によける。
「早速だけどお客さんだよ、高橋さん」
(まだ心の準備が!)彼女の表情がそう物語っていた。ガムを買いに来たお客さんが不思議がるのも無理はない。


「えっと……じゃあお願いします」
 お客さんが商品をレジのところにある台の上に置いた。
「い……いらっしゃいませ……!」
 彼女は混乱して(どどど……どうしよ〜!)という状態になっている感じに見える。

「あ……温めはどうなさいますか!?」
 高橋さんは自分が何をしているのかわかっていないかもしれなかった。
「高橋さん、それガム!!」
 彼女はどこかやけくそ気味になっているかも。
「おおお、お箸はご利用なさいますか!?』
「だからガムだって!!」
 
 一日だけ先輩の、彼女のあまりの混乱っぷりに私は商品のことを指摘しているのだが。
「あっ、じゃあください」
(もらっちゃったよ、このお客さん)
 使い道はお客さんの住居に行けばあるのだろうけど、今の商品でもらうとは思わなかったので私は驚いた。

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