小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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「でもまだ研修中だし?失敗して当然よ!」
 高橋さんが仕事の失敗を開き直っている感じだ。
「まあ……それでも限度ってものがあるけどね」
 馬山さんが『限度』という言葉を強調して冷たい視線を彼女に向けていた。もちろんこの店の先輩(馬山さん)の評価で仕事をクビにさせられることもあり得る。その重圧に負けたのか、高橋さんがうるんだ瞳で謝っていた。
「昨日は……本当にすいませんでした……」
(どんだけミスしたの)


そして本格的に仕事の内容を教わることになった私、馬山さんにレジのやり方をレクチャーしてもらう。
「商品のバーコードにこの機械を通したら…袋詰めしてお会計をいただきます」
 バーコードが読み取れなかったり、割引商品があったらその都度その時に教えてもらえると私は馬山さんに教わる。

「基本はこんな感じだよ。何か質問はある?」
 私はせっかくなので素朴な疑問を尋ねる。
「あ……えと……そのバーコードを通す機械の名前って何ですか?」
「え!?」
 予想外の質問だったのか、馬山さんが「ど忘れした」とつぶやいていた。


 商品お会計のお客様以外たまたま他の客がいなかったので馬山さんが物思いにふける。
(だがそう聞かれてみると……知らないものがたくさんある!!商品を掛けるアレ、床を磨くアレ)

 馬山さんはまだ思い悩んでいる感じだった。
(こんなにも無知な僕が人にものを教えるなんて……なんて愚かなことを!!)
 そうかと思えば今度は考えで涙を流す感じになっている。感情が豊かな先輩だな。
「あ……あのすみません……」
 どうもぐずってしまっているみたいなので私は謝っておく。

「なーかした、なーかした!!」
「高橋さんは黙ってて!」
 彼女が騒いだらややこしくなりそうだったのでちょっと強めに静かにしてもらえないかと頼んだ。

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