小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

ここは何だかヒヨコを連想させる小柄の黄色い髪が印象的な赤白真坂(あかしろまさか)と真坂の親友である、頭の出来が真逆な着物の似合いそうな和の美人、宮久呂(みやくろ)ゆかりの通っている殻阿(からあ)中学校。 ある日の授業にて―――――

 今日の総合の授業ということで、 担任が教室にやってくる。
「今から履歴書の書き方の練習だ。将来必ず書くから慣れておけよ」
 主人公達の担任はまだ二十代半ばの新米教師である。クラス内での評判は良い方だろう。 それどころか人気の高さがある先生といえる。
(得意科目か〜)
 履歴書の志望動機などを書く欄の近くにある得意科目を考えている真坂。彼女はこういうことを考えるのは苦手である。何かの教科が得意というわけではないのでなおさらだ。
(あっ、そうだ)
 真坂が思いついたのは『給食』だった。 それをゆかりが覗いて取り上げると、 その答えに呆れる。
「真坂――、うちの学校に給食ないよ?」
 ゆかりに指摘されて真坂は本気でうっかりしていたという感じになった。

「あっ!! 忘れてた」
 彼女達の話を聞いて一番悲しくなったのは担任だ。私語を慎むように言い忘れたことがあってか、クラス内のあちこちから囁き声が聞こえてくるが、真坂とゆかりの話は教卓の近くの席だからか目立って聞こえた。 あまりの事に担任はツッコミを入れるだけで精一杯だった。
「そういう問題と違うでしょ」
 担任はむなしい気持ちを何とか抑えて、黙って真坂の履歴書を新しい用紙に取り替えるのであった。

-2-
Copyright ©下宮 夜新 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える