小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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「もひとつ〜」
 近井さんが勢い良く笛を吹くと、また首輪が反応した。
「ふんが!!」
 首輪から微量の電流のようなものが体を走ったので嫌な予感を覚える。
「!?」
 俺は身体から異物が出てくるかのような奇妙な感覚を背中周辺から感じて冷や汗を流す。何が起こるかわからない恐怖に俺はどうなってしまうのかと不安であった。

 背中の方から感じた異物感はまるでゲームとかで見る真っ黒い翼が映える前兆だったようである。こんなことが起きた原因を考えても近井さんが吹いた笛の音に反応したとしか思えない。
「な……なんだこれぇぇ!!?」
 俺は驚きのあまり、ありきたりなことを叫ぶくらいしか出来ないでいた。


 当然のように高校の級友達に「きゃー、太山君化け物ー」とか「これ、はりぼて?」という生徒、悪魔の翼っぽいものを触ろうとする男子生徒もいる。近井さんはその状況をスルーしているようだ。興味がないようにも見える。
「んー、とりあえずぅー」
「ねえ!? 何の説明もなし!?」
 
 俺がわめきたくなるのも無理ないと思わないか、近井さんが何も言ってくれないんだから。
「シュガーレットケイクのチョコレートケーキのブラウニー、お昼休みに食べたいから買ってきてっ」
 近井さんが学校で食べる人はまずいないであろう洋菓子を俺に注文してきた。
「……有名なケーキ屋さんだよね? でもここからじゃ往復二時間は……もう休み時間終わるし……」
 
 俺は近井さんの願いを聞く覚悟は出来ていたのだが、無茶ぶりに困る。
「だからソレで行くんじゃない」
 近井さんが当然のように俺に生えてきた背中の悪魔の翼っぽいものを指さす。
「待って!! フツウに人間として買わせて!!」
 俺は顔をムンクっぽくして拒絶の叫びをあげる。しかし近井さんに笛をくわえて脅されたので諦めてそのままの姿で窓から飛び去ることしか出来なかった。

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